
成井先生
乳がんが見つかった当時の状況について教えてください。
山田さん
乳がんをテーマにしたテレビ番組への出演がきっかけでした。番組内で触診のやり方を学ぶために配られた模型と同じしこりを自分の右胸にも見つけ、受診して乳がんが判明しました。
成井先生
それまで検診はおこなっていましたか?
山田さん
祖母も乳がんだったので検診を受けていましたが、かかりつけ医が乳がん発覚の3年前に亡くなり、しばらく検診を受けていませんでした。
成井先生
番組出演より前に自分で胸を触る習慣はありましたか?
山田さん
ありませんでした。普段から触診しておくことは大切ですよね。
成井先生
そうですね。異変にすぐ気付けるように普段の状態を知っておくことが大切です。乳がんが発覚した際はどのように感じましたか?
山田さん
「まさか私が」と驚きました。
成井先生
18年前は発症率が15人に1人と低かったので、驚きましたよね。
山田さん
はい。がんと診断されたので「私は死んでしまうの?」と先生に質問しました。ショックのあまり治療方針に支障をきたすような質問をしてしまう患者さんも多いと思います。
成井先生
以前はそうしたことを口にすると失礼だと考える患者さんも多かったのですが、悩んでいることは率直に伝えてほしいと考える医師も増えていると思います。乳がんが発覚したのは何歳の時でしたか?
山田さん
46歳です。
成井先生
40代後半は乳がんになりやすい年齢です。
山田さん
祖母の影響で乳がんは高齢になってからだと思っていましたが、自分の年齢が発症しやすい時期だったのですね。
成井先生
はい。ほかのがんは高齢者に発症しやすいですが、乳がんは45〜50歳も好発年齢になるので知っておいてほしいですね。
山田さん
乳がんはどのような症状で発覚することが多いのでしょうか?
成井先生
しこりがきっかけで発覚するケースが多いと思います。
山田さん
しこりがないこともあると思うのですが、そういった場合はいかがですか?
成井先生
しこり以外には健康診断で異常を指摘されて発覚する人が多いと思います。
山田さん
乳がんの原因は何ですか?
成井先生
生活習慣や加齢に加えて遺伝的な背景があると考えられています。全体の5〜10%が遺伝性の乳がんです。特にご家族に乳がんを発症した人がいる場合は発症リスクも高いため、検診は欠かさず受けていただければと思います。
山田さん
私もがん家系だったので遺伝について調べたのですが、問題はありませんでした。ほかに何を検査すればいいですか?
成井先生
マンモグラフィ検査はもちろん実施しますが、50歳頃までは乳腺が発達して腫瘍を見つけにくい方も多いため、エコー検査も一緒におこなうことが推奨されています。乳がんの診断についてどのような説明がありましたか?
山田さん
右胸に2つと左胸の下に1つ、合計3つの腫瘍が見つかり、ステージは0と1と説明を受けました。ステージ0の腫瘍について手術の必要性を確認したところ、早期に切除することが重要との説明を受け、医師の判断に従うことにしました。
成井先生
ステージ0の治療方針は専門家の中でも意見が分かれると思います。
山田さん
がんのステージは何段階あるのですか?
成井先生
乳がんのステージは0〜4の5段階で評価されます。肺や肝臓に転移している場合でも、治療の進歩により生存率は改善しており、15年前の治療結果から導き出したデータではステージ4の場合でも10年生存率は約20%と言われているので今はもっと良くなっていると思います。
山田さん
希望が持てますね。
成井先生
山田さんが経験した治療について教えてください。
山田さん
二度の手術を受けた後は放射線治療に毎日通い、その後5年間はホルモン療法を受けました。
成井先生
どのような手術をおこないましたか?
山田さん
がんが3つあったので、乳房全体を全て取り除くか、部分的に取り除くかを医師と相談して元の乳房の形をできるだけ残す温存手術にしました。
成井先生
がんの範囲が広い場合や片方に複数存在する場合は、乳房を全て取り除かなければならない可能性も高くなります。遺伝子の異常がある場合も全摘術となる場合が多いですね。
山田さん
命と胸を残すこと、どちらを優先するのか悩まれる人も多いですよね。
成井先生
最近では乳房を温存する方法だけでなく、乳腺を全部取ったうえで胸を再建する方法もあるので治療の選択肢が増えていると思います。
山田さん
祖母の時代は悪い箇所を全部切除することが当たり前だったので、治療方法も進歩しているなと実感します。
成井先生
術後におこなった治療についても教えていただけますか?
山田さん
手術から1ヵ月後には放射線治療が始まり、仕事の合間に病院へ通いながら治療を継続したあと、5年間はホルモン療法をおこないました。
成井先生
現在まで治療を続けてどう感じましたか?
山田さん
大変でしたね。ホルモン療法で1ヵ月分の薬を受け取った際は、量の多さに驚きました。5年間続けた治療が終盤に向かっていくと、本当はうれしいはずなのに逆に再発しないかと不安になったことを覚えています。
成井先生
皆さん不安になりますね。
山田さん
先生からは荷下ろし症候群だと言われ、皆さん同じような状況になると教えてくれました。私が使用しなかった抗がん剤は、脱毛や吐き気などの副作用でつらいイメージがあるのですが、いかがですか?
成井先生
抗がん剤を使う間は脱毛や吐き気などの副作用に悩まされる人も多いと思います。
山田さん
副作用がない人もいれば、吐き気や倦怠感などさまざまですね。
成井先生
現在では吐き気止めの進歩や頭皮冷却による脱毛防止技術の開発により、化学療法の負担も軽減されています。検診だけでなく治療も着実に進歩しており、ホルモン療法の期間は5年間から10年間に延長されています。
山田さん
それはなぜですか?
成井先生
治療成績が良いことが分かったからです。
山田さん
最前線ですね。私も当時の最前線の治療をしたと思うのですが、今は自分の生活スタイルや仕事、趣味のことなども考えて治療の選択肢がたくさんあるのだなと実感します。
成井先生
山田さんは放射線治療をどのくらいおこないましたか?
山田さん
約6週間で28回だったと思います。
成井先生
治療の進歩により、現在では放射線治療の期間は3週間で終わることが多くなっています。1回の線量を多くして回数を減らしても効果に差はないことが示され、標準的な治療回数は15回に短縮されました。
山田さん
放射線を照射した部位はしばらく焼けたような感覚があり、その間は汗もかかず毛も生えませんでした。あれから13年が経過し、汗や体毛が戻ったことで回復を実感しました。
成井先生
乳がんは進行するほど治療が複雑になります。ステージ0や1の状態で発見できれば、手術や飲み薬の治療だけで済む可能性もあるので、早期に発見し治療することが大切ですね。がんのステージやタイプに合わせた治療は大きく進歩しているので、怖がらずに受診していただければと思います。
