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 公開日:2025/10/27

山田邦子「乳房再建」の検討を告白 術後のコンプレックスと向き合う姿とは 山田邦子「乳房再建」の検討を告白 術後のコンプレックスと向き合う姿とは

乳房再建は乳がん手術で乳房を失った際におこなわれる治療のひとつで、見た目や心の回復をサポートする大切な治療です。今回は実際に乳房の温存手術を経験した山田邦子さんの体験を振り返りながら、乳房再建の方法やメリット、注意点について日本形成外科学会認定形成外科専門医である小宮貴子先生に解説していただきます。

>【画像あり】山田邦子、乳房再建の実物シリコンに驚愕「胸って重いんですね」

山田邦子
インタビュー山田邦子(ものまね漫談)
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1960年6月13日、東京生まれ。1980年に芸能活動を開始し、翌年にはデビュー曲「邦子のかわい子ぶりっ子バスガイド編」で有線大賞新人賞を受賞。2007年には乳がんが発覚し、2008年からがんに対する知識と理解を呼びかけるチャリティー団「スター混声合唱団」を設立し、全国各地で活動をおこなう。厚生労働省のがん検診率向上委員を務めるなど、がん啓発活動に力を入れている。
小宮貴子先生
監修医師: 小宮貴子(日本形成外科学会認定形成外科専門医・指導医)
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2002年東京医科大学を卒業。日本形成外科学会認定形成外科専門医・指導医。日本形成外科学会認定再建・マイクロサージャリー分野指導医。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会乳房再建用エキスパンダー・インプラント責任医師。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会理事。日本形成外科学会評議員。東京医科大学病院形成外科准教授。

小宮先生小宮貴子先生

山田さんは乳がんで乳房の温存手術を経験されたとのことですが、術後のお体の状態についてお聞かせいただけますか?

山田邦子さん山田さん

手術後目覚めた時は痛かったですが、痛み止めをいただいてから痛みはなくなりました。

小宮先生小宮貴子先生

傷跡はすぐに見られましたか?

山田邦子さん山田さん

包帯が巻かれていたこともありその時は見られず、触って少し確認しただけでした。実際に初めて確認できたのは、先生と一緒に見た翌日だったと思います。

小宮先生小宮貴子先生

早いですね。翌日に傷跡を確認できる人は少なく、退院前に初めて見る人が多い印象です。自分から見ようとする人も多くないため、私たちから声かけをするようにしています。傷跡を見た時の心境はいかがでしたか?

山田邦子さん山田さん

思ったより小さく切ってありましたが、傷のない状態を知っているから驚きましたね。

小宮先生小宮貴子先生

傷があるだけで驚きますよね。温存療法の場合は部分切除後に放射線治療をおこないますが、その影響で傷口がきれいになるメリットもあります。今の状態はどうですか?

山田邦子さん山田さん

今ではほとんど分からないほどきれいですが、左右の乳房に傷があり少し歪みました。温泉に行っても友人には全然分からないと言われますが、自分では多少気になります。乳房再建について教えていただけますか?

小宮先生小宮貴子先生

乳房再建は乳がんの手術で乳房を部分的または完全に失ったあと、その形を回復させるためにおこなう治療方法です。

山田邦子さん山田さん

手術はどのように進めていくのでしょうか?

小宮先生小宮貴子先生

乳房再建は、まずいつ作るかを決めます。一次再建は、がんを切除する手術と同時に乳房を再建する方法で、目覚めた時の喪失感を和らげられることがメリットの一つです。

山田邦子さん山田さん

なるほど。

小宮先生小宮貴子先生

もう一つの二次再建は、乳がんの手術や治療が落ち着いてから後日再建する方法です。

山田邦子さん山田さん

まずはがんの摘出を優先したい人もいらっしゃいますよね。

小宮先生小宮貴子先生

乳房再建では手術の回数についても知っておくことが重要です。1回で完成する場合(一期再建)もあれば、エキスパンダー(組織拡張器)を用いて2回に分けて完成させる方法(二期再建)もあります。

山田邦子さん山田さん

詳しく教えてください。

小宮先生小宮貴子先生

エキスパンダーを使う場合、一度目の手術で乳腺を摘出した乳房にエキスパンダーを入れます。これは水風船のようなもので生理食塩水を徐々に注入し、最終的に健康な乳房よりやや大きいくらいまで皮膚を伸ばします。その後、膨らんだスペースにシリコンインプラントや自家組織を入れ替えて乳房を再建する方法です。実際のシリコンインプラントがこちらです。

山田邦子さん山田さん

胸って重いんですね。シリコンインプラントは体の中でなくならないのでしょうか?

