「夜になると咳が出るのは肺がん」を疑うべき?症状の原因や咳の特徴も解説!
夜になると咳が出て眠れない症状が続いている方の多くは、風邪の後に咳だけ残ってしまう感染後咳嗽です。感染後咳嗽であれば自然に軽快していきますが、なかにはほかの原因で咳が続いてしまうことがあります。
咳は発症から持続する期間で急性咳嗽・遷延性咳嗽・慢性咳嗽の3種類に分けられます。
発症から3週間の咳は急性咳嗽、3週間から8週間までの咳は遷延性咳嗽、8週間以上経過した咳は慢性咳嗽です。例外はあるものの、急性発症の咳は感染症が原因である場合が多く、遷延性咳嗽・慢性咳嗽と持続期間が長くなるほど非感染症が原因による咳である可能性が高くなります。
日本人においてがんの死亡数は肺がんは男性で1位、女性で2位となっており、長引く咳がある場合には肺がんではないかと心配になられる方もいらっしゃるかもしれません。
今回は肺がんを中心に咳が続くときの対応をお話していきますので、長引く咳でお困りの際には参考にしてみてください。
監修医師:
関口 亮(医師)
目次 -INDEX-
肺がんとは
肺がんは50代から徐々に罹患者数が増え始め、65歳以上の高齢者に多い傾向があります。肺がんと診断されてから5年後に生存している確率は34.9%とがん全体の65%程度と比較して低いです。そのため早期発見・早期治療が大切となります。
肺胞や気管支の細胞ががん化した疾患
肺がんは、気管支や酸素と二酸化炭素のガス交換を行う肺胞を構成する細胞が、がん化した疾患です。がんが進行すると無秩序に増大したがん細胞が周りの組織を破壊する浸潤と呼ばれる状態になります。
さらに進行するとがん細胞が血管やリンパ管に入り込み、全身の臓器に飛ぶ転移という現象が起きます。
肺がんの分類
肺がんは顕微鏡でみたときにどのような形のがん細胞で組織されているか、形態別に分類されています。大きく小細胞がんと非小細胞がんに分かれ、非小細胞がんはさらに扁平上皮がん・腺がん・大細胞がんの3種類に分かれます。
小細胞がんは喫煙者に多く、ほかの組織型よりも進行が早く転移しやすいのが特徴的です。非小細胞がんのなかでは腺がんが多く、肺がん患者の約5割を占めます。肺の末梢の方に腫瘤を作ることが多く、初期では症状が出にくいです。
扁平上皮がんは喫煙者に多く、気管支に近いところに腫瘤を作りやすいため咳や血痰などの症状が出ます。大細胞がんはがん細胞の増殖が早い傾向にあります。
肺がんで夜になると咳が出る症状の原因
がんは初期の段階では無症状であることが多いですが、進行してくると症状が出現してきます。肺がんで咳が続くメカニズムをご紹介していきます。
腫瘍が圧迫し肺の気道が狭くなるため
空気の通り道である気管支や気管付近に肺がんが腫瘤を作ると、空気の通り道が狭くなる気道狭窄という現象を起こします。
眠っている間はリラックスするときに働く神経である副交感神経が活発です。副交感神経は気道を狭くする方向に働くため、夜間は気道狭窄が起こりやすく、もともと腫瘍で狭くなっていた気道がさらに狭くなり咳が誘発されます。
無気肺・閉塞性肺炎のため
気管支は繊毛細胞という細胞を持ち、細菌などの異物が呼吸器に侵入した際にその細胞が異物を体の外に押し出すことで、異物から体を守ります。
肺がんでは、腫瘍が気道を圧迫し空気が入らなくなった状態が無気肺です。無気肺の異物のクリアランスが低下したところに肺炎を起こすことが咳の原因となります。
悪性胸水のため
胸水とは、肺を包んでいる膜から産生されている水のことです。肺がんの細胞が胸膜にも浸潤すると、癌性の胸膜炎を起こし胸水の産生が増えこれを悪性胸水と呼びます。胸膜炎が咳の原因の一つです。
またがんがリンパ節に転移することによって出る咳もあります。心臓の周りのリンパ節に転移し、反回神経という声帯を動かす神経を巻き込んだ場合は嗄声を伴った咳が見られます。
さらに癌性リンパ管症は、腫瘍がリンパ管を閉塞することでリンパの流れが低下した状態です。肺胞内に水分が溜まることで、咳を引き起こすでしょう。
肺がんが原因で出る咳の特徴
冒頭で発症からの持続期間で咳は急性・遷延性・慢性の3種類に分類されるとお話しましたが、痰が絡んでいるかいないかでそれぞれ湿性咳嗽と乾性咳嗽の2種類に分けられます。ここでは咳の経過と質の観点から肺がんの特徴をみていきましょう。
2週間以上続いている
肺がんでは腫瘤ができる場所によって症状の有無に差がありますが、肺がん患者では診断時に65%が咳症状を有しています。発熱・鼻水・頭痛といった風邪症状を伴わないにも関わらず2週間以上咳が続く場合には病院で受診しましょう。
徐々に悪化している
がんは基本的には無治療で軽快することはなく細胞が増殖し続け病変が増大していきます。そのため症状も悪化傾向であることが通常です。
