「肝機能の数値が高い」原因はご存知ですか?下げる方法も医師が徹底解説!
肝機能の数値が高いとどうなる?Medical DOC監修医が主な原因や考えられる病気・何科へ受診すべきか・対処法などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
目次 -INDEX-
「肝機能の数値が高い」原因と対処法
健診などで肝機能の数値が高いと言われたことはあるでしょうか。これは肝臓に何らかの原因でダメージが与えられ、それによって肝臓の細胞が壊されたことを意味します。どのような時にこのようなことが起こるのでしょうか。ここでは肝機能障害の原因や対処法を解説していきます。
肝機能の数値が高い原因と対処法
肝機能障害の原因は様々です。ウイルス感染、肝硬変、腫瘍、自己免疫疾患(自分の免疫で自分の臓器を攻撃してしまう病気)、薬物などによってもおこりますし、飲酒、運動不足や食生活の乱れなど生活習慣によるものもあります(その他、ウイルス感染や、胆道閉塞、腎機能障害、ショック状態など何らかの原因で肝臓に行く血流が落ちてしまった場合など、他の疾患や病態に関連しても肝機能の数値は上がります)。
ウイルスや自己免疫疾患などは病院での治療が必要となりますが、その場合でも食生活、運動習慣や飲酒は関連してきます。バランスの取れた食生活を行うこと、1日30分~1時間のウォーキングなどの運動を行うと良いでしょう。また、飲酒は控えめにして、出来れば週1回以上の休肝日を作るようにしましょう。
肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、自覚症状がなかなか現れません。肝機能障害が進んでくると黄疸や全身のだるさ、吐き気や全身の痒みなど様々な症状が出現しますが、自覚症状が出てきた時点ではかなり肝機能障害が進んでいると言えるでしょう。肝機能障害を放置しておくと、その原因によっては肝硬変や肝臓がんなどを発症してしまい、命に関わることもあります。そのため、日ごろから定期健診などを受けておき、異常がないかチェックしておくことも重要です。
肝機能の数値が急に上がる原因と対処法
肝機能が、急に上がってきた場合、何らかの原因で肝炎が起こっている可能性を考えます。薬物や自己免疫、アルコールなど原因は様々ですが、日本においてその原因の大半はウイルスによる急性肝炎です。
肝炎を起こすウイルスの代表格には肝炎ウイルスがあります。肝炎ウイルスはA~E型ウイルスがあり、どの型のウイルスかによって感染経路や感染後の経過も異なります。A,E型肝炎はウイルスに汚染された食物や水、手指を介して感染します。A型はカキなどの二枚貝、E型はイノシシなどを食べることにより感染することがあると言われています。一方、日本で多いのはB,C型肝炎ですが、これらは血液を介して感染します。昔は入れ墨や注射器の回し打ちなどで感染をしていましたが、今は感染対策がされているので以前より減っています。B型肝炎においては母子感染(母から子への感染)、性行為による感染も問題となっており、母子感染ではワクチン投与などの対策が取られています。急性肝炎を起こす肝炎ウイルスの主なものはこれら肝炎ウイルスのうち、A,B,E型肝炎ウイルスで多いと言われており、初めは発熱、頭痛、咽頭痛など、感冒と似た症状を起こします。この時点では感冒と思われ、そのまま様子を見ていると自然に改善することもあります。しかしながら、そこから症状が悪化し、黄疸や倦怠感などの症状が出てくることがあります。また、一部では慢性肝炎に移行してしまったり、劇症肝炎(数日で肝臓の細胞が急激に死んでしまい(壊死)、肝臓の機能が急速に低下、意識障害、脳浮腫を起こし命に関わるような病気)になることもあります。
その他、肝機能はウイルス感染や胆道、膵臓の病気でも上がることがあります。他に症状がないか、膵臓の値に変化がないか、胆道の値と肝臓の値の上がり方はどうかなどを確認し、場合によっては腹部超音波検査や腹部CTで異常がないか確認する必要があります。
どれも消化器内科での検査、治療が必要となるため、病院受診をしましょう。
肝機能の数値が1000以上の原因と対処法
肝機能、AST、ALTが1000以上まで上がっている場合は急性肝炎などで肝臓の細胞が急激に壊れている状態と考えます。AST、ALTが1000以上まで上がるような肝炎であれば、全身のだるさや黄疸、痒みなど自覚症状も現れています。
このような肝炎の場合はそこから重症化し命に関わることもあります。そのため、入院での治療が必要となります。全身のだるさだけだと肝臓と気付きにくいかもしれませんが、尿が濃くなってきた(黄色くなってきた)、白目の部分や皮膚が黄色くなっているなどの症状があれば、すぐに内科(特に消化器内科)を受診しましょう。
すぐに病院へ行くべき「肝機能の数値」に関する症状
ここまでは症状が起きたときの原因と対処法を紹介しました。
応急処置をして症状が落ち着いても放置してはいけない症状がいくつかあります。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
肝機能の数値が高い場合は、消化器内科へ
先に述べた通り、肝機能障害はなかなか自覚症状が現れません。検診などで肝機能障害を指摘されて初めて気づく人も多いでしょう。肝機能障害と言っても、その原因は様々です。しかしながらそれを放置していると、病状が進行して命に関わるような状況になったり、肝機能障害が出た時点で既に肝臓の癌など治療が必要となる病気が隠れていたというようなことがあります。
