「胃がんの初期症状となるチェックリスト」はどれくらいご存知ですか?【医師監修】
日本人に多いとされる胃がんは、早期発見・早期治療で根治も見込めます。ただ、初期のうちは症状が出にくいがんでもあり、早期発見が難しいのが現状です。
症状がみられても、胃炎などの日常的な胃の不調の症状と似ています。そのため、なかなか自覚しにくい点も早期発見が難しい理由です。
自分では気付きにくい胃がんの初期症状や、胃がんの原因・治療法を解説します。早期治療につなげるために、この記事を役立ててください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
胃がんとは?
胃は内側から粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜の5層構造です。胃がんは内壁の粘膜に発生し、固有筋層から漿膜へ向かって浸み込むように(浸潤=しんじゅん)広がります。
進行するのががんの特徴で、粘膜・粘膜下層にとどまっている状態が早期がんです。そして固有筋層を越えたがんを進行がんと呼び、周辺のリンパ節や肝臓から肺や脳などへの遠隔転移もおこします。
形態で分類すると、がんらしく盛り上がった腫瘤型・潰瘍を作り正常組織との境界が明瞭な潰瘍限局型・潰瘍を作り周辺組織に浸潤する潰瘍浸潤型・腫瘤も潰瘍もないびまん浸潤型の4種類です。
胃がんの初期症状をチェック
胃がんの症状としては、胃痛などいくつかが挙げられます。ただ、どの症状もがんに特有なものではありません。とはいえがんの可能性はあるので、症状が長く続いたり繰り返したりする場合は診察を受けた方がよいでしょう。
個別に解説します。
胃痛
胃がんでは潰瘍を伴う場合も多く、その場合はみぞおち(心窩部=しんかぶ)のあたりに痛みを感じることがあります。
この症状は胃潰瘍や胃炎でもよく見られる症状です。日常的に経験する症状なので胃がんに結びつきにくく、早期発見が遅れる要因でもあります。
胃がんの場合、胃痛を感じるのはある程度進行してからが多く、粘膜にとどまる初期段階では少ない症状です。
食欲不振
胃がんの前駆症状として、ヘリコバクターピロリ菌の感染による萎縮性胃炎の可能性が考えられます。その場合は胃炎の症状としての食欲不振もありえるでしょう。
この食欲不振も、胃がん以外のさまざまな要因で経験する症状です。胃がん特有の症状ではありませんが、長引く場合は受診をおすすめします。
胃の不快感・胸やけ
胃のもたれ・膨満感・胸やけも胃がんの症状で、初期の頃から始まり進行につれて次第に強く現れるようになります。
一方で、胃の調子が悪い時にもよく見られ、胃薬などで様子を見ることもあるでしょう。過度の飲酒や喫煙と胃がんの関連性が指摘されていて、その過程でおこる胃の症状である可能性も考えられます。
体重減少
体重減少はいろいろながんに共通する症状です。がん細胞は大量のエネルギーを消費して増殖するため、身体が必要とする栄養が不足して体重が減少します。
また、がん細胞が出すサイトカインで代謝異常がおこり栄養が不足する一方、タンパク質が分解されて筋肉が痩せることでもおこる症状です。いずれにしても、体重減少はがんの進行をうかがわせます。
黒色便
便が黒いのは大腸以外の消化管でおこった出血の可能性が高く、出血量も少なくない状態です。胃がんの可能性も高くなりますが、食道・胃・十二指腸の潰瘍またはがんかもしれません。
いずれにしても検査と治療が必要です。がんの場合は初期ではなく進行している可能性が高いので、大きな病院で至急検査を受けてください。
胃がんの原因
胃がんになる原因は単純ではなく、さまざまな要素から胃がんが発生します。原因には科学的な根拠も示され、対応すれば予防も可能です。胃がんになる3つの主な原因を解説します。
塩分の過剰摂取
塩分接種と胃がんの関係性は、統計的にも相関関係が明らかです。約4万人が対象の調査では、塩分の摂取量が多い程、胃がんの発症リスクが高くなりました。
高濃度の塩分は胃粘膜の粘液を破壊し炎症をおこし、胃がんができやすい胃粘膜に変えます。また、粘膜を萎縮させるピロリ菌の持続感染を促すため、胃がんの発症リスクを高めるのです。
喫煙
喫煙と肺がんの関係性はよく知られていますが、胃がんとも深い関係が認められます。統計調査では、男性喫煙者の胃がん発症率は非喫煙者の2倍だったことが報告されました。
タバコに含まれる発がん物質はだ液に溶けて胃に入り、胃粘膜に影響を及ぼします。炎症などがあると、修復時にDNAを損傷してがんを発症させるというメカニズムです。
ヘリコバクターピロリ感染症
ヘリコバクターピロリ菌は胃がんの原因菌とされます。ただし直接胃がんを作るわけではなく、胃の粘膜を萎縮させて薄くするだけです。
