ミネラルの一種「セレン」を過剰摂取すると何の症状が出る？管理栄養士が解説！

「セレン」とは？

ミネラルは体内に約5％存在しています。栄養素として必要不可欠なものは必須ミネラルと呼ばれ、16種類あります。1日の推奨量や目安量が約100mg以上のミネラルを「多量ミネラル」、それ未満のミネラルを「微量ミネラル」と分類しています。微量ミネラルの単位は「mg」や「μg」が使用されます。(1mgは1000μg)　セレンは、微量ミネラルの1つで、他にも微量ミネラルには、鉄・亜鉛・銅・マンガン・ヨウ素・クロム・モリブデンがあります。ミネラルは体内では合成できないため、食品などから摂取する必要があります。

セレンの一日の摂取量

必要なセレンの量は、年齢や性別によって異なります。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
(推奨量）
男性(18歳以上)　30～35μg/日
　
女性(18歳以上)　25μg/日
妊娠(付加量)　　₊5μg/日
授乳婦(付加量)　₊20μg/日

(耐用上限量）
男性(18歳以上)　400～450μg/日
女性(18歳以上)　350μg/日

日本人は魚介類の摂取が多く、かつセレン含量の高い北米産の小麦製品や畜肉類なども消費しているため、成人のセレンの摂取量は平均で約100μg/日くらいと推定されています。そのため、通常の日本人の食生活であれば、セレンの摂取量は適切な範囲に保たれていると考えられます。

セレンの効果

抗酸化作用

セレンは抗酸化酵素の1つである「グルタチオンオキシダーゼ」の構成成分として欠かせません。身体の細胞を酸化させる活性酵素を毒性の低いものに変化させる働きがあります。抗酸化作用が、老化予防や癌予防につながる可能性があると言われ注目されています。

血栓症の予防

セレンは血管内皮細胞を保護し、血管の機能を正常に保つ働きがあります。これにより、血管が詰まりにくくなり、血栓症のリスクを軽減することが期待できます。

有害ミネラルの解毒

体内で毒性を持つ硫黄・ヒ素・カドニウム・水銀は土壌や海水に含まれています。日本人は、米や魚の摂取量が高いため、食品からこれらの有害ミネラルを体内に取り込みやすい傾向があります。セレンは、有害ミネラルを無毒な化合物質に変化させ、排出する働きがあります。そのため、妊娠前の女性は特に摂取をお勧めします。

甲状腺ホルモンの調整

セレンは、甲状腺ホルモンであるチロキシン（T4）を活性型のトリヨードサイロニン（T3）に変換する脱ヨウ素酵素（デヨジナーゼ）の構成成分として重要です。甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝を高め、バセドウ病や橋本病などの症状緩和に役立ちます。

免疫機能の維持

感染症などのリスクを減少させる可能性があることが示されています。セレンの多くは、たんぱく質と同時に吸収されると考えられています。ウナギはたんぱく質・ビタミンA・E・亜鉛・セレンなど免疫力の維持に役立つ栄養素が含まれており、積極的に摂りたい食品の1つです。

セレンを過剰摂取すると現れる症状

胃腸障害

セレン中毒の主な症状は、吐き気や嘔吐、下痢などの胃腸障害です。便の状態を判別する「ブリストルスケール」評価によると6～7段階の便が3回以上続く場合、下痢と判断されます。
微量ミネラルは、十二指腸から上部小腸辺りが主な吸収部位のため、小腸切除を行っている方は、セレン欠乏症になりやすいです。また、静脈栄養剤にはセレンが含まれていないため、2〜3ヶ月に及ぶ静脈栄養を行なう場合にも、セレン欠乏症が起こる事があります。合併症として、心筋症・心不全の原因となりやすく、セレン欠乏には十分留意する必要があります。セレン欠乏は重症化した場合、免疫機能の低下や心筋症のリスクが高まる可能性があり、重症患者では全身状態の悪化を招くことがあります。

脱毛

抜け毛や薄毛の原因になる場合があります。通常、セレンの過剰摂取が数日から数週間過剰になった後に起こりやすいです。

爪の炎症

爪が白く濁り、爪が脆くなりはがれたり変形する事もあります。セレンとビタミンEを含むバランスの良い食事は、より抗酸化作用が強化されます。セレンは体内で主に酵素の構成成分として作用し、ビタミンEと協調して抗酸化作用を発揮すると考えられています。ゆで卵・全粒粉パン・鶏肉のナッツソース焼き（くるみやアーモンド）などはセレンとビタミンEを共に摂取できます。

発疹

赤みをおびた湿疹が、腕・顔・胸に発症しやすいです。皮膚を清潔にし、かゆみがある場合は、氷などで5分くらい冷やすと炎症が和らぎやすくなります。

ニンニク臭

過剰に摂取されたセレンは代謝の過程で、呼気や汗から排出されます。その息がニンニク臭をおびることもあります。

セレンを摂りすぎてしまった際の対処法

サプリメント

効果を得るために、大量にサプリメントを摂るのは逆効果になる恐れがあります。そのため、セレンは食事摂取基準では耐容上限量が定められています。サプリメントは、必ず含有量を確認し、推奨される量を守る様にしてください。解毒作用のためのサプリメントを自己使用するのも避けてください。

水分補給

セレンは身体にとって必要な微量元素ですが、過剰になると毒性を示します。体内のセレン濃度調節は、尿中排泄で濃度調整されていると考えられています。排泄を促すために、水分は多めに摂るようにしてください。

医療機関を受診

すぐにサプリメントや原因となる食品の摂取を中止して、医療機関を受診してください。医療機関で血液検査からセレン濃度を確認するなど、医師の指示を仰いでください。

再発防止

セレンが多めの食品の摂取上限を把握すると良いです。例えば、納豆には1パック（45g程度）で約7μg含まれています。納豆以外の食品からも、十分にセレンは摂取可能なため、納豆を召し上がる際は、多くても1日2パック位に留めてください。