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「トリプルネガティブ 乳がんステージ3」とは?診断された際の予後や治療法を医師が解説!

 更新日:2025/07/18
「トリプルネガティブ 乳がんステージ3」とは?診断された際の予後や治療法を医師が解説!

トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体やHER2タンパクの発現が見られないため、治療の選択肢が限定される難治性の乳がんです。特にステージ3となると、腫瘍の大きさやリンパ節転移の程度により、予後がさらに厳しくなります。本記事では、ステージ3のトリプルネガティブ乳がんの、その特徴や予後、さらに治療法を詳しく解説します。

井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

プロフィールをもっと見る
大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

トリプルネガティブ乳がんとは

トリプルネガティブ乳がんは、乳がんのなかでもホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)が陰性で、かつHER2タンパクも過剰発現していないタイプのことを指します。すべての乳がんのなかで約10〜15%を占め、若い世代の女性(40歳未満)に多い傾向があり、遺伝性乳がんの原因となるBRCA1遺伝子変異を持つ方にも起こりやすいとされています。診断は、乳がんの組織検査(生検)でがん細胞を採取し、エストロゲン受容体(ER)やプロゲステロン受容体、HER2タンパクの有無を調べます。その結果、ER陰性・PR陰性・HER2陰性であればトリプルネガティブ乳がんと診断されます。

トリプルネガティブ乳がんステージ3の予後

乳がんのステージ3はA/B/Cに分類され、ステージ3Aはリンパ節転移の範囲が中等度または腫瘍が大きい状態、ステージ3Bは腫瘍が胸壁や皮膚に浸潤している状態を含みます。一般にステージ3Bの方がステージ3Aよりも進行度が高く、治療後の生存率も低くなる傾向があります。

トリプルネガティブ乳がんステージ3Aの予後

ステージ3Aのトリプルネガティブ乳がんでは、治療後5年生存率は約50〜60%と報告されています。米国がん協会(ACS)のデータによれば、ステージ3全体で5年生存率は約67%ですが、トリプルネガティブの場合はそれより低くなると考えられます。

トリプルネガティブ乳がんステージ3Bの予後

ステージ3B(腫瘍が胸壁や皮膚まで及ぶ場合)のトリプルネガティブ乳がんでは、ステージ3Aよりも予後は不良です。治療後5年生存率は約40〜50%と報告されています。腋窩リンパ節の転移個数が多いほど再発リスクが高く、生存率が低下することが示されています。また、がん細胞の増殖能を示す指標であるKi-67指数が高い(増殖が盛んな)症例ほど予後不良であるとの報告もあります。

トリプルネガティブ乳がんステージ3の治療法

ステージ3のトリプルネガティブ乳がんでは、手術・薬物療法(化学療法)・放射線療法を組み合わせた集学的治療が行われます。ホルモン療法や抗HER2療法は無効なため、基本は手術で腫瘍を可能な限り切除し、抗がん剤による全身治療と必要に応じた放射線で残ったがん細胞を死滅させる戦略を取ります。以下に主な治療法を説明します。

抗がん剤、ホルモン療法

抗がん剤による化学療法がトリプルネガティブ乳がん治療の中心となります。術前に行うネオアジュバント化学療法と、術後に行うアジュバント化学療法があります。

ステージ3では腫瘍が大きかったりリンパ節転移があるため、術前に抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから手術を行うことが多くあります。これにより手術で取り残すリスクを減らし、乳房温存手術が可能になるケースもあります。また、術前治療でがんの薬剤反応性を確認できるメリットもあります。

抗がん剤治療は通常、数週間おきのサイクルで数ヶ月間継続します。副作用として脱毛、吐き気・嘔吐、食欲不振、骨髄抑制(白血球減少による感染リスク増加)などが起こりますが、必要に応じて制吐剤の使用や成長因子製剤の併用で症状を和らげつつ治療を進めます。

なお、トリプルネガティブ乳がんではホルモン受容体が陰性のため、タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬などの内分泌(ホルモン)療法は効果がありません。したがって化学療法が薬物療法の中心となります。

放射線治療

放射線療法は、高エネルギーの放射線を照射して残存するがん細胞を死滅させる治療です。ステージ3の治療では、手術と薬物療法に加えて放射線治療も行われることも少なくありません。特に、乳房温存手術を行った場合は、術後に乳房全体へ放射線を当てて局所再発を防止することがあります。

また、ステージ3Bで胸壁や皮膚に浸潤していた場合も、手術で切除した範囲に対して照射します。放射線治療は通常、1日1回照射を週5日ペースで約5〜6週間続ける外来通院治療です。

