「食道がんの手術」で起こる”3大合併症”は何かご存じですか?手術以外の治療法も医師が解説!

早期発見が難しい食道がんでは、放射線化学療法や化学療法のほか負担の少ない内視鏡治療が相当増えてきましたが、主な治療法は外科手術です。
しかし手術操作の範囲が広く、臓器に囲まれた長い食道の手術は大がかりで、手法も単純ではありません。さらに手術で食道を切除すると、QOL(生活の質)が低下します。
この記事では食道がんの手術を種類ごとに紹介し、合併症や手術以外の治療法も解説します。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
食道がんとは?
食道は咽頭(のど)と胃をつなぐ管状の臓器で、長さは成人で25cm前後です。頸部食道と胸部食道に分かれ、胃とのつなぎ目の5cmの部分は食道胃接合部と呼ばれます。
食道がんはどの部分にもできますが、約半数が集中するのが中央部の胸部中部食道です。食道の管状になった組織は、内側から粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板・粘膜下層・固有筋層・外膜の6層構造で、外側はリンパ節が散在します。がんができるのは粘膜上皮で、進行に伴って深く広く浸潤します。外膜を越えて隣接する気管・大動脈に直接広がるほか、血液やリンパ液に乗って遠隔臓器に移るのが転移です。
食道がんの5年生存率は37%で、胃がんの65%・大腸がんの70%と比べて低く、治療が難しいがんといえます。
食道がんの手術の種類
食道がんで手術が適応になるのは、進行度(ステージ)0〜3です。食道は縦に長く、頸部・胸部・腹部を通ります。がんがある部位によって周囲の環境が違い、手術の方法も変わります。主な手術は以下の4種類です。
頸部食道がんの手術
がんが頸部食道内にとどまっている場合には頸部食道だけを切除します。位置や大きさによっては咽頭・喉頭まで切除、あるいは食道をすべて切除する手術です。
喉頭まで切除した場合は声帯もなくなるので声を失い、気管の入り口を首に造設します。切除した食道の代わりとして、小腸の一部や胃を使って再建手術を行います。食道は肋骨の奥にあり、気管や大動脈・心臓・肺などの臓器に囲まれた難易度が高い手術です。
胸部食道がんの手術
食道がんの半数を占めるのが胸部食道がんです。この手術は切除範囲が広く、胸部食道から胃の上部まですべてと、頸部・胸部・腹部のリンパ節も完全に取り除きます。頸部・右胸部・上腹部を切開する大がかりな手術になり、患者さんの負担も大変です。
切除した食道の代わりに、胃を上に伸ばして頸部食道の下部とつなぎます。6~10時間かかる大手術ですが、近年は胸腔鏡や腹腔鏡に支援ロボットを使って負担を軽くする例が増えてきました。
食道胃接合部がんの手術
食道と胃の接合部は長さ約5cmのせまい部分です。ここにできたがんは食道側や胃側に浸潤しますが、その程度によって手術方法も変わります。食道側に大きく浸潤があれば、胸部食道がんと同じ方法です。
食道側の浸潤が少ない場合は、食道上部は残して胃の上半分かすべてを切除します。その場合切開は腹部だけの場合もありますが、いずれにしてもリンパ節は広範囲の郭清が必要です。
バイパス手術
バイパス手術は、食道がんが他臓器転移などで切除不能な状態で、がんが進行して食道が狭くなった場合に行います。がんで生じた不具合を緩和するための手術で、がん自体の治療を目的にしないため、ほかの手術とは性格が異なります。
新しく食道を造設して食物を通し、患者さんのQOLを確保するのが目的です。空腸や結腸・胃の一部を使って別ルートを作り、経口や経管での食物摂取を可能にします。また、金属のステントを食道の狭隘部に置き、空間を確保する方法もあります。
食道がん手術で起こりうる合併症
食道がんの手術は臓器や皮膚の切開創が大きく、縫合部が長くなりがちです。開胸するため肺にも負担がかかるなど、身体へのさまざまな影響が生じて重大な事態になりかねません。よく知られる食道がんの3大合併症を紹介します。
嗄声
嗄声(させい)は、手術時に声帯を制御する反回神経を触ることでおこります。声帯がうまく機能しないことによる、しわがれ声・かすれ声です。数ヶ月単位で回復しますが、症状が出ている場合は誤嚥がおこりやすいため、飲食時には少し顎を引くようにします。
肺炎
肺炎は手術後20%の方が発症するとされる合併症です。原因は、反回神経損傷による誤嚥のほか、術後の痛みによる痰排出機能の低下・気管への血流や、神経の切離・開胸手術の侵襲・喫煙の影響などが挙げられます。対応は、術前の呼吸訓練・禁煙・口腔ケアや、術後のリハビリなどで一定の予防効果が期待できます。
縫合不全
