「若年性アルツハイマーの原因」はご存知ですか?発症しやすい人の特徴も医師が解説!
若年性アルツハイマーの原因とは?Medical DOC監修医が若年性アルツハイマーの原因・10代・20代で発症する原因・なりやすい人の特徴・なりにくい人の特徴・初期症状・セルフチェック法・予防法などを解説します。
監修医師:
秋谷 進(東京西徳洲会病院小児医療センター)
目次 -INDEX-
「若年性アルツハイマー」とは?
「若年性アルツハイマー病」とは、一般的には65歳以上で発症することが多いアルツハイマー病が、65歳未満で発症する認知症のこと。若年で発症すると、働き盛りや子育てなどが大変な時期なので、本人だけでなく家族や周囲にも大きな影響を与えやすいですよね。
さらに若年性アルツハイマー病は、記憶障害だけでなく、判断力や計画性の低下、性格の変化など、さまざまな症状が現れます。早期発見・早期治療が重要ですが、若年層ではうつ病やストレスなどと誤診されるケースもあり、診断が遅れやすいのも特徴です。
今回、若年なのに「認知症かな?」と思った方に対して、若年性アルツハイマー病の主な特徴や原因、セルフチェック法を含めてわかりやすく解説していきます。
若年性アルツハイマーの主な原因
高齢者が発症するアルツハイマー同様、若年性アルツハイマー病においても、アミロイドβと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積することが、発症の重要なメカニズムの一つと考えられています。
アミロイドβは、本来は脳内で正常に代謝されるべきタンパク質ですが、何らかの原因で代謝がうまくいかなくなると、脳内に蓄積し始めます。アミロイドβが蓄積すると神経細胞にダメージを与え、脳の機能を低下させます。
最近の研究では、アミロイドβの蓄積は、若年性アルツハイマー病の発症の数年前から始まっている可能性が示唆されています。また、アミロイドβの蓄積パターンは、若年性と高齢者発症のアルツハイマー病で異なる可能性も指摘されています。
事実、Mendez (2019) の論文では、アミロイドPETイメージングを用いた研究において、早期発症アルツハイマー病と診断された患者のほとんどが、陽性であったと報告しています。
したがって、若年性アルツハイマー病にならないようにするためには、「いかにアミロイドβを脳内に蓄積させないか」が対策の肝になります。
10代・20代で若年性アルツハイマーを発症する原因
では、10代や20代という非常に若い年齢で「アミロイドβ」が蓄積するのには、どのような要因が考えられるのでしょうか?大きくわけて「遺伝的要因」「頭部外傷などの外的要因」「生活習慣などの環境要因」の3つがあげられます。
遺伝的要因
若年性アルツハイマー病の一部は、家族性アルツハイマー病と呼ばれる遺伝性の病気と関連しています。家族性アルツハイマー病は、特定の遺伝子(APP、PSEN1、PSEN2など)に変異が起こることで発症します。
家族性アルツハイマー病では、これらの遺伝子変異が親から子へと受け継がれるため、若年で発症するリスクが高まります。ただし、若年性アルツハイマー病全体の中で家族性アルツハイマー病が占める割合は少なく、多くの場合は遺伝以外の要因も複雑に絡み合っていると考えられています。
頭部外傷などの外的要因
過去に頭部外傷を経験したことがある場合、若年性アルツハイマー病を含む認知症のリスクが高まる可能性が示唆されています。
Farrerら(2018)の研究では、若年性アルツハイマー病患者における頭部外傷の既往歴を調査し、その関連性を検討しています。結果、頭部外傷の既往がある患者では、アミロイドβの脳内蓄積がより早く進行する傾向が認められました。
頭部外傷は、脳に直接的なダメージを与えるだけでなく、炎症反応や酸化ストレスを引き起こすことでアミロイドβの蓄積を促進し、若年性アルツハイマー病の発症リスクを高める一因となっていると考えられています。
乱れた生活習慣
直接的な原因ではありませんが、乱れた生活習慣は脳の健康に悪影響を及ぼし、若年性アルツハイマー病の発症リスクを高める可能性があります。
●不健康な食生活: 脂肪分の多い食事や糖分の過剰摂取は、脳の血管にダメージを与え、血流を悪化させる可能性があります。脳への栄養供給が不足すると、神経細胞の機能が低下し、認知症のリスクが高まります。
