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「パーキンソン病」を発症すると「姿勢」にどのような特徴が現れるかご存知ですか?

 公開日:2025/12/15
「パーキンソン病」を発症すると「姿勢」にどのような特徴が現れるかご存知ですか?

パーキンソン病を発症すると姿勢にどのような特徴が現れる?Medical DOC監修医がパーキンソン病患者の姿勢の特徴・姿勢反射障害になる原因・なりやすい人の生活習慣・予防法などを解説します。

神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

「パーキンソン病」とは?

パーキンソン病は、脳の「黒質」という部分でドパミンをつくる神経細胞が減少することで起こる神経変性疾患です。
動作が遅くなる、筋肉がこわばる、震えが起こるといった運動症状のほか、姿勢の保持が難しくなる「姿勢反射障害」など、転倒につながる症状も特徴の一つです。進行とともに歩行や日常生活の動作が不安定になりやすく、早期からの治療やリハビリが重要です。

パーキンソン病を発症すると姿勢にどのような特徴が現れる?

パーキンソン病の方では、以下のような姿勢の変化がみられることが知られています。

姿勢反射障害が起こる

姿勢反射障害、つまり姿勢を保つことが難しくなる症状で、パーキンソン病の特徴の一つです。姿勢反射障害が起こると、つまづいたり、バランスを崩したりするなど、ちょっとしたことで転びやすくなってしまいます。そのまま転倒してしまうこともあります。姿勢の不安定が原因となる転倒は、パーキンソン病患者の約6割にみられるという報告もあります。

腰が曲がる

前傾・前屈姿勢になることも、パーキンソン病に特徴的な症状の一つです。早期の段階のパーキンソン病であれば抗パーキンソン病薬の投与や運動療法の効果がみられますが、進行している場合には姿勢の改善効果が十分に現れないことも多いです。

身体がどちら一方に傾く(斜め徴候)

パーキンソン病では、左右いずれかに体が傾く「斜め徴候(Pisa症候群)」が起こることがあります。重心が片側に寄るため転倒のリスクが高くなり、長時間の歩行や立位が難しくなる場合があります。

首が下がる

首が前に垂れ下がる「ドロップヘッド」も見られることがあります。頸部の筋力低下や筋緊張の異常が背景にあり、視野が狭くなることで歩行中の障害物に気づきにくくなるなど、転倒リスクがさらに高まります。

パーキンソン病を発症すると姿勢反射障害になる原因

人の身体には、倒れそうになったときに倒れないように姿勢を反射的に直す反応がもともと備わっています。しかし、パーキンソン病の方ではそういった反応がうまく働かず、転びやすさにつながる場合があります。以下では、パーキンソン病の場合に姿勢反射障害になる原因について解説します。

脳の基底核関連のバランス維持がそこなわれる

パーキンソン病では、姿勢やバランスの調整に欠かせない「基底核」の働きが低下します。基底核の機能が弱まることで重心のコントロールが難しくなり、バランスを崩したときに踏ん張る力が十分に出せなくなります。そのため、方向転換が遅れたり、予期せぬ揺れに対応できず転倒しやすくなったりします。こうした症状がみられる場合には、神経内科での評価が必要となります。

視覚によるバランス制御が難しくなる

パーキンソン病では、視覚情報を処理する速度が遅くなったり、空間の位置関係を把握する力(視空間認知)が低下したりすることがあります。こうした変化が生じると、階段や段差を判断するのに時間がかかったり、暗い場所での動作が急に不安定になったりするなど、日常動作に支障が出ます。視覚から得られる情報をもとに姿勢を安定させることが難しくなるため、姿勢反射障害がさらに悪化することがあります。