小宮先生小宮貴子先生

なくなることはありません。人工物なので壊れることは稀にありますが、中身がシリコンゲルなので体中に広がってしまうことは基本的にはありません。

山田邦子さん山田さん

すごいですね。

小宮先生小宮貴子先生

シリコンインプラントのほかに自分の背中や腹部、太ももなどを使用する自家組織再建もあります。

山田邦子さん山田さん

詳しく教えてください。

小宮先生小宮貴子先生

まずは広背筋皮弁法といって背中の皮膚と脂肪、広背筋を血管のつながった状態で乳房のところに移動し再建する方法があります。

山田邦子さん山田さん

なるほど。

小宮先生小宮貴子先生

腹部を使用する再建で現在主流なのは、穿通枝皮弁法です。これは腹筋を温存し、下腹部の皮膚と脂肪の血管を付けてかたまりで採取し、切り離して乳房の血管につなぐ方法です。

山田邦子さん山田さん

血管をつないでいくのですね。

小宮先生小宮貴子先生

穿通枝皮弁法には太ももの内側を使った方法もあります。太ももの内側には脂肪がついていることも多く、背中や下腹部に脂肪が少ない人でもおこなえる方法です。太ももの皮膚と脂肪を切り離して採取し乳房の血管につなげていきます。

山田邦子さん山田さん

いろいろな方法がありますね。

小宮先生小宮貴子先生

シリコンインプラントによる人工物再建、皮弁を使う自家組織再建に大きく分けられます。自家組織再建にはもう1つの方法として脂肪注入があります。腹部や太ももから脂肪を採取して、それを乳房に入れて乳房を再建します。

山田邦子さん山田さん

脂肪は注入するだけでいいのですか?

小宮先生小宮貴子先生

はい。大きな傷が残らないというメリットがある一方、注入した脂肪は半分が体に吸収されてしまうのでボリュームをだす効率は低いといったデメリットもあります。なお、皮弁法では採取したボリュームをほぼ確実に再建することができます。

山田邦子さん山田さん

自家組織再建方法はどのように選択すればよいのでしょうか?

小宮先生小宮貴子先生

乳房の大きさと体内に蓄えている脂肪量や切除する皮膚の大きさなどに応じて選択します。乳房が大きく体脂肪の少ない場合、背中や血管をつなぐ皮弁法を用いることが多く、乳房が小さく体脂肪は十分にあり傷を避けたい場合は、脂肪注入を複数回おこなう方法が適しています。

山田邦子さん山田さん

いろんな方法があって希望の光になりますね。

小宮先生小宮貴子先生

そうですね。再建方法や選択肢については、乳腺科と形成外科の主治医と一緒に相談しながら決めていただければと思います。

山田邦子さん山田さん

乳房再建について相談する姿勢は前向きな一歩のように感じますね。私は温存手術で乳房も残っていますが、18年が経ち左右の形の差を戻すことも考えています。

小宮先生小宮貴子先生

放射線治療をおこなっていると元の状態に戻しにくいこともあるので、まずは主治医にご相談のうえで、ぜひ検討してみてください。

山田邦子さん山田さん

乳房再建の費用について教えていただけますか?

小宮先生小宮貴子先生

脂肪注入だけは保険が適用されませんが、それ以外の方法は保険が適用されます。そして高額療養費制度を利用すると払い戻しが受けられますので、安心して検討してください。

山田邦子さん山田さん

乳房だけでなく、乳頭や乳輪の再建を希望される人も多いと思うのですが、いかがですか?

小宮先生小宮貴子先生

多いと思います。乳頭と乳輪を再建する理由として、温泉やスポーツジムを楽しむためにおこなわれる方が最も多いです。

山田邦子さん山田さん

乳頭はどのように再建するのですか?

小宮先生小宮貴子先生

健側の乳頭や乳輪の一部を切り取って反対側に移植する方法があります。

山田邦子さん山田さん

それ以外の方法についてはいかがですか?

小宮先生小宮貴子先生

太もも内側の付け根部分の色素沈着がある皮膚を移植し、乳輪にすることもあります。

小宮先生小宮貴子先生

体のほかの部位に新たな傷をつけたくない場合には、再建した乳房の皮膚を切って丸め乳頭を作る方法もあります。色付けにはMRI検査に影響しない金属成分の少ない医療用タトゥ(アートメイク)を使うことで自然に仕上げることが可能です。

山田邦子さん山田さん

すごい技術ですね。

小宮先生小宮貴子先生

医療用タトゥのみで3Dアートのように乳頭と乳輪を描くこともできるので、手術したくない場合はその方法もお勧めです。

山田邦子さん山田さん

乳頭と乳輪の再建にも、さまざまな方法があるのですね。費用についてはいかがですか?

小宮先生小宮貴子先生

医療用のタトゥ以外は保険が適用されます。

山田邦子さん山田さん

がんを経験すると何年経っても再発や転移への不安がつきまといます。がんでなくても誰しも悩みはあると思います。明るく笑うことは免疫力を上げ、がんの予防や回復の助けになるというデータもあるので、一緒に笑顔で過ごしましょう

小宮先生小宮貴子先生

山田さんのようにがんの体験者がその経験を発信することは、同じ状況の人にとって医療者の言葉以上に励みになると思います。乳房再建は必須の治療ではありませんが、喪失感や不便さを軽減し、温泉に入れないなどの行動制限も解消することでQOLを高めるとされています。日本でも乳房再建を選ぶ人が少しずつ増えていることを知っていただきたいですね。

編集部より

乳房再建には自家組織を用いる方法やシリコンインプラントを用いる方法など複数の選択肢があり、それぞれに適応やメリットがあります。乳房再建は単に外見を整えるためだけでなく、自己肯定感やQOLの向上につながる治療方法です。治療の選択肢は人によって異なり、希望や適応に応じて最適な方法を選ぶ必要があります。今回の記事で乳がんと向き合う方々が自分に合った治療を考えるきっかけとなり、知ることから一歩を踏み出す後押しになれば幸いです。

この記事の監修医師