「乳がん・ステージ4」の症状・余命はご存知ですか?医師が徹底解説!
Medical DOC監修医が乳がんのステージ4の症状や余命・生存率・検査法・治療法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
山田 美紀(医師)
目次 -INDEX-
「乳がん」とは?
乳がんは乳房の組織にできるがんです。乳腺は乳管と小葉からできており、多くは乳管から発生します。がんが進行すると、がん細胞は周りの組織に浸潤し、血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器に転移します。ステージ4は乳房以外の部位にがんが転移している段階です。
乳がんステージ4の症状
ステージ4では乳房の症状だけではなく、転移した部位に関連する症状がみられることがあります。乳がんは骨、肺、肝臓、脳に転移しやすいです。
乳房のしこり
乳房のしこりや変形を自覚することがあります。ただし、ステージ4はしこりの大きさにかかわらず転移がある状態なので、乳房の変化に気がつかない場合もあります。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診してください。
背中や腰の痛み
骨に転移した場合、転移した部位の痛みを感じる場合があります。転移した骨は弱く、骨折することもあります。いつもと違う痛みがある場合は早めに受診しましょう。しびれや麻痺などの神経症状を伴う場合は、緊急性があるのですぐに乳腺科または整形外科を受診してください。
息苦しさ・咳
肺に転移した場合、息苦しさや長引く咳がでることがあります。がん細胞によってリンパ管が詰まる癌性リンパ管症や、がんによる胸水がある場合も同様の症状がでます。息苦しさやいつもと異なる咳がある場合は早めに呼吸器科もしくは乳腺科を受診しましょう。
頭痛
脳に転移した場合、頭痛や嘔吐が起きることがあります。さらに、麻痺やけいれんなどの神経の症状がみられる場合があります。症状がある場合はすぐに乳腺科または脳神経科を受診してください。
お腹の張り
肝臓に転移があっても症状がないことが多いですが、進行してくると肝臓の腫瘍や腹水でお腹の張りを自覚することがあります。お腹の張りから息苦しさや食欲不振などが起こる場合もあります。症状がある場合は早めに乳腺科を受診しましょう。
乳がんステージ4の余命・生存率
ステージ4の5年生存率は38.7%です。ステージ3の5年生存率が80.7%であるのと比べて、生存率が下がります。他の臓器に転移をしていると、がんが完全に治ることは難しくなります。がんの進行を抑えることとQOLのバランスを考えながら、全身治療を行います。
乳がんステージ4の検査法
乳房の検査に加え、転移した病変をみるために全身検査を行います。診断と治療方針を決めるために生検も行います。
マンモグラフィー
乳房を圧迫してX線で撮影する検査です。乳房のしこりをみるために乳腺科の外来で行います。
乳腺超音波
乳房のしこりをみるために乳房に超音波を当てて行う検査です。乳腺科の外来で行います。
CT
他の臓器に転移がないかを調べるために行うX線を用いた検査です。施設によっては放射性薬剤を注射し、高い精度でがんを検出できるPET-CT検査を行います。骨転移が疑われる場合は、骨シンチグラフィーも有用です。脳転移が疑われる場合は、頭部MRIを行います。いずれも外来で行います。
生検
確定診断をするためにしこりに針を刺して組織を採り、病理検査を行います。この検査で乳がんの性質を調べ、薬物治療の方針を決めます。乳房のしこりの生検は外来で行いますが、肺や肝臓に転移したしこりを生検する場合は数日間の入院が必要です。
血液検査
CEA、CA15-3などの腫瘍マーカーを補助診断のために検査します。腫瘍マーカーはあくまで目安です。転移があると肝機能異常や電解質異常が起こる場合があるので、定期的に採血を行います。薬物治療の方針を決めるために、遺伝性乳がんの原因であるBRCA1/2遺伝子変異がないかを調べることもできます。
乳がんステージ4の治療法
ステージ4は全身に効果がある治療が必要なため、薬物治療が基本です。がん細胞の性質や患者さんの状態、希望を考慮し、治療効果とQOLのバランスを考えて決めます。一つの治療を効果があるまで続け、効果がなくなったら別の治療に変更します。状況によって、手術や放射線治療を行う場合があります。
ホルモン療法
ホルモン受容体陽性乳がんに対して、差し迫った生命の危険がない状態であればホルモン療法から始めます。乳腺科に通院し、飲み薬(アロマターゼ阻害剤、タモキシフェンなど)や筋肉注射(フルベストラント)の治療をします。閉経前の患者さんにはLH-RHアゴニストという注射も併用します。また、分子標的薬(CDK4/6阻害剤、mTOR阻害剤)の飲み薬をホルモン療法と併せて使用することにより、さらにがんの進行を抑えることができます。
抗がん剤
全タイプの乳がんに使用されます。ホルモン受容体陽性乳がんではホルモン療法の効果がなくなった、もしくは症状のある内臓転移がある場合に抗がん剤を使用します。代表的なものはアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤です。アンスラサイクリンは3週に1回点滴し、タキサンは3週に1回の薬や、28日を1サイクルとして、1日目、8日目、15日目に点滴する薬があります。それ以降の治療として、飲み薬のフッ化ピリミジン系抗がん剤や点滴のエリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンなどを順次使用します。また、タキサン系抗がん剤のパクリタキセルと併せて分子標的薬のベバシズマブも使用されます。いずれも乳腺科に通院して治療します。