ウイルス感染であれば通常自然軽快していきますが、徐々に悪化する場合には結核などの特殊な感染症や肺がんなどを疑いますので病院で受診してください。
痰・血痰を伴う
感染症でも痰が絡んだ湿性咳嗽を呈しますが、肺がんでも痰の量が増えます。感染症では痰の色は黄色調であることが多いですが、肺がんが気管支の血管を巻き込んで増殖している場合には出血を伴い、血痰があるケースも少なくありません。
肺がんが横隔膜や神経を巻き込んでいる場合には痰が絡まない乾性咳嗽が続くこともあり、痰がないことで肺がんは否定できません。がんが喉の動きを支配する半回神経を巻き込むと、声が枯れたり飲み込みが悪くなる場合もあります。しかし血痰がある場合には単なる風邪ではありませんので早めに受診することをおすすめします。
夜になると出る咳が肺がんによるものか検査できる診療科・検査方法
ここまで夜に咳が出る症状が肺がんによるものの可能性もあることをご説明してきました。では実際に肺がんが疑われるときにはどのような対応を取ればいいのでしょうか。
検査を受けられる診療科
病院受診をした方がいいことはわかっていても、たくさんの病院の中からどの診療科を選べばよいか悩まれる方も多くいらっしゃいます。肺がんを精密に検査するには大学病院や地域の中核にある総合病院での精査が必要です。
しかし、大病院で受診するには紹介状を持参しないと負担金が生じてしまいます。そのためまずはお近くのできれば単純X線写真を撮影することができるクリニックを訪れ、総合病院の呼吸器内科へ紹介してもらってください。
検査方法の種類
総合病院で受診した後、具体的にどのような検査を受けて肺がんの診断を進めていくのでしょうか。まずは胸部単純X線写真を撮影し、肺がんを疑うような腫瘤影がある場合には胸部CTを撮影します。
そこで病変がある場合には、カメラで気管支の中を観察する気管支鏡検査を行い、その際CTで見つかった病変を鉗子で一部摘んで取ってきます。取ってきた組織は病理検査という細胞を顕微鏡で見て、がん細胞がいるかどうかを専門の医師が判断するのです。
肺がんの確定診断がついたら、病変がどれくらい広がっているかを全身CT・PET検査・骨シンチグラフィで検索し治療方針を立てていくことになるでしょう。
夜になると咳が出る肺がんについてよくある質問
ここまで夜になると咳が出る肺がんの原因・特徴・検査方法などを紹介しました。ここでは「夜になると咳が出る肺がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
咳は肺がんの初期からみられますか?
関口 亮(医師)
肺がん早期には無症状であることも多く、がんが大きくなってきて気道狭窄をきたすと咳が出現してきます。肺の末端に腫瘤がある場合には進行しても無症状で、横隔膜や胸膜に転移して咳症状が出てくるケースもあります。無症状でも初期段階で肺がんを見つけるには定期的な健康診断が重要です。
夜になると咳が出る場合は肺がんを疑うべきですか?
関口 亮(医師)
夜になると咳が出る疾患は肺がん以外では、気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患・心不全・逆流性食道炎・副鼻腔気管支症候群が代表的です。夜間に咳がある場合には肺がんだけではなく、ほかの疾患の可能性も除外していく必要があります。
編集部まとめ
長く咳が続くとこのまま治らないのではないか、怖い病気が隠れているのではないかと不安になると思います。
大多数の方は治療により治癒または軽快する疾患が原因ですので、症状がある際にはまずはお近くのクリニックでご相談ください。
もし肺がんであったとしても、現在は手術だけではなく薬物療法や放射線療法による治療が進歩していますので早期であればあるほど寛解に至る可能性が高くなります。
肺がんと関連する病気
「肺がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
喫煙は肺がんだけではなく、慢性閉塞性肺疾患や間質性肺疾患を引き起こすことがあります。喫煙は肺がんのみならず膀胱がんなどほかのがんのリスクにもなります。また、健康診断を定期的に受けることで早期発見につながります。
肺がんと関連する症状
「肺がん」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 咳
- 血痰
- 呼吸困難
- 息切れ
- 体重減少
- 倦怠感
肺がんの症状は風邪をこじらせたと思い受診が遅れることがあります。風邪の場合には鼻汁や発熱を伴いますが、咳だけが数週間以上続く場合には風邪ではない可能性があるため医師に相談してください。