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「ウェルニッケ脳症」の症状や原因など解説!アルコール依存症との関係は?

 更新日:2024/01/09
ウェルニッケ脳症

ウェルニッケ脳症についてご存知でしょうか?この疾患はビタミンB1不足によって引き起こされ、脳に深刻な影響をもたらします。主にアルコール依存症の方々によく見られますが、他の健康上の問題も原因とされています。本記事ではウェルニッケ脳症について以下の点を中心にご紹介します。

・ウェルニッケ脳症とは
・ウェルニッケ脳症の治療
・ウェルニッケ脳症の予防

ウェルニッケ脳症について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

ウェルニッケ脳症について

ウェルニッケ脳症について

ウェルニッケ脳症とはどのような病気ですか?

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1(チアミン)の不足によって引き起こされる疾患です。この不足により、脳の奥部に微小な出血が生じ、眼球の振動(眼振)や動きの制限、意識の変化、歩行の不調などの症状が急に現れます。主な原因としてアルコール依存症が挙げられますが、悪性腫瘍や消化管手術後、重症のつわりなど、チアミン不足を引き起こす他の疾患でも発症する可能性があります。発症直後にチアミンを大量に投与すると回復できますが、診断が遅れると死亡率も高まり、また多くの患者がコルサコフ症候群という後遺症に移行する可能性があります。

ウェルニッケ脳症の症状にはどのようなものがありますか?

ウェルニッケ脳症は、以下のような症状が特徴的です。

錯乱: 患者は混乱し、周囲の環境や状況を正確に認識できなくなります。
眠気: 患者は過度な眠気を感じることがあります。
眼球の不随意運動(眼振):目が自動的に左右や上下に動くこと。
眼の筋肉の部分麻痺(眼筋麻痺): 目の筋肉が正常に動かなくなること。
平衡感覚の喪失:歩行時にバランスを失い、ゆっくりと小刻みに歩くことが必要となる。

特に、アルコールの過度な摂取が原因となることが多いウェルニッケ脳症は、早期の診断と治療が非常に重要です。症状が現れた場合、速やかに医師の診断を受け、必要な治療を受けることが推奨されます。

ウェルニッケ脳症の考えられる原因はなんですか?

この病気の主な原因として以下の点が挙げられます。

食事の偏りや栄養不足:極端に偏った食生活や、栄養が不足している状態が続くと、ビタミンB1の摂取が不足します。
アルコール依存症:アルコールの過度な摂取はビタミンB1の吸収を妨げる可能性があり、特に毎日の食事を摂らずにアルコールを摂取する生活を続けると、ウェルニッケ脳症のリスクが高まります。
胃の手術: 胃の全摘手術などの医療処置により、ビタミンB1の吸収が低下することがあります。

これらの原因によりビタミンB1が不足すると、ウェルニッケ脳症の症状が現れる可能性があります。

チアミンとはなんですか?

チアミン、またはビタミンB1は、私たちの体にとって必須の水溶性ビタミンの一つです。このビタミンは、炭水化物のエネルギーへの変換や神経系の正常な機能をサポートする役割を持っています。また、チアミンは、体内で自然に生成されることはないため、食事から摂取する必要があります。特に、穀物、豚肉、豆類などの食品に含まれています。チアミン不足は、疲れやすさ、集中力の低下、神経の問題などの症状を引き起こす可能性があります。

ウェルニッケ脳症の治療について

ウェルニッケ脳症の治療について

ウェルニッケ脳症にはどのような治療が行われますか?

この病気の治療においては、以下の方法が取られます。

ビタミンB1の大量投与:発症した際、患者には静脈注射によるビタミンB1の大量投与が行われます。これにより、ビタミンB1の不足を速やかに補えます。
食事による予防:ウェルニッケ脳症の予防のためには、食事を通じてビタミンB1を積極的に摂取することが推奨されます。特に、豚肉、魚、ブロッコリーなどの食品にはビタミンB1が豊富に含まれています。
アルコール摂取の制限:アルコール依存症がウェルニッケ脳症の原因となる場合があるため、発症した場合は速やかに飲酒を中止することが必要です。

禁酒はウェルニッケ脳症の治療の一環ですか?

アルコールによって萎縮した脳は、飲酒を中止し、適切な栄養を摂取することで回復する可能性があります。アルコール依存症の人々の中には、自制が難しい場合があり、そのような場合は、療養施設への入院や、アルコール外来での治療、飲酒欲求を減少させる薬の処方などが考慮されることがあります。

禁酒はアルコール性認知症やウェルニッケ脳症の治療において重要な一環です。アルコール性認知症は、長期間の過剰飲酒によって引き起こされる脳の損傷です。この状態では、脳組織が萎縮し、認知機能が低下します。しかし、適切なアプローチによって改善の可能性があります。

アルコール性認知症の治療において、まず断酒が重要なステップとなります。アルコールを摂取しないことで、脳への悪影響を減少させられます。ただし、アルコール依存症の方々にとって自制が難しい場合もあります。そのような場合は、療養施設への入院やアルコール外来での治療を検討することがあります。こうした場所では、飲酒欲求を減少させる薬の処方やアプローチが行われ、断酒を支援します。

代表的な薬として、「ナルメフェン」(セリンクロ)や「アカンプロサートカルシウム」(レグテクト)などが挙げられます。これらの薬は脳神経に働きかけ、飲酒欲求を抑える効果があります。また、「ジスルフィラム」(ノックビン)という抗酒薬も存在し、少量の飲酒でも不快な症状を引き起こすことで、アルコール摂取を抑制します。

ウェルニッケ脳症は治りますか?

