「大動脈解離の平均寿命」はご存知ですか?発症後の注意点も医師が解説!


監修医師:
藤井 弘敦(医師)
目次 -INDEX-
「大動脈解離」とは?
大動脈解離は、心臓から全身に血液を送る大動脈の壁が裂けてしまう病気です。 血管の壁は内膜、中膜、外膜の3層でできていますが、内側の内膜に亀裂が入ると、そこから一気に血液が流れ込んで中膜を剥がします。その結果、本来の血液の通り道(真腔)と新たにできた通り道(偽腔)の2つに分かれてしまいます(解離)。 特徴的な症状は、胸や背中の「引き裂かれるような」激しい痛みが突然現れることです。偽腔が大きくなると、心臓、脳、腎臓などの重要な臓器への血流が不足し、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こします。最悪の場合、外膜まで破れて大出血となり、命に関わります。 この病気は突然発症することが多く、胸や背中に「引き裂かれるような痛み」が現れるのが典型的です。偽腔が拡大することで本来の血流が阻害されると、心臓・脳・腎臓・脊髄・腸管などへの血流が不足し、命に関わる重篤な合併症を引き起こします。 血管は、内膜、中膜、外膜の3層構造となっています。大動脈解離は、血管のいちばん内側にある内膜に亀裂が入り、そこから血液が一気に流れ込むことで、次の層の中膜が裂けて剥離を起こす病気です。中膜の剥離が進んで外膜まで破れると、大出血を起こすこともあります。内膜に亀裂が入ると、そこから血液が流れ込み、血管の内腔が2つ(真腔と偽腔)に分かれてしまうこともあります。大動脈解離の平均予後
大動脈解離は、適切な治療を受けなければ命に関わる重大な疾患です。特に上行大動脈が裂けているStanford A型では、発症直後から時間とともに致死率が急上昇し、48時間以内に約半数が命を落とすとされています。[主な死因は、大動脈の破裂や心タンポナーデ、心筋梗塞など重要臓器への血流障害です。 一方、上行大動脈が裂けていないStanford B型は、血圧の厳密な管理により急性期を乗り越えれば、比較的安定した経過をたどることが多く、致死率も約10%とされています 。 ただし、大動脈解離は一度発症すると「完治する病気」ではありません。偽腔が拡大して再解離や瘤化(解離性大動脈瘤)を引き起こす可能性があるため、退院後も血圧管理と画像検査による定期的なフォローアップが不可欠です。大動脈解離発症後の注意点
大動脈解離の発症後は、再解離や合併症の予防のため、日常生活でもいくつかの注意点があります。以下の5つが特に重要です。血圧を安定させる
再解離や瘤化を防ぐためには、安静時の血圧を130/80 mmHg未満に保つことが目標です。処方された降圧薬をきちんと服用し、家庭でも毎日血圧測定を行って記録する習慣をつけましょう。良好な血圧のコントロールは、再解離の発症を約3分の1に減らすとの報告があります。過度な運動を避ける
急激な血圧上昇を招く運動(重量挙げ、激しいスポーツなど)は避けましょう。慢性期で状態が安定している場合は、ウォーキングや自転車などの軽〜中等度の有酸素運動が推奨されますが、運動中の収縮期血圧が150mmHg(できれば130mmHg)を超えないよう、医師と相談しながら実施します。定期的な検査を受ける
解離の進行や瘤化を早期に発見するため、CTやMRI検査などを定期的に受けて経過を観察することが重要です。口腔ケアと感染対策
手術で人工血管やステントを留置した場合、感染症は重大な合併症を引き起こすリスクになります。歯周病があると菌が血流に乗って人工物に付着することがあるため、歯科での定期的なチェックと日頃の口腔衛生管理が不可欠です。生活習慣の見直し
喫煙・高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満といった動脈硬化のリスク因子を改善しましょう。禁煙を徹底し、減塩を意識した食事、適正な飲酒量、十分な睡眠、規則正しい生活を心がけてください。大動脈解離の代表的な症状や特徴
大動脈解離は、前触れなく突然発症する危険な病気です。症状の出方には個人差がありますが、早期発見が命を救う鍵です。特に以下の症状がみられた場合は、直ちに医療機関を受診してください。突然の激しい胸や背中の痛み
最も典型的な症状で、「引き裂かれるような」「今まで経験したことのない」痛みと表現されます。痛みは解離の進行に伴って背部や腹部、下肢へ移動することもあります。 高齢者では腰痛程度の軽い痛みにとどまることもあり注意が必要です。このような痛みが出現した場合、自宅で安静にすることは非常に危険ですので直ちに救急車を呼ぶべきです。失神・意識障害
心臓や脳への血流障害が起きると、突然意識を失ったり、けいれんや意識障害が出現したりすることがあります。これらは心臓の周囲に出血する「心タンポナーデ」や脳へ行く血管が解離することで起こる脳血流低下に起因します。 このような失神を見かけたら直ちに救急要請を行いましょう。救命救急センターや循環器系の専門科での緊急対応が必要です。神経症状(麻痺・ろれつ障害など)