●運動不足: 運動不足により脳の血流が神経細胞の成長しにくくなり、脳の老化を早める可能性があります。
●睡眠不足: 睡眠は脳の老廃物を除去し、記憶を整理するのに重要な役割を果たすため、睡眠不足により脳の老廃物が蓄積しやすくなります。
●喫煙: 喫煙は、血管を収縮させ、脳への血流を減少させます。また、喫煙による酸化ストレスは、神経細胞にダメージを与え、認知症のリスクを高めます。
●過度の飲酒: 過度の飲酒は脳細胞を直接的に損傷し、記憶や学習能力を低下させる可能性があります。また長期的な飲酒は脳の萎縮を引き起こし、認知症のリスクを高めます。
これらの生活習慣は、単独で若年性アルツハイマー病を引き起こすわけではありませんが、複数の要因が重なることで、発症リスクを高める可能性があります。
若年性アルツハイマーになりやすい人の特徴
遺伝的要因
若年性アルツハイマー病の患者さんの約10人に1人は、特定の遺伝子の変化が原因で発症しています。これを「常染色体優性家族性アルツハイマー病」と呼びます。
例えるなら、これは宝くじのようなものです。一般的なアルツハイマー病では、 多くの人が宝くじを買っていますが、当たる人はごくわずかです。一方、常染色体優性家族性アルツハイマー病にみられるような特定の遺伝子を持っている人は、最初から当たりくじを持っているようなものです。そのため、若くしてアルツハイマー病を発症する可能性が非常に高くなります。
例えば特定の遺伝子として、PSEN1、PSEN2、APPなどがあります。これらの遺伝子は、親から子へと受け継がれます。
頭部外傷の既往
若年性アルツハイマー病は、若い頃に頭部を強く打つ経験、つまり頭部外傷の既往がある場合に、そのリスクが高まる可能性が指摘されています。例えば、若い時に
● 学生時代にラグビーやサッカーをしていて、何度も頭を打ったことがある
● 幼少期に転倒や転落事故を起こしたことがある
● バイク事故で頭を強く打ったことがある
などの人は注意が必要です。
若年性アルツハイマーになりにくい人の特徴
逆に言えば、以下のような人は若年性アルツハイマーになりにくいと言えます。
●家族性アルツハイマー病を引き起こす遺伝子変異を持っていない人:家族性アルツハイマー病は、特定の遺伝子変異が原因で発症し、若年性アルツハイマー病のリスクを大幅に高めます。これらの遺伝子変異を持っていない人は、若年性アルツハイマー病になりにくいと考えられます。
●健康的な生活習慣を維持している人:バランスの取れた食生活、適度な運動、十分な睡眠、禁煙、節酒など、脳の健康に良い生活習慣を維持している人は、若年性アルツハイマー病のリスクを低減できます。
●頭部外傷の経験が少ない人:頭部外傷は、脳にダメージを与え、若年性アルツハイマー病のリスクを高める可能性があります。スポーツや事故などで頭を強く打った経験が少ない人は、リスクが低いと考えられます。
若年性アルツハイマーの前兆となる初期症状
物忘れ
若年性アルツハイマー病の初期症状として最も一般的なのが「物忘れ」です。しかし、誰しも経験するようなちょっとした物忘れとは異なり、日常生活に支障をきたすほどの深刻な物忘れが生じます。
例えば、
● 最近の出来事を忘れる
● 同じ質問を繰り返す
● 約束や予定を忘れる
● 置き忘れが増える
などの症状が生じます。
注意力・実行力などが低下する
若年性アルツハイマー病では、一般的にエピソード記憶障害(過去の出来事に関する記憶の障害)は比較的少なく、注意力、実行力が少ないという特徴があります。
例えば、
● 会話中に他の物音や情報に気を取られやすく、話の内容に集中できない。
● 仕事や家事の途中で他のことに気を取られ、元の作業に戻れなくなる。
● 物事を順序立てて計画したり、複数のタスクを同時にこなすことが難しくなる。
● 簡単な作業でも、始めるのに時間がかかったり、途中で諦めてしまうことがある。
などの症状が出ることがあります。
ほかにも運動能力や視空間能力が低下するなどの特徴があります。
受診・予防の目安となる「若年性アルツハイマー」のセルフチェック法
以下の項目をチェックし、4個以上当てはまる場合は、若年性アルツハイマー病の可能性があります。早めに医療機関を受診し、専門医に相談しましょう。
最近の出来事をよく忘れる