頭の位置などを感知する能力が低下する

姿勢の維持には、耳の奥にある前庭器官が頭の傾きや動きを感知する働きと、筋肉や関節の動きを感じ取る固有受容感覚が欠かせません。パーキンソン病では、これらの感覚の統合がうまくいかなくなり、身体の位置を正確に把握しにくくなります。その結果、体がどちらかに傾いても自覚しづらく、無意識のうちにバランスを崩してしまうことがあります。このような症状が続く場合には、神経内科を受診し、必要に応じてリハビリテーション科でのバランストレーニングが推奨されます。

パーキンソン病になりやすい人の生活習慣

パーキンソン病の発病危険因子としては、60歳以上の高齢、男性、家族歴などが報告されています。ただし、日本では女性の方が発症頻度が高いため、世界的な報告とは異なります。以下では、パーキンソン病になる可能性を高めるかもしれないと考えられている生活習慣などについて解説します。

運動不足

運動不足は、パーキンソン病発症の危険性を高める可能性があります。
動物の研究では、運動をすると体の中の炎症が減り、パーキンソン病に関係するたんぱく質(α-シヌクレイン)の異常が少なくなり、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きもよくなることが報告されています。さらに、神経を守ったり育てたりする物質(神経栄養因子)が増える可能性があるとも言われています。運動不足や身体活動の低下がみられると、こうした作用が期待できなくなる可能性があります。

慢性的な不眠症

慢性的な不眠症は、パーキンソン病のリスクを高める可能性があります。慢性不眠症が3ヶ月以上続く方のリスクが最も高かったとする報告もあります。
ただし、すでにパーキンソン病になりかけているために不眠症があるのかなど、まだ解明されていない部分もあります。
「夜寝られない」「睡眠の質が低下している」といったことが続く場合は、睡眠外来など、専門家に相談するようにしたほうがよいでしょう。

特定の農薬に晒される仕事についている

パラコートやロテノン、有機リン系、有機塩素系などの農薬は、パーキンソン病の発症率の増加と関連していることが示されています。農薬に暴露されることで、パーキンソン病に関連する遺伝子の変異などが起こり、病気につながるのではと示唆されています。

パーキンソン病の姿勢反射障害を軽減するリハビリ

パーキンソン病による姿勢反射障害があると、立つ・座る・歩くといった日常の動作でふらつきやすくなります。そして、いったんバランスを崩すと元の体勢に戻りにくくなります。
また、身体が硬くなり、筋力が落ちていると、さらに姿勢の調整が難しくなります。そのため、身体の柔軟性を保ち、筋力の維持や向上が重要です。[1]
ここでは、パーキンソン病の姿勢反射障害改善のためのリハビリテーションやトレーニングを紹介します。
これらは、病院などの医療機関や、訪問リハビリとして自宅などで行われます。[1] 自宅でも行うことができるトレーニングもあります。理学療法士などのリハビリ担当者や、主治医と相談しながら、自分自身に合った運動に取り組むことが大切です。

ストレッチ

背中の筋肉を伸ばすような運動をして、前屈みになり転びやすくなることを予防しましょう。
壁に向かって座り、両手を壁につけ、窓拭きをするようなイメージで手を徐々にあげるようにします。立った状態でも運動ができます。壁を背中に向け、前屈みにならないように気をつけながら背中を壁につけていきます。

筋力訓練

背中を伸ばす力を保つ運動もあります。うつ伏せに寝転び、両肘を床についてできるだけ顔を上げます。左右交互に手を伸ばし、伸ばした手を見るようにします。次に、左右交互に足を持ち上げます。

リズムや音楽に合わせた歩行訓練

パーキンソン病で姿勢反射障害や歩行障害がみられる場合には、外からの合図(キュー)を利用したリハビリが有効とされています。代表的な方法として、音楽や一定のリズムに合わせて歩く訓練や、床のラインなど視覚的な合図を使った歩行練習があります。これらの訓練は、小脳や運動前野といった動きを調整する脳の回路を活性化すると考えられており、患者さんがより効率よく動作を学習できる点が特徴です。
実際に、リズムに合わせて歩く練習は、自分のペースで歩く場合と比べて、歩く速さや歩幅などが有意に改善したという報告があります。そのため、姿勢反射障害を伴うパーキンソン病の患者さんにとって、こうした外部の合図を取り入れたリハビリは試す価値が高い方法といえるでしょう。