大動脈解離が脳を栄養する血管に及んだ場合、脳梗塞のような症状(麻痺、言語障害)が出ることがあります。下行大動脈が障害されると、両足のしびれや麻痺が出現することもあります。このような症状があれば循環器内科や心臓血管外科、救急科をすぐに受診してください。大動脈解離の主な原因
大動脈解離の引き金となる原因はいくつかあり、ここでは特に関連が深いとされる4つの因子について、それぞれの特徴や注意点を紹介します。高血圧
最も重要な原因で、慢性的な高血圧によって大動脈の内膜が損傷しやすくなり、解離を引き起こします。特に血圧の急激な上昇が引き金となることもあり、日常生活での血圧コントロールが非常に重要です。 高血圧は自覚症状が乏しいことが多いですが、頭痛、めまい、胸の圧迫感を感じたときや、家庭で測定した、高い方の血圧(収縮期血圧)が繰り返し140mmHg以上を示す場合は、早めに内科や循環器内科で相談しましょう。動脈硬化
生活習慣病(高脂血症、糖尿病、喫煙など)によって動脈壁が硬くもろくなり、解離を起こしやすくなります。動脈の弾力性が失われることで、血流の衝撃に耐えられなくなるためです。 動脈硬化は自覚症状がないまま進行することが多いため、健診でコレステロールや血糖が高いと指摘された方、喫煙習慣のある方は特に注意が必要です。胸痛や歩行時のふくらはぎの痛みなどがある場合は、早めに循環器内科の受診を検討しましょう。年齢
年齢を重ねることで大動脈の組織が変性し、血管の壁が弱くなります。このため、年齢が高くなるほど急性大動脈解離のリスクは増加します。発症は70歳代に多くみられ、高齢者が急な胸や背中の痛みを訴えた場合には特に注意が必要です。 特に高血圧や動脈硬化の既往がある場合は、定期的に主治医と相談し、必要に応じた検査を受けておくことが安心につながります。遺伝性疾患
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群など、結合組織の異常をもつ遺伝性疾患では、大動脈の壁が生まれつき弱く、若年でも大動脈解離を起こすことがあります。大動脈解離になりやすい人の特徴
大動脈解離は、誰にでも起こりうる病気ではありますが、特に以下のような特徴をもつ人は発症リスクが高いため注意が必要です。高齢の男性
大動脈解離は70歳以上の男性に多くみられます。加齢に伴い血管の壁が硬くもろくなりやすくなることが要因とされており、特に高血圧を合併している高齢男性は注意が必要です。動脈硬化
動脈硬化は、大動脈の壁を脆弱にし、解離を起こしやすくする重要な危険因子です。高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙・肥満などの生活習慣病が動脈硬化を進行させるため、これらを有する方では発症リスクが高まります。 特に喫煙は最も重要な危険因子の一つであり、禁煙によってリスクを下げることが可能です。予防には、バランスの取れた食事、適度な運動、規則正しい生活を心がけ、血圧や血糖値、コレステロール値を良好に保つことが重要です。遺伝・先天性要因
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群など、結合組織に異常を持つ遺伝性疾患では、血管壁が生まれつき弱いため、若年でも大動脈解離を発症することがあります。 また、家族に大動脈疾患の既往がある人もリスクが高く、定期的な検査が勧められます。大動脈解離の検査法
大動脈解離の診断には、迅速かつ正確な画像診断が欠かせません。ここでは代表的な3つの検査についてご紹介します。胸部レントゲン検査
簡便に行える初期検査です。大動脈の拡大や縦隔(左右の肺の間にある部分)の広がりなどが見られることがありますが、異常所見がみられないことも少なくありません。 検査自体は短時間で終わり、痛みもなく被ばく量も少ないため、多くの医療機関で一般的に行われています。しかし確定診断には他の画像検査が必要です。心臓超音波検査(心エコー)
超音波で心臓や大動脈の状態を観察します。 大動脈解離により心臓の外側に血液がたまっていないか、大動脈の付け根が広がっていないか、上行大動脈が裂けていないかなどを調べます。 体に負担が少なく、移動が難しい場合でもベッドサイドで実施できる非常に有用な検査です。CT・MRI検査
造影CTは、大動脈解離の確定診断に欠かせない検査です。解離の範囲や偽腔の広がり、臓器虚血の有無を詳しく確認できます。 造影剤アレルギーがある、妊娠中であるなど、造影CTが施行できない場合はMRIを使用することもあります。しかし、検査時間が長くかかるため、全身状態の不安定な急性期には不向きです。大動脈解離の治療法
大動脈解離の治療は、解離の型(Stanford A/B)と病態、合併症の有無によって異なります。 基本的には、「A型」は緊急手術の対象となることが多く、「B型」や偽腔が閉塞した型では内科的治療が選択されることがあります。人工血管置換術