抗HER2療法
HER2陽性乳がんでは抗HER2薬と抗がん剤を併せて使うことが基本です。抗HER2薬であるトラスツズマブとペルツズマブはHER2タンパクにくっつくことでHER2タンパクの働きを抑え、がん細胞の増殖を抑える点滴の抗体薬です。タキサン系抗がん剤と併せて使用します。効果がなくなった場合は別の抗HER2薬に変更、もしくは併用する抗がん剤を変更します。次にトラスツズマブデルクステカンやトラスツズマブエムタンシンなどのトラスツズマブに抗がん剤が結合した点滴薬を順次使用します。これらも効かなくなった場合は、ラパチニブという経口の抗HER2薬をカペシタビンと併せて使用します。いずれの治療も乳腺科に通院して行います。
免疫チェックポイント阻害剤
PD-L1というたんぱく質が高く発現しているトリプルネガティブ乳がんでは免疫チェックポイント阻害剤と抗がん剤の併用が有効です。抗PD-L1抗体のアテゾリズマブをナブパクリタキセルという抗がん剤と併せて使用したり、抗PD-1抗体のペンブロリズマブをゲムシタビンとカルボプラチン、またはパクリタキセルやナブパクリタキセルと一緒に使用したりします。いずれも乳腺科に通院して行います。
PARP阻害剤
BRCA1またはBRCA2遺伝子変異が確認された場合は、PARP阻害剤のオラパリブが使用されます。アンスラサイクリン、タキサンを使用したことがある患者さんが使用できます。オラパリブは飲み薬で、乳腺科に通院して治療します。
骨転移に使用する分子標的薬
骨転移がある場合、デノスマブを4週に1回皮下注射、もしくはゾレドロン酸を3週に1回点滴します。乳腺科に通院して治療します。重篤な副作用として顎骨壊死(がっこつえし;顎の骨が腐ってしまうこと)があるので、治療前に歯科を受診し、必要であれば事前に歯科治療を行っていきます。
放射線治療
症状のある骨転移や複数の脳転移がある場合に放射線治療を行います。転移による症状で通院が難しい場合は、入院して治療を行います。また、乳房やリンパ節転移の症状がある場合に症状を取り除く目的で放射線療法を行うことがあります。
手術
ステージ4では基本的に手術は行いません。例外としては、肺の病巣が乳がんの転移なのか、肺癌なのか診断する目的で肺の病巣を切除する場合があります。また、単発の脳転移に対して手術をしたりすることもあります。さらに、乳房の症状がある場合に、病状が許せば、症状を取り除くために手術を行うことがあります。
緩和ケア
乳がんの進行を抑える治療と並行して、緩和ケアがあります。具体的には、痛みなどの病気の症状や薬の副作用を和らげたり、不安を軽減したりするためのカウンセリングを行います。緩和ケアは終末期だけのケアではなく、病気の状態や時期に関係なく受けることができます。
「乳がんステージ4」についてよくある質問
ここまで乳がんステージ4の症状や余命・生存率・検査法・治療法などを紹介しました。ここでは「乳がんステージ4」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんステージ4の平均余命はどれくらいですか?
山田 美紀 医師
乳がんステージ4の5年生存率は38.7%です。5年生存率とは、がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらいなのかを表します。5年生存率を元に余命を推測しますが、あくまで目安です。また、余命を推測する指標として生存期間中央値もあります。これは生存している患者さんの割合が50%になる期間をいいます。転移性乳がんの生存期間中央値は、ホルモン受容体陽性HER2陰性で44.8か月、HER2陽性で58か月、トリプルネガティブ乳がんで14.2か月との報告があります。
乳がんステージ4と診断され、骨に転移がある場合余命はどれくらいですか?
山田 美紀 医師
乳がんが転移する場合、約30%の患者さんで最初に骨に転移します。転移が骨のみの場合は、ゆっくりと進行することが多く、内臓に転移がある場合と比べて生存期間が長いという報告があります。
編集部まとめ
ステージ4は基本的に薬物治療を行います。完治は難しいですが、がんの進行を抑えながら、症状を和らげてQOLの良い状態で、長く生きることを目指します。乳がんは他のがんと比べて生存率が高いです。ステージ4=末期がんではないため、前向きに治療をしていくことが大切です。
「乳がんステージ4」と関連する病気
「乳がんステージ4」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
整形外科の病気
- 圧迫骨折
内分泌代謝科の病気
呼吸器科の病気
- 肺腫瘍
- 胸水
- 癌性リンパ管症
脳神経科の病気
消化器科の病気
- 肝腫瘍
- 腹水
乳がんの転移しやすい部位は骨、肺、肝臓、脳です。例えば、骨折をきっかけに乳がんのステージ4と診断されるケースもあります。症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
「乳がんステージ4」と関連する症状
「乳がんステージ4」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 背中や腰の痛み
- 息苦しさ、咳
- 頭痛
- お腹の張り
転移部位によってさまざまな症状が出る場合があります。いつもと異なる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。