「胃がんの末期症状」はご存じですか?ステージ別の生存率も医師が解説!

胃がんは進行が早く、発見が遅れるとがん細胞が胃壁を超えて周辺組織や臓器に広がり、最終的には全身に転移することがあります。 ステージ4の末期胃がんでは、腹水や激しい痛みといった症状が現れることが一般的です。 早期がんなら予後は良好でも、ステージが進んだ末期胃がんでは生存率は大きく低下します。治療方法も限定的なのが末期がんです。 本記事では胃がんの末期症状やステージごとの生存率を解説します。治療法も紹介するので参考にしてみてはいかがでしょうか。

監修医師:
永井 恒志(医師)
平成15年金沢医科大学医学部卒。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て東京大学大学院医学系研究科教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
特に免疫細胞であるM1マクロファージの画期的な機能の一端を解明した。現在は腫瘍免疫学の理論に基づきがんの根絶を目指してがん免疫療法の開発と臨床応用を手掛けている。
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胃がんとは?
胃がんは胃の内面にある粘膜上に発生するがんです。胃がんは組織的には分化型と未分化型に分けられます。多くのがんは正常細胞に近い分化型で、進行は早くないタイプです。未分化型のなかにはスキルス胃がんがあり、これはまとまった形をとらず、胃壁を硬く変化させながら急速に進行するタイプです。
胃壁は内側から粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜に分かれ、がんは進行につれて粘膜から漿膜の方向へ広がります。
漿膜に達したがんは表面に出て、隣接したリンパ節・大腸・膵臓・肝臓などの臓器に浸み込むように広がります。これは浸潤と呼ばれる転移で、さらにリンパ液や血液に混ざって離れた臓器に広がるのが遠隔転移です。
胃がんの末期症状
胃がんの初期は症状があまり出ません。その後進行するにつれて、胸やけ・吐き気・食欲不振・痛み・違和感・不快感などの症状が見られるようになります。さらに進行して末期の状態になると見られる主な症状は以下のとおりです。
体重の減少
胃がんの末期になると、体重が著しく減少します。胃がんの進行により大きくなった腫瘍のために、胃本来の機能が低下します。食欲がなくなるのに加え、食物を消化したり栄養分を吸収したりするのが難しい状態です。吐き気のために食べたものをもどしたり、胃の中が腫瘍で狭くなったりするため、食物がつかえて食べられないこともあります。
胃がんの末期ではこうした状態が続くため、必要な栄養が摂取できずに体重が減少するのが特徴です。
腹水が溜まる
腹水は腹膜などで産生され、血管やリンパ管に戻って一定量が維持されるしくみです。しかし、末期胃がんでは腹腔内に存在するがんのために炎症がおこり、腹水の滲出量が増加します。また腹水を血管・リンパ管にもどす機能も低下し、その結果おこるのが腹腔内に腹水が大量に溜まる症状です。大量の腹水が胃・腸・腎臓などを圧迫しておこるのが、膨満感・食欲不振・排尿障害などです。
吐血や下血
胃がんが進行すると、がん組織内には新しい血管が作られます。この血管はもろく出血しやすいために、胃のがん病巣からは慢性的な出血がおこります。溜まった血液が口から出ると吐血になり、腸を通って肛門から排出されたものが下血です。胃がんによる下血では、黒い便が出る黒色便が特徴です。
背中や胸の痛み
胃がんが末期になると、肝臓などの隣接臓器のほかに肺・脳・骨などの離れた臓器への遠隔転移が見られます。転移がおこりやすい臓器には肝臓があり、ここに転移した場合は黄疸や倦怠感とともに、腹部や背中の強い痛みが出るのが特徴です。また、肺に遠隔転移すると合併症としてがん性胸膜炎やがん性リンパ管炎がおこり、胸の痛みを感じるようになります。
胃がんのステージ(病期)と生存率
胃がんの進行度はステージ(病期)で表示されます。主に治療方針を決めるために使われ、深達度(深さ)や転移の状況が基準です。ステージによって、その後の生存率は大きく変わってきます。胃がんの進行度はステージ(病期)で分類
胃がんのステージは1の初期から4の末期までの4段階が基本です。大まかな区分は以下のとおりです。- ステージ1:がん到達が固有筋層まででリンパ節転移が2個まで
- ステージ2:がんが漿膜外面に出てリンパ節転移が3個以上
- ステージ3:がんが隣接臓器に浸潤
