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脂肪肝はアルコールを飲まない人・痩せている人にも発病リスク! 原因や妊娠中に起こる特殊な脂肪肝も医師が解説

 公開日:2023/04/10
脂肪肝はアルコールを飲まない人・痩せている人にも発病リスク! 原因や妊娠中に起こる特殊な脂肪肝も医師が解説

「メタボリックシンドローム」という言葉と同様、一般的になってきた「脂肪肝」という言葉、実はれっきとした「病態」であることはご存知でしたか? 今回は、脂肪肝の原因や種類、対処法などについて、消化器内科医の尾辻先生(おつじ内科クリニック院長)にMedical DOC編集部が話を聞きました。

尾辻 健太郎

監修医師
尾辻 健太郎(おつじ内科クリニック)

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2001年に岐阜大学医学部医学科を卒業後、岐阜大学医学部附属病院、岐阜市民病院、市立長浜病院、JA岐阜厚生連中濃厚生病院などを経て、2020年、岐阜県関市におつじ内科クリニックをオープン、院長となる。一人ひとりの患者さんの症状、訴えに合わせ、よりよい治療、より良い選択を全力で考えた上での医療提供を基本方針としている。

脂肪肝は肝臓のどんな病気? アルコールの摂り過ぎ(飲み過ぎ)、食べ過ぎ、運動不足が原因って本当?

脂肪肝は肝臓のどんな病気? アルコールの摂り過ぎ(飲み過ぎ)、食べ過ぎ、運動不足が原因って本当?

編集部編集部

「脂肪肝」とはなんですか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

肝臓の細胞に、中性脂肪(トリグリセリド)が過剰に蓄積した状態です。組織学的には、30%程度以上の肝細胞に脂肪滴が認められるものが脂肪肝とされます。

編集部編集部

脂肪肝は何が原因で起こるのですか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

脂肪肝の原因は、大きく分けるとアルコール性と非アルコール性にとなります。アルコール性の脂肪肝原因は文字通り、大量の飲酒、いわゆる飲み過ぎです。日本では医学的に、日本酒換算で1日平均3合以上を5年間以上飲酒している人を常習飲酒家、同5合以上を10年以上飲酒している人を大酒家と判断します(日本酒一合はビール500ml、ウィスキー・ブランデー60ml、ワイン200ml、焼酎90mlがおおよその換算量になります)。一方で、アルコール以外の原因による脂肪肝もあります。具体的な原因の主なものとしては肥満、糖尿病、高インスリン血症、脂質異常症などが挙げられます。メタボリックシンドロームの方に認められやすいと考えれば、イメージしやすいかもしれません。

編集部編集部

脂肪肝に自覚症状はあるのですか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

脂肪肝の患者さんに特徴的な自覚症状、身体症状はありませんが、倦怠感、睡眠障害を伴っていることが多いとされています。ただし、倦怠感や睡眠障害に関しては、脂肪肝以外の病気、体調変化でも起こりますので、倦怠感、睡眠障害があるからといって脂肪肝が第一に考えられるということにはならないと思います。脂肪肝が見つかるきっかけとしては、健康診断などの血液検査で肝機能障害を指摘されることが多いでしょう。

編集部編集部

体型やBMIとは関係がないのでしょうか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

一般的には、「脂肪肝=太っている人」という認識があると思います。当然、肥満は脂肪肝の主要な原因の一つです。しかし、非肥満者(BMI25未満)でも7〜20%の方で脂肪肝が認められるとの報告があり、痩せていても生活習慣に問題がある場合などに、脂肪肝になる可能性があります。特に、日本人を含むアジア人は痩せ型から軽度の肥満で脂肪肝になる方が多い傾向にあります。

「非アルコール性脂肪肝」「まだら脂肪肝」「急性妊娠性脂肪肝」とはどんな病気?

「非アルコール性脂肪肝」「まだら脂肪肝」「急性妊娠性脂肪肝」とはどんな病気?

