「肥満」はなぜ高血圧になりやすいのか? 放っていると糖尿病の恐れ
「肥満の人は高血圧になりやすいと聞くけど……」。かねてよりこうした疑問、あると思います。肥満には大きく「皮下脂肪型肥満」と「内臓脂肪型肥満」とがあり、特に後者では高血圧になるリスクが高いとされています。そこで肥満によって高血圧を引き起こす原因や肥満を予防・改善する生活習慣について、清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニックの清水裕史先生に話を聞きました。
監修医師:
清水 裕史(清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック 院長)
2005年名古屋大学医学部卒業。卒業後春日井市民病院、名古屋大学大学院医学系研究科などを経て2009年米国シンシナティ大学留学。2018年独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院内分泌・糖尿病内科診療部長兼糖尿病センター長に就任。2020年清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック開院。糖尿病や高血圧症のほか、甲状腺疾患の診察、かかりつけ医として一般内科治療や予防接種、健康診断などの予防医療も担う。医学博士。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。日本糖尿病学会専門医。日本医師会認定産業医。日本内科学会、日本糖尿病学会、日本内分泌学会に所属。
内臓脂肪型肥満が高血圧のリスクを高める
編集部
肥満の場合に高血圧になりやすいというのは本当ですか?
清水先生
本当です。しかし、体重が重くなるほど血圧が高くなるというわけではなく、内臓脂肪が多い「内臓脂肪型肥満」の場合に血圧が高くなりやすいとされています。
編集部
内臓脂肪型肥満とはどのような状態なのでしょうか?
清水先生
内臓脂肪型は、主に腸などの内臓周りに脂肪が蓄積している状態です。下半身よりもウエスト周りが大きくなることから「リンゴ型肥満」などとも呼ばれます。内臓脂肪型肥満の場合には、過食や運動不足などが原因といわれています。また、肥満には大きくわけて、内臓脂肪型肥満のほか「皮下脂肪型肥満」があります。皮下脂肪型肥満は女性に多くみられるのに対し、内臓脂肪型肥満は男性に多いことも特徴の一つです。
編集部
内臓脂肪型肥満が原因で、高血圧になってしまうのはどうしてでしょうか?
清水先生
肥満による高血圧の原因はいくつかあります。一つは、「インスリン」という血糖値を下げる働きをするホルモンの作用が低下することです。内臓脂肪が増えると、食後に起こるインスリンの作用が不足します。すると体内では足りないインスリンの働きを補おうと、大量のインスリンが血液中に分泌されるのです。
編集部
そのほかにはどのような原因があるのですか?
清水先生
インスリンにはほかにも腎臓でのナトリウム(塩分)の取り込みを促したり、自律神経のうち体を活発に動かす際などにはたらく「交感神経」を刺激したりする作用などもあります。そのため、腎臓での塩分調整障害が生じたり、交感神経が亢進することで血管が収縮したりして血圧が上昇してしまうのです。また、肥満の原因である運動不足や過食も高血圧の要因になります。特に塩分の過剰摂取は血圧を上昇させる原因になるため、味の濃いものを好んで食べているという場合には、高血圧を発症するリスクが高くなります。
編集部
では、肥満の場合には肥満を引き起こしている生活習慣も、高血圧のリスクを高めているのですね。
清水先生
そうですね。高血圧の発症は、生活習慣による影響が大きいとされています。また、遺伝やストレス、睡眠不足、アルコールの多飲、喫煙も高血圧のリスクを高めます。このような要素が多いという方は、高血圧になるリスクが高いといえるでしょう。
肥満や高血圧は対策が必要
編集部
高血圧になると、どんな症状がみられるのでしょうか?
清水先生
高血圧の初期には、ほとんど症状がみられません。高血圧の状態が慢性化したり、かなり高い値になったりすると、頭痛やめまいなどを引き起こすことはあります。しかし、このような症状は、疲労などによっても生じることがあるため、気付けないことが多いでしょう。会社の健康診断で血圧の値を指摘され、初めて高血圧であることに気付くといったケースが多いのはこのためです。
編集部
では、どうしたら高血圧に気付いたり予防したりできますか?
清水先生
定期的に健康診断を受けることが大切です。会社や学校の健康診断などでは、血圧の異常や肥満傾向の場合に指摘を受けるでしょう。そうした結果を放置せず、ご自身で医療機関を受診したり、産業医や学校の保健師に相談したりするなどの行動を起こすことも必要です。
編集部
肥満や高血圧を治療せずに放置していると、どんなことが懸念されますか?
清水先生
肥満は高血圧だけでなく、さまざまな病気を引き起こす恐れがあります。糖尿病や脂質異常症、動脈硬化などを併発し、進行すると虚血性心疾患や脳卒中など、命に関わる疾患を発症する恐れがあるのです。高血圧もまた、このような重篤な疾患のリスクを高めます。そのため、肥満や高血圧は放置せず、早めに対策を講じることが大切です。
体重を落とすだけでなく生活習慣の見直しが重要
編集部
では、体重を減らせば血圧の適正値を目指せるのでしょうか?
清水先生
ある程度の効果は期待できるでしょう。実際、肥満の方が体重を1kg減らすと、血圧が2mmhg低下したというデータもあります。しかし、これは必ず期待できるというわけではありません。体重を減らすだけでなく、生活習慣の見直しや、状態によっては内服治療を受けることも必要でしょう。
編集部
では、肥満傾向でも血圧が正常値の場合には、ダイエットをすれば高血圧を予防できますか?
清水先生
体重を落とすだけでなく、規則正しい食生活や運動習慣を継続することが大切です。例えば、塩分摂取量の制限や有酸素運動などが有効とされています。これまで運動不足や過食、塩分の過剰摂取などの生活習慣を続けてきたのなら、そのような生活習慣を正すことが大切です。
編集部
自己流のダイエットや運動でも効果はありますか?
清水先生
ないとはいえませんが、既に肥満傾向や高血圧の場合には、医療機関で指導を受ける必要があります。普段運動習慣のない方が、いきなり激しい運動や食事制限などをしても続かない可能性が高く、間違った方法で実践してしまうこともあるかもしれません。それによって、低血糖などの不調を招いてしまうこともあるのです。また、体への負担などを考慮し、体重やBMIの値に応じて、運動の方法や強度なども変える必要があります。
編集部
では、肥満がある場合や高血圧の心配がある場合には、病院を受診した方が良いのですね。
清水先生
そうですね。一度病院を受診し、食事内容や運動療法など、医師の指示に従って行いましょう。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
清水先生
肥満と高血圧は密接な関係にあります。また、肥満の原因も遺伝によるものや生活習慣によるもの、ホルモンなどの病気によるものなどさまざまです。肥満を改善させるために運動などを行うのは良いことですが、既に高血圧の場合やほかの病気が隠れている場合などにはかえって不調の原因になってしまう恐れもあります。そのため、肥満の原因や血圧の値などに応じて運動や食事内容などを医師に指導してもらった方が良いでしょう。一度医療機関を受診して、検査を受けてみましょう。
編集部まとめ
内臓脂肪型肥満の場合には、高血圧を発症するリスクが高まります。肥満の原因はさまざまですが、何らかの病気が隠れている場合もあるため、放置せず医療機関を受診しましょう。運動や食事内容についても主治医の指示に従い、独断で無理な運動や食事制限をしないようにしてください。
医院情報
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アクセス | 地下鉄名城線「総合リハビリセンター駅」2番出口 徒歩4分 名古屋市営バス 清水ヶ岡バス停前 |
診療科目 | 内科・皮膚科 |