副作用として照射部位の皮膚炎、色素沈着などがありますが、多くは徐々に回復します。放射線治療を適切に併用することで、局所再発率を下げることが期待できます。

手術

外科手術では、乳房内の原発腫瘍と、腋の下のリンパ節の摘出が行われます。ステージ3では腫瘍径が大きかったり複数リンパ節に転移があることがあるため、乳房全摘出術(患側の乳房をすべて切除する手術)を選択することが増えます。腫瘍が術前治療で十分に縮小し、かつ乳房に残したい強い希望がある場合には、乳房温存手術(腫瘍部分のみ切除)を検討できることもあります。ただし温存手術後は追加の放射線治療が必須です。

腋窩リンパ節に関しては、センチネルリンパ節生検といって最初にがんが転移するリンパ節を調べる検査を行い、転移がなければ大規模な切除は省略できる場合もあります。しかし、ステージ3では術前に画像検査などでリンパ節転移が強く疑われることも多く、その場合は腋窩リンパ節郭清術(腋の下のリンパ節をまとめて摘出)を行い、転移リンパ節を確実に除去します。

トリプルネガティブ乳がんステージ3についてよくある質問

ここまでトリプルネガティブ乳がんステージ3について紹介しました。ここでは「トリプルネガティブ乳がんステージ3」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

トリプルネガティブ乳がんステージ3の場合日常生活で気をつけることは?

井林雄太医師井林 雄太(医師)

治療中および治療後の日常生活ではいくつか注意すべきポイントがあります。まず体調管理が重要です。抗がん剤治療中は白血球が減って感染症にかかりやすくなりますので、手洗いやうがいを徹底し、人混みや感染症の流行時期にはマスク着用を心がけてください。また、適度に休息を取り、十分な睡眠を確保しましょう。散歩やストレッチなどの軽い運動は体力維持や気分転換に役立ちますが、医師と相談しながら行ってください。

手術後は患側の腕のケアに注意します。リンパ節郭清を行った場合、腕がむくむリンパ浮腫を起こすことがあります。重い荷物を持たない、血圧測定や採血はできるだけ反対側の腕で行う、虫刺されや日焼けに気を付ける、などの工夫でリンパ浮腫リスクを減らすことができます。

トリプルネガティブ乳がんの治療費の目安は?

井林雄太医師井林 雄太(医師)

治療費は受ける治療内容によって異なりますが、手術、抗がん剤、放射線など一通りの治療を行う場合、健康保険適用後の自己負担総額は数十万円台になることが多い傾向です。さらに高額療養費制度が適用されれば、1ヶ月あたり自己負担は所得に応じた上限額までとなり、多くの方では8〜10万円前後/月が上限目安です。

そのため、仮に1ヶ月に治療費自己負担が15万円発生しても、後で差額の払い戻しが受けられます。結果的に自己負担合計額は、例えば初年度で30〜50万円程度になります。なお、入院中の食事代や個室代など保険適用外の費用は別途かかります。医療費が年間10万円を超えた場合は医療費控除で税金が戻ってくるので、そうした制度も活用すれば実質的な負担はもう少し軽減できます。

トリプルネガティブ乳がんステージ3と診断されたら受けられる助成金は?

井林雄太医師井林 雄太(医師)

全国共通の制度として、前述の高額療養費制度があります。これは治療費の自己負担が高額になったとき、一定額を超えた分が払い戻される仕組みです。加入している健康保険組合に申請すれば誰でも利用できます。また確定申告の際に医療費控除を行うと、医療費の一部が税金から差し引かれ、後日還付されます。

自治体独自の助成金としては、医療用ウィッグ購入補助や乳房補整具の購入補助があります。抗がん剤で髪が抜けた際のウィッグ代や、乳房を失った後の人工乳房代の一部を自治体が負担してくれる制度です。地域によりますが数万円まで補助されます。また若い患者さん向けに妊よう性温存(卵子・精子凍結)の費用を助成する自治体もあります。その他、就労支援や住宅費・生活費支援を行う自治体もありますので、お住まいの市町村に問い合わせてみてください。


まとめ

ステージ3のトリプルネガティブ乳がんは、治療法の選択肢が限られている一方で、集学的治療により生存率の向上を目指します。治療中の日常生活での注意点や公的・民間の助成制度の活用は、治療負担の軽減につながります。この記事では治療方法や利用できる制度などを中心に解説しました。本記事がトリプルネガティブ乳がんをもつ患者さんのお役に立てれば幸いです。

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