「悪性リンパ腫の治療費」はどれくらいかかる?治療費負担を下げる制度も解説!
悪性リンパ腫の治療費と聞くと、高額なイメージを持つ方もいるかもしれません。実際に、選択する治療法によっては、費用が高くなる場合もあります。
公的医療保険が適用されても、高額な医療費は大きな経済的負担となり、生活に支障をきたす方も少なくありません。
ここでは、悪性リンパ腫の治療法や治療にかかる費用、治療費の負担軽減のために活用できる制度について解説します。
監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
目次 -INDEX-
悪性リンパ腫とは?
悪性リンパ腫は、血液がんの一種であり、免疫機能を担う白血球の一部であるリンパ系細胞ががん化する病気です。
悪性リンパ腫は大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分類され、さらに非ホジキンリンパ腫はB細胞リンパ腫・T細胞リンパ腫・NK細胞リンパ腫に分かれます。これらはさらに細分化され、現在では100種類以上の病型(病気のタイプ)が存在するとされているのが悪性リンパ腫です。
また、日本人が罹患する悪性リンパ腫の約90%が非ホジキンリンパ腫とされています。発生部位は主にリンパ節・胸腺・扁桃腺・脾臓などのリンパ組織です。
ただし、リンパ球は血液を通じて全身を巡るため、リンパ組織以外の全身のどこでも発症する可能性があります。
悪性リンパ腫の症状としては、首元・わきの下・膝の裏・足の付け根など、主要なリンパ節に腫れやしこりが現れることがあります。多くの場合、これらは触っても痛みをそれほど感じません。
その他にも、発熱・体重減少・皮膚の腫瘤や発疹などが見られることがありますが、症状は発生した部位によって異なります。
悪性リンパ腫の主な治療法
悪性リンパ腫の種類や悪性度の分類が明らかになった後、治療方針を決定します。治療方法は、患者さんの全身状態や悪性リンパ腫の種類などに応じて異なります。
抗がん剤療法
抗がん剤療法は薬物療法の一つで、使用される薬は細胞障害性抗がん薬と呼ばれる種類のものです。
細胞障害性抗がん薬は、細胞の増殖メカニズムに着目し、その一部を阻害することでがん細胞を攻撃するのが特徴です。投与方法は点滴が一般的となっています。
がんの種類によっては、1種類の抗がん薬を用いる場合もあれば、複数の抗がん薬を組み合わせて使用する場合もあります。
分子標的療法
分子標的療法も薬物療法の一種で、使用される薬は分子標的薬と呼ばれます。
この薬は、種類によってがん細胞への働き方が異なるのが特徴です。分子標的薬には、小分子化合物と抗体薬の2つのタイプがあります。小分子化合物は薬の成分が小さく作られている分子標的薬です。
がん細胞の増殖に関わるタンパク質に反応し、細胞内に入り込むと、がん細胞から送られてくる細胞を増やす信号を受け取らないように阻止します。小分子化合物は飲み薬として投与されるのが一般的です。
抗体薬は、特定のタンパク質を標的にして作用するタンパク質で作られています。抗体薬には、がん細胞のタンパク質を直接攻撃するものや、がん細胞の周囲にある細胞や組織に働きかけてがん細胞の活動を抑えるものがあります。抗体薬の多くは点滴での投与です。
放射線療法
放射線療法は、腫瘍部分に狙って放射線をあてることで、がん細胞にダメージを与える治療法です。
放射線療法には、外部から放射線を照射する外部照射と、体の内側から放射線を照射する内部照射の2つの方法があります。
治療に使用される放射線の種類は、X線・γ線・陽子線・重粒子線・中性子線など、照射部位や照射方法によってさまざまです。また、悪性リンパ腫の種類によっては、放射線治療単独で行う場合と放射線療法とほかの治療法を組み合わせて行う場合があります。
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、赤血球・白血球・血小板のもととなる造血幹細胞を移植(静脈から投与)する治療法です。
通常、この治療法を実施する前には、大量の抗がん剤投与や全身への放射線療法を行う必要があります。この移植前処置と組み合わせることで、根治を目指す治療法として知られています。
造血幹細胞は、患者さん自身から採取したもの(自家移植)か、ドナーから提供されたもの(同種移植)を使用し、移植前処置が完了した後に患者さんへ投与されます。
無治療経過観察
無治療経過観察とは、積極的な治療を行わずに経過を見守ることです。病変が小さく症状がほとんどない場合や、予後不良因子がない慢性型のケースでは、医師と相談のうえ無治療経過観察を選択することができます。
悪性リンパ腫の平均的な治療費は?
