【闘病】がん家系ではない母を襲う『トリプルネガティブ乳がん』。連鎖する副作用の悪夢

今回話を聞いたのは、トリプルネガティブ乳がんと診断され、手術と抗がん剤治療を経験した、きよみさん(仮称)です。トリプルネガティブ乳がんは、がん細胞の増殖に関わる3つの要因(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2タンパク質)が全て陰性であり、進行が早く、再発リスクの高い乳がんのサブタイプ(性質による分類)とされています。きよみさんはステージ2Aの時点で発見でき、現在は経過観察を続けています。乳がんにはどのような治療選択肢があるのか、治療に当たってどのような苦労があるのか――。彼女の闘病体験から学びましょう。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年11月取材。

体験者プロフィール:
きよみさん(仮称)
乳がん治療と副作用による大けがに苦しめられた

編集部
きよみさんの病気が判明した経緯を教えてください。
きよみさん
2021年10月に初めて受診した際、血液検査とマンモグラフィ検査の結果を見て、その場で「乳がんの疑いがある」と告げられました。すぐに針生検(太い針を刺して組織の一部を採取し、がん細胞の有無や性質を調べる検査)を実施し、2週間後の再診で「左乳がん」と確定診断が出ました。さらに、細胞診の結果からトリプルネガティブであることも判明し、腫瘍の大きさや転移の有無から、病期(ステージ)は2Aと診断されました。
編集部
病気が判明した時の心境はどのようなものでしたか?
きよみさん
がんの家系ではなかったので、「何で私が」「家族に何と話そう」という思いが頭の中をぐるぐると回り、ただぼうぜんとしていました。加えて、訪問看護師としての仕事がとても楽しかっただけに、これから仕事を続けられるのかという不安も大きくのしかかりました。
編集部
治療は、どのように進んでいったのでしょうか?
きよみさん
まず、決断を迫られる場面がたくさんありました。手術を先にするか、抗がん剤を先にするか、そして乳房の部分切除にするか、全摘出にするか……。さらには予後についてなど、病期の状態やサブタイプから必要な治療方針について、さまざまな説明を受けました。悩んだ末に手術を先に行うことを選び、11月末には部分切除手術を受けました。全摘出と部分切除で迷いましたが、主治医から「再発率はほぼ同じ(※当時の主治医の見解です)」と聞いたことが決め手になりましたね。
編集部
術後、抗がん剤治療へとスムーズに進めたのでしょうか?
きよみさん
順調には進みませんでした。術後2週間で職場に復帰した際、仕事中に膝蓋骨(しつがいこつ/膝のお皿)を骨折してしまったんです。足を固定する手術が必要になったことで抗がん剤治療が遅れ、乳がんの術後2カ月たってからようやく開始することになりました。
抗がん剤治療は、2種類の薬を4クールずつ、計8クール実施しました。その後、部分切除で乳腺が残っているため、転移や再発のリスクを減らす目的で放射線療法(高エネルギーのX線を照射し、目に見えないがん細胞を死滅させる治療)を16回行いました。
編集部
がん治療と並行して行う骨折治療は、肉体的にも大きな負担だったと思います。
きよみさん
そうですね。放射線治療の終了を待って膝蓋骨骨折の再手術を行い、その後、術後の病理結果を踏まえた補助療法として、抗PD-1抗体というタイプの免疫チェックポイント阻害薬(自身の免疫細胞を活性化させて、がん細胞を攻撃させる薬)による追加治療を開始しました。
しかし、2022年12月から開始した4回目の投与の時期に新型コロナウイルスに感染し、そのころから顔に浮腫(むくみ)が表れ始めました。薬剤の副作用によって腎機能障害を引き起こしていたんです。さらに、腎機能障害の治療のためにステロイド剤の大量投与を開始した結果、骨粗しょう症になり、転倒した際に骨盤を骨折。救急搬送されて治療を受ける事態にまで陥りました。
リハビリテーションを進める中で、甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が減り、疲労感やむくみなどが出る病気)や心嚢液貯留(しんのうえきちょりゅう/心臓の周囲に液体が溜まる状態)なども発覚しました。これらの症状は全て免疫チェックポイント阻害薬の副作用でした。最終的に、これ以上の継続は危険と判断され、免疫チェックポイント阻害薬の使用は中止となりました。
元の仕事を再開できるほど回復できた

編集部
過酷な治療とけがを乗り越える際、心の支えになっていたものは何ですか?
きよみさん
家族です。夫と次男には本当に支えてもらいました。骨折などで家事が大変なときは代わってくれましたし、病院への送迎は夫がしてくれました。また、「治療が終わったら大好きなアーティストのライブに行きたい」と話したところ、夫と次男が「一緒に行こう」と励ましてくれたことも大きな希望になりました。
編集部
現在の体調はいかがでしょうか?
きよみさん
免疫チェックポイント薬の副作用で発症した甲状腺機能低下症については、現在も治療を継続しています。ただ、乳がんに関しては治療を終えて経過観察中であり、年1回の定期検査で4年間、再発は見られません。完全に社会復帰してから1年が過ぎ、訪問看護師として毎日忙しく働いています。
編集部
病気を経て、変化したことはありますか?
きよみさん
自分の体を何よりも大切にするようになりました。今は日々を大事にしながら暮らしています。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
きよみさん
入院中、乳がんの対応に不慣れな看護師が多かった印象があります。医療従事者には、もう少しでいいので病気について勉強してもらえるとうれしいですね。また、医療従事者が安易に発する「大丈夫」という言葉は、時に患者さんを傷つけるという事実を深く理解してほしいと思います。
編集部
もし病気が判明する前の自分に声を掛けられるなら、何と伝えますか?
きよみさん
「検診に行って」「治療中は無理をしちゃ駄目だよ」「とても親身になってくれる信頼できる医師に巡り会えるから大丈夫」「病気のことは安心して」と伝えたいですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
きよみさん
乳がんは9人に1人がかかるくらい一般的で、決して珍しい病気ではありません。だからこそ新しい治療法もどんどん登場していますし、早期発見できれば治療は可能です。「自分には関係ない」と思わずに、ぜひ検診を受けて自分の体を大切にしてください。また、治療中は一般的に言われている副作用以外にも、私のように予期せぬ副作用が出ることがあります。ささいなことでもいいので、体調の変化があればしっかりと医師に伝えてください。
病気になると主治医と話す機会が多くなります。もし「自分と向き合ってくれない」と感じたときは、セカンドオピニオン(別の医師の意見を求めること)も検討してみてください。がん相談支援センターなどに連絡して、ほかの意見や知識を取り入れることは悪いことではありません。緩和ケアについても、「末期だから受けるもの」という誤解を捨て、がんになったら早い段階から相談していいということを知っておいてほしいと思います。
編集後記
トリプルネガティブ乳がんは、その性質上、通常の乳がんに比べて治療の選択肢が制限されやすい病気です。しかし、治療の選択肢は日進月歩で変化しており、医療機関に相談することで、さまざまな選択肢を提示してもらえます。予防医療として検診やドックを受けると同時に、がんになった場合の対応策もあらかじめ想定しておくことが大事な時代といえるでしょう。
本稿には特定の医薬品、医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学乳腺外科病院)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。



