「化学療法と抗がん剤の違い」はご存知ですか?それぞれの副作用も医師が解説!
化学療法と抗がん剤の違いとは?Medical DOC監修医が化学療法と抗がん剤の違い・対象となる疾患・副作用などを解説します。
監修医師:
関口 雅則(医師)
目次 -INDEX-
「化学療法」とは?
がんの治療法は、手術療法、薬物療法(抗がん剤治療)、放射線治療の3つが重要なものとなります。
薬物療法の中でも、がん細胞を殺したり成長を抑制したりする薬剤を用いてがんを治療する方法のことを、化学療法と呼ぶことがあります。
この治療法は全身治療であり、体内に広がったがん細胞をターゲットにすることができます。
「抗がん剤」とは?
抗がん剤は化学療法の中で使用される薬剤の一種で、特にがん細胞を攻撃する目的で開発された薬剤を指します。
抗がん剤はがん細胞の成長や分裂に特化して作用するため、正常細胞への影響を最小限に抑えるよう設計されています。
抗がん剤は、細胞障害性抗がん薬とも呼ばれます。こうした薬剤には、例えばアルキル化薬、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、さらに抗生物質といったものがあります。
化学療法と抗がん剤の違い
化学療法はがんを治療するためにさまざまな薬剤を使用する「治療方法」のことです。
それに対して、抗がん剤はその中で特にがん細胞を攻撃するために開発された「薬剤」を指します。これが、化学療法と抗がん剤の違いです。
化学療法の対象となる疾患
がんに対する治療のなかでも、手術療法はがん治療の中心とされています[1] 。そして、がんの中には根治的治療(がんを完全に治すことを目標とする治療)として、化学療法(±放射線治療)が選択肢となるような疾患もあります。ここでは、根治的な目的で化学療法が選択肢となる疾患について3つご紹介します。
食道がん
食道がんは、食道の内膜を覆っている粘膜の表面から発生する悪性腫瘍です。
食道がんのリスク因子としては喫煙、過度のアルコール摂取などがあります。
食べ物が食道を通過する際の痛みや違和感(嚥下障害)、体重減少、胸焼け、咳などが症状としてみられます。
食道がんの治療としては、手術が主となります。一方、根治的な目的の化学療法を行う際には、以下のような場合があります。
0期、つまりがんが粘膜筋板までに留まっている段階であっても、がんの範囲が食道の全周に及んでおり、かつ体力的な問題などから手術ができない場合には、化学放射線治療(化学療法と放射線治療を同時に行う治療法)もしくは放射線治療単独が行われます。
I期、つまりがんが粘膜下層にとどまっている段階では、体力的な問題などから手術ができない場合には化学放射線治療が行われます。
進行した食道がんであるII期やIII期でも、手術が第一選択となります。この場合でも、まずは抗がん剤を用いた化学療法を行なってから手術を行うという方法が標準的です。しかし、体力的に手術が困難であるものの、化学放射線治療が行えると判断された場合には、完治を目標とした根治的化学放射線治療が行われます。
食道がんの治療は、消化器内科や消化器外科、腫瘍内科などで行われます。
子宮頸がん
子宮頸がんは、子宮の入口部分である子宮頸部に発生するがんです。このがんの最も一般的な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染であり、特にHPVの高リスクタイプが関連しています。初期段階では症状がほとんどないことが多いですが、進行すると不正出血(性交後の出血や通常の月経周期以外の出血)、異常なおりもの、骨盤内痛などの症状が現れることがあります。
子宮頸がんの治療における根治的治療としての化学療法は、手術だけでは治療が困難な局所進行がん(例えば、FIGOステージIB3以上)の場合に行われます。可能であれば、化学放射線療法が選択されます。
子宮頸がんの治療は、婦人科が担当します。場合によっては、腫瘍内科や放射線治療科と連携し、化学療法を行います。
小細胞肺がん
小細胞肺がんは、肺がん全体の約10%を占め、非常に進行が速く、早期に他の臓器やリンパ節への転移が見られるがんです。このがんの特徴は、非常に治療に反応しやすいことですが、残念ながら発見時にはすでに進行していることが多いです。主なリスク因子としては喫煙が挙げられます。
小細胞肺がんの治療において、化学療法は主要な治療の選択肢となります。通常、診断が確定した直後に開始されます。限局型の場合(腫瘍が一定の範囲内に留まっている場合)は、化学療法に放射線治療を組み合わせることが一般的です。一方で、広範に転移がある場合(進展型)では、化学療法は、症状の緩和や生存期間の延長にとって役立つため、積極的に用いられます。また、再発や治療後のがんの管理にも化学療法が重要な役割を果たします。
