「原発不明がんの余命」はご存じですか？症状と主な転移先も医師が解説！

原発不明がんとは

原発不明がんは、転移が確認されているにもかかわらず、元々どの臓器から発生したのかが特定できないがんを指します。転移とは、がん細胞が原発巣から血管やリンパ管に入り込み、体内を移動してほかの臓器に腫瘍を形成する現象です。
原発不明がんは進行した状態で発見されることが多く、予後が悪い場合が少なくありません。患者さんは多くの検査を受ける必要があり、検査に時間がかかることも少なくありません。患者さんへの負担も大きく、精神的にも肉体的にも厳しい状況に置かれることが多い傾向にあります。成人の固形がん患者さんのうち約1〜5％が原発不明がんと診断されています。

原発不明がんの症状

原発不明がんは、原発巣がわかっていないため、がんが転移している臓器に関与した症状が出現します。
主な症状について、以下に解説します。

リンパ節の腫れ

リンパ節は首の周り、脇の下、太もものつけ根など体の表面に近い場所に位置しており、触診によって容易に確認できる部位です。リンパ節にがんが転移すると、痛みを伴わないしこりとして現れます。日常生活で何気なく触れた際にしこりを感じる場合、注意が必要です。

リンパ節の腫れが引かずに長期間にわたって続く場合や、ほかの症状と併発する場合には、医師の診断を受けることが重要です。原発不明がんは早期発見が困難なため、こうした初期症状を見逃さず、適切な医療機関での精密検査を受けることが、早期治療への鍵となります。

胸水・腹水

胸水が溜まると、肺が圧迫されるために息苦しさを感じるようになります。また、呼吸困難や咳を引き起こし、階段の昇降や軽い運動が困難になるなど、日常生活における動作が制限される可能性があります。

一方、腹水が貯留すると、お腹が張ったような感じ（腹部膨満感）が出てきます。腹部膨満感は、食欲不振や消化不良を引き起こすことがあり、患者さんの食事摂取に影響を与えます。また、腹部が膨れることで、着衣がきつく感じることや、腹痛を伴うこともあります。腹水が大量に溜まると、立ち上がることや座ることすら困難になる場合もあります。

こうした症状は、がんの進行を示唆する重要なサインであり、早期に医療機関への受診が推奨されます。

肺腫瘍・肝腫瘍

肺腫瘍が発生すると、咳や胸痛、さらには嗄声（声のかすれ）などの症状が現れることがあり、健康診断で行われる胸部X線検査によっても発見されることがあります。

一方、肝腫瘍はその大きさや位置により、お腹の上部に不快感や膨満感を引き起こし、大きな腫瘤が触れることもあります。無症状の場合でも、超音波（エコー）検査や画像診断で偶然発見される場合が多いようです。そのため、健康診断などで発見されるケースも少なくありません。

骨に関する症状（痛み・しびれなど）

骨に転移したがんは、強い痛みを引き起こし、夜間や活動時に痛みが増すことがあります。
また、がんが骨に転移し神経が圧迫されると、しびれや麻痺などの神経症状が現れることもあります。

原発不明がんは、骨のX線検査で異常が見つかる場合や、骨折が起こることでがんが発見されることもあります。がんによる骨の弱化が原因で、軽い外力でも骨折しやすくなることがあります。

その他の症状

原発不明がんは、さまざまな部位に影響を及ぼすことがあり、その他の症状として脳や全身に関わる症状が現れることがあります。脳に転移した場合、頭痛や吐き気、痙攣、手足の麻痺、さらにはろれつが回らないなどの神経症状が発生することがあります。

また、がんによる全身の炎症反応が原因で、原因不明の体重減少、食欲不振、倦怠感、発熱などが見られることがあります。

複数の症状が同時に現れる場合は、がんの進行が考えられるため、迅速な対応が求められます。早期発見と適切な治療が、症状の悪化を防ぎ、患者さんの予後を改善するために不可欠です。

原発不明がんとして見つかる転移先の部位

原発不明がんが見つかる転移先で多いのはリンパ節です。リンパ節は体中に広がるリンパ液の流れが集まる場所であり、がん細胞が転移しやすい部位です。次いで多い転移先は肺、肝臓、骨、脳などです。これらの部位は血液やリンパ液の流れが多いため、がん細胞が運ばれやすく、転移が生じやすいとされています。

また、原発不明がんは単一の臓器にとどまらず、複数の臓器に同時に転移することも珍しくありません。このため、診断と治療は複雑化し、患者さんにとって負担となることがあります。

原発不明がんの余命

原発不明がんは予後不良とされることが多く、生存期間中央値は約11ヵ月です。しかし、予後が相対的に良好な群も存在します。例えば、女性で腋窩リンパ節転移（腺がん）のみが認められる場合、乳がんに準じた治療を行うことで10年生存率が約65%とされています。その他、特定の臓器からの転移が強く疑われる場合や特定の組織型が認められる場合には、適切な治療を施すことで長期生存が期待されます。

予後良好な群には、女性の腋窩リンパ節転移、腹膜転移（乳頭状腺がん）のみ、男性のPSA上昇と造骨性転移、頸部リンパ節転移（扁平上皮がん）のみ、鼠径部リンパ節転移（扁平上皮がん）のみ、特定の内分泌腫瘍、小さくて切除可能な腫瘍などが挙げられます。また、転移が1ヵ所のみ、肝転移がない、全身状態が良好、血清LDHやアルブミンが正常などの条件も、予後良好因子です。

原発不明がんの診断・治療

原発不明がんの診断には、多岐にわたる検査が必要です。全身をくまなく調べることで、原発巣の特定を試みます。具体的には、内科、外科、頭頚部、乳房、婦人科、泌尿器科などの診察、血液検査や腫瘍マーカー、CT、PET、MRI、超音波検査、内視鏡検査、気管支鏡検査などが行われます。また、病変の一部を採取し、顕微鏡で観察する病理検査を実施し、がん細胞の特徴から原発が推測されることがあります。

治療方針は、がんの広がりや患者さんの状態を考慮して決定されます。原発不明がんは遠隔転移が見られることが多いため、化学療法が主な治療法となります。細胞障害性抗がん剤を使用し、全身療法としてがんの進行抑制が目的です。場合によっては、放射線治療や手術摘出も行われます。

特定の臓器からの転移が疑われる場合には、その臓器に準じた治療が行われます。しかし、治療の想定ができない場合も多く、その場合は化学療法や緩和治療が選択されます。化学療法は外来で行うことが多く、日常生活を続けながら治療を継続します。治療期間中は医師、看護師、薬剤師、栄養管理士、臨床心理士などのチームがサポートし、患者さんの生活の質を維持するための支援が行われます。