「膵臓がんの予後」は良い?悪い?進行すると現れる症状も医師が徹底解説!

Medical DOC監修医が膵臓がんの予後・ステージ別の余命・生存率・進行すると現れる症状・検査・治療・早期発見方法などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
目次 -INDEX-
「膵臓がん」とは?
膵臓がんとは膵臓にできるガンです。膵臓がんはなかなか発見がしにくく、進行も早いのがガンです。見つかったときには既にかなり進行している、ということも稀ではありません。見つかったときに余命1年、もしくはもっと短いという状況も十分にあり得る病気です。
ここでは膵臓がんについて検査や治療、予後などを解説していきます。
膵臓がんの予後は良い?悪い?
膵臓がんの予後は一般的に悪いと言われます。
まず、膵臓がんは胃や腸の裏にあり、腹部エコーなどの検査で見えないことも多く、早期発見が難しいという点です。次に膵臓自体の形です。膵臓はお腹の上のあたり、厚さ1cm程度の平べったく左右に細長い臓器です。膵臓がんがある程度大きくなった場合、膵臓が薄いため、すぐに膵臓の外に及んで (=進行して)しまいます。膵臓の周囲には大きな血管なども多く、その周囲にガンが及んだ場合は手術も困難となってしまいます。手術ができない場合は根治を目指せず、抗がん剤治療となることが多いのですが、膵臓がんは他のガンに比べて抗がん剤が効きにくい場合が多いのです。
膵臓がんのステージ別の余命・生存率
ガンの予後については一般的に5年生存率(5年後に生存している確率)であらわします。ここでは膵臓がんそれぞれのステージ別に解説していきます。
膵臓がん・StageⅠの余命・生存率
ガンが膵臓内にとどまり大きさが2cmを超えない、リンパ節転移を認めない場合、StageⅠとなります。StageⅠでは多くの場合根治手術を目指すことが可能です。しかしながら膵臓がんは再発も多いガンであり、手術後もしばらく再発がないか定期検査を行っていくことになります。膵臓がんの検査は消化器内科で行いますが、手術可能であれば外科で手術を行います。
膵臓がんStageⅠでは5年生存率は50〜60%程度です。ただし、膵臓がんの大きさが1cm未満で手術できた場合、5年生存率は80%台という報告もあります。
膵臓がん・StageⅡの余命・生存率
ガンが膵臓の外にまではみ出ている(動脈や門脈などには接していない)、もしくはリンパ節に転移している状態であれば膵臓がんStageⅡとなります。
StageⅡでは手術可能な場合も多いですが、ガンが静脈などに接する、膵臓の周囲に広がっていると、再発の可能性が高まるため手術だけでなくその前に化学療法(抗がん剤治療)を行うことがあります。一方、手術ができるほど元気ではない場合等は化学療法や化学放射線療法などを検討することになりますが、こちらは根治を目指すことは困難です。
StageⅡの膵臓がんの場合、5年生存率は10〜30%程度です。
膵臓がん・StageⅢの余命・生存率
ガンが膵臓周囲の組織や血管まで及んでいる場合は膵臓がんStageⅢとなります。
StageⅢの場合、大きな血管までガンが及んでいるため手術ができない、という判断になることがあります。ただし、膵臓の大きな血管にまでガンが及んでいるものの一部が接しているだけ、などの状態であれば手術ができる事があります。この場合はStageⅡの場合と同様、そのまま手術を行うだけでは再発の可能性が高いため化学療法を行ってその後の状況次第で手術となります。
ガンの進行や進行している、手術ができるほど体力・元気がない場合などは化学療法(化学放射線療法)となりますが、膵臓がんは進行が速いだけでなく、他のガンに比べても化学療法が効きにくいとされます。StageⅢの膵臓がんの場合は5年生存率:4〜5%前後程度です。
膵臓がん・StageⅣの余命・生存率
ガンが膵臓だけではなく肝臓など他の臓器に転移している場合はStageⅣとなります。この状態であれば手術だけでなく化学放射線療法も行うことはできません。積極的な治療としては化学療法一択となりますが根治を目指すことはかなり難しいでしょう。おそらく予後は1年、進行していれば半年もしくは2,3か月以内ということも十分にあり得ます。それを化学療法でどの程度延ばせるか、ということになってきますが、半年のところを1年ほどに延ばす、などが目標になってくるでしょう。化学療法は消化器内科や腫瘍内科で行いますが、いずれ抗がん剤が効かなくなったり、副作用が強く出て化学療法ができなくなる時がきます。その場合は緩和ケアとなるため、緩和ケア専門の医師や在宅医療を行う医師が担当になることも多いでしょう。膵臓がんStageⅣの場合、その5年生存率は2〜3%程度となります。
膵臓がんが進行するとどんな症状が現れる?