上行大動脈に解離が及ぶStanford A型では、心臓の周囲に出血して心臓を圧迫したり(心タンポナーデ)、上行大動脈の側にある大動脈弁に障害を与えたり(大動脈弁逆流)、冠動脈を閉鎖(心筋梗塞)することで、命を救えないケースが多くあります。そのため、多くの患者さんは緊急手術の対象となります。 この手術は「人工血管置換術」と呼ばれ、解離した大動脈の部分を切除し、人工血管で置き換える方法です。置き換える部位に応じて、「上行置換術」「弓部置換術」「下行置換術」などと呼ばれます。 手術中には、体温を下げて全身の血液循環を一時的に止める「循環停止」と呼ばれる操作を行います。これは臓器を守りつつ安全に手術を行うための重要な手技ですが、体への負担はどうしても大きくなります。ステントグラフト内挿術(TEVAR)
TEVARは、カテーテルと呼ばれる細い管を足の付け根や腕の血管から挿入し、「ステントグラフト」(ステントといわれるバネ状の金属を取り付けた人工血管)を大動脈の内側に留置する治療法です。主にStanford B型で実施する機会が多いです。 この方法は胸やお腹を大きく切開する必要がなく、人工血管置換に比べて体の負担も軽く、術後の回復が早いのが特徴です。特に高齢の方や他の病気があって開胸手術が難しい方に適しています。ただし、血管の形や状態によっては適応できない場合もあり、その場合は人工血管置換術と組み合わせた「ハイブリッド手術」を行うこともあります。内科的治療(保存療法)
Stanford B型大動脈解離で、破裂や臓器への血流障害がない場合には、痛みのコントロールと厳格な血圧や脈拍の管理を行います。これにより大動脈への負担を減らし、症状の悪化や再発を防ぎます。しかし、血流の低下による腹痛や足の痛みなどの症状が見られた場合は、緊急手術が必要になることもあります。大動脈解離を予防する方法
食事の工夫や日々の過ごし方を見直すことも、大動脈解離の予防には欠かせません。減塩とバランスのよい食生活
外食や加工食品が多い食事は塩分過多になりやすく、高血圧を引き起こす原因になります。自炊を中心に、野菜や魚を取り入れた減塩食を心がけることで、血管への負担を軽減できます。適度な有酸素運動
運動不足は高血圧や動脈硬化進行の原因となります。ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動を、無理のない範囲で日常に取り入れましょう。1日20〜30分、週3〜5を目安に続けるのが効果的です。禁煙とストレス管理
喫煙は大動脈解離の直接的な原因ではないものの、大動脈瘤の発症や動脈硬化進行のリスク因子であり、結果的に発症の引き金となる可能性があります。ニコチンは血管を収縮させ、血圧や心拍数を上昇させるため、禁煙は予防において重要です。また、慢性的なストレスや睡眠不足も血圧を不安定にするため、深呼吸・入浴・趣味の時間などで自律神経を整える習慣を意識しましょう。「大動脈解離の平均寿命」についてよくある質問
ここまで大動脈解離の平均寿命などを紹介しました。ここでは「大動脈解離の平均寿命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
大動脈解離の好発年齢について教えてください。
監修医
大動脈解離は70代に多く、Stanford A型は60~70歳代、B型はより高齢層に多い傾向です。マルファン症候群など遺伝性疾患がある場合、30代など若年でも発症する可能性があります。
大動脈解離の手術に耐えられるのは何歳以上なのでしょうか?
監修医
年齢よりも全身状態が重要で、80歳代以上でも心臓や腎臓の機能が十分保たれていれば手術可能です。一方で、重い持病がある場合は、年齢が若くても手術リスクが高くなります。
大動脈解離の助かる確率は高いのでしょうか?
監修医
大動脈解離は、一般的な病気と比べて致死率が高い危険な疾患です。Stanford A型では緊急手術を受けた場合でも救命率は約70%前後で、迅速な対応が求められます。B型は合併症がなければ内科治療によって80〜90%が救命されますが、初期治療の遅れや合併症の有無によっては予後が大きく悪化します。 症状の進行が早いため、「早期発見・早期治療」が命を左右する鍵となります。
まとめ
大動脈解離は高齢者に多く見られ、重篤な経過をたどることもありますが、早期に発見して適切な治療を行えば救命できる可能性があります。 特にA型は緊急手術が必要であり、B型では内科的な治療で経過観察されることもあります。 年齢だけでなく全身の健康状態によって治療法や予後は異なり、80歳代でも元気であれば手術可能な例もあります。 発症後の生存率は治療の迅速さや合併症の有無に左右されますが、血圧管理や生活習慣の見直しで再発予防も可能です。日頃からの健康管理と異変時の早期受診が重要です。
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