「脳腫瘍の余命」はご存知ですか?グレード別に医師が徹底解説!


監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
2011年福島県立医科大学医学部卒業。2013年福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長を歴任。2022年より東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医、健康経営エキスパートアドバイザー。
目次 -INDEX-
「脳腫瘍」とは?
脳腫瘍とは、脳そのものや、脳の周りの組織(脳神経、髄膜(ずいまく:脳を包む膜)、下垂体(かすいたい:ホルモンを出す小さな器官)など)にできる腫瘍(できもの)の総称です。できる場所や、どんな種類の細胞から発生したかによって、非常に多くの種類があり、おとなしい良性のものから、進行が早く治療が難しい悪性のものまで様々です。症状は、腫瘍の大きさ、できた場所、成長する速さによって異なり、頭痛、吐き気、手足の麻痺(まひ)、感覚の異常、見え方の異常、性格が変わる、物忘れなどの認知機能の低下、痙攣(けいれん)などが現れることがあります。脳腫瘍の種類
脳腫瘍は、発生した場所によって「原発性脳腫瘍(げんぱつせいのうしゅよう)」と「続発性脳腫瘍(ぞくはつせいのうしゅよう)または転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)」の大きく2つに分けられます。原発性腫瘍
脳の組織そのもの、または脳を取り囲む組織(髄膜、脳神経、下垂体など)から発生する腫瘍です。脳腫瘍ができる頻度は、1年間に10万人のうち15人程度と言われています。 原発性脳腫瘍には様々な種類があり、顕微鏡で見たときの細胞の違いなどから、おおよそ150種類に分類されます。主な原発性脳腫瘍としては、神経膠腫(しんけいこうしゅ:グリア細胞という脳の細胞から発生)、髄膜腫(ずいまくしゅ:脳を包む膜から発生)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ:下垂体から発生)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ:脳神経を包む細胞から発生)、頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ:脳の底の部分に発生)などがあります。 脳腫瘍の症状は、腫瘍ができた場所や大きさによって本当に様々です。例えば、頭痛、痙攣(けいれん)、手足の麻痺(まひ)、感覚の異常、見え方の異常、性格が変わる、物忘れなどの認知機能の低下、ホルモンの分泌異常による症状、聞こえが悪くなる、耳鳴り、めまいなどが現れることがあります。続発性腫瘍(転移性脳腫瘍)
体の他の部分にできた癌(肺癌、乳癌、大腸癌など)が、血液の流れに乗って脳に移動し、そこで増殖したものです。近年、癌の治療が進歩し、体全体の癌が抑えられるようになった一方で、脳に転移する頻度が増える傾向があります。脳腫瘍グレード別の余命
原発性脳腫瘍の悪性度(たちの悪さ)は、WHO(世界保健機関)の分類によってグレードI(グレード1)からIV(グレード4)までの4段階に分けられます。グレードが高いほど、悪性度が高く、成長するスピードが速く、周りの脳の組織に広がりやすい性質があります。 一般的に、グレードが高いほど予後(病気の経過の見通し、ここでは生存期間の目安)は良くないとされますが、腫瘍の種類や、治療の効果など、多くの要因によって大きく左右されるため、ここで示す数字はあくまで目安として考えてください。 以下に示すグレードごとの余命は、多くの患者さんの統計データに基づいたものです。しかし、それぞれの脳腫瘍の種類や、患者さん一人ひとりの状態、治療への反応は異なるため、担当の医師としっかりと相談し、ご自身の状況に合わせた情報を得ることが最も重要です。グレードI
グレードIは良性腫瘍(おとなしい腫瘍)に分類され、手術で完全に摘出(取り除く)できれば、再発することはまれで、一般的には健康な人と変わらないくらいの寿命が期待できます。手術で完全に腫瘍を取り除くことができれば、治る可能性が高いと言えます。グレードII
グレードIIは低悪性度腫瘍(比較的おとなしいが悪性の可能性もある腫瘍)に分類されますが、再発する可能性があり、時間が経つにつれて悪性化(たちの悪い状態になる)することもあります。治療後の平均生存期間は、腫瘍の種類や、どれだけ腫瘍を取り除けたかによって異なりますが、診断から5年後の生存率は50~70%程度と報告されています。手術で完全に腫瘍を取り除くことが難しい場合が多く、再発のリスクがあるため、完全に治すことは難しいことがあります。グレードIII
グレードIIIは悪性腫瘍(たちの悪い腫瘍)に分類され、グレードIIよりも成長するスピードが速く、周りの脳の組織に広がりやすい性質があります。治療後の平均生存期間は、腫瘍の種類や、治療の効果によって異なりますが、診断から5年後の生存率は20~40%程度と報告されています。 完全に治すことは非常に難しく、治療の目標は、腫瘍の進行をできるだけ遅らせ、症状を和らげ、患者さんができるだけ質の高い生活を送れるようにすることです。グレードIV