小細胞肺がんの治療は地域の基幹病院や専門のがんセンターや大学病院の呼吸器科、胸部外科、放射線科で行われます。
抗がん剤の対象となる疾患
手術が主な治療法であり、抗がん剤を組み合わせることでさらに治療効果が増すような疾患があります。ここでは、手術療法と抗がん剤の併用が行われるような疾患について解説します。
乳がん
乳がんは、乳腺組織内で発生するがんで、主に乳管から発生しますが、一部は乳腺の小葉からも発生します。最も一般的な初期症状は乳房に感じるしこりで、他にも乳房の形状の変化、乳頭からの分泌物、皮膚の引き込みやただれなどが見られる場合があります。
乳がんの抗がん剤治療は、がんの種類、ステージ、ホルモン受容体やHER2遺伝子の状態によって異なります。特にHER2陰性の進行乳がんや、手術不能な乳がんの場合に化学療法が用いられることが多いです。アンスラサイクリンやタキサンを含む治療が一般的で、これらは手術前(ネオアジュバント治療)や手術後(アジュバント治療)に使用されることがあります。手術後の化学療法は、がんの再発リスクを減少させ、生存率を向上させることを目的としています。
乳がんの治療は主に外科や乳腺外科で行われます。市中病院や大学病院やがんセンターなど、専門的な治療を提供する医療機関での治療が一般的です。これらの施設で、外科手術、化学療法、放射線治療、ホルモン療法などを組み合わせて治療をしていきます。
大腸がん
大腸がんは、大腸(結腸および直腸)に発生するがんで、主に大腸の粘膜にできる腺腫という良性ポリープががん化して発生します。早期の段階では症状がほとんどなく、進行すると便に血が混じる、便秘や下痢、腹痛などの症状が出現します。特に進行が進むと、腸閉塞のリスクが高まり、急性の腹痛や嘔吐が発生することがあります。
大腸がんにおいての抗がん剤治療としては、手術の後の再発抑制を目的とした補助化学療法と、切除不能な進行・再発大腸癌を対象とした全身化学療法があります。
術後化学療法としては、5-FU(フルオロウラシル)やLV(ホリナート・ロイコボリン)、UFT(デカフール・ウラシル配合剤)などの抗がん剤が用いられます。
大腸がんの治療は消化器内科、消化器外科、腫瘍内科などで行われます。
膵臓がん
膵臓がんは膵臓から発生する悪性腫瘍で、主に膵臓の外分泌細胞から生じます。最も一般的なタイプは膵臓癌(膵臓腺がん)です。このがんの特徴は、早期発見が難しく、症状が出現する頃には進行していることが多いという点です。症状には腹痛、体重減少、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などがあります。膵臓がんは他の多くのがんと比較して予後が悪く、治療が困難であることが特徴です。
膵臓がんに対して抗がん剤を用いる場面としては、手術が成功する可能性を高めるための術前(ネオアジュバント)治療や、手術後に残存するがん細胞を殺し、再発のリスクを減少させるための術後(アジュバント)治療があります。その他にも、手術が不能な膵臓がんに対して、化学療法と放射線治療を組み合わせた化学放射線治療が行われることもあります。
膵臓がんの抗がん剤治療は、市中病院や地域の基幹病院、がんセンターや大学病院などの消化器内科や消化器外科、腫瘍内科などで行われます。
化学療法の副作用となる症状
化学療法は、基本的には細胞障害性抗がん剤を用いた治療を指します。しかし、治療する癌の種類によっては、化学療法と手術や放射線治療などを組み合わせることがあります。
さらに、抗がん剤に加えて、ホルモン治療薬や分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせて化学療法を行う場合があります。
そこで、抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)の副作用の詳細については後述することとし、ここでは化学療法による副作用について解説します。
ホルモン療法薬による副作用
乳がんや前立腺がんは、ホルモン依存性、つまり女性ホルモンや男性ホルモンの分泌によってがんが大きくなるという特徴があります。そこで、ホルモン療法(内分泌療法)はホルモンの分泌や働きを阻止し、このようながんの増殖を抑えることを目標とします。
内分泌療法薬の副作用としては、ホットフラッシュ(いわゆる「ほてり」)や、男性では勃起障害などの生殖器の不具合、骨密度の低下、高血圧や心血管系の問題などの症状がでることがあります。
分子標的薬による副作用
分子標的薬による副作用は、その薬剤が特定の分子標的に作用することから生じるもので、従来の細胞毒性抗がん剤の副作用と異なる特性があります。
例えば、皮膚反応として発疹や乾燥、皮膚のひび割れ、手足の裏の痛みなどがあります。また、重篤な副作用として、間質性肺炎という肺炎の一種が引き起こされることもあります。
