「急性心不全で突然死する前兆となる初期症状」はご存知ですか?医師が解説!
急性心不全で突然死する前兆にはどんな症状がある?Medical DOC監修医が急性心不全で突然死する前兆・原因・発症しやすい人の特徴・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
「急性心不全」とは?
「心不全」とは「なんらかの心臓機能障害、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果として、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現して、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されています。
心臓には、全身の筋肉や臓器に血液を送る「ポンプ」としての機能があります。
具体的には、肺で酸素を受け取った血液を心臓から全身に送り、さらに全身を巡った血液を心臓に戻して再び肺に送る機能を有しています。
このポンプ機能が何らかの原因でうまく働かず、体にさまざまな症状をもたらす状態を「心不全」といいます。
さらに、この心不全が突然起こる、あるいは症状が急激に悪化して、突然死する恐れがあるのが「急性心不全」と呼ばれる状態です。
急性心不全は心筋梗塞などの病気が引き金となり、ポンプ機能が急速に低下して息苦しさや動悸、食欲不振、むくみなどの症状をもたらします。
急性心不全の多くは、虚血性心疾患や高血圧などの慢性疾患が原因であるため、まずはこれらの病気の改善を図ります。
急性心不全のなかには、たとえ血圧などバイタルサインが保たれている状態でも、急速に病状が進行して、心原性ショックや心停止に至り、突然死するケースも少なくありません。
そのような場合には、救命処置を優先し、呼吸困難や臓器うっ血(心臓内に血液が溜まっている状態)の改善を図る処置を緊急的に行う必要があります。
急性心不全で突然死する前兆となる初期症状
起坐呼吸(上半身を起こして呼吸する)
心不全が進行して重症化すると、就寝時にも息苦しさを感じますし、上半身を起こすと呼吸が楽になる「起坐呼吸」の症状が現れることもあります。
心不全の場合、前兆となる初期症状としては、運動時に息切れや動悸、疲労感などがあらわれて、重症化すると、夜間に呼吸困難や起坐呼吸(頭を高くしないと息苦しくて眠れない)などを生じ、さらに安静時でも動悸や息苦しさを伴います。
特に、左心不全になると肺から送られてきた血液が心臓内に溜まる「うっ血」が生じ、そのうっ血はやがて肺にも及んでしまう結果、肺でのガス交換がうまく行なわれなくなり、息切れや呼吸困難などの症状があらわれます。
このような症状が悪化すれば、突然死するリスクがあるので、救急車を呼びましょう。
食欲不振、だるさなど
一般的に、心臓は中隔(ちゅうかく)と呼ばれる壁で左右に分かれており、左側に心不全が起こる「左心不全」と、右側に心不全が起こる「右心不全」で症状が異なります。
特に、右心不全では、食欲不振、便秘、悪心、嘔吐、腹部の膨満感、手足のむくみ、体重増加などの症状が特徴的です。
右心には全身を巡ってきた血液を肺に送る働きがありますが、右心不全で機能が低下すると全身の血液が戻りにくくなり、このような症状があらわれます。
さらに、心臓から送り出す血液量が不足すると疲労感や脱力感、手足の冷え、尿量の減少、記憶力・集中力の低下などの症状が起こりやすくなります。
心配であれば、循環器内科など専門医療機関を受診しましょう。
むくみ
急性心不全では、心臓の働きが不十分であり、代償的に心臓拍出量を維持する仕組みが働いて、心臓拍出量そのものの低下は抑えられるものの、そのかわりに体のいろんな部分に負担がかかってさまざまな症状が出現します。
例えば、心不全に伴って腎臓に流れる血液が少なくなって尿の量が減り、水分が体内に貯留してくることになり、足の甲や下肢全体が浮腫を起こしてむくんだり、体重が短期間で数キログラム程度増加したりもします。
特に、うっ血性心不全は、体の中で血液が滞留したために、肺やほかの臓器などに静脈血が滞っている状態の心不全であり、うっ血性心不全になると、息切れや動悸、激しい咳、手足のむくみ、夜間の頻尿・多尿などの症状が現れます。
そのような症状が認められる際には、心不全に伴って突然死する恐れがありますので、循環器内科など専門医療機関を受診してください。
急性心不全で突然死する原因
急性心筋梗塞などの虚血性心疾患
急性心筋梗塞を含む虚血性心疾患とは、心臓の筋肉に酸素や栄養を送り込むはたらきを担っている冠動脈が狭くなったり、閉塞したりすることで血流障害を起こす病気であり、主に高血圧や糖尿病、肥満などにより、心不全に伴って冠動脈が動脈硬化を起こすことで発症します。
虚血性心疾患は、主に労作性、安定狭心症、および急性冠症候群に大きく分類できます。
虚血性心疾患の症状は、胸痛や息苦しさが代表的であり、特に労作時や運動時は多くの酸素を必要とするため、運動に伴って胸部に関連する症状が現れやすいです。
また、血管の狭窄が強くなったり、動脈硬化性病変が不安定になったりすると、安静時にも胸痛が出るようになりますし、もっとも危険な急性冠症候群では胸痛が持続し、ときに意識消失をきたすこともあります。
虚血性心疾患を発症すると、胸痛や息苦しさなどが現れて、狭心症の場合には症状は短時間で改善しますが、急性心筋梗塞を発症すると、突然死するなど命に直結することもあります。