グレードIVは最も悪性度の高い腫瘍で、代表的なものに膠芽腫(こうがしゅ)があります。非常に速いスピードで成長し、周りの脳の組織に強く浸潤(しみ込むように広がる)するため、治療が非常に難しい腫瘍です。治療後の平均生存期間は12~18ヶ月程度、診断から5年後の生存率は5%未満と報告されています。 現時点では完全に治すことは非常に困難です。治療の目標は、腫瘍の進行をできるだけ遅らせ、症状を和らげ、可能な限り患者さんが質の高い生活を送れるようにすることです。脳腫瘍の末期症状
脳腫瘍が進行し、末期(病気が最終段階に入った状態)になると、腫瘍が大きくなることによる脳の圧力の上昇や、脳の広い範囲の機能が障害されることによって、様々な症状が現れます。症状は患者さんによって異なりますが、一般的に以下のようなものが見られることがあります。意識障害
意識の状態が徐々に悪くなっていきます。例えば、傾眠(けいみん:ぼんやりして眠そうにしている)、昏迷(こんめい:強く刺激しないと反応しない)、昏睡(こんすい:呼びかけや刺激に全く反応しない)などがあります。 意識状態が良くない場合には、患者さんが安全な体勢を保てるようにし、呼吸がしやすいように気道を確保することが重要です。すぐに医療機関に連絡して、指示を仰ぐようにしてください。持続的な頭痛と嘔吐
脳腫瘍によって脳の圧力が上がると、持続的で激しい頭痛が起こり、吐き気や嘔吐(食べたものを吐くこと)を伴うことがあります。 一般的な頭痛薬はあまり効果がないことが多いので、症状が悪化する場合は、無理せずに医療機関を受診するようにしてください。痙攣の頻度増加
脳の機能の異常が進むと、痙攣(手足が急に突っ張ったり、ガクガクしたりする)が起こる頻度が増えたり、痙攣が長く続く状態(重積発作:じゅうせきほっさ)になったりすることがあります。 痙攣発作が長く続くと、呼吸の状態が不安定になる危険性があります。もし座っている状態で痙攣が始まったら、倒れて怪我をしないように、まずは安全な場所に寝かせ、体を締め付けるものを緩め、気道を確保してください。痙攣が続くようなら、すぐに医療機関に連絡してください。麻痺の進行
手足の麻痺(動かしにくくなる、力が入りにくくなる)が徐々に進み、最終的には全身が麻痺してしまうことがあります。 無理に動かそうとせず、安静にしてください。症状の進行が見られた場合は、担当の医師に連絡してください。呼吸困難
脳腫瘍やその周りのむくみ(浮腫:ふしゅ)によって、脳の呼吸を調整する部分(脳幹:のうかん)が圧迫されると、呼吸が浅く速くなったり、呼吸のリズムが乱れたりすることがあります。 患者さんが楽な体勢を取れるようにし、必要に応じて酸素を吸入させます。呼吸の状態が悪い場合は、すぐに救急車を呼んでください。脳腫瘍の検査法
脳腫瘍の診断には、主に画像検査が行われます。MRI(磁気共鳴画像)検査
磁石と電波を使って、脳の様々な方向の断面の画像を作り出す検査です。脳の柔らかい組織の状態を詳しく見ることができ、腫瘍の大きさ、できた場所、周りの脳の組織との関係などを細かく調べることができます。造影剤(ぞうえいざい:血管などをよりはっきり写すための薬)を使うことで、腫瘍の悪性度や血管の分布などをさらに詳しく調べることができます。検査時間は30分から1時間程度かかることがあります。CT(コンピュータ断層撮影)検査
X線を使って、脳の断面の画像を撮る検査です。MRIに比べて、骨の状態や出血、石灰化(カルシウムがたまること)の有無などを素早く確認できます。緊急時など、迅速な診断が必要な場合によく行われます。検査時間は5分から20分程度です。病理検査
手術や生検(せいけん:腫瘍の一部を採取する検査)で採取した腫瘍の組織を、顕微鏡で詳しく調べる検査です。この検査によって、腫瘍の種類や悪性度が最終的に確定します。脳腫瘍の治療法
脳腫瘍の治療法は、腫瘍の種類、悪性度(グレード)、大きさ、できた場所、患者さんの年齢や全身状態など、様々な要素を考慮して、患者さん一人ひとりに合わせて決められます。手術療法
可能であれば、手術によって腫瘍を外科的に摘出(取り除く)ことを目指します。良性腫瘍であれば、手術だけで完全に治ることも期待できます。悪性腫瘍の場合は、腫瘍をできるだけ減らすことや、病理検査で正確な診断をつけるために手術が行われます。脳腫瘍の場所や大きさなどによって、頭を開けて行う開頭手術や、内視鏡(細いカメラ)を使った手術などが行われます。放射線療法
高エネルギーの放射線を腫瘍に照射することで、腫瘍細胞の成長を抑える治療法です。手術で腫瘍が残ってしまった場合や、再発した場合、手術が難しい場所にある腫瘍などに対して行われます。化学療法
抗癌剤(こうがんざい:癌細胞の増殖を抑える薬)の飲み薬や点滴を使って、全身の腫瘍細胞の成長を抑える治療法です。悪性度の高い脳腫瘍に対しては、手術や放射線療法と組み合わせて行われることが多いです。分子標的治療
