高コレステロール血症の治療薬「スタチン」、コロナ死亡率を下げる効果アリ!?
スウェーデンの研究チームが、同国の大規模住民登録データに基づく研究の結果、高コレステロール血症の治療薬のスタチンの使用が新型コロナウイルス感染症の死亡率低下に関連していると報告しました。このニュースについて中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医師)
スタチンとは?
まず、スタチンとはどのような治療薬なのでしょうか?
中路先生
スタチンは、日本人研究者の遠藤章先生らのグループを中心に発見されたコレステロール血症の治療薬です。
HMG-CoA還元酵素を阻害することにより、肝臓のコレステロール合成を抑制し、血液中のコレステロールを低下させる作用があります。心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患発症を予防する効果を有しており、現在スタチンは100カ国以上で販売され、約4000万人が毎日服用するという、世界で最も使用されている薬の1つです。
欧米の医学の教科書には現在も、「米国で1994~2004年に冠動脈疾患による死亡率が33%減ったのは、遠藤博士が発見したスタチンのおかげと言っていい」と記載されているほど評価されている薬です。
今回報告された内容は?
今回の報告では、どのようなことが分かったか教えてください。
中路先生
今回の調査では、スウェーデンの全国処方登録から45歳以上のストックホルムの全住民、つまり96万3876人の中から2019年3月1日から2020年2月29日の新型コロナウイルス感染症のパンデミック前のスタチン新規処方を抽出して、2020年3月1日から同年11月11日まで追跡したものです。
その対象は、16万9642人となりました。スタチン使用者には、高年齢の男性が多く、合併症診断率が高い、抗凝固薬および降圧薬使用率が高いなどの特徴が見られたと報告されています。追跡調査の期間中に全体で2545人が新型コロナ感染症により死亡し、その中でスタチン使用者は765人でした。
報告では、スタチン使用者は新型コロナで死亡するリスクが12%低くなったと結論づけています。また、年齢層、男女、新型コロナのリスク群による差は認められなかったそうです。
スタチンが新型コロナの治療に活用される可能性は?
報告書では死亡リスクの低下が指摘されていますが、今後スタチンが新型コロナの治療現場で活用される可能性はあるのでしょうか?
中路先生
スタチンが新型コロナウイルスに有用かどうかは、これらの効果があるとの報告以外に、逆に効果はなかったとの報告もあり、まだ議論の余地があるようです。
しかし、以前よりスタチンには炎症を抑える作用が指摘されており、新型コロナウイルスによる炎症や血栓の予防効果はありそうで、なんらかの良い効果は期待できそうです。ただし、人によっては横紋筋融解症などの重篤な副作用を起こす可能性があり、自己判断での内服はすすめられません。
スタチンの適応はあくまで脂質異常症であり、新型コロナウイルスへの効果は今後のさらなるエビデンスの集積を待ちたいと思います。
まとめ
日本発の薬剤であるスタチンが、新型コロナの死亡リスクを12%下げるという報告がスウェーデンの研究者によって行われたことが分かりました。今後さらなる調査・研究が行われて有用性がさらに示されることに期待が集まります。