「甲状腺がん」手術の”入院期間”や費用は?術後に起こる合併症も医師が解説!

甲状腺がんにかかった場合の入院期間や手術が気になる患者さんやご家族も少なくないのではないでしょうか。
この記事では入院期間や手術だけではなく、手術後に考えられる合併症や、手術以外の治療法について解説します。

監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
目次 -INDEX-
甲状腺がんとは
甲状腺はのどぼとけ(甲状軟骨)のすぐ下にあって前から気管を取り囲むように位置している10~20gの小さな臓器です。蝶のような形をしていて、中央の峡部と左右の腺葉から成り立っています。
甲状腺ホルモンやカルシトニンなどのホルモンを分泌したり、脳や骨の成長や脂質や糖の代謝を促進したりする働きをします。甲状腺がんとは甲状腺結節というしこりのなかでも悪性のもののことです。
甲状腺がんにかかっても、多くの場合は自覚症状がないか、しこり以外の症状がありません。症状が進行するにつれて、のどの違和感・声のかすれ・痛み・飲み込みにくさ・誤嚥・血痰・呼吸困難感などの症状が出てくることがあります。
甲状腺がんの入院期間と手術の流れ
甲状腺がんの手術をする場合の一般的な入院期間と、手術の流れを紹介します。
入院
甲状腺がんの入院期間は基本的には約1週間です。ただし、腫瘍の状況によって入院期間が短縮されることがあります。一方、腫瘍の状況あるいは手術後の合併症などの理由によっては入院期間が延びる場合もあります。
手術
手術は全身麻酔で行うため、手術前日の21時から手術後翌日の朝までは飲食ができません。手術当日の朝は、水分を摂るための点滴を使用します。また、手術が終了した後は、患者さんご本人やご家族に対して説明があります。
手術内容は腫瘍の状況によっても異なりますが、甲状腺を半分残す半葉切除が基本です。頸部の皮膚を5cm程切開し、反回神経を傷付けないようにしながら腫瘍を切除します。その後、止血を確認してドレーンを挿入したら手術は終了です。手術時間は約1.5時間です。
抜糸
甲状腺がんの手術では、出血はほとんどありません。手術当日もしくは翌日から、食事・歩行・トイレなどを行えます。一般的に、抜糸は手術後5日で行われます。
退院
抜糸を終えたら手術後6日で退院するのが一般的です。退院後は翌日からお仕事に復帰することができます。首を安静にする必要もなく、運動をしても構いません。退院時もしくは退院後の外来受診時に、手術で切除した腫瘍の病理組織の結果を説明します。
良性腫瘍の場合、退院後に一度外来を受診し、傷に異常がなければ診察は終了です。悪性腫瘍の場合は退院後も定期的な受診をして、再発していないかチェックを行います。
甲状腺がん手術後の合併症
甲状腺がんの手術を行った後に、生じる可能性のある合併症について紹介します。
反回神経麻痺
反回神経とはのどから胸にかけて位置し、声帯や嚥下機能を司る神経です。甲状腺がんの大きさや部位によっては、手術前から反回神経ががんに巻き込まれていて麻痺していることがあります。
このように手術の前から反回神経ががんに巻き込まれている場合、もしくは手術中にがんに巻き込まれていることが判明した場合、通常は反回神経を切断し可能な限り神経の修復を行います。切除範囲が大きい程、反回神経麻痺のリスクは高くなるでしょう。
反回神経麻痺になると、声が出しにくかったりかすれたりすることがあります。ただし反回神経が温存されていれば一般的には6ヵ月程で回復するでしょう。
甲状腺機能低下・副甲状腺機能低下症
手術によって甲状腺を切除して小さくすることで、手術後に甲状腺ホルモンの分泌量が減少します。これを放置すると甲状腺機能が低下し新陳代謝の低下・だるさ・疲労感・食欲不振などの症状があらわれるでしょう。甲状腺が半分以上残っている場合、一般的には治療を行う必要はありません。
しかし、すべて摘出した場合は、生涯にわたって甲状腺ホルモン薬を飲むことで甲状腺ホルモンを補う必要があります。また甲状腺全摘術の際に副甲状腺も切除して機能が温存できなかった場合、血液中のカルシウム濃度が低下する低カルシウム血症や、手足が痺れるテタニー症状が出る場合があります。
そのため、低カルシウム血症にならないためにビタミンD製剤やカルシウム剤の内服が必要となるでしょう。
後出血
甲状腺がんの手術後、いったん止血したのに再び出血する後出血という合併症が出ることもあります。甲状腺が位置する頸部は狭い空間のため、少量の出血であっても気道閉塞を起こすリスクがある緊急性の高い合併症です。後出血になった場合は、出血を止めるために再開創止血術を行います。
喉頭浮腫
甲状腺をすべて摘出したうえに両側頸部のリンパ節郭清を行った場合、手術後に咽頭浮腫という合併症になる可能性があります。咽頭浮腫になると呼吸困難になるリスクが高いため気道切開による対処が必要です。