編集部編集部

「非アルコール性脂肪肝」「まだら脂肪肝」「急性妊娠性脂肪肝」などという名前を聞きますが、それぞれどのような状態なのか教えてください。

尾辻 健太郎先生尾辻先生

まず、「非アルコール性脂肪肝」は、脂肪肝の原因としても少し触れましたが、アルコールが原因とならない脂肪肝のことで、正確には非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれます。具体的には、アルコールを全く飲まない、もしくは純エタノール換算で男性であれば、30g/日(日本酒換算で1.5合/日)未満、女性ですと20g未満/日(日本酒で1合未満/日)程度しか飲まないのにもかかわらず、脂肪肝が認められる状態を非アルコール性脂肪性肝疾患といいます。非アルコール性脂肪性肝疾患のうち80~90%の人は、長い経過の中でも脂肪肝のまま病気の進行はありませんが、10~20%の人では徐々に悪化し、肝硬変への進行し、肝がんの発症も見られることがあり注意が必要です。非アルコール性脂肪性肝疾患のなかで、このように進行する病気のことを「非アルコール性脂肪性肝炎」(NASH/ナッシュ)と呼びます。

編集部編集部

では、「まだら脂肪肝」とは?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

まず、まだら脂肪肝とは、病気の名前と言うよりは肝臓へどのように脂肪が沈着しているかの状態を表す用語です。「脂肪肝」は通常、肝臓全体にまんべんなく脂肪が沈着するのですが、肝臓内の特定の部分のみに脂肪が沈着している状態を「まだら脂肪肝」と呼びます。一般的には、腹部超音波検査、CT検査などで確認できますが、脂肪の付着具合によっては、肝腫瘍などとの区別が必要になることが稀にあり、注意が必要です。

編集部編集部

「急性妊娠性脂肪肝」は?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

ここまで解説してきた脂肪肝とは全く異なり、妊娠後期に肝細胞、腎細胞に急速な脂肪沈着を起こし、肝不全、腎不全をきたす、母子ともに死亡率が高い非常に危険な病気です。多胎妊娠している人やどちらかというとやせ型の女性に多く起こると言われており、その頻度は7000~2万件の出産中1件程度と稀な病気になります。初期症状としては、吐き気や嘔吐、みぞおち中心の腹痛、食欲不振、急速に進行する黄疸などがあり、その後急激な肝不全、腎不全、さらには凝固障害(血が止まらなくなったり、固まりすぎた結果血栓を起こしたり)などをきたし、非常に重篤な状態に陥ります。腹部超音波やCTなどの検査では確定診断できない場合が多く、肝生検(肝臓に針を刺し細胞を採取する検査)によって確定診断されます。特別な治療法はなく、母体を安定させた後、緊急出産、その後集中治療により凝固障害に対する対症療法を行うしかありません。最近は早期発見、早期治療により救命されることも増えていますが、母体死亡率は10%と未だに高い病態です。

脂肪肝の治し方は? 食事・飲酒・運動など治療のために自身で改善できる生活習慣も教えて

脂肪肝の治し方は? 食事・飲酒・運動など治療のために自身で改善できる生活習慣も教えて

編集部編集部

脂肪肝は治りますか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

原因がはっきりしている脂肪肝は、原因を取り除くことで改善が期待できます。アルコール性脂肪肝の場合は、断酒のみで治癒できる可能性が高いとされています。食べ過ぎや運動不足による肥満(いわゆるメタボリックシンドローム)が原因の場合は、食事療法や適度な運動で体重を減らすことが重要になります。最近は具体的な減量目標も明らかになっており、5%の体重減少でQOL(生活の質)が改善し、7%以上の体重減少によって肝脂肪化が軽減するとのデータがあります。

編集部編集部

肝臓に溜まった脂肪を減らすために、どのような運動が効果的ですか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

脂肪肝の患者さんの肝機能、肝脂肪化を改善するために運動を行うことが推奨されています。具体的には、30~60分程度の有酸素運動を週3~4回、1~3ヶ月ほど行うことで、体重が減少しなくても、肝臓の脂肪化が改善するというデータや、週250分以上、中程度から強度の有酸素運動を12週間行うと効果的に肝臓の脂肪化が改善するという報告があります。また、有酸素運動とレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)を比較した分析では、レジスタンス運動はエネルギー消費量が有酸素運動より低いものの、同様に肝臓の脂肪化を改善することが報告されています。更に、運動療法の効果は肥満度がより高い人で肝臓の脂肪化、肝障害の改善が得られやすいとのデータもあるようです。