皮膚症状に対しては、皮膚を清潔に保ち、保湿剤を使用します。症状が重い場合には、ステロイドや抗生物質が処方されることもあります。
一方、間質性肺炎では呼吸困難感や乾いた咳、発熱といった症状が出現します。こうした兆候がみられた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
免疫チェックポイント阻害薬による副作用
免疫チェックポイント阻害薬は、患者の免疫システムを活性化してがん細胞を攻撃するようにします。しかし、これにより免疫システムが正常な組織も攻撃してしまうことがあり、自己免疫症状が現れることがあります。これには皮膚の発疹、腸炎、肝炎、甲状腺機能低下症や肺炎などが含まれます。
症状の重篤化を防ぐため、副作用の初期兆候を早期に発見し治療を開始することが重要です。ステロイドやその他の免疫抑制薬が用いられることがあります。
発症した場合、がん治療を行っている病院のかかりつけの科を受診する必要があります。症状によっては皮膚科や内分泌科の診察が必要になることもあります。
抗がん剤の副作用となる症状
抗がん剤には細胞毒性があり、がん細胞だけでなく健康な細胞も傷つけることがあります。そのために、以下のような症状が現れることがあります。
吐き気と嘔吐
抗がん剤による吐き気と嘔吐は、治療後数時間で発生することが多く、数日間持続する可能性があります。
吐き気を抑えるために、制吐剤が使用されます。
抗がん剤を使用している際に吐き気が強い場合は、食事は少量ずつこまめに取るとよいでしょう。吐き気が強く、吐いてしまい食事や水分が取れなくなってしまうこともあります。そうした場合には、がん治療を受けている病院のかかりつけの科を受診してください。特に脱水症状が見られる場合は緊急を要します。
末梢神経障害
手足のしびれ、痛み、冷たさ、または熱感を感じることがあります。
症状が現れたら、暖かく保つ、保護手袋や靴下を使用するなどして物理的な保護を心がけることが重要です。必要に応じて医師はビタミンB6製剤などを処方することがあります。
症状が進行する場合は、がんの治療を受けている科や神経内科で相談してください。早期に適切な治療を受けることが症状の悪化を防ぎます。
骨髄抑制
白血球、赤血球、血小板の低下により、感染症のリスクが増加したり、貧血や出血しやすくなったりします。採血検査でチェックします。出血がとまらない、あざがよくできるといった症状が出る場合には、すぐに医師の診断を受ける必要があります。
「化学療法と抗がん剤の違い」についてよくある質問
ここまで化学療法と抗がん剤の違いを紹介しました。ここでは「化学療法と抗がん剤の違い」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
化学療法はどれくらいの期間投与するのでしょうか?
関口 雅則 医師
化学療法の投与期間は、がんの種類、治療の目的、使用する薬剤の種類、患者さんの状態などによって異なります。一般的に、化学療法はサイクルとして行われ、1サイクルは通常数週間にわたります。治療全体の期間は数ヶ月から数年に及ぶこともあります。
抗がん剤でがんは消えるのでしょうか?
関口 雅則 医師
抗がん剤によるがん治療の目的はがん細胞を殺すことであり、多くの場合、がんの進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることができます。しかし、抗がん剤によってがんが完全に「消える」かどうかは、がんの種類、がんの進行度、治療が始まる時点での患者の健康状態など、多くの要因によって決まります。
編集部まとめ
今回の記事では、化学療法や抗がん剤の違いについてまず説明しました。
そして、化学療法や抗がん剤が適応される疾患や、副作用についても解説しました。
化学療法は、がん治療において3つの柱の一つです。今回の記事が、その理解を深める一助になれば幸いです。
「化学療法と抗がん剤の違い」と関連する病気
「化学療法と抗がん剤の違い」と関連する病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
乳腺外科の病気
呼吸器科の病気
抗がん剤を用いた化学療法の適応となるような疾患にはさまざまなものがあります。
「化学療法と抗がん剤の違い」と関連する症状
「化学療法と抗がん剤の違い」と関連している、似ている症状は10個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
化学療法に用いられる抗がん剤には、正常な細胞を殺してしまうという副作用もあります。こうした症状が見られる場合には、がん治療を受けている病院に相談するようにしましょう。