「60代の血圧正常値」はご存じですか?高血圧・低血圧における注意点も医師が解説!

60代の血圧正常値はご存じですか?メディカルドック監修医が男女別の血圧正常値・異常値にある原因・対処法などを解説します。

監修医師:
伊藤 陽子(医師)
目次 -INDEX-
60代の血圧の特徴は?
60代の血圧の特徴は、収縮期血圧(上の血圧)が上がり「正常値」に収まらない方が増えてくることです。厚生労働省の調査によると、60代の平均血圧は132.1/77.3mmHgとされており、50代よりも収縮期血圧は大きく上回ります。 年代ごとの血圧の平均値は、以下のとおりです。| 年代 | 血圧の平均値 |
|---|---|
| 20代 | 109.3/67.8mmHg |
| 30代 | 112.1/71.8mmHg |
| 40代 | 116.4/73.3mmHg |
| 50代 | 125.8/79mmHg |
| 60代 | 132.1/77.3mmHg |
| 70代以上 | 136.5/74.2mmHg |
健康診断の60代の血圧正常値とは(診察室血圧)
血圧には、医療機関で測定した際の血圧である「診察室血圧」と、家庭で測定する「家庭血圧」の2種類があります。そのうち、診察室血圧の正常値は、「収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満」です。また、「高い」とまでは現状では言わないものの、将来的に高血圧になる可能性が高い「正常高値血圧(収縮期血圧120~129mmHgかつ拡張期血圧80mmHg未満)や「高値血圧(収縮期血圧130~139mmHgかつ/または拡張期血圧80~89mmHg)という値も存在します。 血圧の基準値は、性別や年齢に関係なく定められており、60代に関わらずすべての年齢で共通です。まずは、診察室血圧の正常値や男女別の傾向について順番にみていきましょう。60代男性の血圧正常値
60代男性の血圧正常値は、120/80mmHg未満(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)です。 血圧の平均値は133.5/78.7mmHgであり、同じ年代の女性よりやや高い傾向にあります。60代女性の血圧正常値
60代女性の血圧正常値も、男性と同じく120/80mmHg未満(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)です。 また、血圧の平均値は130.8/76.1mmHgと、男性よりもやや低い傾向にあります。これは男性が比較的若い年代から徐々に血圧が上昇するのに対し、女性は閉経を迎える50代頃まで女性ホルモンである「エストロゲン」の影響で血圧が低めに保たれるためです。ただし、閉経にともないエストロゲンが減少すると、女性も血圧は大きく上昇しやすくなります。 また、女性は男性よりも低い血圧で脳や心臓などの病気が起こるリスクが高いという報告もあります。そのため、「血圧はちょっと高いくらいだから大丈夫」と思わず、しっかりと血圧をコントロールすることが大切です。家庭血圧の60代の血圧正常値とは
60代の血圧管理で重要な役割を果たすのが、毎日同じ時間にリラックスした状態で測定する「家庭血圧」です。 家庭血圧の正常値は、115/75mmHg未満(収縮期血圧が115mmHg未満かつ拡張期血圧が75mmHg未満)です。 医療機関で測る診察室血圧よりも家庭血圧の基準値が低いのは、緊張しがちな医療機関より、家庭の方がリラックスした状況で測定できるためです。 なお、医師は健康診断での血圧(診察室血圧)よりも、家庭血圧を重視して治療方針を決定します。たとえば、健康診断では127/79mmHg(正常高値血圧)で家庭血圧の平均が142/90mmHg(高血圧)だった場合、その方は「高血圧」として治療の対象となります。血圧測定で脈拍を一緒に測るのはなぜ?
