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「食中毒の原因」になることが多い「食べ物」はご存知ですか?病原体別の症状も解説!

 公開日:2025/08/09
「食中毒の原因」になることが多い「食べ物」はご存知ですか?病原体別の症状も解説!
食中毒は、私たちの日常生活に潜む、決して軽視できない健康リスクです。厚生労働省が公表した令和6年の食中毒統計資料によると、日本国内で1,037件の食中毒が発生し、14,229人もの方々が罹患、そのうち3名の方が命を落とすという深刻な事態にいたっています。この発生件数は過去5年間で最も高い水準にあり、食中毒が依然として重大な公衆衛生上の課題であることを明確に示しています。

食中毒とは、有害な細菌、ウイルス、寄生虫、あるいは自然界に存在する毒や化学物質などで汚染された食品や飲料を摂取することによって引き起こされる健康被害の総称です。その原因は大変多岐にわたり、私たちの食生活のあらゆる場面に危険が潜んでいます。飲食店での集団発生がニュースで大きく取り上げられることが多いですが、全体の約1割は家庭での食事が原因で発生しており、日々の調理や食事の管理がいかに重要であるかを物語っています。

この記事では、食中毒を引き起こすさまざまな原因物質の特性から、それらがどのような環境で発生しやすいのか、万が一のときに慌てず的確に行動するための受診の目安、そして最も重要な日々の予防策まで実践的な知識をQA形式で詳しく解説します。
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

食中毒の原因について

食中毒の原因について

どのようなウイルスや細菌、物質が原因で食中毒は発生しますか?

食中毒を引き起こす原因物質は、その性質によって大きく5つのカテゴリに分類されます。それぞれの特徴を理解することが、適切な予防と対策の第一歩となります。

細菌 食中毒の代表的な原因であり、食品中で増殖することで健康被害を引き起こします。高温多湿な環境を好むものが多く、夏場に多発する傾向があります。しかし、低温に強い菌も存在するため、年間を通じて注意が必要です。代表的な細菌はカンピロバクター、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌(O157、O111など)、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ、リステリア・モノサイトゲネス、ボツリヌス菌などです。

ウイルス 細菌とは異なり、ウイルスは食品の中で自ら増殖することはありません。しかし、大変少ない数のウイルス粒子が体内に入るだけで感染が成立し、人から人へと容易に感染を広げる強力な感染力が特徴です。代表的なウイルスはノロウイルス、A型肝炎ウイルス、ロタウイルスなどです。

寄生虫 魚介類や食肉などに寄生している虫(原虫や蠕虫)で、生きたまま摂取されることで体内に侵入し、激しい腹痛などの症状を引き起こします。代表的な寄生虫はアニサキス(サバ、イカ、アジなど)、クドア・セプテンプンクタータ(ヒラメ)、ザルコシスティス・フェアリー(馬肉)などです。

自然毒 動植物がもともと体内に持っている天然の毒素です。これらは加熱しても分解されないことが多く、誤って摂取すると重篤な症状を引き起こし、時には命に関わることもあります。動物性自然毒はフグ毒(テトロドトキシン)、貝毒(麻痺性、下痢性など)、シガテラ毒(熱帯・亜熱帯の魚)などがあります。植物性自然毒は毒キノコ(ツキヨタケ、クサウラベニタケなど)、ジャガイモの芽や緑化した皮に含まれるソラニンやチャコニン、有毒植物(スイセン、イヌサフランなど)があります。

化学物質 食品の生産や加工、保存の過程で意図せず生成・混入される有害な化学物質です。代表的な化学物質はヒスタミン(マグロ、サバなどの赤身魚を不適切な温度で管理した際に生成)、アクリルアミド(炭水化物を多く含む食品を高温で加熱した際に生成)、カビ毒(アフラトキシンなど)。

日本で多くみられる食中毒の原因となるウイルスや細菌、物質を教えてください

患者さんの数ではノロウイルスが圧倒的多数を占めています。これは、ノロウイルスが大変強い感染力を持ち、調理従事者を介した食品汚染や、感染者からの二次感染によって、一度の発生で給食施設や飲食店、旅館などで大規模な集団発生を引き起こしやすいためです。

ウェルシュ菌も同様に、大鍋で調理されるカレーやシチューなどが原因となりやすく、給食や仕出し弁当などで集団発生を起こす傾向があります。

一方、発生した事件の数で見ると、寄生虫のアニサキスが最も多くなっています。これは、アニサキスによる食中毒が、主に寿司や刺身などを食べた個人または少人数のグループで発生するため、一件あたりの患者さんの数は少ないものの、発生件数そのものは多くなるという特徴を反映しています。

食中毒の原因はどのように特定しますか?