体重減少
膵臓に限らず、ガンになった場合はガンの影響で体重が減っていきます。また膵臓がんの場合は胃などが圧迫されたり、食欲がなくなったりすることで体重が減っていくこともあります。
腹痛、背部痛
膵臓の周りには大きな神経も多く、膵臓がんがそれらの神経に及んでしまうと痛みが出てきます。痛みに対しては痛み止め等で対応していくことになります。既に診断がついている場合は消化器内科や腫瘍内科に通院中のことが多いかと思います。主治医と相談しましょう。
また、ガン自体の痛みだけではなく、ガンによって膵臓の管(膵管)がふさがれ膵炎を起こすことでも腹痛、背部痛が出てきます。また、膵臓がんによって胆管(肝臓の消化液を流す管)が詰まった場合は、胆管炎を起こして発熱や腹痛を認めることがあります。これらの場合、放置すると重症となりえるため、(特に発熱がある場合は)すぐに内科、消化器内科、救急を受診しましょう。
黄疸
膵頭部(腸に近い部分)にガンができた場合、その周囲に胆管(肝臓から消化液を流す管)を詰めてしまい、黄疸が出てくることがあります。黄疸は、はじめに白目の部分が黄色くなり、その後徐々に身体が黄色くなっていきます。目や身体が黄色いと気づく、もしくは誰かにそう指摘されたら一度内科で検査を受けましょう。
また、黄疸が出ており、発熱がある、お腹(特に右上の部分)が痛いなどであれば、胆道が膵臓がんや石などでつまり、感染を起こしている可能性があります。その場合は重症感染症にもなりかねないため、すぐに内科、救急などを受診するようにしましょう。
糖尿病
膵臓は身体の中で唯一血糖を下げるホルモン(インスリン)を分泌する臓器です。そのため膵臓の機能が落ちると糖尿病になります。また、元々糖尿病を患っている人は、突然糖尿病の状態が悪くなることがあります。心当たりなく突然糖尿病になった/悪くなった場合などは、膵臓に何らかの異常が起こっている可能性があります。一度内科を受診し、特に消化器内科を受診しましょう。
膵臓がんの検査法
血液検査
血液検査には多種多様な項目があり、膵臓がんに関連するものは膵酵素(アミラーゼなど)や腫瘍マーカー(CA19-9、CEA、DUPAN-1、Span-1)などが挙げられます。膵酵素やCA19-9、CEAなどは人間ドックを受けた際に調べることも多く、これらの異常があり消化器内科を受診し、膵臓がんがわかったというケースもあります。
腹部超音波検査
腹部超音波検査はお腹の表面に機械を当てて超音波でお腹の中を評価する検査です。この検査は空気に弱いため、検査の時に胃や腸が被さってしまうと膵臓が見えにくい場合もあります。しかしながら膵臓の一部しか観察できずガン自体が見えない場合でも、ガンに伴う膵管の異常などが見えることもあります。
他の検査と異なり、身体への負担が少ない検査のため、はじめにこの腹部超音波検査を行うことが多いでしょう。また、健診や人間ドックで行うことも多く、膵臓に異常があったため他の画像検査で詳しく調べ、膵臓がんが判明したということもあります。
造影CT検査
膵臓にガンなどの異常が疑われた場合、造影剤を使用したCT検査を行います。膵臓がんの位置、大きさのほか、周囲の血管や臓器などどのあたりまでガンがあるかなどを調べます。膵臓がんの検査にはかなり有用なものですが、喘息やアレルギーのある人、腎臓が悪い人は造影剤を使用することができません。
膵臓がんの場合は消化器内科で精密検査をする時、外科での手術前の評価などでこの検査を行うことが多いでしょう。
MRI検査(MRCP)
膵臓に異常が疑われた場合、MRIにより膵臓や胆道の管の形を詳しく調べる検査(MRCP)を行います。膵管の形や膵臓の実質を調べることで早期癌の場合でも異常を察知することができますが、体内に金属が入っている人や閉所恐怖症の人は受けることが難しくなります。
消化器内科紹介時/受診後などに精密検査として外来で行うことが多いですが、健診でも行うことがあります。
超音波内視鏡検査(EUS)/超音波内視鏡下穿刺生検(EUS-TA)
