排泄時に異常な痛みや出血した経験は、誰しもあると思います。「鮮やかに鮮血しているから切れただけで大丈夫」と安心している方も多いでしょう
しかし出血や痛みが出現した場合は肛門がんかもしれません。そこで今回は肛門がんについて詳しく解説したいと思います。
肛門がんの病気の詳細・治療方法・予後などについて気になる疑問にお答えします。ぜひ、最後までご覧ください。
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
肛門がんとは
肛門がんとはどんな病気ですか?
肛門・肛門内部・肛門周辺の皮膚組織に生じる悪性腫瘍のことです。肛門組織付近に生じた悪性腫瘍の総称が肛門がんとなり、扁平上皮がんは肛門がんの1つといえます。肛門が大腸と直腸の境界部に位置していることから、大腸がんや直腸がんが発生源となることもあります。肛門がんに限ったことではありませんが、進行した状態のがんは治療が困難です。予後も悪化してしまうため、早期発見が望ましいといえます。早期発見することで有効な治療が可能なだけでなく、予後も安定します。
肛門がんにみられる症状を教えてください。
肛門がんの主な症状は以下の通りです。
- 血便
- 便秘・下痢
- 肛門周辺の腫れや痛み
- 腫瘍に伴う肛門部腫脹
肛門周囲に痛みを伴う腫瘍や腫脹があるため、排便時だけでなく、歩行時にも痛みを感じることがあります。約2割の方が無症状と言われており、注意が必要です。これらの症状は他の病気が原因で生じる可能性があります。他の病気と区別がつきにくく、正確な診断が必要です。そのため、医師の診察はかかせません。
肛門がんは何が原因で発症する病気なのでしょうか?
肛門がんが発症する原因は詳しくは分かっていません。しかし、次に挙げる原因が関連していると思われます。1つ目は慢性の肛門炎です。肛門炎が長期化した場合、その炎症が肛門がんの発症リスクを高めてしまう可能性があります。2つ目の原因は、他の病気が肛門がんを発症してしまう例です。因果関係ははっきりしていませんが、潰瘍性大腸炎もその1つと考えられます。3つ目に考えられる原因は生活習慣です。例えば喫煙は肛門がんの発症リスクを高める可能性があります。他にも高脂肪・高カロリーの食生活なども見直してください。生活習慣が生活習慣病を招く延長線上に肛門がんの発症リスクの高まりがあるとされています。4つ目に挙げる原因は肛門性交による発症の可能性です。肛門性交によって子宮頸がんの原因といわれているヒトパピローマウイルスに感染する可能性があります。その場合も残念ながら肛門がんの発症リスクを高めてしまうため、注意が必要です。
肛門がんに年齢は関係ありますか?
肛門がんは年齢が高くなるほど発症率も高くなり、50歳以上で発症する方が多いです。さらに生活習慣との関連性が強いため、50歳以上の喫煙者の発症リスクの高まりは、より一層顕著といえます。一方、年齢が若ければ安心というわけではありません。生活習慣病との関連性が強いことから、喫煙・高脂肪な食事・高カロリーな食事は肛門がんに限らず、発がんリスクが高まります。肛門がんの発症においては男女間の差はなく、総じて生活習慣の乱れた高齢者は特に注意が必要です。いずれにおいても、早期発見が望ましいといえます。早期発見できれば、治療が有効で、予後も良好です。
肛門がんのリスクや検査方法について
肛門がんを疑った方が良い症状を教えてください。
次の様な症状が見受けられる場合は、肛門がんの可能性があります。肛門がんを疑った場合には、早急に医師の診断を受けてください。
1つ目は、血便です。排泄時に肛門から血が出ることがあります。2つ目便秘や下痢の症状が長く続く場合です。肛門に腫瘍があるため、排便が困難になることがあります。この腫瘍が原因で便秘や下痢が長く続くので、おかしいと感じた段階で医師の診察を受けましょう。3つ目の症状は痛みや刺激感です。便秘や下痢に至らない場合も注意してください。肛門にある腫瘍が原因で、排便時だけでなく、歩行時にも痛みを感じることがあります。4つ目に肛門組織周辺の腫れや痛みは真っ先に肛門がんを疑いましょう。紹介した症状の中でも血便は要注意です。血便がよく出現する場合は早めに医師に相談してください。また、これらの症状は肛門がんに限ったことではありません。正確な診断をするためにも、ぜひ早めに医師の診療を受診してください。
肛門がんが進行するとどのようなリスクがあるのでしょうか?