そのため消化器内科を受診し、何が原因で肝機能障害が起こっているのか、今の状態はどうなのか調べることが重要です。
受診・予防の目安となる「肝機能の数値」のセルフチェック法
- 全身倦怠感がある場合
- かゆみがある場合
- 黄疸(特に白目が黄色くなっている)がある場合
- 尿が黄色く、濃くなっている場合
- お腹の張りがある場合
- 意識がぼんやりする場合
「肝機能の数値が高い」症状が特徴的な病気・疾患
ここではMedical DOC監修医が、「肝機能の数値が高い」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、どのように対策すれば良いのか、など病気について気になる事項を解説します。
急性肝炎
急性肝炎はアルコールやウイルスなどにより起こりますが、二枚貝やイノシシを食べて感染するA,E型肝炎ウイルス、血液や性行為などによって感染するB型肝炎ウイルスなどによって起こることが多いと言われています。急性肝炎は、その初期では初めは発熱、頭痛、咽頭痛など、感冒様の症状を認めます。感冒と思われ、様子を見ているうちに改善していくことも多くありますが、一部は全身倦怠感や黄疸などが出てくることがあります。時には入院での治療が必要となることもあります。また、その数%(特にB型肝炎ウイルス感染)では、数日で肝臓の機能が急速に低下、意識障害、脳浮腫を起こし命に関わる劇症肝炎となるケースもあるため、慎重に診ていく必要があります。
アルコール性肝炎
アルコール性肝炎はアルコール性肝疾患の一つで、アルコールを大量に飲むことによる肝臓の炎症です。アルコール性肝炎の治療はまず断酒、禁酒です。アルコール性肝炎では、アルコールを断つことにより顕著な改善が認められます。その他、症状や状態に応じて肝庇護療法、食事療法などを行います。
アルコール性肝炎ではアルコールを断つことによりすぐに改善しますが、一旦よくなったからと言ってまたアルコールを飲んでしまうと再燃することが多い疾患です。治ったらお酒を飲む、肝炎になったらやめるということを繰り返したり、禁酒せずにアルコールを飲み続けてしまって良くならない場合などは、アルコール性肝硬変、肝細胞癌などに進行してしまうことがあります。肝炎の状態であれば、アルコールをやめることにより症状も肝臓も良くなりますが、肝硬変となってしまった場合は治りません。アルコール性肝炎を含むアルコール性肝疾患になってしまった場合は禁酒することが最も重要です。
慢性肝炎
慢性肝炎はウイルス感染などにより肝臓がダメージを受け、6か月以上肝機能障害が続く病態です。原因としてはアルコール性や自己免疫性などがありますが、そのほとんどはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染によるものです。
一部は急性肝炎の後、慢性肝炎に移行しますが、多くは急性肝炎の症状などがなく、慢性肝炎を起こします。自覚症状がほとんどなく、健診などで肝機能障害を指摘され見つかることが多いのですが、症状が出るまで気づかないこともあります。症状が出てきたときには病状が進み、肝硬変になりかけていたり、合併症が出たりしていることが多いでしょう。肝機能異常が指摘されたら消化器内科を受診し、その原因、肝臓の状態を調べることが重要です。ウイルスが原因であればそのウイルスの治療を行ったり、自己免疫が原因であればその治療を行っていきます。
肝硬変
肝硬変は、そのほとんどが慢性肝炎など肝臓の慢性的な炎症などにより肝臓に対して障害を起こすことにより起こってきます。肝細胞が破壊され、その後肝臓が再生、また細胞の破壊と繰り返すことでだんだんと肝臓が硬くなること(線維化)によって発症します。肝硬変の状態になってしまうと肝臓は再生能力を失っていき、また、その機能を十分に果たせなくなってしまいます。肝臓は解毒やタンパク質の産生など、人が生きていく上で重要な役割を持っており、肝臓がその役割を果たせなくなった場合は生きていくことができません。肝硬変が進行していくと最悪死に至ってしまうのです。
肝硬変には代償期と非代償期があり、代償期では肝臓の一部が硬くなってしまっても他の部分で何とか肝臓の機能が保たれている状態です。この時点では全身のだるさや食思不振などの症状が現れることがありますが、自覚症状が現れない場合も多くあります。肝硬変の病状が進んで非代償期になると、肝臓の機能が維持できなくなってしまい、徐々に自覚症状が現れてきます。黄疸や腹水、全身のむくみが現れてきたり、肝臓が硬くなった影響で血管の圧が上がり、食道静脈瘤などを作ることもあります。食道静脈瘤がひどくなると、破裂をおこし、大量吐血を起こすこともあります。また、肝臓の機能の一つである解毒が上手くいかず、アンモニアが溜まっていき脳に影響を及ぼす(肝性脳症)こともあります。その他、肝硬変が進行、持続すると肝細胞癌が現れることもあります。
肝硬変になると様々な症状を起こして最悪死に至りますが、肝硬変となった場合、そのほとんどには根本的な治療はありません。肝硬変となった原因に対する治療(ウイルスに対する治療や禁酒など)や栄養療法を行い肝硬変が進まないように (特に非代償期にならないように)したり、腹水などそれぞれの症状や合併症に対する治療を行っていくことになります。
「肝機能の数値が高いとき」の正しい対処法は?
