「乳がんの手術費用」はどれくらいかかる?治療の支援制度も解説!【医師監修】
乳がんは女性だけでなく、男性でも発症するリスクのある病気です。乳がんが進行すると、周りの組織を壊しながら、がん細胞は増殖します。
増殖したがん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って、乳房の近くのリンパ節・骨・肝臓・肺・脳などに転移する可能性は否定できません。そのため、乳がんの進行具合によっては手術が求められることもあります。
では、乳がんの手術費用はどのくらいなのでしょうか。本記事では乳がんの手術費用・手術以外の治療費用・支援制度も解説します。
乳がんの手術に関する知識を深めたい方は、ぜひご一読いただければ幸いです。
監修永井 恒志
平成15年金沢医科大学医学部卒。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て東京大学大学
院医学系研究科教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器
病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
特に免疫細胞であるM1マクロファージの画期的な機能の一端を解明した。現在は腫瘍免疫学の
理論に基づきがんの根絶を目指してがん免疫療法の開発と臨床応用を手掛けている。
目次 -INDEX-
乳がんとは?
乳がんは乳腺組織に発生する悪性腫瘍(がん)です。乳房組織は6つの部位から構成されています。
- 大胸筋
- 脂肪組織
- 乳腺
- 乳頭
- 乳管
- 小葉
上記の構成のうち、乳がんの約95%は乳管に発生します。残りの約5%は小葉です。
乳管に発生したものを乳管がん、小葉に発生したものを小葉がんといいます。乳房には乳腺が張り巡らされているため、どこにでも発生するリスクがあります。しかし、乳管がんの好発部位は約半数が乳房の上外側です。年間約6万人が乳がんを発症し、約1万人を超える患者さんが亡くなっています。
女性のがん罹患数ではトップクラスで、14人に1人が発症しています。
乳がんの手術費用はどのくらい?
では本題の手術にかかる費用について解説します。乳房部分切除術・乳房全切除術・乳房再建の3つに分けて費用の相場をお伝えするので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
乳房部分切除術の費用相場
乳房部分切除術の費用相場は、3割負担の場合で約270,000円(税込)です。乳房部分切除術は、がん化した細胞と周辺部分を切除して、がんが広がったり転移したりすることを防ぐ目的で行われます。
また、切除したがん細胞は病理検査にかけられます。この病理検査で、新たながんが見つかることもあると留意しましょう。もし新たながんが見つかった場合には、抗がん剤治療や乳房全切除術などの治療が追加されることがあります。
乳房部分切除術の入院日数は、5〜7日程度です。
乳房全切除術の費用相場
乳房全切除術の費用相場は、3割負担の場合で約400,000円(税込)です。乳がんが広範囲に進行したり、乳房内に複数のがんが発生していたりする場合に乳房をすべて切除します。乳房全切除術の入院日数は、9〜14日程度です。
乳房再建の費用相場
乳房再建の費用相場は約1,500,000〜3,000,000円(税込)です。人工シリコンや自身の組織(お腹や背中から採取)を用いて、乳房を新たに作る手術です。
乳房全切除術と同時に行う一次再建と、乳房全切除術から数ヶ月〜数年空けて行う二次再建があります。乳房再建は合併症のリスクがあります。どのようなリスクがあるのかをしっかり理解したうえで乳房再建を受けるか判断しましょう。
手術による入院日数は2週間程度ですが、メンテナンスが必要なため、1ヶ月程度余裕をもって休暇を取ることが推奨されています。
乳がんの手術以外の治療にかかる費用
ここからは乳がんの手術以外の治療にかかる費用についても解説します。薬物療法と放射線治療に分けてお伝えしていきます。
薬物療法の費用相場
薬物療法は、抗がん剤治療のことです。AC療法・TC療法・FEC療法・分子標的治療があります。薬物は治療方法・治療期間・回数によってかかる費用は異なります。
FEC療法は近年あまり使用されていませんが、AC療法・TC療法は標準薬物療法です。標準薬物療法のみで治療を行った場合、1ヶ月でかかる費用は約150,000円(税込)とされています。
分子標的治療を行うのであれば、分子標的薬Bの費用240,000円(税込)が追加され、1ヶ月で薬390,000円(税込)かかることになります。
放射線治療の費用相場
乳がんの放射線治療の費用相場は、約150,000〜300,000円(税込)です。ただし、治療期間や回数によってかかる費用は異なります。
費用相場の金額は、乳がん手術後に行われる放射線治療の25回〜30回分の金額です。3割負担の場合は約100,000〜120,000円(税込)になります。放射線治療の費用計算は大まかに1日10,000円で計算されることがほとんどです。
