「転移性去勢抵抗性前立腺がん」進行を遅らせて長生きできる可能性のある治療法を発見
イギリスのThe Christie NHS Foundation Trustらの研究グループは、「転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の治療において、オラパリブ(商品名:リムパーザ)とアビラテロン(商品名:ザイティガ)の併用療法が、特に痛みのない、または軽度の痛みを伴う患者さんに対して、病気の進行を遅らせる効果が高い」と発表しました。この内容について村上医師に伺いました。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
研究グループが発表した内容とは?
イギリスの研究グループが発表した内容について教えてください。
村上先生
今回紹介する研究報告はイギリスのThe Christie NHS Foundation Trustらの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「European Urology Oncology」に掲載されています。
研究グループは、対象となる患者をオラパリブまたはプラセボ、アビラテロンとプレドニゾン/プレドニゾロンを併用する群に1:1の割合でランダムに振り分けて研究をおこないました。研究の結果、560人の無症候性/軽度症候性患者における無増悪生存期間の中央値は、オラパリブ+アビラテロン併用群で27.6カ月、プラセボ+アビラテロン併用群で19.1ヵ月でした。また、183人の症状のある患者では、それぞれ14.1カ月と13.8カ月でした。
この結果を解析すると、無症候性/軽度症状の患者における全生存期間の中央値は、オラパリブ+アビラテロン併用群では未到達、プラセボ+アビラテロン併用群では39.5ヵ月でした。症状のある患者の全生存期間は、オラパリブ+アビラテロン併用群で22.9ヵ月、プラセボ+アビラテロン併用群で22.8ヵ月でした。
今回の研究で得られた結果について、研究グループは「オラパリブ+アビラテロンは、無症候性/軽度症候性または症候性疾患を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん患者において有効性上の利益をもたらした。無症候性/軽度症候性の患者では、より大きな利益が得られた」と結論づけています。
去勢抵抗性前立腺がんとは?
今回紹介した研究で取り上げられた去勢抵抗性前立腺がんについて教えてください。
村上先生
男性ホルモンによって増殖する性質がある前立腺がんに対して、男性ホルモンの分泌や働きを抑えて、がん細胞の増殖を抑制する治療法がホルモン療法です。しかし、ホルモン療法を続けるうちに効果がなくなり、再び病状が悪化することがあり、この状態を去勢抵抗性前立腺がんと呼びます。
医学的には「男性ホルモンを抑える治療がおこなわれ、血液中の男性ホルモンの値が50ng/dL未満と非常に低いにもかかわらず、病勢が悪化したり、腫瘍マーカーであるPSAの値が上昇したりしている状態」と定義されています。去勢抵抗性前立腺がんは、およそ80%の頻度で骨転移が起きることが知られており、脊椎、肋骨、骨盤、大腿骨などに転移しやすいがんです。
研究内容への受け止めは?
イギリスのThe Christie NHS Foundation Trustらの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
村上先生
転移を有する去勢抵抗性前立腺がんの1次治療として、オラパリブとアビラテロンの併用療法は、標準治療であるアビラテロン単独よりも画像的無増悪生存期間と全生存期間ともに延長することが試験で示されています。日本人を対象にしたデータから同様の結果が示されていることも、近年報告されています。
今回の研究結果では、オラパリブとアビラテロンの併用療法が、症状がない、もしくは軽度の患者で、さらに有効性が高いことが示されました。治療方法選択において、より日常生活活動度(ADL:Activities of daily living)の良好な患者に、この併用療法が適応となり得ることを示唆しているものと考えます。
編集部まとめ
イギリスのThe Christie NHS Foundation Trustらの研究グループは、「転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療において、オラパリブとアビラテロンの併用療法が、特に痛みのない、または軽度の痛みを伴う患者さんに対して、病気の進行を遅らせる効果が高い」と発表しました。今後の更なる研究にも期待が集まります。
提供元:「日本がん対策図鑑」【去勢抵抗性前立腺がん(無症候性):一次治療(PFS)】「リムパーザ+ザイティガ」vs「ザイティガ」
https://gantaisaku.net/propel_asymptomatic/