虚血性心疾患の発症には日々の生活習慣が大きく関わっており、規則正しい生活を送ることが発症の予防につながります。
心臓弁膜症
心臓弁膜症は、どの弁にどのような異常が生じるかによって現れる症状は大きく異なり、一般的には、弁が狭くなって血液が通りにくくなる状態を「狭窄症」、弁が閉じなくなって血液の逆流が生じる状態を「閉鎖不全症」と呼称しています。
心臓弁膜症は異常が生じる弁や状態の変化によって大動脈弁狭窄症・僧帽弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症・僧帽弁閉鎖不全症などいくつかの病気に分類されており、いずれの場合も発症初期の頃は自覚症状がほとんどありません。
しかし、弁の異常を放置したまま時間が経過すると心臓に過剰な負担が加わり続けるため、心臓の機能が徐々に低下して、急性心不全の状態を引き起こして、胸痛、身体のむくみ、息切れ、動悸、呼吸苦などさまざまな症状が生じることになります。
突然死する恐れがありますので、心配であれば、循環器内科など専門医療機関を受診してください。
不整脈
「不整脈」とは心臓の脈拍が正常とは異なるタイミングで起きるようになった状態を意味しており、脈が速くなる頻脈性不整脈、また脈が遅くなる徐脈性不整脈、そして頻度的に最も多く予期しないタイミングで脈が生じる期外収縮などがあります。
不整脈の種類や症状はさまざまであり、中には緊急性はなく放置してもあまり問題にならないタイプがある反面、急性心不全に伴う心室細動など突然死を起こすなど命に直結する不整脈も存在します。
危険な不整脈になると、脳への血流が不十分となり、失神やふらつきを起こすことがあります。
また、心房細動などの不整脈の出現により、心臓が十分量の血液を全身へと供給できなくなれば息切れや呼吸困難などの急性うっ血性心不全の症状が悪化することも考えられます。
急性心不全を発症しやすい人の特徴
塩分の取りすぎ
急性心不全を引き起こす生活内容の特徴としては、日常の食生活において塩分の摂取を過剰に取り込んでいる場合が挙げられます。
血液中に塩分が増えてしまうと、血圧が必然的に上がり、血圧が高い状態が続くと血管壁はその圧力に耐えようとして生理的に厚く硬くなってしまい動脈硬化が進行します。
ラーメンやうどんなど麺類の汁を飲み干していると自然と塩分過多になって高血圧など生活習慣病を発症して、急性心不全を発症しやすくなると考えられます。
一方で、普段から調理法を工夫して塩を使う代わりに、酢やレモンなどを活用して塩分制限をしている場合には心不全を罹患しにくいと考えられます。
また、野菜や海藻から日常的にミネラルやビタミン群を摂っている人は心不全を発症しにくいと言われています。
運動不足
急性心不全の発症を予防するためには、食生活における対策と並んで、習慣的な運動が効果的です。
例えば、ウォーキングなど有酸素運動を1回当たり30分程度、週に3~4回と無理のない範囲で実践していて、肥満体形になっていない方は心不全を発症しにくいと考えられます。
現代では自動車のある生活が当たり前になり、駅やショッピングモールなどの公共施設にエスカレーターやエレベーターがあるのが常識になっていますが、よく歩くことは健康維持の基本となります。
歩行時に筋肉を使えば使うほど基礎代謝が上がり、血液の循環がよくなって動脈硬化を予防することに繋がりますので、普段からなるべくエスカレーターやエレベーターには乗らずに階段を上り下りするように心がけましょう。
すぐに病院へ行くべき「急性心不全で突然死」
ここまでは急性心不全で突然死について紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
日常動作で苦しさが出現する場合は、循環器内科へ
心不全の重症度の分類には、身体所見に基づいたNYHA(ニーハ:New York Heart Association:ニューヨーク心臓協会)作成のものが広く用いられていて、Ⅰ度~Ⅳ度に分けられます。
Ⅰ度では、心疾患はあるが、身体活動に制限はなく、日常的な身体活動では、著しい疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じない場合です。
Ⅱ度は、軽度ないし中等度の身体活動の制限がありますが、安静時には症状は出ずに、日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じるレベルです。
Ⅲ度においては、高度な身体活動の制限がありますが、安静時には症状は出ず、通常以下の身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる場合が該当します。
Ⅳ度は、心疾患のため、いかなる身体活動も制限され、安静時にも心不全症状や狭心痛があり、わずかな労作でこれらの症状が増悪する状態を意味しています。
重度の症状を認める際には、できるだけ早く循環器内科など専門医療機関を受診しましょう。
受診・予防の目安となる「急性心不全」のセルフチェック法
- ・胸痛症状がある場合
- ・動悸症状がある場合
- ・呼吸困難症状がある場合
急性心不全を予防する方法
生活習慣病の予防
心不全の主な原因としては、いわゆる生活習慣病全体です。