血圧測定時に脈拍数を同時に測るのは、心臓の拍動のリズムと回数をチェックし、不整脈の有無や心臓への負担を確認するためです。安静にしている場合、通常の脈拍数は安静時に1分間に約60~100回ほどです。 血圧が高く、さらに脈拍も速い場合(頻脈:ひんみゃく、1分間に100回以上)、心臓は強い力で速く働いており、非常に負担がかかっている状態です。また、逆に脈拍が遅すぎる場合(徐脈:じょみゃく、1分間におおよそ50回以下)も問題になることがあります。 血圧が高い方は、頻脈や不整脈を合併しているケースも少なくありません。不整脈を放置すると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが上昇するため危険です。脈拍数は血圧と同様に、緊張や運動などですぐに上昇するため、毎日の計測で普段の値を知ることが大切です。ぜひ脈拍数も血圧といっしょにチェックしてみてください。健康診断の血圧の再検査が必要な数値とは
健康診断で再検査が必要になる血圧は、140/90mmHg以上です。 健康診断での血圧が140/90mmHg以上であった場合、診察室血圧が高かったと判断されます。その場合、家庭での血圧を測定し、必要に応じた治療を開始します。 ただし、健康診断での血圧が140/90mmHg未満でも、血糖値や腎臓の値に異常が見られた方は再検査や受診をすすめられることがあります。健康診断の血圧の異常値・再検査基準と内容
健康診断で異常を指摘された場合、受診先はかかりつけ医もしくは近所の内科・循環器内科です。家庭で朝晩の血圧を測定し、結果を記録したものを持参します。 高血圧は自覚症状がないケースも多く「忙しいから」と受診を伸ばしがちですが、1ヶ月以内の受診が望ましいです。ただし、もし頭痛や息切れ、ふらつきなどがある場合は、すぐに受診しましょう。 医療機関でおこなう代表的な検査は、以下のとおりです。| 検査 | 確認する代表的な内容 |
|---|---|
| 問診 |
|
| 身体所見の確認 |
|
| 臨床検査 |
|
| 臓器障害の検査 |
|
高血圧・低血圧は自覚症状がなくても注意が必要
高血圧と低血圧はどちらも自覚症状が無く、検診で指摘されてはじめて気づく方が少なくありません。 ただし、症状が重い場合や人によっては、以下のような症状があらわれることもあります。| 病名 | 代表的な自覚症状 | 放置するリスク |
|---|---|---|
| 高血圧 |
|
|
| 低血圧 |
|
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健康診断の血圧の異常で気をつけたい病気・疾患
ここではメディカルドック監修医が、「血圧」に関する症状が特徴の病気を紹介します。 どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。高血圧
高血圧とは、診察室血圧(医療機関で測る血圧)が140/90mmHg以上または、家庭血圧(家庭で落ち着いた状態で測る血圧)が135/85mmHg以上が持続する状態です。甲状腺や副腎などの病気が原因のケースもありますが、日本人の大部分は原因が特定できず、以下のような複数の因子が関わって発症するとされています。・食塩の過剰摂取
・肥満
・飲酒
・運動不足
・ストレス
・遺伝
以前よりは健康に対する意識が高くなっているものの、食塩の過剰摂取は今でも日本人の高血圧に大きく関わっています。治療の基本は生活習慣の改善と薬物治療です。まずは減塩、運動、節酒、禁煙といった生活習慣の見直しを行います。それで目標値に達しない場合や糖尿病など他のリスクが高い場合は、将来の合併症予防のために降圧薬(Ca拮抗薬、ARB、利尿薬など )を服用します。 健康診断での血圧が140/90mmHg以上、家庭で測る平均血圧が135/85mmHg以上の場合、もしくは健康診断で異常を指摘された場合などはかかりつけ医もしくは近くの内科・循環器内科を受診しましょう。
低血圧
低血圧とは、高血圧とは逆に血圧が低い状態を指します。日本において一定の基準は定められていませんが、一般的に100/60mmHg以下程度になると低血圧とされるケースが多くみられます。症状がなく、日常生活に支障もなければそのまま様子をみるケースがほとんどです。ただし、めまいやふらつき、だるさなどがある場合は、治療を検討します。 治療では、バランスのよい食生活の指導や運動といった生活習慣の改善や、血圧を上げる昇圧薬などを使用します。ただし、病気や薬の副作用などが原因となっている場合は、原因となる病気の治療が必要です。 血圧が低く、体調に不安がある場合は内科や循環器内科を受診しましょう。脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が詰まって酸素や栄養が行きわたらなくなり、詰まった先の脳細胞が壊死する病気です。高血圧は脳梗塞の最大の危険因子で、高血圧を完全に予防できれば日本人の脳梗塞は約半分に減る[陽伊1] ともいわれています。脳梗塞の代表的な症状は、以下のとおりです。・片側の手足や顔半分の麻痺、しびれ
・ろれつが回らない
・人の言葉が理解できない
・視野が欠ける
・激しい頭痛
・バランスが取れなくなる、歩けなくなる
・意識を失う
発症から数時間以内に治療を始められれば、血栓を溶かす薬(t-PA)やカテーテル治療によって、後遺症を最小限にできる可能性があります。気になる症状があらわれたら、すぐに救急車を呼び専門的な治療ができる医療機関を受診しましょう。診療科は、脳神経内科です。
狭心症
狭心症は、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る「冠動脈」が動脈硬化で狭くなり、心筋への血流が一時的に不足する病気です。状態によって、以下2つに分類されます。| 労作性狭心症(安定狭心症) | 不安定狭心症 | |
|---|---|---|
| 特徴 |
|
|
| 発作が起こるタイミング | 階段を昇ったときや、速足で歩いたときなど | 安静時 |
| 発作の持続時間 |
|
数分~20分程度だが、繰り返し痛みがあらわれる |
心不全
心不全とは心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を送り出せなくなった状態です。以下のようにさまざまな病気が原因となって起こり、高血圧も心不全を起こす原因の一つです。・高血圧
・弁膜症
・心筋症
・不整脈
・動脈硬化
・先天性心疾患
心不全になると、初期は息切れやむくみが起こり、症状が進むと尿量の減少やむくみによる体重の増加、呼吸が苦しくて横になって眠れない(起坐呼吸)などがあらわれます。放置すると心臓はどんどん疲弊し、さらに機能が低下してしまいます。そのため、利尿薬や心臓を保護する薬(ACE阻害薬、ARB、β遮断薬)などで、心臓の負担を減らす治療をおこないます。また、高血圧や狭心症など、原因となる疾患の治療も欠かせません。 息切れやむくみ、突然の体重増加などがあらわれたら、できるだけ早く内科や循環器内科を受診しましょう。
60代で「血圧」が異常値と指摘された場合の改善法は?