ウェルニッケ脳症は発症した直後にチアミンを大量に点滴することで、回復が期待されます。しかし、この病気はしばしば見逃されることが多く、その結果、死亡率は10〜17%とも推測されています。さらに、死亡しない場合でも、多くの患者が記銘力障害や失見当識、作話を特徴とするコルサコフ症候群へと移行してしまいます。

コルサコフ症候群はウェルニッケ脳症の後遺症として現れることがあり、その特徴的な症状は記銘力の障害や失見当識、作話などです。この症候群になると回復が極めて困難であり、治療の難しさが示されています。

ウェルニッケ脳症やその後遺症であるコルサコフ症候群の重要な点は、早期発見と適切な治療の迅速性です。ウェルニッケ脳症が発症した際には、チアミンの大量点滴などによる治療が行われることで、症状の回復が期待されます。しかしながら、この病気は診断が遅れることが多く、治療の機会を逸することが多いのが現実です。

ウェルニッケコサノフ症候群とはなんですか?

ウェルニッケ-コルサコフ症候群は、ウェルニッケ脳症という急性の錯乱状態と、コルサコフ症候群という特定の長期記憶の健忘が組み合わさった状態を指します。具体的には、未治療のウェルニッケ脳症を持つ人の約80%でコルサコフ症候群が発生するとされています。この症候群は、特徴的な症状や、低栄養やチアミン欠乏症などの原因となる疾患が見られる場合、特にアルコールの過度な摂取がある場合に疑われます。診断には、血液検査や画像検査などがあります。治療は、チアミンの静脈内投与や輸液です。ウェルニッケ脳症はこの治療で改善されることが多いですが、コルサコフ症候群は治癒することは難しいとされています。

ウェルニッケ脳症の予防法

ウェルニッケ脳症の予防法

ウェルニッケ脳症にならないためのチアミン(ビタミンB1)は何から摂取できますか?

ビタミンB1を多く含む食べ物には以下のようなものがあります。

肉類:特に豚肉はビタミンB1の豊富な源です。例として、豚ヒレ(焼き)には100gあたり2.09mg、豚ひき肉(焼き)には0.94mg、豚ロース脂身付き(焼き)や豚ボンレスハムにはそれぞれ0.90mgのビタミンB1が含まれています。
魚類:たらこ(焼き)には0.77mg、うなぎ(かば焼き)には0.75mg、むろあじ(焼き)やあゆ(焼き)にはそれぞれ0.28mgのビタミンB1が含まれています。
イモ、大豆類:いんげんまめ(ゆで)には0.22mg、絹ごし豆腐やさつまいも(天ぷら、蒸し)にはそれぞれ0.11mgのビタミンB1が含まれています。
野菜、果物類:切り干し大根には0.35mg、枝豆(ゆで)には0.24mg、スイートコーン(電子レンジ)には0.16mg、温州みかん(生)には0.10mgのビタミンB1が含まれています。

これらの食品を日常の食事に取り入れることで、ビタミンB1の適切な摂取量を確保し、ウェルニッケ脳症のリスクを低減できます。

ウェルニッケ脳症にならないためのチアミンの摂取量を教えてください。

チアミンの摂取基準量は、エネルギー産生に関与していることから、エネルギー1,000㎉に対しチアミン塩酸塩で0.54mgとして算出されています。この量は、半数の人が必要とする量を示しています。さらに、この推定平均必要量に1.2倍した量が推奨量となり、約97.5%の人が必要量を満たすと考えられる量です。具体的には、2020年版食事摂取基準によれば、女性の場合、18〜74歳で1.1mg、75歳以上で0.9mg。男性の場合、18〜49歳で1.4mg、50〜74歳で1.3mg、75歳以上で1.2mgとなっています。糖質を多く摂る人や、頻繁に体を動かす人は、エネルギー産生が活発であるため、より多くのビタミンB1を必要とするので注意が必要です。

ウェルニッケ脳症にならないためには禁酒するべきですか?

アルコール依存症の人は、アルコールの摂取を控えることで、ウェルニッケ脳症のリスクを低減できます。また、ウェルニッケ脳症の治療の一環として、アルコールの摂取を停止することが推奨されています。
ウェルニッケ脳症を予防するため、特にアルコール摂取の過度な習慣がある場合は、アルコールの摂取を控えることが重要であると言えるでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

ウェルニッケ脳症は、突然、予期せずに私たちの生活に入ってきます。この症状は、ビタミンB1の不足が大きな原因となっています。そして、アルコールの過度な摂取がその不足を引き起こすことが多いのです。食事や生活習慣の見直し、そして必要であれば医療のサポートを受けるようにしましょう。

編集部まとめ

ウェルニッケ脳症
ここまでウェルニッケ脳症についてお伝えしてきました。ウェルニッケ脳症の要点をまとめると以下の通りです。

・ウェルニッケ脳症はビタミンB1の不足によって引き起こされ、錯乱などの症状が現れる
・ウェルニッケ脳症の治療には、ビタミンB1の大量投与などがある
・ウェルニッケ脳症の予防には、豚肉などの食べ物からビタミンB1を摂取し、禁酒を心掛ける

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の監修医師