内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)に
かなり早期の膵臓がんで、膵管(膵臓の消化液を流す管)の上皮にのみガンが疑われた場合などに行います。これは特殊なスコープを使用し十二指腸にある膵管の出口からカテーテルを入れて造影剤を流すことで膵管の形を見たり、膵管の組織や膵液(膵臓の消化液)を採取して癌細胞があるかを確認するものです。負担も大きくリスクも伴う検査であり、通常ある程度大きな病院に入院して行う検査になります。検査の後、特に偶発症がなければ2,3日で退院できることが多いですが、場合によっては膵管に長い管を入れて、先端を鼻から出し、数日間膵液を採取することもあります。その場合は入院期間が長くなります。
膵臓がんの治療法
手術
膵臓がんの治療として、唯一根治を目指せるものは手術しかありません。しかしながら手術は膵がんとなった全ての人が手術を受けることはできません。腫瘍が周囲の組織、とくに脈管(門脈や動脈)にどの程度及んでいるのか、転移があるのかなどにより手術ができるか決まります。
また、膵臓がんの手術はガンができている部分により方法が変わります。腸からある程度離れた部分(体尾部)にできた場合は膵臓の2/3程度をとる手術になります。腸に近い部分(頭部)にできた場合は、膵臓の一部、胆管、胆嚢、十二指腸、胃の一部を切除し、胃や腸などを繋ぎ変える手術となります。どちらもかなり大がかりな手術であり、身体での負担も大きいものです。そのため、年齢や他の病気などを考慮し、手術に耐えうる状態のかによっても手術ができるかできないかが決まってきます。
膵臓がんの診断は消化器内科で行うことが多いですが、手術は消化器外科(肝胆膵外科)になります。手術が検討できるのであれば内科から外科へ紹介されます。
化学放射線療法
膵臓がんの進行により手術ができず、遠隔転移(肝臓や肺、骨など)がない場合、放射線療法と抗がん剤治療(化学療法)を組み合わせた治療が選択肢に挙げられます。これはガンに放射線を当ててガンの進行を抑えていく方法です。消化器内科や腫瘍内科が抗がん剤の対応や調整を行いますが、放射線を実際にあてるのは放射線科になります。膵臓がんの場合はガンの部分を中心に放射線を当てていきますが、膵臓自体が胃や腸、胆管などの管に囲まれた場所に存在するため、胃や腸の粘膜、胆管などにもダメージがあります。食事がとれないなどの症状が出ることもありますし、後々腫瘍が進行し内視鏡治療が必要となった場合は、腸や胆管にダメージがあるとリスクが上がることになります。
化学療法
膵臓がんで手術ができない場合は化学療法(抗がん剤治療)となることが多いでしょう。しかしながら、化学療法では根治を目指すことは難しいでしょう。化学療法の目的はあくまでも「腫瘍の進行を遅くする」ことと、「元気で生活できる時間を長くする」ことになります。また、抗がん剤はガンだけではなく、全身に影響するため副作用も強いものです。そのため、外来に歩いて来ることができるぐらい元気な人が対象となってきます。
抗がん剤は効果の高いものから順に使用していきますが、その分身体への負担も強くなります。そのため、年齢や身体の状態、副作用がどの程度出ているかなどにより投与する量を減らしたり、負担の少ない薬へ変更したりと調整していきます。
しかしながら、いつかはどの抗がん剤も効果が得られない、副作用で化学療法ができないという時が来ます。つまり膵臓がんに対する治療ができないということになってしまうのです。
対症療法、緩和ケア治療
手術や化学療法などができない場合、もしくは副作用などを懸念して望まない場合は症状に対する治療を行っていきます。
膵臓がんの場合、ガンが進行してくるとお腹の強い痛みやお腹に水が溜まる、身体がだるくなるなど様々な症状が出てきます。その症状それぞれに対して薬などで治療を行っていくことになります。基本外来でも治療を行いますが、症状が強くなった場合は一時的に入院で治療を行うこともあります。しかしながら、ガンが進行していった場合、最終的には症状が強くなり、動けなくなったり、眠る時間が長くなったりしてきます。その場合、最終的な治療(緩和ケア治療)を自宅で行うのか、病院に入院して行っていくのかなどは、患者さんと家族の状況や希望により決めていくことになります。
