「前立腺がん」治療後の性機能障害、運動で改善できる可能性あり エディスコーワン大学
オーストラリアのエディスコーワン大学らの研究グループは、前立腺がんに対する手術後の副作用として生じる場合が多い性機能障害の改善について、運動が有効である可能性を発表しました。この内容について村上医師に伺いました。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
オーストラリアのエディスコーワン大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
村上先生
今回紹介する研究は、オーストラリアのエディスコーワン大学らの研究グループが実施したもので、8月に開催されたアメリカ臨床腫瘍学会国際腫瘍学会議で発表された内容です。
研究グループは、前立腺がんに対する手術後の副作用として生じる場合が多い性機能障害をテーマに検討を実施しました。対象になったのは、性機能障害の可能性がある前立腺がん患者112例で、6カ月間のグループ指導による運動(レジスタンス運動+有酸素運動)群、運動+性心理療法群、通常ケア群の3群にランダムに割り付けました。検討の結果、勃起機能は運動群および運動+性心理療法群で5.1%、通常ケア群で1.0%改善が見られました。また、性交満足度は運動群および運動+性心理療法群で2.2%、通常ケアで0.2%の改善幅となりました。
これらの結果から、研究グループは「監視下での運動(レジスタンス運動および有酸素運動)により前立腺がん患者の勃起機能および性交満足度は改善することが示唆された」と結論づけています。また、「性機能障害の可能性がある前立腺がん患者には運動をおこなうよう勧めるべきである」とも指摘しています。
前立腺がんとは?
今回紹介した研究で取り上げられた前立腺がんについて教えてください。
村上先生
前立腺は男性のみにある臓器になります。前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生する疾患であり、早期に発見すれば治癒することが可能な病気です。前立腺がんの日本の患者数は、2019年時点では9万4748人となっています。
前立腺がんの中には、進行がゆっくりで、寿命に影響しないと考えられるがんもあります。早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状がありませんが、尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもあります。進行すると、排尿症状に加えて、血尿や、腰痛などの骨への転移による痛みがみられることがあります。治療のための手術後の合併症には、尿失禁と性機能障害があります。
特に性機能障害は、手術直後はほぼ確実に起こります。勃起障害は一般的に完全に回復することが難しいとされています。ただし、神経を温存した手術後の勃起障害には、飲み薬での治療が有効と言われています。
発表内容の受け止めは?
オーストラリアのエディスコーワン大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
村上先生
前立腺がん術後の性機能障害は患者さんのQOLを長期的に低下させる大きな問題ですが、特に日本ではそのケアが十分にされていないのが現状です。また、一般的には有効な改善方法もないとされています。
今回の報告で、運動による性機能の一定の改善効果が示されたことは、非常に有意義だと思います。運動の長期的な効果を確立するために、今後もさらなる研究が継続されることを期待しています。
まとめ
オーストラリアのエディスコーワン大学らの研究グループは、前立腺がんに対する手術後の副作用として生じる場合が多い性機能障害の改善について、運動が有効である可能性を発表したことが今回のニュースでわかりました。今回のような情報は、前立腺がん患のQOL向上につながるものとして今後も注目を集めそうです。