令和2年度の厚生労働省によるさまざまな統計調査結果をもとに単純計算すると、悪性リンパ腫の治療にかかる平均的な費用は、年間で約440,000円とされています。
しかし、治療費以外にも診察費・検査費・入院費・その他の入院や通院にかかる費用などが発生します。公的医療保険の対象となるのは治療費・診察費・検査費・入院費などですが、入院中の差額ベッド代や通院時の交通費、食費などは公的医療保険の対象外です。
また、公的医療保険の対象外となる治療法を選択した場合、その費用は全額自己負担となります。
悪性リンパ腫の治療費負担を下げる制度
前述のとおり、悪性リンパ腫の治療にかかる費用は、公的医療保険の対象となる治療であっても、経済的な負担が大きいといえます。ここでは、費用負担の軽減に活用できる5つの制度について解説します。
高額療養費制度
公的医療保険の対象となる医療費には、年齢や所得に応じて、世帯ごとにひと月の上限額が設定されています。
高額療養費制度は、ひと月の医療費がこの上限額を超えた場合に、上限額を超えた分の金額が払い戻される制度です。
また、医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、限度額適用認定証を取得しておくことで窓口での支払いを自己負担の上限額までに抑えることができる仕組みもあります。
高額医療費貸付制度
高額療養費は、払い戻しまでに約3ヵ月かかることがあります。高額医療費貸付制度は、医療費が高額になり支払いが困難な場合に、高額療養費が払い戻されるまでの間、無利子で借りることができる制度です。
返済は、高額療養費が支給される際に、その金額を返済に充てる形となります。この制度の貸付割合は加入している健康保険によって異なるため、利用を希望される方は、まず加入している健康保険に確認することが必要です。
医療費控除
その年の1月1日から12月31日までの1年間に、一定以上の医療費を支払った場合、その医療費に基づいて計算された金額について所得控除を受けることができる制度です。申請の窓口は、お住まいの住所地を所轄する税務署です。
傷病手当金
傷病手当金は、会社員や公務員が病気やケガで働けなくなった際に、基準に応じた金額を受給できる制度です。
ただし、この制度は健康保険・共済・船員保険の被保険者が対象であり、国民健康保険の被保険者は対象外となります。また、受給にはいくつかの条件を満たす必要があるため、勤務先の担当部署や加入している健康保険に確認することが大切です。
障害年金・障害手当金
病気やケガで生活や仕事に著しく支障が出るようになった65歳未満の方を対象に年金支給を受け取れる制度です。
加入している年金保険によって、障害基礎年金・障害厚生年金・障害共済年金に分かれます。障害年金の手続きはやや複雑なため、がん相談支援センターやソーシャルワーカーなどに相談することをおすすめします。
また、障害手当金は障害年金の対象ではない軽度な障害を負った方に対して、一度だけ支給される制度です。ただし、これは厚生年金に加入している方が対象となります。
悪性リンパ腫の治療費についてよくある質問
ここまで悪性リンパ腫の治療費や治療費負担の軽減になる制度などを紹介しました。ここでは「悪性リンパ腫の治療費」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
悪性リンパ腫の治療は保険適用になりますか?
山本 佳奈(医師)
公的医療保険が適用されるのは、厚生労働省により安全性や有効性が認められた検査や治療に対してです。悪性リンパ腫の治療の多くは公的医療保険の対象となりますが、一部の先進医療や特殊な治療法は対象外の場合があります。このような場合、民間保険のがん保険を利用することで、先進医療に対する保障を受けることが可能です。
悪性リンパ腫の医療費助成制度には何がありますか?
山本 佳奈(医師)
悪性リンパ腫で利用できる医療費助成制度には、高額療養費制度・高額療養費貸付制度・医療費控除・傷病手当金・障害年金・障害手当金などがあります。治療費に関する不安がある場合は、がん相談支援センターやソーシャルワーカーに相談することをおすすめします。
編集部まとめ
今回は、悪性リンパ腫の治療法や治療費、そして治療費の負担を軽減できる公的制度について解説しました。
悪性リンパ腫をはじめとするがん治療は、十分な検査が必要で、治療期間が長期にわたることが多く、抗がん剤や放射線治療の費用が高額になることがあります。
利用可能な経済的支援制度を把握し、少しでも経済的負担を軽減して、治療に専念できる環境を整えましょう。
悪性リンパ腫と関連する病気
「悪性リンパ腫」と関連する病気は7個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
- 濾胞性リンパ腫
- MALTリンパ腫
- 成人T細胞白血病リンパ腫
- T細胞リンパ腫・NK細胞リンパ腫
- ホジキンリンパ腫
- 慢性リンパ性白血病
これらの病気は、悪性リンパ腫の一種であり、それぞれ異なる特性や症状を持つため、早期発見と適切な治療が重要です。
悪性リンパ腫と関連する症状
「悪性リンパ腫」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- リンパ節の腫れやしこり
- 発熱
- 大量の寝汗
- 体重減少
- 発疹
- 皮膚の腫瘤
悪性リンパ腫の症状は多岐にわたり、症状が進行するとほかの臓器にも影響を及ぼすことがあります。気になる症状が現れた場合、早めに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが推奨されます。
参考文献