内視鏡治療
膵臓の腸に近い部分にガンができた場合、胆管(肝臓の消化液を流す管)を詰めてしまう場合もありますが、それに対して内視鏡でチューブ(ステント)を入れて症状をよくする治療なども行う場合もあります。方法としては先に挙げたERCPやEUSで胆管と胃や腸などを繋ぐ形でステントを留置する超音波内視鏡下胆道ドレナージ術(EUS-BD)などがあります。先に述べた通りERCPには膵炎や出血などのリスクを伴いますが、EUS-BDは穿孔、チューブ逸脱(お腹の中にチューブが落ちるなど。緊急手術となります)などの偶発症があり、リスクの高い処置となります。
これら内視鏡治療は数日間の入院で行いますが、偶発症が起きた場合、その分入院期間が長くなってきます。
膵臓がんの早期発見方法
糖尿病が突然悪くなった/発症した場合
先に述べた通り、膵臓は身体の中で唯一血糖を下げるホルモン(インスリン)を分泌する臓器です。そのため膵臓の機能が落ちると糖尿病になることがあります。突然糖尿病を発症したり、糖尿病が突然悪くなったりした場合、膵臓がんなどができている可能性があります。一度消化器内科で検査をしましょう。
健診・定期検査を受ける
膵臓がんはなかなか症状が出にくく、ある程度進んでから症状が出てくることが多い病気です。また、膵臓がんは進行が早いとも言われています。見つかったときには手術ができないほど進行してしまっていた、ということも少なくありません。そのため、健診を定期的に受け、腹部エコー検査などで膵臓のチェックを受け、異常がないか確認しておくことが重要です。
また、膵臓がんになるリスクが高い人(膵嚢胞、良性腫瘍、慢性膵炎がある人や血のつながった親族に複数名膵臓がん患者がいる人など)は定期検査で膵臓に変化がないか調べておくことが有用です。消化器内科で定期検査を行い、膵臓に変化がないか定期的に見ておく事で早期発見につなげることができます。
「膵臓がんの予後」についてよくある質問
ここまで膵臓がんの予後について紹介しました。ここでは「膵臓がんの予後」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
膵臓がんは発症するとどれくらい生きられるのでしょうか?
岡本 彩那 医師
膵臓がんは気づかれにくいこと、進行が早いことなどより見つかった時点でかなり進行しており、発見と同時に余命を伝えられるということも少なくない病気です。一般的に膵臓がんが見つかった場合は1年ほどと言われますが、病状によってはもっと早く、半年もしくは数か月と言われることもあります。
編集部まとめ
膵臓がんは早期発見しにくく、発見された時には末期であった、告知と同時に余命を伝えられたということも少なくないガンです。手術ができる段階で発見できるかが予後を左右します。定期的に健診を受け、膵臓がんのリスクがある人は特に定期検査を受け、早期発見できるように努めましょう。
「膵臓がん」と関連する病気
「膵臓がん」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
内分泌・代謝科の病気
膵臓がん発生のリスクとなるような病気は様々であり、また、膵臓がんにより他の病気を発症することもあります。
「膵臓がん」と関連する症状
「膵臓がん」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- からだがだるい(倦怠感)
- 背部痛(鈍痛)
- 腹痛
- 体重減少
- 黄疸
がん自体の痛み、あるいは、がんによる膵臓の管(膵管)や肝臓の消化液を流す管(胆管)が詰まった場合に起こる発熱や腹痛などの症状が見られることがあります。
参考文献
- 膵癌診療ガイドライン2022年版(日本膵臓学会)