「糖尿病」と「歯周病」の密接な関係をご存じですか? 悪循環から抜け出す方法を医師が解説

一見無関係に思える「糖尿病」と「歯周病」。じつは深い関係があることをご存じでしょうか。糖尿病のある人は歯周病にかかりやすくなり、さらに歯周病が血糖マネジメントを悪化させることで、相互に悪影響を及ぼすことがあります。健康を守るためには、医師と歯科医師の連携、そして日々の口腔ケアが欠かせません。今回、日本糖尿病学会専門医の田中先生に“糖尿病と歯”の密接なつながりについて、詳しく伺いました。

監修医師:
田中 慧(医師)
「糖尿病」と「歯周病」の意外な関係とは

編集部
糖尿病と歯の健康が深く関わっているという話を聞いたことがあります。本当でしょうか?
田中先生
はい、糖尿病と歯はとても深い関係があります。糖尿病は神経・眼・腎臓の3大合併症が有名ですが、歯周病にもなりやすくなることが知られています。たとえば、2型糖尿病をもつ人は、そうでない人の2.6倍歯周病の発症率が高かったというデータもあり、心筋梗塞、脳卒中についで「歯周病は糖尿病の第6の合併症」とも呼ばれることもありますね。
編集部
歯周病が「第6の合併症」と言われるほど重要とは驚きです。糖尿病の人は、どうして歯周病にかかりやすいのでしょう?
田中先生
歯周病の原因は、歯ぐきの細菌感染です。糖尿病をもつ人は、細菌への抵抗力が低下して、歯周病原菌に感染しやすくなるのです。一般的にはHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5%以上になると、歯周病のリスクが高まるとされています。さらに、歯周病のような「軽微な細菌感染状態」が続くと、体内の炎症性物質が増えて、血糖が下がりにくくなります。つまり、「糖尿病→歯周病が悪化→血糖が下がりにくくなる→糖尿病が悪化」という悪循環に陥る場合もあります。
歯周病を治療すると、糖尿病も改善される?

編集部
具体的にはどんな症状が出ると、歯周病が疑われるのでしょうか?
田中先生
- 歯磨き後に歯ぐきから出血しやすい
- 口臭が強くなった、家族から口臭をいわれるようになった
- 歯が長く見えたりぐらついたり、隙間ができてきた
- 歯ぐきが頻繁に腫れる
ただし、上記のような自覚症状はなくとも歯周病を発症しているケースも多いですね。歯周病は「沈黙の病気」とも呼ばれるほど、かなり進行するまで症状が出ないのが、糖尿病と同じで厄介なところですね。糖尿病ではなくとも、40歳以上の人のうち40%以上は歯周病を持っているというデータもありますから、他人事と思わず早めにチェックしていただきたいです。
編集部
歯周病を治療すると、糖尿病にもメリットがあるのですか?
田中先生
はい。2型糖尿病の人が歯周病を適切に治療するとHbA1cが平均で約0.5%改善するとされています。これは、歯周病による慢性炎症(細菌に感染している状態)が和らぎ、血糖値を下げるインスリンの効きがよくなることが理由と考えられています。日本人は欧米人ほど肥満の人が多くないため、糖尿病に対する歯周病の影響が相対的に大きいと指摘する専門家もいらっしゃいます。
「医師」と「歯科医師」の連携が健康のカギ

編集部
歯周病を防ぐためには、どのようなケアや治療が必要なのでしょう?
田中先生
まず、そもそも歯周病があるのかどうか、歯科医院でのチェックが重要です。必要に応じてクリーニングを受けましょう。また、毎日の歯磨きやフロス・歯間ブラシの正しい使い方を教わるだけでも、歯周病の再発を防ぎやすくなります。糖尿病が悪化したときは歯周炎がぶり返しやすいので、病院やクリニックで無料配布している「糖尿病連携手帳」を使って、医師と歯科医師が連携を取ることも多いですね。
編集部
医師と歯科医師の連携が大事になるのですね。
田中先生
はい。医師向けの最新の糖尿病診療ガイドラインでも、「歯周病を糖尿病の合併症のひとつと捉え、医師と歯科医師が連携すること」と強調されています。歯周病は、糖尿病以外にも心臓病や認知症、肺炎の発症にも深い関わりがあることが判明しており、治療の重要性は以前よりも大変注目されています。
編集部
まさに「健康は口から」なのですね。最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田中先生
「糖尿病」と「歯周病」、一見関係なさそうでじつは深くつながっているのです。もし血糖値が高いといわれたことがあれば、この機会に歯科医のチェックを検討してみてください。また、同じく歯周病があると言われたときも、血糖値をチェックすることが大切。早めの対処で、歯も健康も守れます。ぜひよりよい「健口ライフ」をお過ごしください。
編集部まとめ
歯周病は、糖尿病の「第6の合併症」ともいわれるほど深い関わりがあり、放置すると血糖マネジメントが悪化するリスクがあることがわかりました。一方で、適切な歯周病治療によって血糖値の改善が期待できることも。口の健康を整えることが、全身の健康づくりへの第一歩になります。ぜひこの機会に、ご自身の“口の健康”を見直してみてはいかがでしょうか。