- ステージ4:がんが遠隔臓器に転移
胃がんのステージ別生存率
胃がんは進行した状態で見つかるほど急激に生存率が低下します。ステージごとの5年生存率は以下のとおりです。- ステージ1:92.8%
- ステージ2:66.6%
- ステージ3:41.4%
- ステージ4:6.7%
胃がん末期の治療法
胃がんが末期のステージ4に達すると、根治手術は難しいと判断されることが多いです。理由は、がん病巣が広範囲に及び、完全切除が困難であるためです。ほかの治療によって病状が改善すれば、場合によっては手術が可能になることもあります。化学療法
遠隔転移がある末期の胃がん治療では、化学(薬物)療法が中心です。化学療法に使用する薬物には、以下のような種類があります。- 細胞障害性抗がん薬:がん細胞の増殖抑制と攻撃
- 分子標的薬:がん細胞の増殖に関与する細胞を標的に攻撃
- 免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞が免疫細胞の攻撃性を抑制するのを防ぐ
放射線治療
胃がんには放射線の効果が限定的であるため、末期の胃がんに対する放射線治療は根治を目的とせず、症状緩和のために行われます。がん病巣のために食物が通らないとか痛みが強い場合に、放射線で病巣を縮小させて症状を緩和します。
治療後、重篤ではありませんが副作用がおこる場合があります。倦怠感・食欲低下・嘔吐・腹痛・下痢などの症状です。
緩和手術
緩和手術は治癒が望めない末期がんに対して行われます。胃がん病巣からの出血や消化管の狭窄がある場合に行い、目的は切迫した状況の改善です。問題なく切除できる場合は胃を切除しますが、そうでない場合はバイパス手術になります。手術で狭窄などが改善できれば生活の質の向上が望め、良好な予後が期待できます。
対症療法(緩和ケア)
胃がん末期では対症療法がより重要です。患者さんの多くに苦痛があり、だるさ・下痢・吐き気などに耐える日々が続きます。こうした身体のつらさには、対症療法による緩和ケアが行われます。また、精神的な不安感も大きくなるため、気持ちのつらさに対する専門的な緩和ケアも必要です。がん診療連携拠点病院にはケアのための支援センターとチームが設置され、緩和ケアを行います。
胃がんの末期症状についてよくある質問
ここまで胃がんの末期症状・ステージ・生存率・治療法などを紹介しました。ここでは「胃がんの末期症状」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
末期の胃がんはどのような状態のことですか?
末期の胃がんでは、がんが胃壁を破って隣接臓器に入り込み、リンパや血液に乗って離れた臓器に転移した状態です。転移先の臓器でもがんの症状が進行しています。胃本来の機能低下により、食べ物の消化・吸収能力が衰えて全身の衰弱や著しい体重の減少が見られる時期です。末期の治療の多くでは、胃がんと転移がんの進行抑制や苦痛の緩和を図るケアに重点が移ります。
末期の胃がんの余命はどのくらいですか?
平均余命については8ヶ月や3~6ヶ月と示されることが多く、一般的には半年程度と考えられているようです。この余命ですが、明確な算出方法は確立していません。医師が患者さんの状態や過去の事例、生存率・中央値などを考慮し、自身の経験をもとに見積もるものです。患者さんの状況次第で変動するため、一概にはいえません。
編集部まとめ
今回は胃がんの末期症状をメインに解説しました。胃がんの末期は遠隔転移があり、末期症状も腹水・体重減少・背中や胸の痛みなど全身的です。 胃がんは早期発見しやすく初期なら生存率も良好ですが、ステージ1から4に進行するにつれて急速に低下します。 治療法としては根治手術が難しいため、化学療法を中心に緩和療法が併用されることが一般的です。進んでしまうと治療の選択肢も少なくなるので、検診を受けるなど早期発見が大切です。胃がんと関連する病気
「胃がん」と関連する病気は4個程あります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
どれも胃がん以外の胃の良性疾患です。胃潰瘍・胃炎では、傷みや下血など胃がんと同じような症状です。ピロリ菌感染症は胃炎や胃潰瘍の原因になり、胃がんのリスクを高める要因でもあります。
胃がんと関連する症状
「胃がん」と関連している、似ている症状は5個程あります。各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
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