手術以外の甲状腺がんの治療法
甲状腺がんの治療法は手術だけではありません。手術以外の治療法を3つ紹介します。
放射線治療
甲状腺がんに対する放射線治療は、放射線を身体の中から照射する内照射と、身体の外から照射する外照射の2種類があります。内照射(放射性ヨウ素内用療法)とは放射性ヨウ素のカプセルを内服し放出される放射線によってがん細胞を破壊する治療法です。
内照射は、目的によってさらに3種類にわけられます。甲状腺全摘後に残っている甲状腺の組織から、がんの再発・転移を防ぐために行われるアブレーションと呼ばれる治療法が1種類目です。2種類目は補助療法と呼ばれ、甲状腺全摘後に周囲の組織に残る小さながん組織を除去する目的で行われます。
3種類目は、がんが残っている場合や遠隔転移で手術ができない場合などに、主に肺転移や骨転移に対して行われる治療法です。放射性ヨウ素のカプセルを内服して数ヵ月後に効果を確認し、がんが小さくなっていることが確認できた場合は半年~1年程の間隔で治療を数回繰り返します。
内服後の一定期間は汗・唾液・尿・便・吐物などの体液に放射性ヨードが排出されるので、数日間は周りの人への被ばくを避けるために専用の部屋への入院が必要です。ただし、アブレーションに限っては一定の条件を満たせば通院治療が行える場合もあります。
希望する場合は主治医に相談してください。外照射は、術後の補助療法や手術ができない未分化がんに対して行われます。その他にも、骨への転移や痛みなどの症状の緩和を目的として行うこともあります。
化学療法
化学療法とは抗がん剤による治療です。甲状腺がんが再発した場合、あるいは転移して乳頭がんや濾胞がんが生じて放射線性ヨウ素内用療法が行えない場合は、分子標的薬を使った化学療法を検討します。遺伝子検査でRETやRTNKなどの遺伝子に変異が見つかった場合は、選択的キナーゼ阻害薬の投与を検討する場合もあります。
内分泌療法
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの分泌を促すだけではなく、甲状腺がんの細胞も刺激してがん細胞を増加させる作用のあるホルモンです。甲状腺がんの手術後は甲状腺ホルモンの不足を補うためにTSHの分泌量が増えます。それを抑えるために、十分な量の甲状腺ホルモン薬を内服することもあります。
甲状腺がんの入院期間についてよくある質問
ここまで甲状腺がんについて入院期間と手術の流れ、手術後の合併症や手術以外の治療法などを紹介しました。ここでは「甲状腺がんの入院期間」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
手術・入院費用の目安はどのくらいですか?
3割負担の患者さんの場合、甲状腺がんの手術・入院は良性腫瘍で約120,000~150,000円です。悪性腫瘍の場合、約170,000~200,000円となるでしょう。ただし、病状や入院期間によって費用は変動する可能性があります。
退院後はどのくらいの頻度で通院すればよいですか?
退院後の通院頻度は、良性腫瘍の場合で半年間に2~3回です。手術後の傷に異常がなければ、診察は終了です。悪性腫瘍の場合は3ヵ月または6ヵ月に1回の頻度で定期通院を継続します。定期的な通院をして、再発していないかチェックします。
編集部まとめ
甲状腺がんの手術・入院は一週間程で終わり、退院後はすぐにお仕事や運動も可能です。
甲状腺のしこりが気になる場合や、のどのかすれや声の出しにくさなどが気になった場合は、お近くの頭頸部外科・耳鼻咽喉科・内分泌外科・甲状腺外科で受診してください。
甲状腺がんと関連する病気
「甲状腺がん」と関連する病気は8個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
甲状腺がんの症状と関連している、あるいは同じような症状を呈することがある疾患としては、上記のようなものがあります。ただし、この症状があるから甲状腺がんだといえるものはないため、こうした症状が現れた際には医療機関で受診するようにしましょう。
甲状腺がんと関連する症状
「甲状腺がん」と関連している、似ている症状は7個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- のどの違和感
- 声のかすれ
- 痛み
- 飲み込みにくさ
- 誤嚥
- 血痰
- 呼吸困難感
これらの症状は甲状腺がんがあっても起こらない場合があるので、ご注意ください。甲状腺がんの症状として、甲状腺以外の臓器にがんが転移した場合に現れるものがあります。こうした症状が見られた際には、すぐに医療機関で受診してください。