同じことを何度も質問したり、話したりする
約束や予定を忘れてしまう
置き忘れが増えた
仕事や家事の段取りがうまくいかなくなった
複雑な問題を解決するのが難しくなった
時間や場所がわからなくなることがある
慣れた道でも迷ってしまうことがある
感情の起伏が激しくなった
物の位置や距離感がつかみにくくなった
若年性アルツハイマーの予防法
予防法
若年性アルツハイマーは乱れた生活習慣と密接に関係します。まずは以下のことから始めてみましょう。
● バランスの取れた食事: 野菜、果物、魚、全粒穀物などを積極的に摂取し、脂肪分や糖分の過剰摂取を避ける。
● 適度な運動: 定期的な有酸素運動や筋トレなど、適度な運動を習慣化する。
● 十分な睡眠: 毎日7〜8時間の質の高い睡眠を確保する。
● 禁煙: 喫煙は脳の血管にダメージを与え、血流を悪化させるため、禁煙することが重要です。
● 節酒: 過度の飲酒は脳細胞を傷つけるため、適量を守ることが大切です。
新しいことを学ぶ
新しいことを学ぶことは、脳を積極的に使い、認知機能を維持・向上させるために非常に重要です。新しいことを勉強する、読書する、語学学習をしてみる、新しい楽器を演奏してみる、新しい趣味を開拓する・・・どんなことでもかまいません。
認知機能を高めるためにも、新しい挑戦をどんどんしていきましょう!
「若年性アルツハイマーの原因」についてよくある質問
ここまで若年性アルツハイマーの原因などを紹介しました。ここでは「若年性アルツハイマーの原因」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ストレスが原因で若年性アルツハイマーを発症することはありますか?
秋谷 進 医師
はい。
ストレスはアルツハイマーの発症や進行と大きく関わっていることが言われています。
ストレスは、脳内で炎症を引き起こしたり、神経細胞の保護機能を低下させたりする可能性があり、これらがアミロイドβの蓄積などの病理学的変化を促進する可能性があることがわかっています。したがって、ストレスを軽減するための対策を普段からとることが大切です。
編集部まとめ
この記事では、若年性アルツハイマー病の原因、特に10代・20代で発症する原因、なりやすい人の特徴、初期症状、セルフチェック法、予防法などを詳しく解説しました。
若年性アルツハイマー病は、まだ原因が完全には解明されていませんが、遺伝的要因、頭部外傷、生活習慣などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。早期発見・早期治療が重要ですが、若年層では他の疾患と誤診されるケースもあるため、セルフチェックや専門医への相談が大切です。
予防法としては、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、禁煙、節酒などの健康的な生活習慣を心がけること、そして、脳を積極的に使ったりや普段からストレスを減らすことも大切になってくるでしょう。
若年性アルツハイマー病は、本人だけでなく家族や周囲にも大きな影響を与える病気です。正しい知識を持ち、予防や早期発見に努めましょう。
「若年性アルツハイマー」と関連する病気
「若年性アルツハイマー」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経科の病気
- 家族性アルツハイマー病
- 血管性認知症
- 前頭側頭型認知症
- レビー小体型認知症
- 薬物関連認知症
- 自己免疫疾患や感染症による認知症
若年性アルツハイマー病全体の中で家族性アルツハイマー病が占める割合は少なく、遺伝以外の要因も複雑に絡み合っていることが多いと考えられています。
「若年性アルツハイマー」と関連する症状
「若年性アルツハイマー」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 物忘れ
- 同じこと何度も繰り返し話す
- 予定や約束を忘れる
- 仕事や家事の段取りが悪い
- 時間や場所がわからない
- ものの位置や距離感がつかみにくい
- 慣れた道でも迷ってしまう
- 感情の起伏が激しい
診断が難しい病気ですが、日頃から違和感を感じることが増える場合には早めに専門医療機関への相談をお勧めします。