保健所が以下を行います。

  • 聞き取りと共通献立の確認
  • 残品食品・患者さん便の培養またはPCR検査
  • 潜伏期間・攻撃率から原因物質を推定
  • 施設立入検査と是正指導
原因が確定すると施設名・病因物質・原因食品が公表され再発防止策が講じられます。

食中毒が起きやすい環境や食べ物

食中毒が起きやすい環境や食べ物

食中毒はどのような状態で発生しやすいですか?

細菌は10~60度の危険温度帯で急増します。梅雨から残暑期にかけては高温多湿でリスクが高まり、加熱不足・冷却不十分・交差汚染があると発症しやすくなります。

食中毒の原因になることが多い食べ物を教えてください

原因となる病原体は、それぞれ特定の食品を介して食中毒を引き起こす傾向があります。以下に代表的な例を挙げます。

  • 加熱不足の鶏肉・鶏レバー:カンピロバクター
  • 生卵・卵加工品:サルモネラ
  • 生ガキなど二枚貝:ノロウイルス・A型肝炎ウイルス
  • 真夏の刺身:腸炎ビブリオ・アニサキス
  • 大鍋のカレー・シチュー:ウェルシュ菌
  • 粉ミルク:クロノバクター・サカザキ(乳児がハイリスク)

食中毒の原因となるウイルスや細菌などは食べ物以外からも感染しますか?

はい。ノロウイルスは吐物ドアノブからも人へ移ります。調理従事者の手指衛生不良や井戸水の汚染が媒介になることもあります。

食中毒が多く発生する時期を教えてください

細菌性は6~9月、ウイルス性は11~2月にピークがあり、山菜やフグなど自然毒は春と秋に集中します。

食中毒が発生するメカニズムと症状

食中毒が発生するメカニズムと症状

なぜ特定のウイルスや細菌、物質によって食中毒の症状が出るのですか?

病因により以下の三機序があります。

  • 感染型:ノロウイルスやサルモネラが腸内で増殖し炎症を起こす
  • 毒素型:黄色ブドウ球菌などが作るエンテロトキシンを摂取し中毒を起こす
  • 中間型:ウェルシュ菌が腸内で毒素を放出する
発症までの時間や症状は機序で決まります。

食中毒の原因となるウイルスや細菌の種類別に症状を教えてください

原因となる病原体によって、潜伏期間、主な症状、そして重症化した場合のリスクが大きく異なります。代表的な病原体の特徴は以下のとおりです。

  • ノロウイルス:24~48時間で激しい嘔吐・下痢・軽度発熱
  • カンピロバクター:2〜5日で水様~血便・腹痛・発熱。まれにギラン・バレー症候群を合併
  • サルモネラ属菌:8〜48時間で悪心・発熱・下痢。高齢の方は重症化しやすい
  • 黄色ブドウ球菌(毒素型):1~5時間で突発的嘔吐・腹痛
  • ウェルシュ菌:6~18時間で腹痛・下痢(血便はまれ)

編集部まとめ

まとめ 食中毒は決して他人事ではなく、毎年多くの患者さんが医療機関を受診しています。特にノロウイルスは患者さんの約半数を占め、身近なリスクとして注意が必要です。激しい嘔吐や下痢、発熱など症状が強いときや、脱水のおそれがある乳幼児や高齢の方、38度以上の発熱や血便がある場合は、迷わず早めに医療機関を受診してください。

食中毒が疑われる場合は、家庭内での初動対応が重要です。嘔吐物の処理では感染を広げないために次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度0.1%)を使用し、マスクと使い捨て手袋を必ず着用しましょう。また、症状があるときは無理に固形物を取らず、経口補水液などでこまめに水分補給を行うとよいでしょう。薬剤の使用は、必ず医師の指示を待ってからにしてください。

日常の小さな注意が大切な方を守ることにつながりますので、正しい知識と行動を身につけ、家族や自分自身の健康を守っていきましょう。

この記事の監修医師