肛門がんが進行すると転移します。転移したがん細胞は肛門から近傍の組織や臓器の症状が悪化するのです。これが原因で、病気が進行してしまい、治療が困難になります。特に進行性の肛門がんは注意が必要です。生活の質を悪化させ、重篤な合併症を引き起こしてしまうからです。肛門がんは早期発見が重要となります。早期発見することで、早期治療が可能です。早期治療は、病気の進行を防ぐためにも重要といえます。
肛門がんの検査方法が知りたいです。
肛門がんの検査方法は様々です。
- 医師による診察
- 肛門検査
- 直腸検査
- 組織検査
- CTスキャン
- MRI
- 血液検査
医師による診察は、医師が異常を発見するために肛門を観察して視診検査、あるいは指で触診検査を行います。また小さなカメラを使用して、肛門と直腸の内部を観察することが、肛門検査・直腸検査です。腫瘍がある部位から細胞を採取し、顕微鏡で観察することを組織検査といいます。CTスキャン・ MRIを用いることで、肛門がんが転移しているかどうかを確認できるのです。血液検査においては、肛門がんが発症した場合の、血液中の成分が変化するのを見極めます。医師はこれらの検査から適切な検査を選択するのです。そもそも検査を行うには、患者さんが自分の意思で医師の診察を受ける必要があります。それを決断するのは患者さん自身です。また、これらの検査は肛門がん以外の病気についても関連します。その観点からも、思い当たることがあれば、受診してください。
肛門がんを疑う場合、何科を受診すると良いのでしょう?
肛門がんに限らず、肛門に異常を感じた場合、基本的には肛門科を受診してください。しかし、下記の診療科でも受診は可能です。
上記の中でも、大腸外科・癌外科・肛門外科は肛門がんに対する診断と治療に優れています。肛門がんの疑いがあれば、受診してください。いずれの診療科においても、医師はプロフェッショナルです。常に最新の知識を習得しており、仮に専門外であっても、詳しい医師を紹介できます。症状に悩まされた場合は、上記にこだわることなく病院へ行くことが大切です。
肛門がんの治療方法や過ごし方
肛門がんの治療方法を教えてください。
肛門がんの治療方法は、放射線治療・化学療法・免疫療法・手術があります。放射線治療と化学療法は併用されることもしばしばです。治療は、病気の進行度や患者の健康状態に合わせて適切に行います。放射線治療では放射線を使って腫瘍を直接照射して治療する方法です。手術が困難な場合は特に有効で、手術後に予防的治療として行うこともあります。一方、化学療法は腫瘍に投薬による治療で、細胞を死滅させる治療方法です。手術・放射線治療の後に残存してしまったがん細胞を減らす場合にも行います。免疫療法は患者の免疫機能を高めることで、がん細胞を攻撃する治療方法です。そして肛門がんの治療において、腫瘍を切除する手術は一番有効な治療方法です。手術にも様々な方法がありますが、腫瘍の状態に応じた方法で行います。ちなみに複数・同時に行う治療を組合せ療法といい、相乗効果を狙って行います。
肛門がんの治療中や治療後に注意することはありますか?
肛門がんの治療中および治療後は、次のことにご注意ください。生活習慣病と深く関わっていますので、食生活は意識しなければなりません。喫煙・過度の飲酒・高脂肪な食事・高カロリーな食事・栄養バランスが偏った食事などは注意が必要です。他にも、放射線療法・化学療法を行っている患者は、副作用を引き起こす可能性があります。具体的には、吐き気や疲れです。また、手術を行った場合は術後のケアが必須となります。痛み・出血・炎症・術後の感染症にご注意ください。これらは患部を清潔にした上で、場合によっては医師の指示のもと、投薬が必要です。他にも、肛門がんの治療は完治に時間を要することがあります。そのため、病気や治療によるストレス・不安を感じてしまいます。その様な場合は、心理的サポートを受けてください。少しでもストレスや不安を軽減・解消することが大切です。何よりも、治療後も定期的な検査を受けてください。これは転移・再発を調べるためです。
肛門がんは再発する可能性もあるのでしょうか?
肛門がんに限らず、残念ながらがんは再発の可能性があります。再発する確率はがん発見時の進行度合い・治療方法・患者さんの健康状態によりけりです。ポイントは継続的な検査を受けて、早期発見・早期治療を行ってください。これらは再発を防ぐために重要となります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
肛門がんについて詳しく解説しました。一番重要なことは、症状が出た場合に放置しないことです。仮に肛門がんでなかったとしても、他の病気かもしれません。症状が症状だけに、病院に行きずらいとのご意見も頂いております。ですが、手遅れになってしまっては悔やんでも悔やみきれません。早めに病院で医師の診察を受けてください。
編集部まとめ
今回のテーマは肛門がんです。肛門がんとは、肛門にできる悪性腫瘍のことで、再発・転移の可能性があります。また、大腸がんや直腸がんの発生源ともいわれているのです。
年齢とともに発症リスクが高まるほか、若年層であっても生活習慣が荒れていると発症リスクが高まります。以下の症状には注意が必要です。
- 血便
- 便秘・下痢
- 肛門周辺の腫れや痛み
- 腫瘍・腫脹
上記の症状が見受けられたら、まずは肛門科を受診してください。検査の方法は以下の通りです。
- 医師による診察
- 肛門検査
- 直腸検査
- 組織検査
- CTスキャン
- MRI
- 血液検査
治療方法は以下の4つの方法があります。
肛門がんは転移・再発する恐れがあるのです。そのため、治療後も定期的に検査を受けてください。何よりも生活習慣に気を配り、健康維持に努めましょう。