これらの病気によって、長い間、心臓に負担がかかったことで心臓の働きが弱くなってしまうので、きちんと治療を続けて心不全の原因となる生活習慣病をコントロールすることが、心不全の予防につながります。
心不全症状を事前に予防するには、心臓に負担がかかる病気をひとつひとつ予防し、心臓にダメージを与えないような生活習慣を心がけることが重要です。
例えば、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病などの病気によって心不全状態に陥る人が増えています。
心不全は一度発症すると、否応なしに入退院をくり返し、だんだん悪くなり、健康寿命を縮めることに繋がります。
心不全は高血圧や動脈硬化などの生活習慣病によって引き起こされることが多いため、普段から食生活や運動習慣を整えて、疲れやストレスをためない生活を意識して続けていくことが大切です。
特に、喫煙や飲酒、塩分の取り過ぎなども心臓に負担をかけることになりますので、相当な注意が必要です。
食べ過ぎや飲み過ぎをしない
アルコールの飲み過ぎが心不全の原因となることがあります。
大量の酒類を控えることで、心臓の働きが劇的によくなる場合もあり、飲酒は心臓の負担になるということを認識して飲むにしても程ほどに抑えておくようにするのが心不全予防の大原則と考えられています。
心不全の場合は、食事や運動などの生活習慣管理に加えて、心不全の危険因子に対する病気を抱えている人では適切な薬物治療を実践する事により心不全の発症や再発を予防することが期待できます。
日頃から、節酒を心がけるとともに、バランスのよい食事を摂取する、便通を整える、そしてストレスと出来る限りうまく付き合って心不全を予防するように努めましょう。
運動と食事に気をつけて肥満を予防する
心不全の予防にあたっては、喫煙、過度な飲酒を避けることのみならず食事、運動などの生活習慣の見直し、そして体重管理が何よりも重要な観点となります。
特に、肥満に関しては、生活習慣病の大きな原因の1つであるため、適正体重を目指して栄養バランスの良い適量の食事をとり、適切な運動を行うことが求められています。
実際に適正な体重や必要な食事内容、勧められる運動量や内容などは、患者さん個々の背景や社会的状況、そして病状に応じて異なりますので、適宜かかりつけの医師やその他の医療スタッフに相談するようにしましょう。
「急性心不全で突然死」についてよくある質問
ここまで急性心不全で突然死などを紹介しました。ここでは「急性心不全で突然死」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
急性心不全で突然死する時、どんな症状が多いですか?
甲斐沼 孟(医師)
急性心不全で突然死するケースとしては、胸痛など胸部症状を呈して、心筋梗塞を引き起こす場合が考えられます。心筋梗塞は、心臓を養う冠動脈という血管が突然ふさがり、冠動脈疾患を起こすことによって心筋の一部への血液供給が大きく減少し遮断されることで発症します。
生命に必須である心臓への血液供給が数分以上にわたって大きく減少するか中断されると、心臓の横紋筋の筋肉組織が壊死することに繋がります。
心臓のポンプ機能は、心筋が収縮と拡張を繰り返すことで維持されていますので、心筋梗塞を起こして心筋の一部が機能しなくなって死んでしまうと、ポンプ機能が正常に働かなくなって、さらに心不全状態を悪化させることになります。
特に、急性心筋梗塞では、同時に心室細動という危険な不整脈を合併しやすく、そうなった場合には、迅速で適切な治療の有無が生死を分けることになります。
編集部まとめ
心臓という臓器は全身に血液を送り出すポンプの役割として一日中、休むことなく働き続けています。
一般的に、心不全とは心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める命に直結する病気と定義されています。
一言で心不全と言っても、原因や自覚症状は人によって多種多様です。
急性心不全は、虚血性心疾患、高血圧、心臓弁膜症などさまざまな心臓の病気が原因となって起こります。
急性心不全になると、息切れや動悸、激しい咳、手足のむくみ、倦怠感、夜間の頻尿・多尿などの症状が現れて、最悪の場合には突然死する可能性があります。
急性心不全は年齢を重ねるごとに発症するリスクが上がるために、現代の高齢化が進む我が国においては年々発症者が増えている病気でもあります。
今後もさらに患者数が増加することが予想されていますので、急性心不全に伴って突然死しないために日常的に注意していきましょう。
心配な症状があれば、循環器内科など専門医療機関を受診しましょう。
「急性心不全で突然死」と関連する病気
「急性心不全で突然死」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
急性心不全の原因は慢性疾患がもともと存在していることが多いため、上記のような病気を悪化させないことが突然死を防ぐことにつながります。
「急性心不全で突然死」と関連する症状
「急性心不全で突然死」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸痛を自覚する
- 動悸を引き起こす
- 手足がむくむ
- 呼吸困難
心不全の症状は、原因によって異なりますし、自覚症状も幅広くあります。気になる症状がある場合には、心不全の可能性も含めて検査を行うことをお勧めします。