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「原発不明がん」という原発巣が特定できない「がん」はご存知ですか?

 更新日:2023/10/17
「原発不明がん」という原発巣が特定できない「がん」はご存知ですか?

原発不明がんは、原因となる臓器(原発巣)が特定できない転移性がんのことです。病巣の部位やがんの組織型が異なるさまざまな病態が含まれます。

原発不明がんについて治療方法や生存率を詳しく解説します。

上 昌広

監修医師
上 昌広(医師)

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東京大学医学部卒業。東京大学大学院修了。その後、虎の門病院や国立がん研究センターにて臨床・研究に従事。2010年より東京大学医科学研究所特任教授、2016年より特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長を務める。著書は「復興は現場から動き出す(東洋経済新報社)」「日本の医療格差は9倍 医療不足の真実(光文社新書)」「病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)」「ヤバい医学部(日本評論社)」「日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか(毎日新聞出版)」。

原発不明がんとは?

診察を受けるシニア男性

原発不明がんはどのような病気ですか?

この病気は先に転移した先の臓器から見つかるがんであり、原因となる臓器(原発巣)が特定できない状態を指します。
本来は最初に発症した臓器が存在するはずですが、原発不明がんでは病巣は転移として確認されるものの、詳細な検査を行っても原発巣が明確に特定できない状態です。
既に転移が進行しているため予後が比較的悪い場合が多く、原発巣を見つけるための検査が複雑で時間を要するため、患者さんの負担も大きくなるでしょう。
報告によって頻度は異なりますが、原発不明がんの割合は成人固形がんの1%から5%程度とされています。

原発巣と転移巣はどのように違うのでしょうか?

原発部位は最初に発生した臓器を指し、そこで発生したがんを原発巣といいます。一方、原発巣から離れた部位で進行したがんを転移巣と呼ぶのです。
例えば、肺にがんがある場合でも、大腸のがんが肺に転移した場合は肺がんではなく、大腸がんの肺転移と診断されます。ここでは大腸がんが原発巣であり、肺がんが転移巣となり、転移巣は原発巣の性質を示すのです。
画像検査や内視鏡検査においては転移巣が最初に見つかり、さまざまな検査を行っても原発巣が特定できない悪性腫瘍を指します。
しかし、病理検査により転移巣として確認されるでしょう。原発不明がんは全体の悪性腫瘍の1〜5%程度を占める頻度です。

原発巣がわからない原因を教えてください。

原因としては、原発巣のがんが非常に小さく各種検査では検出されないまま症状が進行し、転移巣が大きくなる可能性が考えられます。また、転移が始まった後に、何らかの要因により原発巣が縮小または消失することも考えられるでしょう。
最近では、進化した検査や診断技術により、多くの転移がんの原発巣が特定できるようになりました。しかし、依然として原発巣が明らかにならないケースも存在します。
原発不明がんは、全ての悪性腫瘍の約3〜5%を占め、頻度は決して低くはありません。

原発不明がんにはどのような症状がみられますか?

原発巣が不明ながんでは、症状は病変の場所によって異なります。リンパ節の腫れ・胸水・腹水の蓄積・肺や肝臓の腫瘍によるせき・呼吸困難・腹部の膨満感・むくみ・骨転移に伴う痛み・しびれ・麻痺などが現れることがあるでしょう。
病理解剖による報告では、膵臓・胆道・肺がよく見られる原発部位です。がんが既に転移しているため、原発巣が特定できなくても、原発不明がんとして治療が行われます。
治療の目的は根治を目指す時期を過ぎていることが多く、症状の緩和や経過の管理が主となるでしょう。全身の状態に応じて、手術や放射線治療などの局所療法や全身療法(薬物療法)が選択されます。
治療中に原発巣が特定されることも珍しくありません。その場合は原発部位に応じた治療が行われます。

原発不明がんになりやすいのはどのような人ですか?

原発不明がんは、がんの最初の発生部位が特定できない状態を指します。これにより、患者ごとに症状が異なり、適切な治療法の選択が難しくなる特徴があるのです。しかし、がんの発生は生活習慣と密接に関連しているため、生活習慣を見直すことが必要です。
例えば、食生活については栄養バランスの取れた食事を心掛けましょう。特定の食品を偏りなく摂取することが重要であり、特殊な食べ方や食品の過剰摂取は避けるべきです。
運動についても、無理なく継続できる適度な運動を取り入れます。急激な運動開始は身体への負担となるため、徐々に時間を増やして慣らしていきましょう。
また禁煙もがん予防に重要で、禁煙を希望する場合は、医療機関のカウンセリングや禁煙補助剤の活用を検討することが有効です。生活習慣を改善し、無理なく段階的に取り入れ、地道に継続しましょう。

原発不明がんの検査と治療方法

問診表で診察する女医と男性患者胃痛イメージ

受診するべき初期症状はありますか?

