日本人で増えている「食道胃接合部がん」で生存期間の改善を確認 研究で明らかに
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループは、「難治性の食道胃接合部がんに対して、経口マルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブ(商品名:スチバーガ)を投与すると、投与しなかった群と比べて生存期間が改善した」という結果が示されたことを発表しました。この内容について眞鍋医師に伺いました。
監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
研究グループが発表した内容とは?
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループが発表した内容を教えてください。
眞鍋先生
今回紹介する研究報告は、オーストラリアのシドニー大学らの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されています。
研究グループは「難治性の進行胃がんおよび食道胃接合部がんに対する治療選択肢は限られている」として、経口マルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブの投与が偽薬(プラセボ)と比較して全生存期間が改善するかを検証しました。今回の臨床試験は第三相臨床試験で、すでにおこなわれた第二相臨床試験では、レゴラフェニブはプラセボと比べて無増悪生存期間、つまり治療中や治療後にがんが進行せず安定した状態である期間を延長したことが示されています。
研究グループは、2種類以上の前治療歴のある転移性/進行性食道胃接合部がんと確定診断された患者を対象に、「レゴラフェニブと最善の支持療法をとったグループ」と「レゴラフェニブを投与せずに最善の支持療法をとったグループ」を比較しました。対象となったのは251例で、アジアから157人、そのほかの地域から94人が集まりました。対象者のうち、169人がレゴラフェニブを投与され、82人がプラセボを投与されました。全生存期間のプール解析によるハザード比は0.70でした。第三相臨床試験単独投与群の全生存期間ハザード比は0.68で、中央値全生存期間は4.5カ月対4.0カ月、12カ月生存率はそれぞれレゴラフェニブ群で19%、プラセボ群で6%となりました。また、レゴラフェニブは無増悪生存期間を改善し、全体的なQOLの悪化を遅らせたことも示されました。
こうした結果から、研究グループは「レゴラフェニブは、難治性のAGOC患者において、プラセボと比較して生存期間を改善する」と結論づけています。
食道胃接合部がんとは?
今回紹介した研究テーマにもなった食道胃接合部がんについて教えてください。
眞鍋先生
食道と胃のつなぎ目の部分を食道胃接合部と呼び、食道胃接合部がんは食道胃接合部にできるがんのことです。具体的な定義は、「食道胃接合部の上下2cmの範囲にがんの中心部があるもの」とされています。食道胃接合部がんには、食道がんの性質に近い扁平上皮がんと、胃がんの性質に近い、腺がんに分類されます。早期発見ができた場合は内視鏡で切除することができますが、標準治療は手術です。
ピロリ菌感染者の減少や除菌が普及したことで、日本人の胃がんは減少傾向にあるものの、食道胃接合部がんは増加傾向にあります。原因の1つとして、胃液の逆流が指摘されています。
研究内容への受け止めは?
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
眞鍋先生
新しい医薬品が患者さんの手に渡るまでには多くの段階を踏む必要があり、その中で特に重要なのが臨床試験です。臨床試験は、新しい薬の効果や安全性を人に対して実際に確かめるための試験で、大きく分けて以下の4つの段階があります。今回の研究はそのうちの3番目、Ⅲ相試験にあたり、新しい薬が本当に効果があり、安全であることを大規模な集団で確認するための最終段階です。Ⅲ相試験では、新しい薬と既存の治療法、またはプラセボを比較し、より効果的で安全な治療法を選ぶためのデータを集めます。
レゴラフェニブという薬は、がん細胞の増殖を抑える働きを持つ分子標的薬の一種です。今回の研究では、レゴラフェニブがすでに治療を受けている難治性の進行胃がんおよび食道胃接合部のがん患者において、生存期間を改善する可能性を示しました。これにより今後、この薬のこのがんに対する使用が承認されると、第Ⅳ相試験(上市後の薬の安全性や新たな効果などをさらに詳しく調べる試験)へと移行していくでしょう。
編集部まとめ
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループは、難治性の食道胃接合部がんに対して、経口マルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブを投与すると、投与しなかった群と比べて生存期間が改善したという結果を示したと発表しました。日本でも増加傾向にある食道胃接合部がんに関する研究は、注目を集めそうです。
※提供元:がん対策図鑑 【胃がん:三次治療(OS)】「スチバーガ+支持療法」vs「支持療法」
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