「補助人工心臓」の費用はご存知ですか?装着後の寿命も医師が解説!


監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
目次 -INDEX-
「補助人工心臓」とは?
補助人工心臓とは、文字通り人工的に作成した心臓をいいます。弱った心臓の代わりに血液を全身へ送り出すための医療機器です。体内に埋め込むタイプと体外に置くタイプがあり、重症の心不全患者さんの治療や心臓移植を待つ患者さんに使われることが多いです。「補助人工心臓」と「ペースメーカー」の違い
補助人工心臓は、心臓の収縮力が著しく低下し、自力では血液を全身へ十分に送り出せなくなった場合に、その働きを補う「ポンプ役」の医療機器です。主に、重症心不全の患者さんに対し、生命維持や心臓移植までの橋渡しとして使用されます。一方、ペースメーカーは心臓の拍動リズムが乱れたり、極端に遅くなったりする不整脈に対して、電気刺激を与えて正常なリズムに整える医療機器です。このように、両者は同じ心臓に関わる医療機器ですが、補助人工心臓は「心臓の力そのもの」を支える機器であり、ペースメーカーは「心臓の動きのタイミング」を調整する機器という点で、目的と役割が異なります。補助人工心臓の費用
補助人工心臓の費用は、機器本体、手術費、入院費、検査費、術後の管理費を含め高額で、総額は数千万円に及ぶことがあります。実際の負担額は保険適用の有無や自己負担割合で大きく異なります。以下、その違いについて解説いたします。保険適用の場合
補助人工心臓は保険適用となるため、実際の自己負担額は大幅に軽減されます。高額療養費制度が使えるためです。患者さんの所得金額に応じて支払う金額は変動しますが、月あたり数万円程度となることが多いです。また、先進医療特約や公的支援制度が併用できる場合もあり、経済的負担を最小限にしながら治療を受けられる体制が整えられています。自費診療の場合
自費の場合、費用負担は非常に大きくなります。機器本体の価格に加え、手術費、入院費、術後管理費などがすべて自己負担となり、総額は数千万円に達することがあります。また、長期の管理や消耗品の交換にも継続的な費用が必要です。どんな病気に罹患すると補助人工心臓が必要になる?
補助人工心臓が必要になるのは、心臓が十分に血液を送り出せなくなる重症の心不全になった場合です。具体的には、薬物治療、ペースメーカー、手術などの治療を行っても、改善せず、生命維持が困難な場合に使用されます。原因となる病気は、多岐にわたります。代表的な疾患を5つあげて解説いたします。拡張型心筋症
拡張型心筋症は、心臓の筋肉が弱り、十分な血液を全身に送り出せなくなる疾患です。病状が進行して重症の心不全に至ると、心拍出量が著しく低下し、全身の臓器機能が保てなくなるため、補助人工心臓による循環補助が必要になります。虚血性心筋症
虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄・閉塞によって心筋に血液が届かなくなる疾患です。そのため、心筋が壊死し、広範囲に及ぶと心機能が急激に低下するため、重症心不全に至ることがあります。そのため、循環維持のために補助人工心臓が必要となることがあります。重症心筋炎
心筋炎は、主にウイルス感染などを契機として、心筋が障害される疾患です。重症化すると、急激に心臓の収縮力が低下し、重症心不全に陥ることがあります。急激な循環不全は生命に直結するため、補助人工心臓治療が必要となります。心臓弁膜症
心臓の弁に異常が生じると、血液の逆流や通過障害によって心臓に負担がかかるようになり、心臓の収縮や拡張に障害が起こります。一般的に、外科手術やカテーテル治療によって改善する症例が多いです。しかし、中には治療抵抗性で重症心不全に至るケースがあります。その場合は、全身の臓器障害を防ぐ目的で補助人工心臓が選択されます。先天性心疾患
先天性心疾患の中には、成長とともに心臓の構造的問題により、手術後も心機能が低下して重症心不全に至るケースがあります。このような症例においては、心臓移植までの橋渡しや長期補助として補助人工心臓治療が選択されます。医師はどのような基準で補助人工心臓を装着するのか
補助人工心臓の装着基準は、重症心不全で「通常の治療では生命維持が困難」と評価された場合です。具体的には、薬物療法、カテーテル治療、手術などでも心機能が改善せず、臓器への血流が不十分な状態が継続する場合が対象となります。また、心臓移植が必要だがすぐに受けられない場合や、回復の見込みがある心筋炎などで一時的に補助が必要な場合にも装着が検討されます。補助人工心臓装着後の寿命はどれくらい?
一律な回答はできません。患者さんの年齢、疾患の重症度、生活環境などによって異なるからです。しかしながら、近年の医療技術の進歩により、数年からそれ以上の長期生存が可能になっています。実際、補助人工心臓によって心臓の働きを支えながら、日常生活を送り、社会復帰する人も増えています。適切な生活管理、医療サポート、機器の進歩により、補助人工心臓装着後の寿命は延びています。今後、さらなる安定した日常生活の長期間維持が可能となるでしょう。補助人工心臓装着後の注意点
補助人工心臓装着後は、感染症と血栓を防ぐ管理が日常生活で最も重要です。留意しなければならない注意点を5つあげて解説いたします。ドライブラインの管理
補助人工心臓のドライブラインとは、体内のポンプと外部の電源をつなぎ、補助人工心臓を動かす電気を送る大切なコードをいいます。ドライブラインは体内に入るため、皮膚貫通部に細菌が入り込むと、感染症の原因となるので注意が必要です。特に、シャワー時の防水対策が必要です。職場での対応
補助人工心臓を装着した患者さんは治療を受けながら、職場復帰が可能です。そのため、職場でアクシデントが発生した際の連絡体制、緊急時の手順を明らかにして、職場で情報共有することが大切です。スポーツ
転倒やぶつかることが多いスポーツでは、機器が損傷する可能性が高いです。ラグビーやバスケットボールなどの接触スポーツは避けましょう。けがをしやすい行動
体を傷つける可能性がある作業は避けましょう。抗凝固薬を服用しているため、出血しやすく、けがが重症化することがあります。自動車の運転
突然の補助人工心臓の停止や脳血管障害の発生よって意識を失い、大事故に至る可能性があるため、自動車は避けましょう。改定道路交通法において、意識を失う可能性のある患者さんの自動車運転は禁止されています。「補助人工心臓」についてよくある質問
ここまで補助人工心臓を紹介しました。ここでは「補助人工心臓」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
補助人工心臓のデメリットについて教えてください。
佐藤 浩樹 医師
日常生活に制限が生じてしまう点です。たとえば、体外に伸びるドライブラインを通じて感染症のリスクがあるため、常に清潔を保つ意識が求められます。また、血栓などの合併症を防ぐため抗凝固薬の内服が必要となります。このため、出血時には止血しづらくなるため、出血を伴う行動には十分な注意が必要です。さらに、装着後は定期的な通院が欠かせず、これらは心理的・身体的負担につながる可能性があります。
まとめ
補助人工心臓は、重症心不全の患者を救う重要な治療法であり、心臓移植までの橋渡しや長期治療として大きな効果を発揮します。寿命の延長にもつながります。一方で、感染症、出血、バッテリー管理の負担、日常生活の制限といったデメリットも存在します。装着後は医療チームと連携しながら慎重に生活管理を行うことが必要です。
「補助人工心臓」と関連する病気
「補助人工心臓」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
「補助人工心臓」と関連する症状
「補助人工心臓」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。




