「乳がん」の「抗がん剤治療」の進め方とは?副作用についても医師が解説!

乳がんは乳管に発生するがんで男性より女性の罹患率が高い病気です。女性の約9人に1人が乳がんと診断されています。
現在は医療の進歩により早期発見ができた場合の5年生存率は、90%を超えるケースが多く長期の生存が可能な場合もあるのです。
乳がんの治療のひとつとして知られる抗がん剤治療は、どのような治療なのでしょうか。本記事では、乳がんの化学療法の進め方や副作用などを解説します。

監修医師:
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医
目次 -INDEX-
乳がんとは?
乳がんは乳腺に発生する悪性の腫瘍で、リンパ節転移しやすいのが特徴です。進行すると、リンパ節だけでなく肺や骨などに遠隔転移します。乳がんは男性に発生する場合もありますが、罹患数の多くは女性です。治療法や生存率は男女とも大差ありません。
乳がんの抗がん剤治療の効果・種類
抗がん剤治療の方法は、腫瘍のタイプやステージに応じて人それぞれです。抗がん剤治療は単独で行われることもありますが、手術の前後に行われることもあります。手術で切除した腫瘍の迅速診断結果によっては術後化学療法が必要になるケースもあります。
抗がん剤治療の有効性
抗がん剤治療には、以下の効果が期待されています。
- 腫瘍の縮小
- 微小転移の根絶
- 再発や死亡率の低下
抗がん剤治療は、確実に効果を発揮するものではありません。ある程度の治療を重ねると、効果より副作用が目立つ場合があります。高齢者は加齢による身体機能の低下により、有害事象が多く出現する場合もあるのです。
さらに抗がん剤は正常細胞にも影響するため、副作用が出現します。
術前化学療法
術前化学療法は手術に行われる抗がん剤治療で、腫瘍を縮小させ切除範囲を小さくしたり術後の再発率を低下させたりするために行います。局所進行乳がんや炎症性乳がんで、腫瘍が大きいあるいは浸潤している場合に行います。また術後化学療法が必要で、手術の際は乳房温存を希望する場合も対象です。
治療期間は約3〜6ヶ月間で、治療開始前に細胞診などを実施し腫瘍のタイプに応じた抗がん剤を決定します。
術後化学療法
術後化学療法は、CTで発見できないような微小転移を根絶させ再発率の低下を図るために行います。治療の際は、手術で切除した腫瘍の病理組織診断をもとに投与する薬剤を決定します。術後化学療法は、抗がん剤や分子標的薬を用いた治療が一般的です。
HER2陽性乳がんの場合は、HER2たんぱくを標的に作用する分子標的薬と抗がん剤を組み合わせた抗HER2療法を行います。
乳がんの抗がん剤治療の進め方
化学療法はがんの種類や悪性度を考慮し、数種類の抗がん剤を組み合わせて実施します。乳がんで選択される標準治療のひとつが、複数の抗がん剤を用いた多剤併用療法です。
ここからは、抗がん剤の投与スケジュールや用いる薬剤について説明します。
多剤併用療法が一般的
多剤併用療法は腫瘍の種類や悪性度に応じて、薬剤を組み合わせて投与する方法です。乳がんの場合、主に使用するアンスラサイクリン系の薬剤はがん細胞のDNAを直接的に破壊し、タキサン系の薬剤は細胞分裂を阻害します。
ほかにも遺伝子に作用するアルキル化薬、5FU(フルオロウラシル)などの抗がん剤を組み合わせて投与するのが一般的です。再発予防を上乗せするためにタキサン系の薬剤の追加投与や、HER2陽性乳がんに対する分子標的薬の投与を行います。
休薬期間を設ける
休薬期間の目的は、体力の温存や回復です。抗がん剤治療はあらかじめ計画的に定められた休薬のほかに、副作用の程度によって治療計画外でも休薬する場合があります。
休薬後の投与スケジュールや薬剤の投与量は、体調の回復具合や血液検査の結果などが考慮されます。患者さんの年齢や全身状態を考えて病院薬剤師や医師が連携して薬の投与量を考慮したり、副作用対策(支持療法)を行ったりと休薬後の治療方法は人それぞれです。
治療スケジュールの目安
化学療法の治療スケジュールは、基本的にレジメンに沿って実施されます。レジメンは治療期間や薬の種類、投与量や実施する検査などを明記した治療スケジュールです。抗がん剤投与は3〜4週間に1回の間隔で行い、投与日と休薬期間をまとめて1クールといいます。
乳がんの場合、AC療法やEC療法などの抗がん剤治療は基本的に1クール=3週間です。1クールの期間は治療の種類で異なり、ほとんどの場合4クール実施されます。乳がんの化学療法は、種類も豊富で選択する治療によりスケジュールが異なります。