バランス練習

パーキンソン病では、立ち上がりや方向転換、歩行の開始などの姿勢の切り替えが難しくなるため、バランス能力そのものを高めるトレーニングが重要です。例えば、片足立ちを短い時間だけ練習するなどの方法があります。

動作観察治療

運動やバランスの取り方を映像で見て、その動きをまねして実際に行うリハビリ方法があります。これは、私たちが誰かの動きを見るだけで脳の中の、まねる神経(ミラーニューロン)が働き、動きを学びやすくなるしくみを利用したものです。
パーキンソン病の患者さんでも、この「動作観察治療」がリハビリに役立つ可能性があると考えられており、実際に姿勢やバランスの改善に取り組んだ研究も報告されています。

パーキンソン病を予防する可能性の高い食べ物

現時点では、パーキンソン病の治療や予防効果が実証されている特定の食べ物はありません。しかし、以下のような食品はパーキンソン病の予防につながる可能性があります。

果物や野菜

パーキンソン予防には、果物や野菜、単純炭水化物を少量のみ含む低加工食品を中心とし、旬の新鮮な食材を取り入れた食事が推奨されつつあります。なお、単純炭水化物は、体内に入るとすぐに吸収され、血糖値を上げやすい炭水化物のことです。上白糖やグラニュー糖などがあり、清涼飲料水やジュースに多く含まれます。

ナッツ類

ナッツには、不飽和脂肪酸が高濃度に含まれています。また、食物繊維やビタミンB、ミネラルなど抗酸化物質も豊富に含まれます。ナッツがパーキンソン病発症のリスクに及ぼす影響はまだ研究中ですが、脳の血管保護などの作用によって、パーキンソン病でもみられうる認知機能の低下を軽減する可能性があります。

コーヒー

コーヒーには、カフェインに加えて、抗酸化作用を持つテオフィリンやフラボノイド、タンニンなどの化合物が含まれています。
パーキンソン病患者さんを対象にした研究では、男女差なく、便秘や排尿障害、精神障害などの非運動症状の改善がみられたとされています。一方で、パーキンソン病のリスクの低下は、男性ではカフェイン摂取との関連がみられますが、女性では当てはまらないかもしれないとされています。今後の研究結果が待たれるところです。

パーキンソン病の予防法

パーキンソン病は完全に防ぐことが難しい病気ですが、日ごろの生活習慣によって発症リスクを下げられる可能性があると考えられています。ここでは、研究によって示されている予防に役立つ生活習慣について解説します。

適度な運動をする

適度な運動は、パーキンソン病の予防や進行の抑制に役立つことが報告されています。運動を続けることで脳内の炎症が軽減し、神経細胞の働きを助ける物質(神経栄養因子)の増加にも関わるといわれています。また、体力や筋力の維持、姿勢やバランスの改善にもつながるため、発症後の生活の質を保つ意味でも有益です。
生活習慣としては、ウォーキングやストレッチ、ヨガなど無理なく継続できる運動を日常に取り入れることが大切です。急に激しい運動を行うのではなく、時間や強度を少しずつ増やしながら続けることで、身体への負担を軽減できます。日頃から姿勢を意識し、こまめに身体を動かす習慣づくりも予防に役立ちます。

適正体重を保つ

体重を適正に保つことも、パーキンソン病のリスクを減らす要因の一つとされています。過度な体重増加は、生活習慣全体の乱れにつながりやすく、筋力やバランス能力の低下を招くことで発症リスクや転倒リスクを高める可能性があります。一方で、やせすぎてしまうと筋力低下や栄養不足につながり、健康維持が難しくなるため、無理のない範囲での体重管理が重要です。
食生活では、野菜や果物、良質なたんぱく質を中心に、加工食品や砂糖を多く含む飲食を控えるよう心がけるとよいでしょう。無理なダイエットを行うのではなく、バランスの良い食事習慣を続けることが健康な体重の維持につながります。