がんの原発巣によって、様々な特徴的な症状が現れますが、原発部位が確定していないため、さまざまな症状や経過が見られます。がんが体内で広がる範囲に応じて、関連する臓器に関連した症状が現れます。

  • リンパ節の腫れ:リンパ節に転移した場合、首・わきの下・太ももの付け根などのリンパ節が触れやすく、しこりとして感じられることある
  • 胸水・腹水:胸水がたまると息苦しさが生じることがあり、同様に腹水がたまると腹部が膨満感を覚えることがある
  • 肺腫瘍・腹部腫瘍:肺腫瘍によって咳や胸痛が生じることがあり、肝臓などの腫瘍の大きさや位置によって、お腹の不快感・膨満感・触れるしこりが現れることもある
  • 骨の症状:骨の痛みや、がんが骨に転移して神経を圧迫することによるしびれや麻痺が生じることがある
  • 脳の症状:頭痛・吐き気・痙攣・手足の麻痺・言葉がうまく出ないなどの症状が生じることがある
  • 全身の症状:がんによる炎症のため体全体に関わる症状が現れることがあり、体重減少・食欲不振・倦怠感・発熱などが起きる

このような初期症状や症状が出た場合は、すぐに検査の為に病院に受診しましょう。

原発不明がんの検査と診断について教えてください。

診断には多くの検査が必要であり、患者さんの負担も大きいです。各科の医師がチームを組み、カンファレンスを行いながら、可能な限り迅速な診断を目指しています。診察・血液検査・全身CTなどの全身の検査が行われます。
さらに、必要に応じてPET検査・MRI検査・超音波検査・消化管内視鏡検査・気管支内視鏡検査なども行われるでしょう。同時に、アプローチしやすい病変から組織の一部を採取し、顕微鏡で観察する病理検査も行われます。
病理学的な組織の特徴から原発部位が推測されることもあるので、病理検査には通常1〜2週間程度の時間がかかるでしょう。原発不明がんの診断は複雑で時間がかかる場合がありますが、患者さんの健康状態や治療計画を適切に決定するためには必要な過程です。
主治医との密な連携と相談を通じて、最善の治療方針を見つけることが重要になります。

治療方法を教えてください。

原発不明がんの治療は通常のがん治療とは異なり、原発部位を特定するために、初期の症状や検査結果を基に予測を行うでしょう。原発巣の検索を通じて診断を行い、最も可能性が高い原発部位に基づいて治療します。
原発部位の特定ができない場合は、薬物療法や緩和ケアを組み合わせながら経過観察を行うのです。
一部の原発不明がんには、有効な標準治療法が存在しますが、まれに標準治療法が確立されていない場合もあります。転移や進行が見られる場合、治療の効果が期待できないこともあるからです。そのため、治療による負担を考慮し、治療を行わない選択肢もあります。
また、より効果的な治療を追求するために、新しい治療法の臨床試験や治験に参加する選択肢もあるでしょう。治療は個別の症例に合わせて決定されるため、主治医との綿密な相談が重要です。
患者さんの希望や状況を考慮しながら、最適な治療方針を見つけることが目指されます。

原発不明がんのステージについて教えてください。

原発不明がんの場合、病期(ステージ)分類はまだ存在しません。代わりに、病気の広がり・患者の状態・合併症・年齢などを考慮して、医師チームがカンファレンスを行い、原発不明がんのガイドラインに基づいて最適な治療を提案します。
遠隔転移しているがんであり、通常は全身的な化学療法が主な治療法となります。化学療法では、主に細胞障害性抗がん剤が使用されるでしょう。一部の場合では、局所の病巣に対して放射線治療や手術摘出を組み合わせた治療や、患者の状態に応じて症状を緩和する目的での治療(緩和治療)を選択します。
がん治療は個別の状況によって異なるため、主治医との詳細な相談が重要です。

原発不明がんの生存率

診察をする男性医師

原発不明がんの生存率は低いのでしょうか?

一般的に予後は悪く、ステージ分類も存在しません。信頼性のあるデータは限られていますが、1年生存率は25%未満、5年生存率は10%程度と報告されています。
ただし、原発不明がんの中には予後が良好な症例も存在することがわかっているので、まずは正確な診断を行いどの種類のがんであるかを特定し適切な治療計画を立てることが重要です。
個別の状況に応じて、治療法やケアの選択肢を検討する必要があります。

原発不明がんの余命について教えてください。

一般的に、先述した通り予後が悪いこともあり、余命についてはわかっていません。症状が進行して転移している状態であり、完全な治癒を目指す手術などの治療よりも、進行の抑制や症状の緩和を目的とした治療が主体となります。
ただし原発部位が特定される場合は、その部位に基づいた治療が行われ、一部の患者さんでは治癒が可能であり経過が良好な場合もあるでしょう。医師は、治癒が可能な患者さんや良好な経過を辿っている患者さんを特定するために努めています。
また、原発不明がんの発症率は減少傾向にあり、さらなる減少や知識の向上が期待されるでしょう。症状がなくても健康診断で見つかる場合もあるため、自身の健康に注意し定期的な健康診断を受けることが重要です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

原発不明がんはさまざまな種類のがんを含み、進行度も異なるため、治療方法の選択が困難です。発生部位・転移の有無・全身の状態などを総合的に考慮し、個々の患者に適した治療方針を決定することが非常に重要です。
特に発生部位が特定できずに症状が進行している場合には、局所治療ではなく全身療法が選択されることがあります。抗がん剤と免疫療法を組み合わせてがん細胞に対抗する方法もあります。
治療方針については、主治医と綿密に相談し、納得がいくまで話し合いましょう。

編集部まとめ

案内する男性医師
原発不明がんは、原因となる臓器(原発巣)が特定できない転移性がんのことです。病巣の部位やがんの組織型が異なるさまざまな病態が含まれます。

原因不明な病気なのでいつ、だれがかかるかわかりません。症状が出てからでは遅いこともあるでしょう。

早めの受診が重要であるため、健康診断等を定期的に行い、適切な医師のアドバイスを受けましょう。

この記事の監修医師