薄く萎縮した胃粘膜は胃がんが発生しやすい環境で、ある調査では感染者グループのうち2.9%に胃がんが発生しました。
一方非感染者グループでは発症者がゼロだったことから、ピロリ菌と胃がんとの関係が明らかにされ除菌の有用性が認められています。
胃がんの治療法
胃がんを治療する方法では、内視鏡・手術・薬物(化学)・放射線などがあります。治療法の選択は、進行度を表す病期(ステージ)ごとの標準治療が基本です。
加えて患者さんの体調や希望・年齢などを検討して選択されます。治療法を個別に解説しましょう。
内視鏡的治療
胃の内側の粘膜層に留まった胃がんに対しては、内視鏡が選択されます。
潰瘍がなく直径2センチメートル以下であれば切除術(EMR)になります。輪にしたワイヤで胃がんを締めつけ、高周波電流で焼き切る方法です。
潰瘍がない直径2cm超と潰瘍があって3センチメートル以下の胃がんでは剥離術(ESD)になります。高周波ナイフでがんの周囲を切開し、根元を下層からはがし取る方法です。
手術療法
遠隔転移がない限局がんで、内視鏡では対処できない場合に手術が選択されます。おなかを開いて患部を直接見ながら行う開腹手術が基本です。
近年は身体への負担が少ない、腹腔鏡下手術・ロボット支援下腹腔鏡下手術が増えています。手術ではがんと胃の一部またはすべてと、周囲のリンパ節も切除します。さらに消化管の再建も必要で、負担が大きい治療です。
化学療法
薬物療法とも呼ばれる治療法は、遠隔転移や再発などで手術ができない場合に用いる方法です。また、手術の補助療法としての再発予防や、術前にがんを小さくする使い方もあります。
使う薬剤は種類や作用が違うものを多数用意し、まず1次化学療法から開始して効果が出なければ2次3次と切り替えながら進める治療です。
放射線療法
高エネルギーのX線を照射してがん細胞を死滅させ、病巣を小さくする治療です。周辺臓器へ影響を及ぼすことがあるため、補助的な治療に限定的に使われます。
例えば手術できない転移がんや再発がんに対し、痛みの緩和・消化管閉塞の緩和・腫瘍からの出血抑制などの目的で使われる方法です。効果を上げる目的で抗がん剤の併用も行われます。
胃がんの初期症状チェックについてよくある質問
ここまで胃がんの初期症状のチェック・原因・治療方法などを紹介しました。ここでは「胃がんの初期症状チェック」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
胃がんのセルフチェックについて教えてください。
- 胃が張る感じ
- 食欲がない
- 胃もたれ・胃の不快感
- 下痢・便秘の繰り返し
- みぞおちが痛い
いずれもがんの影響で消化活動が低下している可能性が考えられます。長引くようなら早めに検診を受けましょう。
胃がんの早期発見にはどのくらいの間隔で検査を受けるべきですか?
甲斐沼 孟(医師)
早期発見のためには定期的な検査が欠かせません。厚生労働省は2年ごとのX線または内視鏡検査を推奨し、X線検査は毎年でも可としました。内視鏡学会や国立がん研究センターも同様の提言を示し、各自治体はそれにしたがって2年ごとの定期健診を実施する例が一般的です。胃がんが進行がんに変わるまで3~4年かかることもあるため、2年間隔で問題ありません。
編集部まとめ
胃がんの初期には自覚症状に乏しいため、早期発見が難しい病気です。もし何らかの症状が出たとしても、日常的な体調不良によくある症状と見分けがつきません。
早期のうちに胃がんを発見するには、定期的に検査を受けることが何より大切です。
特に胃がんのリスクを持つ方はとりあえず検査を受け、その後は2年に1回の定期検査を続けましょう。
胃がんと関連する病気
「胃がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 胃炎
- 胃潰瘍
- ヘリコバクターピロリ菌感染症
胃炎になると胃部の不快感や吐き気、胃潰瘍では胃の痛みや出血などの症状があり、胃がんとよく似た症状がでます。ピロリ菌感染症も同じような症状があり、胃がん・胃炎・胃潰瘍とは強い因果関係があります。
胃がんと関連する症状
「胃がん」と関連している、似ている症状は9個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胃の痛み
- 違和感
- 不快感
- 胸やけ
- 吐き気
- 食欲不振
- 貧血
- 吐血
- 黒色便
上記の症状は胃炎・胃潰瘍のものとほとんど同じで、症状だけでは何の病気か判断できません。胃がんに特有の症状がないことが、胃がんの早期発見を難しくしています。