「乳がんの手術」にはどんな種類があるかご存知ですか?入院期間も解説!
乳がんは女性が罹患する割合が高く、患者数が増えている がんです。乳がんの患者さんは30代から増加し始め、40代後半と閉経後の60代後半がピークの年代です。
乳がんの治療は、外科手術によってがんを取り除く方法が基本となります。
乳房のふくらみを失うことに抵抗を感じる方が多いかもしれませんが、乳房を作り直す再建手術を受けることも可能です。
この記事では、乳がんの手術の種類や特徴・治療方法などについて解説します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
乳がんとは?
乳がんは乳腺にできる悪性腫瘍です。乳房は乳腺組織と脂肪組織などでできていて、乳腺組織は乳頭(乳首)から扇状に15~20個の乳腺葉に分かれます。一つの乳腺葉は枝分かれした多くの「小葉」と「乳管」で構成されます。
- 小葉:乳汁を作る組織です。小さな「腺房」という組織が集まり、ぶどうの房のような「小葉」になります。
- 乳管:乳汁が乳頭まで流れる通り道となるのが乳管です。一つ一つの小葉に付いている細い乳管が連結し、1本の太い乳管となって乳頭までつながります。
乳がんの9割以上が乳管の細胞に発生し、そのなかでも小葉のすぐ近くの細い乳管にできることが多いです。がん細胞が乳管や小葉の内部にとどまっているのが非浸潤がん、がん細胞が乳管や小葉の外に出てしまうものが浸潤がんです。浸潤がんになるとリンパ節や臓器に転移する可能性があり、がんの大きさや転移の状態などによって治療法が異なります。
乳がんの代表的な症状は、乳房にできるしこりです。ほかにも乳頭から血が混じった分泌物が出たり、乳房にえくぼのようなくぼみができたり、乳頭がただれたりすることがあります。
乳がん手術の種類
乳がんの手術には乳房すべてを切除する乳房切除術と、1部だけを切除する乳房部分切除術があり、必要に応じてわきの下のリンパ節を切除する手術も行います。
乳房切除術
乳房切除術とは、乳房全体を切除する手術方法です。乳房の中のがんが大きく広がっていたり、同じ乳房内で複数のがんがあったりする場合などに選択されます。
また遺伝性の乳がんとしてBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に変異がある場合は、乳がんや卵巣がんを発症する可能性が高く再発することも多いです。そのため部分切除が可能であっても、予防として乳房を全摘する場合があります。
胸筋は切らずに残し、乳頭・乳輪やしこりの上の皮膚も含めて切除する方法が一般的です。乳腺をすべて切除するため、がんが再発するリスクが少ないのがメリットになります。
乳房部分切除術
乳房部分切除術とは、がんとその周りの1~2センチを部分的に切除する手術方法です。傷が小さく乳房のふくらみを残せることや、体への負担が少ないことなどがメリットです。
しこりの大きさが3センチ程度の場合に実施されますが、しこりが大きくても手術前の薬物療法でがんが小さくなれば部分切除術が可能になる場合もあります。部分切除術の適用にはさまざまな条件があるため、手術前に担当の医師とよく相談することが重要です。
切除した乳腺の断端にがん細胞がないかを手術中に病理検査で調べ、がん細胞があれば切除を追加するか乳房の全摘に切り替えます。残った乳房にがんが再発するのを防止するため、手術後には放射線療法が必要です。
切除後は周囲の乳腺や脂肪を移動し、乳房のへこみを埋めて形を整えます。
腋窩リンパ節郭清
腋窩リンパ節郭清とは、乳がんが転移しやすいわきの下のリンパ節を切除する手術です。わきの下の脂肪組織の塊を切除した後、病理検査で転移の有無や個数を調べます。腋窩リンパ節に転移していると、ほかの臓器にも転移する可能性があると考えられます。
以前は、腋窩リンパ節郭清は乳がんの手術とセットで行われてきました。しかし近年では乳がんの早期発見が増え腋窩リンパ節に転移していない患者さんが多いことや、リンパ節への転移が明らかな患者さん以外は予後の改善につながっていないことがわかってきました。そこで現在では腋窩リンパ節を切除する前に転移しているかを調べる「センチネルリンパ節生検」が実施されています。
センチネルリンパ節とは、リンパ管に入ったがん細胞が最初に転移するリンパ節です。手術前の触診や画像診断でリンパ節への転移が確認できない場合は、センチネルリンパ節を取り出してがん細胞の転移を調べます。
転移が発見されれば腋窩リンパ節の切除を行いますが、転移がない場合は省略が可能です。
乳がんの手術以外の治療方法
手術以外の治療方法として放射線療法・薬物療法があります。乳がんの辛さを和らげたり症状や後遺症などを抑えたりする支持療法も行います。
放射線療法
放射線療法とは体に高いエネルギーの放射線を照射することで、がんを死滅させる治療法です。放射線療法の副作用として、放射線が当たる部分の皮膚が日焼けのように赤くなりかゆみを感じることがあります。
治療が終われば治りますので、心配はいりません。ほかの副作用は、肺に放射線が照射されることにより起こる肺炎があります。
薬物療法
乳がんはがん細胞の性質によって、5つのサブタイプに分類されます。乳がんの薬物療法は主に化学療法・ホルモン療法・分子標的療法があり、それぞれのタイプで適している薬が異なります。
例えばホルモン受容体が陽性でがんが増殖するスピードが遅いルミナールAというタイプでは、ホルモン療法が効果的です。
支持療法
支持療法とは、乳がんの症状や治療によって起こる副作用や後遺症などを予防したり軽減したりするために行われる治療です。薬物療法の副作用である強い吐き気に制吐剤を処方したり、放射線療法の際に起こる皮膚炎への治療などが挙げられます。
乳がんの手術後にできることは?
