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【海外諸国から学ぶHPVワクチンの有効性】子宮頸がんはどのくらい予防することができるのか

 更新日:2023/03/27

2013年6月から定期接種の積極的勧奨が止まっていた「HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン」。2021年11月12日に積極的勧奨の再開が決まりましたが、この約9年の間に日本ではどれほど接種率が低下したのでしょうか。また、多くの海外諸国では昔からHPVワクチンの接種を推進しています。子宮頸がんの予防に有効とされているHPVワクチンですが、海外と日本ではどれだけの差があるのか。海外諸国の接種状況から見えるHPVワクチンの有効性について産婦人科医の柴田綾子先生に伺いました。

柴田 綾子

監修医師
柴田 綾子(淀川キリスト教病院産婦人科)

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群馬大学医学部卒業。淀川キリスト教病院 産婦人科所属。院内に留まらず各地での後進教育に携わる。性・妊娠・出産について悩む人を減らしたいと、一般に向けた発信も積極的に行う。著書に女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)。

編集部編集部

海外におけるHPVワクチンの接種状況について教えてください。

柴田 綾子柴田先生

HPVワクチンの接種率が高い国では、ノルウェー91%、カナダ83%、イギリス82%、オーストラリア79%、韓国52%となっており、9~14歳の女性の多くがワクチンを接種しています。最近では、女性だけでなく男性にもHPVワクチンの接種がお勧めされています。ヒトパピローマウイルスの感染を予防することで、中咽頭がん(のどのがん)、肛門がんが予防できるのと、パートナーの女性への感染を減らすことができるためです。男性のHPVワクチン接種は、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、ドイツなどで始まっています。

編集部編集部

日本の接種率はどうなのでしょう?

柴田 綾子柴田先生

日本では2013年4月にHPVワクチンが定期接種となり、12~16歳の女性は無料で接種できるようになりました。しかし、2013年6月に積極的な勧奨の差し控えとなってから、接種率が低下してしまい1%以下が続いていました。これを受けて厚生労働省では、2020年にHPVワクチンの接種対象となる女性と家族が読みやすい説明パンフレットを作成しています。また、対象となる女性に個別で案内を出すように各都道府県や自治体に通知を出しました。昨年度より少しずつHPVワクチンの接種率が増加しており、5%近くまで増えていると報告されています。

編集部編集部

なぜ海外諸国と日本でここまで接種率に差があるのですか?

柴田 綾子柴田先生

HPVワクチンの目的はヒトパピローマウイルスの感染を防ぎ、子宮頸がん、子宮頸がんになる手前の異形成、のどのがん(中咽頭がん)、肛門がんを予防することです。海外では、「がんを予防できるワクチン」として積極的に対象の女性や男性にワクチンの接種が勧められてきました。また「キャッチアップ」といって、若いときにワクチンを接種できなかった方も、後で打ちたいと思ったときに、一定の年齢まではワクチンの費用を助成するような対策が取られている国が多いですね。

編集部編集部

日本ではHPVワクチンについて、どのような認識なのですか?

柴田 綾子柴田先生

日本ではこれまで「HPVワクチンによって子宮頸がんや子宮頸がんの手前の異形成になるリスクを減らすことができる。ただし国としては女性の全員に勧めることはせず、一人ひとりがワクチンを打つかどうか判断して決めて欲しい」という対応でした。これは、2013年に定期接種として12~16歳の女性に無料接種を開始した際、ワクチンを打ったあとに体調不良などを訴える方がでてきたためです。これまでの調査や研究では、ワクチンと体調不良の間に直接的な関係は認められていませんが、日本ではワクチンを接種したあとの体調不良で受診できる医療施設をつくったり、HPVワクチンを接種した方のデータ収集をおこなったり、慎重に対応をしています。

編集部編集部

HPVワクチンの接種率が高い海外では、どれだけ子宮頸がんを予防できているのですか?

柴田 綾子柴田先生

スウェーデンの報告によると、16歳までにHPVワクチンを打った女性では子宮頸がんのリスクが88%減ったとされています。また、イギリスからの報告では、12~13歳でHPVワクチンを接種した学年(全員が接種したわけではない)では87%、14~16歳では62%、16~18歳では34%リスクが減ったというものがあります。イギリスでは2008年からHPVワクチンの接種が推奨され、2019年までに448人の子宮頸がん患者さんが減ったと推定されています。オーストラリアでは2007年からHPVワクチンの接種が推奨されており、女性の78.6%、男性の72.9%がワクチンを接種しています。今後20年でオーストラリアでは子宮頸がんが撲滅されると予測されています。

編集部編集部

なぜここまで予防できているのですか?

柴田 綾子柴田先生

ヒトパピローマウイルスは性行為でうつるウイルスのため、多くの男女がワクチンを接種することで、一人ひとりのウイルスに感染するリスクを大きく減らすことができるためです。また、社会の多くの人がHPVワクチンを打って接種率を高くすることで、ヒトパピローマウイルスに感染している人の数を減らすことができます。その結果としてHPVワクチンを打っていない人もヒトパピローマウイルスの感染から守ることができます。このように人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、他の人に感染しにくくなることを「集団免疫」と呼びます。

編集部編集部

最後に読者へメッセージをお願いします。

柴田 綾子柴田先生

日本では12~16歳の女性が無料で打てるHPVワクチンですが、世界では男性含め多くの方が打っているワクチンになります。子宮頸がん、肛門がん、中咽頭がんなどの予防効果があります。現在、今までワクチンを打てなかった人の費用を支援する議論が始まっています。ぜひこの機会にワクチン接種についてご家族やお友達と話をしてみてください。

この記事の監修医師