乳がん治療の支援制度
「乳がんは治したいけれど、治療費が高額で不安」と感じている方も少なくないでしょう。ここからは乳がん治療の支援制度について解説します。
高額療養費制度
高額療養費制度は医療費の払い戻しを受けられる制度です。70歳未満の方で入院・手術・薬物療法などで高額な医療費がかかりそうなときに利用できます。加入している以下の公的医療保険窓口で申請しましょう。
- 健康保険組合
- 協会けんぽ
- 国民健康保険
- 後期高齢者医療制度
限度額適用認定証を申請することで、病院の窓口で支払う医療費の上限を限度額までに抑えられます。高額療養費制度を利用していない状態で治療を受けた場合は、後から申請することも可能です。
医療機関で支払った医療費でも、自己負担限度額を超えた分が2〜3ヶ月後に返ってきます。70歳以上の方は、月ごとに決められた医療費上限額があるため、加入先の健康保険窓口や市町村医療費窓口で確認しましょう。
医療費控除
医療費控除は確定申告で申請を行う制度です。1月1日から12月31日までの1年間で医療費が100,000円を超えた場合に、所得税として返ってきます。
住所地を管轄する税務署で申請しましょう。申請時には、領収書やおむつ使用証明書などが必要です。控除の対象になるものとならないものがあるため、前もって確認しておきましょう。
傷病手当金
傷病手当金は病気や大きな怪我などで仕事ができない場合に生活を保障してくれる制度です。
ただし、この制度は健康保険に加入している方のみが受けられます。支給期間は支給開始日から1年6ヶ月までで、自身の月収額から3分の2が支給されます。傷病手当金の申請には病気や怪我の証明書が必要です。
- 健康保険組合
- 全国健保協会
- 共済組合
- 国民健康保険組合
上記のうち、自身が加入している健康保険窓口で申請しましょう。
介護保険制度
介護保険制度は、65歳以上かつ要支援・要介護認定の方が利用できる制度です。脳卒中や初老期痴呆などを患った方であれば、40〜64歳の方でも介護保険制度の対象になります。
ただし、住民票がある市区町村に申請して認定を受ける必要があります。認定の区分によって給付金の月額上限が決定され、その範囲内で介護サービスを受けられるというものです。利用したサービスの1〜2割が自己負担となります。
妊孕性温存治療費助成事業
妊孕性温存治療費助成事業は、小児や思春期の若年性がん罹患者が、将来子どもを授かる可能性を温存するために必要な医療費の一部を負担する制度です。
- 胚(受精卵)凍結治療:350,000円(税込)
- 未受精卵子凍結治療:200,000円(税込)
- 卵巣組織凍結治療:400,000円(税込)
- 精子凍結治療:25,000円(税込)
- 精巣内精子採取術による精子凍結治療:350,000円(税込)
- カウンセリング:5,000円(税込)
上記は医療費助成対象となる治療法とその負担上限額です。対象者一人に対してカウンセリングは1回、治療は2回まで利用できます。
この制度を受けるにはいくつかの要件をすべて満たす必要があるため、まずは市町村の窓口で確認することをおすすめします。
乳がんの手術費用についてよくある質問
ここまで乳がんの手術・費用などについて紹介しました。ここでは「乳がんの手術」についてよくある質問にMedical DOC監修医がお答えします。
乳がんの検診にかかる費用を教えてください。
永井 恒志 医師
乳がんの検診は約9,000円(税込)かかります。市町村で行っている乳がん検診もあるため、自身が受けやすい場所と費用で選んで受診しましょう。
手術の入院時にかかる費用を教えてください。
永井 恒志 医師
入院時にかかる費用は、部屋の広さや設備などによって異なります。相場は約10,000〜70,000円(税込)です。年齢や利用している支援制度によっても費用は変化するため、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。
編集部まとめ
今回は乳がんの手術費用・手術以外の治療費用・支援制度について解説しました。
乳がんは14人に1人の女性が発症する、身近な病気です。女性にとって胸は大切な部位になります。
早期発見と早期治療に努めるためにも定期検診を受けるよう留意しましょう。手術を予定している方は、少しでも本記事が悩み解消の一助となれば幸いです。
乳がんと関連する病気
「乳がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
乳房には乳がん以外にも注意してほしい病気があります。乳腺は病気になりやすい組織のため、定期的な検診を受けることが大切です。
乳がんと関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- しこり
- 脇の下のリンパ節の腫れ
- 乳房のへこみ
- 乳房の痛み
しこりは乳がんを発見するきっかけとなりやすい症状の1つです。一方、脇の下のリンパ節の腫れといった乳房に関係ないような部位に影響が出ることもあります。セルフチェックを毎日行い、自身の胸の変化にいち早く気付けることが大切です。