乳房を作り直す乳房再建術や、身体機能を低下させないために行う運動・手術後に身に着ける下着などについて解説します。
乳房再建
乳がんの手術で失った乳房を作り直す手術です。乳房再建には、乳がんの手術と同時に行う場合(一次再建)と、手術や治療が終わってから行う場合(二次再建)があります。
乳房再建には2つの方法があり、1つは下腹部・背中・太ももなどから皮膚と脂肪を血管を付けて採取し、胸部に移植する方法です。もう一つの方法では、人工乳房(シリコン製の乳房インプラント)を胸に挿入して再建します。
どちらの方法にもメリットとデメリットがありますので、事前に担当の医師や形成外科専門の医師によく相談しましょう。
腕や肩などのリハビリテーション
乳がんの手術後、手術をした側の肩関節が動きづらくなる運動障害が起きることがあります。これを防止するためには、腕や肩などのリハビリテーションが必要です。
術後早期から始めることが大切ですが、詳しい時期や運動内容については医師の指導を受けましょう。
リンパのむくみを抑える運動
腋窩リンパ節郭清やわきの下への放射線療法を受けた場合、リンパ液の流れが悪くなり腕がむくむことがあります。この症状はリンパ浮腫と呼ばれ、放置すると進行しやすく、治りづらいため注意が必要です。
リンパ浮腫の予防には、肩を回したり肘の曲げ伸ばしをしたりする運動をしましょう。
専用のブラジャーやシリコンパッドなどでの補整
乳房全体を切除する手術を受けた方は、専用のブラジャーやパッドで左右の差を調整することができます。片方のカップに適度な重みのあるシリコンパッドを入れることで、切除した側のボリュームを補い、胸を衝撃から守ります。
部分切除術を受けた方でも乳房の変形が大きい方は、パッドを入れて補整できるので試してみてください。
乳がんの手術についてよくある質問
ここまで乳がんの手術の種類・治療方法などについて紹介しました。ここでは「乳がんの手術」についてよくある質問にMedicalDOC監修医がお答えします。
入院期間はどのくらいかかりますか?
甲斐沼 孟(医師)
一般的に手術の1日前に入院して、乳房部分切除術の患者さんは3~5日程度、乳房切除術や腋窩リンパ節郭清を行う患者さんは5~10日程度の入院期間になります。乳房再建も同時に行う場合は10~14日程度です。
術後でも定期的な乳がん検査は受けた方がいいですか?
甲斐沼 孟(医師)
乳がんの手術や放射線療法などの治療が終わってからも、定期的な検査が必要です。再発しやすいとされる治療終了後3年目までは、3~6ヵ月ごとに検査を受けることをおすすめします。また乳房部分切除術の患者さんは年に1回程度のマンモグラフィ検査を受けることが望ましいとされています。
編集部まとめ
今回は乳がんの手術の種類や治療方法などについて解説しました。乳がんの手術には乳房を部分的に切除する方法と、乳房全体を切除する方法があります。
乳房すべてを切除しても、作り直せることを知って安心した方もいるかもしれません。
乳がんは早期発見・早期治療が重要です。定期的ながん検診を受けるとともに、月に1度は乳房をチェックして、しこりや皮膚の変化を見逃さないようにしましょう。
乳がんと関連する病気
「乳がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
乳腺線維腺腫は乳房にしこりができる病気ですが、がん化することはありません。乳腺症は乳房に痛みを感じたり、しこりができたりする病気です。乳腺炎は乳腺に炎症が起きる病気で、乳がんのようなしこりができる場合があります。
乳がんと関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は3個程あります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 乳頭からの分泌物
- 乳頭のただれ
乳がんの症状として乳房のしこりがよく知られていますが、乳がん以外の病気でもしこりができることがあります。しこりがある場合は自己判断せずに、病院を受診しましょう。