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「中皮腫の初期症状」はご存知ですか?原因や発症しやすい人の特徴も医師が解説!

 公開日:2025/09/16
「中皮腫の初期症状」はご存知ですか?原因や発症しやすい人の特徴も医師が解説!
中皮腫 (ちゅうひしゅ)の初期症状とは?メディカルドック監修医が中皮腫の初期症状・原因・検査法・治療法などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
福田 滉仁

監修医師
福田 滉仁(医師)

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京都府立医科大学医学部医学科卒業。初期研修修了後、総合病院で呼吸器領域を中心に内科診療に従事し、呼吸器専門医および総合内科専門医を取得。さらに、胸部悪性腫瘍をはじめとする多様ながんの診療経験を積み、がん薬物療法専門医資格も取得している。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本呼吸器気管支鏡学会気管支鏡専門医。

「中皮腫 (ちゅうひしゅ)」とは?

中皮腫は、発症が稀ながん(希少癌)に分類されますが、世界的に中皮腫の患者数は今後も増えることが予想されており、日本でも年間1,500人以上の方が中皮腫により亡くなっています 。主にアスベスト(石綿)への曝露によって発生する悪性腫瘍であり、発生する部位によって、以下の4つに分類されます。 ・胸膜中皮腫:胸の内側を覆う胸膜から発生する ・腹膜中皮腫:腹部の臓器を覆う腹膜から発生する ・心膜中皮腫:心臓を包む心膜から発生する ・精巣鞘膜中皮腫:精巣を包む膜から発生する ここでは、全体の80〜85%以上と大部分を占める胸膜中皮腫、そして15%程度を占める腹膜中皮腫について解説します。なお、その他の部位での中皮腫の発生は1%以下とされています。

中皮腫の初期症状

中皮腫の症状は発生する部位によって異なりますが、大きく分けると2つの症状があります。一つは痛み、そしてもう一つは胸の中やお腹の中に水が溜まることによる症状です。一方で、中皮腫は初期段階では自覚症状に乏しいことが多く、健康診断の胸部X線(レントゲン)検査で偶然異常が見つかることも少なくありません。 ここでは、胸膜中皮腫と腹膜中皮腫に分けて症状を解説します。

悪性胸膜中皮腫の初期症状

胸膜中皮腫は、胸の内側を覆う膜に腫瘍が発生します。それによって胸の中(胸腔内)に胸水が溜まりやすくなります。この胸水に肺が圧迫されることによって、息苦しさや胸の圧迫感、咳などの症状が出現します。また、膜には痛みを感じる神経(痛覚)が存在するため、胸の痛みを感じることもあります。 胸水による症状は、胸腔穿刺(胸水を抜く処置)を行うことで一時的な改善が期待できます。ただし、胸膜中皮腫がある限りは胸水がまた溜まってしまうため、根本的な解決のためには化学療法などの治療を行う必要があります。 注意すべき症状には、1か月以上続く咳や、動いた時の息切れ・息苦しさがあります。また、胸水による息苦しさは、横になったときや、階段を上るなど負荷のかかる運動のときに強くなることが特徴です。このような症状を自覚した場合は、内科や呼吸器内科に受診してください。 ただし、初期にはこれらの症状が乏しいことも多く、健康診断で胸部X線を実施した際に、胸に水が溜まっていることを偶然指摘されることもあります。

悪性腹膜中皮腫の初期症状

腹膜中皮腫は、お腹の中で腫瘍が発生するため、初期には自覚症状がほとんどありません。進行すると、お腹の中に水が溜まり(腹水)、お腹の張り(腹部膨満)や腹痛、体重増加、便秘や下痢、食欲低下などの症状を自覚するようになります。 腹水による症状は、腹腔穿刺(腹水を抜く処置)を行うことで一時的な改善が期待できます。ただし、そのままでは再度腹水が溜まってしまうため、化学療法などの治療を行うことが必要です。 お腹の張りが少しずつ進行し、体重増加などの症状があった際は内科を受診してください。

中皮腫の原因

中皮腫の主な原因は、アスベスト(石綿)への曝露です。また、最近ではアスベスト以外にも中皮腫の原因がわかっています。この項では、中皮腫の原因についてアスベストを中心に解説します。

アスベスト

中皮腫の主な原因は、アスベストという天然の繊維状鉱物への長期的な曝露です。 アスベストは耐熱性や断熱性に優れており、かつて建築資材や断熱材などに広く使われていました。しかし、その繊維は非常に細かく、空気中に浮遊しやすいため、吸入によって肺や胸の膜に沈着します。その結果、長期にわたって膜に炎症が起こり、結果として中皮腫の発症を引き起こすことが分かっています。 アスベストを吸入してから発症までは20〜50年と非常に長い潜伏期間があるため 、過去の曝露に気づかず発症するケースも少なくありません。曝露歴のあるすべての人が中皮腫を発症するわけではありませんが、建設業や造船業、解体業などに従事していたなど、長期間にわたってアスベストに暴露したことがある人は注意が必要です。

天然鉱物

アスベスト以外にも、それに似た構造を持つエリオナイトは、中皮腫発症の原因となることが分かっています。ただし、エリオナイトはアメリカなど海外で自然に存在する一方で、日本国内で自然に存在する地域は確認されておらず、国内における曝露のリスクはほとんどないと考えられています。

放射線曝露

がん治療の一環として放射線照射を行うことがありますが、この放射線への曝露が中皮腫の発症と関連があることがわかっています。特にリンパ腫や乳がんの治療として胸膜への放射線曝露を受けた患者さんが、数十年後に胸膜中皮腫を発症する例が報告されています。