肝機能の数値が高いと言われた時は何が原因で高くなっているのか、肝臓の状態はどうか調べることが肝要です。肝臓はなかなか症状が出にくい「沈黙の臓器」とも言われており、肝機能障害を指摘された時点で既に慢性肝炎や肝硬変などにまで病状が進行していることもあります。そこまで進行していない場合でも放置することにより病状が進行していく可能性もあります。原因に対する治療を行い、対処していけば改善することもありますし、病状が進行するのを防ぐこともできます。肝機能障害を指摘された場合は、少しの異常だけだからと放置するのではなく、消化器内科や内科を受診し、原因や状態を確認することが重要です。
「肝機能の数値が高いとき」についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「肝機能の数値が高いとき」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
肝機能の数値はどれくらい高いと入院が必要ですか?
岡本 彩那 医師
原因、状態にもよりますが、肝炎ASTやALTが500~1000近い、もしくはそれ以上であれば入院での加療が必要と判断されることがあります。特に肝機能が1000以上とかなり高い場合は即入院となるでしょう。また、黄疸の出現、胆道系酵素の上昇もあれば肝炎以外の原因も示唆され、検査結果によっては入院での加療が必要となることもあります。
肝機能の数値が高いとどのような症状が出ますか?
岡本 彩那 医師
機能の数値が高いと一概に言っても、肝機能障害だけではなかなか症状が出ないことも多いでしょう。肝臓自体の原因以外で上がっている場合はその原因による症状が出ることもあります。
肝機能の数値で異常な数値はいくつですか?
岡本 彩那 医師
血液検査では基準値というものが決まっており、肝機能であればAST,ALTともに30IU/L以下とされます。しかしながらその基準値より少しはみ出ていたとしても「数値としては異常値」となりますが、すぐに何かが起こっていると判断できません。もちろん値が数倍、3桁を超えてくるようであったり、今まで何もなかったのに急激に上がってくるようであれば何らかの異常を示唆します。
肝機能の数値を下げるにはどうすれば良いですか?
岡本 彩那 医師
肝機能の数値を下げるにはまず何が原因で上がっているかを見る必要があります。例えばウイルスが原因であればウイルスに対する治療が必要ですし、自己免疫性疾患であればその疾患に対する治療が必要になります。アルコールであれば禁酒です。ただし、どんな疾患であってもバランスの良い食事を節酒、禁酒はおこなった方が良いでしょう。
編集部まとめ
肝臓の数値が高い、肝機能障害である、と言われることは健診などで多くあるかと思います。実際、基準の値より少し高いだけで、何の病気になっていないことも多くあります。しかしながら、肝臓は自覚症状が出にくい臓器であり、肝硬変や慢性肝炎自体も健診をきっかけに見つかることも多い疾患です。肝臓は最後まで耐え忍んでしまう「沈黙の臓器」ですが、肝臓が壊れてしまうと人は生きていくことができず、また、肝硬変になってしまうともとに戻すことも難しくなってしまいます。そのため、少しの異常であっても自己判断せずに「本当に大丈夫なのか、何か起こっていないか」と調べ、異常があるのであれば早くからしっかりと治療していくことは大切です。肝機能障害が指摘されたのであれば一度内科、消化器内科を受診しましょう。
「肝機能の数値が高い」症状で考えられる病気
「肝機能の数値が高い」から医師が考えられる病気は17個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
消化器系の病気
腎臓系の病気
- 腎不全(肝腎症候群)
救急の病気
- ショック
肝臓は最後まで自覚症状が出にくい臓器ですが、肝機能の数値が上がっている場合はこれらの病気を発症している可能性があります。肝機能障害は健康診断などで指摘されることが多いと思われます。肝機能障害が指摘された場合は、一度内科や消化器内科を受診しましょう。
「肝機能の数値が高い」に似ている症状・関連する症状
「肝機能の数値が高い」と関連している、似ている症状は10個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
高度の肝機能障害や肝炎の場合には上記のような様々な症状を引き起こす可能性があります。軽度の肝機能障害の場合には自覚症状はほとんどありません。
参考文献
- 肝硬変診療ガイドライン2020
- B型肝炎治療ガイドライン
- [国立国際医療研究センター肝炎情報センター]急性肝炎
- [厚生労働省難治性疾患政策研究事業]難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究
- 肝臓509-521;2022 63(12)