乳がんの抗がん剤治療の副作用
抗がん剤治療は副作用への対症療法が進歩し、多くの副作用が緩和されつつあります。ここからは、抗がん剤治療に対する副作用とその対症療法を説明していきます。
脱毛
抗がん剤は髪の毛をつくる毛母細胞にダメージを与えるため、脱毛が起こります。高頻度で脱毛が起こるとされている抗がん剤は、ドキソルビシンやアンスラサイクリン系の薬剤です。一般的に、抗がん剤投与から2〜3週間を目安に脱毛が始まります。男性は部分的に脱毛するケースもある一方、女性は完全脱毛のケースがほとんどです。
脱毛部分は刺激に弱くなるため、外出時だけではなくマスクやケア帽子を用いて皮膚を保護しましょう。抗がん剤治療終了後は、男女とも脱毛は改善されます。
吐き気・嘔吐
抗がん剤が嘔吐中枢や消化管粘膜を刺激し、吐き気や嘔吐が起こります。すべての抗がん剤で、吐き気や嘔吐が起こるのではありません。吐き気や嘔吐の副作用がある薬剤を使う際は、抗がん剤に適した制吐剤が予防的に投与されます。
主に用いる制吐薬は、アプレピタント(イメンド)や副腎皮質ホルモン剤(グラニセトロン)などです。基本的に制吐剤を使用する場合は、抗がん剤投与の直前に点滴で投与したり数日間連続で決まった時間に服用したりします。ほかにも急な吐き気の症状が出現した場合には、頓服の制吐薬を用いた対処が可能です。
骨髄抑制
骨髄抑制による血球の減少は抗がん剤投与から7〜10日後を目安に始まり、3週間程度で回復します。骨髄抑制によって減少する血球の種類と主な症状は、以下のとおりです。
- 白血球(好中球):感染症の罹患や重症化
- 赤血球:貧血
- 血小板:出血傾向、止血しづらい
白血球減少時は、白血球の産生を促す(G-CSF製剤)の注射を行います。加えて抗がん剤を休薬したり、人との接触を減らしたりする感染対策が必要です。赤血球や血小板の減少に対しては、輸血で対処したり休薬したりして血球数の回復を待ちます。
倦怠感
抗がん剤投与から2〜3日後を目安に、倦怠感が生じる場合があります。しかし、倦怠感が起こる明確なメカニズムは解明されていません。身体や頭が重く感じる、気持ちが不安定になるなどの症状もあります。倦怠感が強い場合には、無理せず休息を取りましょう。
乳がんの抗がん剤治療についてよくある質問
ここまで乳がんの化学療法の種類・進め方・副作用などを紹介しました。ここでは「乳がんの抗がん剤治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんの抗がん剤治療の期間はどのくらいですか?
山本 康博(医師)
乳がんの抗がん剤治療は約3〜6ヶ月で、治療の期間は化学療法の内容によって異なります。術前化学療法や術後化学療法などは基本的に6ヶ月を目安とし、HER2陽性乳がんの場合は12ヶ月かけて治療するケースもあります。
乳がんに抗がん剤が効く確率はどのくらいですか?
山本 康博(医師)
乳がんに対する抗がん剤治療の効果の確率は、病期や腫瘍の悪性度などで異なります。術前に実施する場合は、約7〜8割で腫瘍の縮小化が認められています。しかしHER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんなどの治療成績は、腫瘍の種類や病期によってさまざまです。
編集部まとめ
本記事では乳がんの治療法のひとつである抗がん剤治療について、化学療法の進め方や副作用を中心に説明しました。
乳がんの治療法は日々進歩しており、新しい治療法が認可されたり使用する薬剤の選択肢も多くなったりしています。
また、副作用に応じた支持療法やケアもしっかり行われるようになり、働きながらの治療が可能です。
日常生活の質を大きく落とさず、治療としっかり向き合いながら生活できるよう、不安な点は我慢せず医師や看護師に相談しながら治療を進めていきましょう。
乳がんと関連する病気
「乳がん」と関連する病気は4個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
上記の疾患は、いずれも乳がんとの鑑別が必要です。気になる症状がある場合には、早めに乳腺外科を受診しましょう。
乳がんと関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 乳房の痛み
- 授乳中の乳首の発赤やただれ
- 脇の下のしこりや腫れ
上記の症状は乳がん以外の病気でも自覚しうる症状です。気になる症状がある場合は、念のため医療機関を受診するとよいでしょう。
参考文献