手術では食道を切除した後、胃や腸を使って新しい食道を再建します。筒状に成型した新しい食道と消化管を縫合した後は、造影検査などで状態を確認する手順です。
しかし、縫い目にほころびが生じて穴が開く場合があり、飲食物が漏れ出る縫合不全がおこります。縫合不全がおこった場合は、点滴によって栄養補給を行い患部の回復を待つ対応です。通常は1~4週間で回復しますが、ごくまれに再手術になる場合があります。
食道がんの手術以外の治療方法
食道がんの治療では、状況に応じて手術以外の治療法が適用されます。内視鏡や薬物などいくつかの種類がありますが、ごく初期に行われる内視鏡的切除以外は、ほかの治療法と併用される例がほとんどです。それぞれ個別に見ていきます。
内視鏡的切除
食道がんの治療に内視鏡が使われるのは、がんが内側の粘膜上皮と次の粘膜固有層に留まっている場合だけです。病巣の範囲が狭い場合は、内視鏡の先から輪になったワイヤを出し、吸引などでポリープ状にした病巣の根元にかけて電気で焼き切ります。(内視鏡的粘膜切除術=EMR)
内視鏡的切除のほとんどは、電気メスで周囲を切開した後粘膜下層で剥離する方法(内視鏡的粘膜下層剥離術=ESD)を採用しています。難易度は高くなりますが、広い範囲を正確に切除できる方法です。通常は静脈麻酔で、1~2日の絶食後食事を摂り始め、約1週間で退院できます。
放射線療法
放射線療法は単独または化学療法と組み合わせて、すべてのステージで根治から緩和まで広範囲に適用されます。周辺臓器への影響は手術ほど大きくはありません。
食道がんで根治を目指す場合、5~6週間の連日照射が行われます。食道機能が残せるため、切除と比べて治療後の生活への影響を抑えることが可能です。
薬物療法(化学療法)
食道がんに対する薬物療法(化学療法)では、薬物と放射線や手術を組み合わせて根治を目指す方法と、症状を緩和する目的で使う方法があります。使う薬剤はがん細胞を攻撃する薬剤と、免疫力を保護するチェックポイント阻害薬の2種類です。
状況に合わせ単独か組合せで使い、また放射線と交互や同時に使う場合もあります。薬物療法は副作用が避けられず、患者さんの理解が重要です。
進行がんや再発がんでは、CT検査などで見える部分以外にも転移している場合があります。抗がん剤による化学療法は、こうした目に見えないがんに対しても効果が期待できる治療法です。
食道がんの手術についてよくある質問
ここまで食道がんの手術・種類・合併症・手術以外の治療などを紹介しました。ここでは「食道がんの手術」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
食道がんの手術を受けた場合の入院期間を教えてください。
がんが粘膜内に留まるステージ0期で、内視鏡で切除できた場合は1週間~10日程度で退院できます。また、ステージ1~3期で胸腔鏡による手術を受けた場合でも、退院まで平均で3週間程度です。
食道がんの手術後の生活の注意点を教えてください。
食べ物に制限はありませんが、食物の流れが悪く飲み込みにくい方は、ゆっくりとよく噛んでから飲み込みましょう。1回の食事量を少なくし、回数を増やします。深い呼吸がしづらく肺炎になりやすいため、痰を出す訓練が大切です。喉頭を切除した場合は、造設した気管孔の扱いや管理に注意しましょう。
編集部まとめ
食道がんは初期のうちなら内視鏡で切除できますが、初期には症状が出ず早期発見早期治療が難しいがんです。
根治を目指すには手術が選択され、長い臓器なので部位ごとに違う手法で対応します。しかし手術操作の範囲が広く、大がかりな手術で合併症への対応も必要です。
手術で切除する部位によっては、声を失い気管を分離、胃を食道として使うなどで術後は生活が一変します。できないことが多くなり、QOL低下を覚悟すべき手術です。
手術以外にも放射線や化学療法・免疫療法などがあり、複数の療法を組み合わせた集学治療で根治を目指します。
食道がんと関連する病気
「食道がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
食道がんと同時期か別時期に発生するがんを重複がんといいます。食道がんでは上記のような重複がんが見られ、見つかる確率は20%程と高率です。そのため、食道がんの治療後にはこういった重複がんの検査が行われます。
食道がんと関連する症状
「食道がん」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸の違和感
- しみる感じ
- チクチクする
- 胸のつまり感
- かすれ声
- 咳
食道がんが進行するにつれ、上記のような症状が出てきます。こうした症状は、心臓や肺・喉の病気でもおこります。肺や心臓だけでなく、消化器内科で食道の検査も受けましょう。



