がんリスクは「縮毛矯正」で増加する!? オシャレが及ぼす“意外な悪影響”が明らかに
生まれ持った縮毛をストレートヘアにするためにおこなわれる「縮毛矯正」。今回の記事では、アメリカの国立環境衛生科学研究所らの研究グループが明らかにした、化学的な縮毛矯正と子宮がんリスクに関する研究結果を紹介します。この内容について馬場医師に伺いました。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカの国立環境衛生科学研究所らの研究グループが発表した内容を教えてください。
馬場先生
研究グループは過去の研究で、乳がんや卵巣がんなどのホルモン感受性がんのリスク上昇と毛髪製品の使用の関連性は判明しているものの、子宮体がんとの関連を調べた研究はこれまでなかったことに着目して、今回の研究を実施しました。
研究対象となったのは、2003~2009年に子宮があった35~74歳の3万3947人で、平均10.9年の追跡期間中に378例の子宮体がんが同定されました。そして、過去12カ月間に化学的な縮毛矯正剤を使用したことがある場合とない場合では、子宮体がんの罹患リスクが1.8倍高くなることがわかりました。また、過去12カ月間に4回以上という高頻度で縮毛矯正剤を使った人は、一度も使用したことがない場合と比較すると、リスクが2.55倍高くなったとのことです。その一方、染毛剤やパーマネント剤など、ほかの毛髪製品の使用は、子宮体がんの発生と関連していなかったことも示されました。
この研究で得られた結果について、研究グループは「これらの知見は、縮毛矯正製品の使用と子宮体がんとの関連を示す初めての疫学的証拠である。この知見をほかの環境でも再現し、観察された関連性を促進する特定の化学物質を同定するために、さらなる研究が必要である」と結論づけています。
研究による社会的な影響は?
今回紹介した研究結果は、縮毛矯正をしている人であれば驚く内容ですが、社会的にどのような影響があったのでしょうか?
馬場先生
アメリカの国立環境衛生科学研究所らの研究グループによる論文発表の約1週間後というタイミングで、10歳の頃から縮毛矯正製品を使用していたミズーリ州の32歳の女性が、ロレアルUSAを含む5社に対して訴訟を起こしています。この女性は、化学縮毛矯正製品を20年間使い続け、家族歴がないにもかかわらず、子宮がんと診断され、子宮全摘出手術を受けていました。
女性と弁護団は、彼女のがんの原因が化学縮毛矯正製品だとして訴えています。女性は「自分のような黒人女性の多くは、アメリカの美の基準を守るために縮毛矯正製品を使うプレッシャーに直面している」と、メディアに対してコメントしています。これは、黒人の比率が高いアメリカならではの訴訟と言えるかもしれません。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
アメリカの国立環境衛生科学研究所らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
馬場先生
化学物質や有機溶剤は、我々の生活を便利にしてくれる一方で、健康への影響を及ぼす側面もあります。
実際に、発がん性の化学物質や有機溶剤は数多くあります。例えば、農薬などに使用される「クロロホルム」、ドライクリーニングで使用される「テトラクロロエチレン」、工業用溶剤で使用される「トリクロロエチレン」、染料や樹脂製品などに使用される「ベンジジン」などがあります。特に、ベンジジンによる膀胱がんは、化学工場・ゴム工場などで勤務、染料・皮革などを扱っている職業においてリスクが高くなっており、職業病の一種とされています。
日本国内における有機溶剤の扱いに関しては、様々な関連法規によって厳重な扱いとなっています。縮毛矯正剤には、フタル酸エステル、パラベン、シクロシロキサン、金属などの化学物質を含んでいるものがあり、加熱すると発がん性のあるホルムアルデヒドを放出する可能性が指摘されています。しかし、縮毛矯正剤における子宮体がんへの発がん性を示す物質が確定的ではないため、さらなる研究が必要であると考えられます。
また、今回の研究報告はアメリカで実施されたものであり、日本国内で流通している縮毛矯正剤とは成分が異なっている可能性も考えられます。今後、日本国内における縮毛矯正剤と子宮体がんリスクに関する研究報告も期待されます。
まとめ
今回の記事では、アメリカの国立環境衛生科学研究所らの研究グループが明らかにした、化学的な縮毛矯正と子宮がんリスクに関する研究結果について紹介しました。縮毛矯正は日本でもおこなわれているヘアケアなので、今回の研究結果に注目する人は多そうです。