社会的な活動をする

家族や友人との交流、地域活動への参加など、社会的なつながりを保つこともパーキンソン病予防に関連すると考えられています。最近の研究では、「孤独感」がパーキンソン病の発症リスクを高める可能性があるという報告もあり、人との交流が脳の健康維持に影響することが示唆されています。
外出の機会を増やしたり、趣味のサークルに参加したりすることで、心身の活性化につながります。また、社会的な活動はストレスの軽減にも役立ち、生活のリズムを保つうえでも大きな意味を持ちます。自宅で過ごす時間が長い場合でも、オンラインでの交流や軽いボランティア活動など、無理のない範囲で社会参加を続けることが予防につながります。

「パーキンソン病の姿勢」についてよくある質問

ここまでパーキンソン病の姿勢などを紹介しました。ここでは「パーキンソン病の姿勢」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

パーキンソン病のリハビリにおいて禁忌事項があれば教えてください。

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

パーキンソン病のリハビリでは、基本的に「避けるべき運動が多い」というわけではありませんが、症状や病期に応じて注意が必要な点はいくつかあります。まず、転倒リスクが高い場合には、不安定な姿勢での無理な運動や急激な方向転換は避けるべきです。また、極端に激しい運動を突然始めることは、筋肉や関節に過度な負担がかかり、かえって症状を悪化させる可能性があります。
さらに、薬の効果が切れやすい時間帯(オフの時間)には動きが不安定になりやすいため、その時間帯のトレーニングは慎重に行う必要があります。毎日の体調に合わせて運動強度を調整し、疲労が強い日は無理をしないことが大切です。どの程度の運動が適切か迷う場合には、医師や理学療法士に相談し、安全に継続できるプログラムを組んでもらうと安心です。

まとめ

今回の記事では、パーキンソン病でみられる姿勢の異常について、特に姿勢反射障害について解説しました。パーキンソン病の姿勢反射障害があっても、適切な運動療法やリハビリテーションを行う事で、生活の質を保つことは可能と考えられます。

「パーキンソン病」と関連する病気

「パーキンソン病になりやすい人」と関連する病気は13個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

脳神経内科系

  • 進行性核上性麻痺(PSP)
  • 大脳皮質基底核変性症(CBD)
  • 多系統萎縮症(MSA)
  • 薬剤性パーキンソニズム
  • 脳血管性パーキンソニズム
  • レビー小体型認知症(DLB)
  • アルツハイマー病

精神科系

内科系

パーキンソン病に関連する病気としては、パーキンソン病でみられる症状(パーキンソニズム)を呈するものや、またパーキンソン病に合併しておこるものがあります。

「パーキンソン病」と関連する症状 

「パーキンソン病」と関連している、似ている症状は20個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 振戦(手足のふるえ)
  • 筋強剛(筋肉のこわばり)
  • 無動(動作の遅れ)
  • 姿勢保持障害(バランスの崩れ、転倒しやすい)
  • 小刻み歩行(すり足歩行)
  • すくみ足(歩き出しや方向転換の困難)
  • ジスキネジア(不随意運動)
  • ウェアリングオフ(薬の効果が切れると症状悪化)
  • 自律神経障害(便秘・排尿障害・起立性低血圧)
  • 嗅覚低下
  • 睡眠障害(レム睡眠行動障害、不眠)
  • 不安症状
  • 認知機能低下(パーキンソン病認知症)
  • 幻視・幻覚
  • 倦怠感(疲れやすさ)
  • 小声(声が小さくなる)
  • 書字障害(小字症)
  • 体の痛み(筋肉・関節の痛み)
  • ヨダレが出やすい(嚥下障害)

パーキンソン病は運動症状だけでなく、非運動症状も多くみられるため、総合的な治療・ケアが重要です。

参考文献

この記事の監修医師