癌細胞が持つ特定の分子を目印として、その分子だけを攻撃する薬を使う治療法です。近年、一部の脳腫瘍に対して効果が示されています。「脳腫瘍の余命」についてよくある質問
ここまで脳腫瘍の余命などを紹介しました。ここでは「脳腫瘍の余命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳腫瘍を発症すると何年生きられるのでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳腫瘍と診断された場合の生存期間は、腫瘍の種類、悪性度(グレード)、発生した場所、大きさ、どのような治療を行ったか、そして患者さん自身の年齢や全身状態など、本当に多くの要因によって大きく異なります。 この記事でご説明したように、良性腫瘍であるグレードIの腫瘍で、手術で完全に摘出できた場合は、一般的には健康な人と変わらないくらいの寿命が期待できます。一方で、悪性度の高いグレードIVの膠芽腫の場合、平均生存期間は12~18ヶ月程度と報告されています。グレードIIやIIIの腫瘍も、その種類や治療への反応によって生存期間は大きく異なります。 大切なことは、これらの数字はあくまで多くの患者さんの統計データであり、患者さん一人ひとりの状態を示すものではないということです。同じグレードの腫瘍でも、治療への効果や病気の進行のスピードは人それぞれです。 脳の血管の構造や脳の形などは人それぞれであり、同じ種類の脳腫瘍でも手術の難しさは異なります。また、患者さんの体の状態によって、最適な治療計画も変わってきますので、様々な情報を総合的に評価して治療方針を立てます。余命について、一般的な傾向をお伝えすることはできますが、正確な予測は非常に難しいことをご理解ください。最も大切なことは、担当の医師としっかりとコミュニケーションを取り、治療方針について十分に理解し、前向きに治療に取り組むことです。
脳腫瘍は完治するのでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳腫瘍の種類や悪性度によって、完全に治る可能性は大きく異なります。 良性腫瘍であるグレードIの髄膜腫や神経鞘腫などで、手術で完全に摘出できた場合は、再発のリスクは低く、完治に近い状態を目指せる場合があります。下垂体腫瘍も、手術や薬物療法で症状が改善し、長期間病状をコントロールできることが多いです。 しかし、悪性腫瘍であるグレードIIIやIVの神経膠腫(特に膠芽腫)は、周りの脳の組織に染み込むように広がることが多く、手術で完全に摘出することが非常に難しいため、現時点では完全に治すことは難しいと言わざるを得ません。これらの悪性腫瘍の治療目標は、腫瘍の進行を遅らせ、症状を和らげ、可能な限り質の高い生活を送ることです。放射線療法や化学療法、分子標的治療、免疫療法などを組み合わせた、集学的な治療が行われます。 グレードIIの低悪性度腫瘍も、再発したり、悪性化するリスクがあるため、長期的な経過観察が必要です。 「完治」という言葉の捉え方も重要です。たとえ悪性度の高い腫瘍であっても、適切な治療によって長期間病状が安定し、日常生活の質(QOL:Quality of Life)を高い状態で送ることができている方もいらっしゃいます。 脳腫瘍の治療は、日々進歩しています。諦めずに、担当の医師とともに、ご自身にとって最善の治療法を探っていくことが大切です。
編集部まとめ
この記事では、脳腫瘍の種類とグレード別の生存期間の目安、症状、検査法、そして治療法について解説しました。脳腫瘍は非常に多くの種類がある病気であり、その予後も腫瘍の種類や悪性度によって大きく異なります。 脳腫瘍と診断された場合、最も重要なことは、ご自身の腫瘍の種類やグレードを正確に理解し、担当の医師と十分に話し合い、納得のいく治療法を選択することです。余命に関する情報は、あくまで統計的な目安であり、患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なることを理解しておきましょう。 脳腫瘍の治療は、手術療法、放射線療法、化学療法、分子標的治療など、様々な方法が進歩しており、集学的な治療によって、予後の改善や生活の質の維持が期待できるようになっています。 もし、頭痛、痙攣(けいれん)、手足の麻痺(まひ)、感覚の異常、見え方の異常、物忘れなどの症状が現れた場合は、自己判断せずに、速やかに脳神経外科を受診してください。早期発見と適切な治療が、より良い治療結果につながる可能性があります。「脳腫瘍」と関連する病気
「脳腫瘍」と関連する病気は5個ほどあります。 各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。 多くの場合、脳の病気は神経症状や血液検査などだけではどの病気かを判断することができません。診断には頭部画像検査を行った検査が中心となります。「脳腫瘍」と関連する症状
「脳腫瘍」と関連している、似ている症状は17個ほどあります。 各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。関連する症状
参考文献