編集部編集部

では、脂肪肝に良い食べ物は何ですか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

「何を食べたら良いか」とのご質問は患者さんからもよく受けますが、まず重要なことは「何を食べる?」ではなく、摂取する総カロリー量を適正な量まで減らすこと、つまり「食べる量を減らす」ことです。次に、その内容を見直すことになりますが、その際には炭水化物もしくは脂質が制限された食事が推奨されています。私が診てきた経験上も、いきなり極端な食事制限はうまくいかないことが多く、まずは1品減らす、主食の米を1~2割減らす、揚げ物を食べる日は「金・土曜日だけ」などに決めておくといった具体的な目標を長期的に達成していくほうが、上手くいくことが多い印象があります。

編集部編集部

脂肪肝に有効なお薬はあるのでしょうか?

尾辻 健太郎先生尾辻先生

現在のところ、脂肪肝に対しての治療薬として、保険診療にて使用できる有効なお薬はありません。治療の原則は、食事内容の見直し、運動習慣の改善です。しかし、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの合併症がある場合、それぞれの治療薬を投与することが検討されます。また、最新の話題として、令和5年1月に厚生労働省の専門部会において、GLP-1アナログ製剤のセマグルチドが肥満症の治療薬として「承認されることが了承」されました。投与にはいくつかの条件があり、全ての脂肪肝患者さんに使用できるわけではありませんが、将来的に、治療の選択肢に入ってくる可能性はあるでしょう。

編集部編集部

様々な可能性はありつつ、食事と運動はやはり大切ということですね。

尾辻 健太郎先生尾辻先生

はい。ですが、仕事からの帰宅時間がバラバラ、そもそも食べる時間が不規則など、一般的な食事療法ができない場合もありますし、運動に関してもまず運動できるための基礎体力を取り戻す必要があるなど、様々な実行困難なケースがあります。病院で「食事、運動を頑張りましょう」などの説明を受けた場合、できるだけご自身の生活スタイルに合わせた具体的な目標を設定してもらうことが重要だと思います。さらに、1ヶ月程度では改善しないことが多いため、数ヶ月~数年単位で続けられる生活習慣も大切です。モチベーションが高かった最初の1ヶ月で10kg痩せても、その後半年で15kgリバウンドしてしまうと結果的に悪化してしまいます。それよりは、1ヶ月で1kg弱の減量効果でも半年間継続できる習慣のほうが脂肪肝の改善が期待できます。無理のない範囲の適正な食事内容、負担のない強度の運動を長く続けることを意識しましょう。

編集部編集部

最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。

尾辻 健太郎先生尾辻先生

一部の特殊なものを除き、基本的に脂肪肝はすぐに症状が出たり、命を脅かしたりすることがないため、軽く考えられがちです。しかしながら、脂肪肝によって糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病が見つかるきっかけになることもあるため、健康診断で肝機能障害を指摘された場合は必ず病院での再検査を受けるようにしてください。

編集部まとめ

脂肪肝について、種類や対処法など、お話を伺いました。痩せていても、お酒を飲まなくても、脂肪肝の可能性があることや、改善のためには、いきなり結果を出そうとするのではなく、できるとからコツコツと長く続けていくことが大事なのですね。

参考サイト)
日本消化器病学会ガイドライン 患者さんとご家族のためのガイド NASH/NAFLDガイド
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/nafld.html

国立研究法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター
https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/shibousei.html

医院情報

おつじ内科クリニック

おつじ内科クリニック
所在地 〒501-3217 岐阜県関市下有知5226-1
アクセス 長良川鉄道「関下有知駅」 徒歩8分
長良川鉄道「関市役所前駅」 徒歩8分
診療科目 内科、消化器内科、肛門内科

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