遺伝的要因

近年の研究では、一部の中皮腫において遺伝的な要素が関与している可能性が明らかになっています。特に注目されているのがBAP1という遺伝子で、この遺伝子に生まれつき変異がある家系では中皮腫を発症しやすいことが分かっています。ただし、遺伝的な要因としてのBAP1の変異は稀であることも分かっています。

中皮腫になりやすい人の特徴

中皮腫は、アスベストの曝露やその他の因子が原因で発症することが分かっていますが、喫煙や飲酒といった生活習慣による中皮腫の発生リスクは知られていません。 そのため、アスベストに曝露していた可能性を把握することが、中皮腫発症のリスクを知るうえで最も大切です。

中皮腫の検査法

胸膜中皮腫を疑った場合は、呼吸器内科や呼吸器外科で詳しい検査を行います。腹膜中皮腫は、病院によって検査や治療を行う診療科が異なりますが、がん治療を行う病院であれば検査が可能です。 検査は主に、画像検査と組織検査の2つを行います。これらの検査によって、病気の広がりを把握し、中皮腫の確定診断を進めます。

画像検査

中皮腫を疑うとき、病気の広がり(ステージ)を調べるために画像検査を行います。 胸部X線検査では、胸水や胸膜の肥厚が発見される場合があります。 CT検査では、全身の画像を撮影することで、周りの臓器への広がり具合に加えて、リンパ節や他の臓器への転移を評価します。また、転移臓器をさらに詳しく調べる目的で、PET-CT検査を行うこともあります。 これらの検査によって中皮腫のステージを把握することができます。

組織検査

中皮腫と診断を確定するためには、腫瘍組織を採取して顕微鏡で確認する組織検査が必要です。胸膜中皮腫が疑われる場合は、胸腔鏡という内視鏡を胸の中に挿入し、胸膜から直接組織を採取する胸腔鏡下胸膜生検が行われます。この検査は局所麻酔下で行われ、一般的に数日程度の入院で実施されます。腹膜中皮腫が疑われる場合は、腹腔鏡や開腹手術で組織を採取することが一般的です。 また、胸水や腹水がたまっている場合は、それを抜いて中に含まれるがん細胞を調べる検査を行うこともあります。ただし、直接組織を採取するほうが診断の精度が上がるため、可能であれば生検検査を行うことが勧められます。

中皮腫の治療法

悪性胸膜中皮腫の治療には、主に手術、化学療法、放射線治療の3つの方法があります。患者さんの体の状態や病気の進行度、組織のタイプなどによって、治療法を単独または組み合わせて行います。

外科的切除

中皮腫の手術は、目に見える中皮腫を可能な限り取り除くことが目的です。胸膜中皮腫の代表的な方法として、肺や胸膜、横隔膜、心膜などを一括で切除する肺全摘術と、肺を温存しつつ腫瘍を取り除く、胸膜切除・肺剥皮術があります。 これらの手術は、呼吸器外科で行うことが一般的で、1~2週間程度の入院期間が必要です。 一方で、腹膜中皮腫は手術の効果は限定的であり、一般的には行うことが少ない治療です。

化学療法

化学療法は、抗がん剤によってがん細胞の増殖を抑える治療です。手術と組み合わせて行う場合や、手術ができない進行した中皮腫に対して単独で行う場合があります。 胸膜中皮腫、腹膜中皮腫ともに、抗がん剤であるペメトレキセドとシスプラチン(またはカルボプラチン)の併用療法や、免疫チェックポイント阻害薬を使った治療が標準的となっています。 これらの治療は呼吸器内科や消化器内科、腫瘍内科などで実施され、1回の治療につき1~2週間程度の入院が必要となることがあります。

放射線治療

中皮腫における放射線治療は、手術後の再発予防や、痛みの軽減などの症状緩和を目的として実施されることが多いです。また、放射線治療単独だけではなく、手術や化学療法など他の治療と組み合わせることが一般的です。

「中皮腫の初期症状」についてよくある質問

ここまで中皮腫の初期症状を紹介しました。ここでは「中皮腫の初期症状」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

中皮腫の好発年齢について教えてください。

福田 滉仁福田 滉仁 医師

中皮腫は、アスベストに曝露してから長期間の潜伏期間があるため、60歳以上の方に見られる傾向があります。

アスベストに曝露したことが分かっている場合に、中皮腫の予防法はありますか。

福田 滉仁福田 滉仁 医師

現時点では、中皮腫の予防法は分かっていません。アスベストに曝露したことが分かっている場合でも、特別な生活制限はなく、通常の生活を送ることができます。 ただし、健康診断などで胸部X線検査を受けることや、気になる症状が出た場合ははやめに医療機関を受診することが大切です。

編集部まとめ

中皮腫は、アスベストへの曝露が主な原因とされる希少ながんです。胸膜や腹膜に発生し、初期には自覚症状が乏しいことも多いため、発見が遅れるケースも少なくありません。症状としては、息苦しさや胸の痛み、お腹の張りなどがみられます。近年では免疫チェックポイント阻害薬などの登場により治療の選択肢が広がっています。過去にアスベストに関わる仕事に就いていた方や気になる症状がある方は、早めに呼吸器内科などの専門科で検査を受けましょう。

「中皮腫」と関連する病気

「中皮腫」と関連する病気は6個ほどあります。 各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する病気

これらは胸膜に関連する主な病気です。健康診断の胸部レントゲン検査で異常を指摘されて、見つかるケースも少なくありません。

「中皮腫」と関連する症状

「中皮腫」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。 各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 息切れ
  • 持続する咳
  • 体重増加
  • 倦怠感(だるさ)
  • 腹膜中皮腫
  • お腹の張り
  • 下痢
腫瘍による痛みや、胸やお腹の中に水が溜まることによる症状が現れますが、中皮腫は初期段階では自覚症状に乏しいことが多いと言われています。

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