血圧の異常を指摘された場合、医師への受診が必要です。薬の服用が必要になる場合もありますが、ここから紹介する改善法をあわせておこなうことで、治療効果の向上が期待できます。ぜひ参考にしてください。生活習慣の改善
・ストレスフリーの生活を心がける・食生活、適度な運動、充分な睡眠
血圧の異常を指摘された際にまずおこなうべきは、以下のような生活習慣の改善です。
・食生活の改善(減塩)
・適度な運動
・十分な睡眠
・ストレスをためない
このなかで一番重要なのは、食生活の改善です。食塩の摂取量を1日6g未満に抑えるように心がけましょう。ラーメンの汁は最後まで飲まずに残す、家庭での調味料を減塩に変えるなどもおすすめです。また、運動(ウォーキング・ジョギング・スイミングなどの有酸素運動と、筋肉トレーニング)も血圧を下げるのに効果があります。「楽~ややきつい」と感じる程度に、毎日体を動かすことを始めましょう。「食後に軽い散歩をする」「バスや電車を1つ前で降りて歩く」「エレベーターではなく階段を使う」などは、取り入れやすいかもしれません。 あわせて、十分な睡眠をとる、ストレスをためないようにすることも大切です。無理のない範囲で、できることから始めてみてください。
節酒・禁煙
お酒とタバコは、どちらも血圧を上げる原因です。お酒は量を控え(節酒)、タバコは完全にやめることをおすすめします。男性における、1日の酒量の目安を以下に紹介します。| お酒の種類 | 1日量の目安 |
|---|---|
| 日本酒 | 1合 |
| ビール | 中瓶1本 |
| 焼酎 | 半合 |
| ウイスキー | ダブルなら1杯 |
| ワイン | 2杯 |
「60代の血圧正常値」についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「60代の血圧正常値」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
血圧を下げる薬は、正常値を超えたら飲んだ方が良いでしょうか?
伊藤 陽子(医師)
正常値を超えても「高血圧」と診断されるほどでない場合は、生活習慣の改善で様子をみるケースも多いです。ただし、高血圧によって心筋梗塞や脳梗塞などが起こるリスクが高い方は、早いタイミングで薬を開始することもあります。心臓や脳へのリスクが高いとされる要素を、以下に紹介します。
・65歳以上
・男性
・脂質異常症
・喫煙
・脳や心臓の病気の既往
・心房細動
・糖尿病
・腎臓病
血圧についての不安がある場合は受診し、ご自身の体調を医師に確認してもらうことをおすすめします。
正常値を維持するのに効果的な方法は何でしょうか?
伊藤 陽子(医師)
60代の方が正常値を維持するために最も効果的なのは、生活習慣の改善です。具体的には、以下の内容を心がけると良いでしょう。
・食塩は1日6g未満に抑える
・肥満にならないよう、適正な体重を維持する
・運動習慣をつける
・お酒は控える
・禁煙する
・十分な睡眠をとる
・ストレスをためない
また、血圧が正常値に収まっているかを確認するために、家庭用の血圧計を購入して毎日測定することも大切です。測定した数値は、日付や測ったタイミング(朝もしくは夜)とともに記録しておくと、体調変化を知るのに役立ちます。
60代は50代よりも血圧の数値を気にすべきですか?
伊藤 陽子(医師)
60代は、動脈硬化の進行とともに収縮期血圧(上の血圧)が上がりやすくなります。そのため、50代の頃よりも血圧の数値を気にすることが望ましいです。 また、とくに60代後半の方は、退職にともなって毎年勤務先で受けていた健康診断がなくなり、ご自身の体調変化に気づかないケースも少なくありません。60代になったら少しずつ血圧を測る習慣を身につけ、ご自身の血圧を把握しましょう。持病がない場合、家庭での血圧が115/75mmHg以上(高血圧ほどではないものの、正常値よりは高め)になる日が続くようになったら生活習慣を見直し、135/85mmHg以上(高血圧)が続く場合は、一度内科や循環器内科を受診してみてください。
60代で高血圧気味の場合、何科の病院で治療できますか?
伊藤 陽子(医師)
高血圧の治療の専門は「循環器内科」や「腎臓高血圧内科」です。しかし、それ以外の内科(一般内科、消化器内科、呼吸器内科など)でも、血圧がやや高い程度であれば、一般的な治療は問題なくおこなえます。かかりつけの内科があれば、一度相談してみましょう。もし、狭心症や心不全、不整脈などの心臓合併症が疑われる、複数の薬を使っても血圧が下がらないなどの場合は、かかりつけ医が循環器内科に紹介し、詳しい検査をするのが一般的です。血圧が気になる場合は、近所の内科クリニックを探してみてください。




