糖尿病の専門医が教える合併症の怖さ。失明、身体の一部を切断することも
自覚症状がないうちに進行し、気づいたら重症化していたということもある糖尿病。実は、糖尿病が怖いとされるのは、そこに合併症のリスクがつきまとうからです。一体、糖尿病の合併症とはどんなものでしょうか。また、どのように対処したら良いのでしょうか。日暮里内科・糖尿病内科クリニックの竹村先生が教えてくれました。
監修医師:
竹村 俊輔(日暮里内科・糖尿病内科クリニック 院長)
2010年東海大学医学部卒業、2012年済生会川口総合病院初期研修医修了。2012年東京女子医科大学糖尿病・代謝内科入局。2019年東京女子医科大学大学院内科学(第三)卒業、2019年東京女子医科大学糖尿病・代謝内科助教。2021年日暮里内科・糖尿病内科クリニック院長就任。これまでの経験から、「重症化を未然に防ぐため、誰もが通いやすいクリニックをつくり、すべての人の健康で幸せな生活をサポートしたい」と考えて開業を決意した。
糖尿病は、なぜ怖い?
編集部
「糖尿病は合併症が怖い」という話を聞くことがあります。そもそも「合併症」とはなんですか?
竹村先生
合併症とは、簡単に言えばなんらかの病気が原因となって発症する別の病気のこと。糖尿病は合併症が非常に多く、そのいくつかは命に関わるリスクがあります。そのため、「糖尿病は合併症が怖い」と言われるのです。
編集部
糖尿病はなぜ多くの合併症を引き起こすのですか?
竹村先生
糖尿病になると、血液に含まれるブドウ糖の数値(血糖値)の高い状態がずっと続くことになります。血糖値の高い状態が続くと、インスリンの分泌量が減ったり、インスリンの働きが悪くなったりするほか、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。これを「糖毒性」といいます。
編集部
全身に影響が及ぶのですね。
竹村先生
糖毒性によって、特にダメージを受けるのは血管です。血管は全身のすみずみまで張り巡らされていますから、糖尿病になると結果的に、全身の至るところでさまざまな合併症が起きてしまうのです。
編集部
なぜ、糖尿病になると血管が傷つくのですか?
竹村先生
ブドウ糖をたくさん含んだ血液はドロドロしており、それが血管の壁にはりつくと、化学反応によって血管の壁が傷つきます。すると、この傷を修復しようとして、血小板がたくさん集まってきます。そのため血管の内側が狭くなって詰まりやすくなり、血流の低下を招いたり、動脈硬化を起こしたりするのです。
編集部
糖尿病になると、自覚症状はあるのですか?
竹村先生
多くの場合、糖尿病と診断されてもあまり自覚症状はありません。合併症が現れて、初めて糖尿病に気づくという人もいます。その時には、糖尿病はかなり進んだ状態。糖尿病の治療が難しいと言われるのは、このためです。
糖尿病の「三大合併症」
編集部
糖尿病になると、どのような合併症が起こるのですか?
竹村先生
代表的なものは「三大合併症」といわれます。すなわち、「糖尿病性神経障害」「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」です。
編集部
それぞれについて教えてください。まず、糖尿病性神経障害から。
竹村先生
これは糖尿病による合併症のなかで、もっとも多いものです。糖尿病になると血管が傷ついて血流が低下し、体の隅々まで栄養や酸素を届けることが難しくなります。その影響を大きく受けるのが、体の末端にある足や手の神経です。そのため、神経の働きが阻害されて、手足に痺れを感じたり、怪我や火傷の痛みに気づかなかったりすることがあります。また自律神経がダメージをうけると内臓の働きが悪くなり、胃もたれ、便秘、下痢などを起こすことがあります。
編集部
糖尿病神経障害は、命に関わることはないのですか?
竹村先生
神経障害そのものが命に関わることはあまりありませんが、気をつけたいのが細菌感染です。血糖値が高いということは、細菌が繁殖しやすい状態であるということなので、糖尿病になると細菌に感染しやすくなります。さらに、糖尿病になると動脈硬化が進んでいることもあるため、小さな傷でも治りにくくなってしまいます。そのため、ほんの小さな傷が壊疽に進展してしまい、手や足などを切断しなければならないような状態になることもあります。
編集部
ほかの二つの合併症について教えてください。糖尿病性網膜症とは?
竹村先生
眼球の奥にある網膜の細い血管が障害を受ける病気のことです。網膜とは、カメラでいうフィルムのような部位で、目の中に入ってきた光を受け取り、脳に伝える働きをしています。網膜には細い血管がたくさん張り巡らされているため、糖尿病で血管がダメージを受けると、大量出血や網膜剥離などによって失明につながることがあります。
編集部
残りの一つ、糖尿病性腎症はどのようなものですか?
竹村先生
糖尿病によって腎臓がダメージを受け、腎不全の状態になってしまうことです。腎臓は血液を濾過して、不要なものを尿として排泄する器官です。不要なものを濾過する働きを担うのが、腎臓にある糸球体で、ここは細い血管が無数に存在しています。そのため、糖尿病によってこの血管がダメージを受けると、本来なら不要なはずの老廃物が体内に溜まったり、たんぱくが尿に漏れてしまったりします。
編集部
糖尿病性腎症を放置すると、命に関わるのですか?
竹村先生
一旦、腎臓機能が低下すると、回復させることは困難です。老廃物を排泄できなければ人工透析が必要になることもありますし、さらに、血液循環や消化器系などにも影響が及ぶことがあります。その場合、治療が遅れれば命に関わることもあります。
糖尿病はどのように治療するの?
編集部
ほかには、どのような合併症があるのですか?
竹村先生
これらの三大合併症のほかにも、たとえば糖尿病は動脈硬化を起こしやすくなるため、狭心症や心筋梗塞などの心臓病や、脳梗塞や脳出血などの脳卒中を招くことがあります。また、かぜやインフルエンザ、肺炎、膀胱炎などの感染症にかかりやすくなったり、高血圧や脂質異常症などを発症するリスクが高くなります。
編集部
糖尿病を発症したら、どのように治療するのですか?
竹村先生
治療の基本は、主に食事療法と運動療法です。まず食事療法では、適正なエネルギー量を適正な栄養バランスで摂取し、血糖値の上昇を防ぎます。運動療法では、筋肉量を増加させ、基礎代謝を上げることで肥満になりにくい体質を作ります。運動をするとインスリンが効きやすくなり、血糖値が正常に戻りやすくなります。
編集部
それでも治らない場合はどうするのですか?
竹村先生
適切な検査を行いながら内服薬や注射薬などの薬物療法を併用します。まず内服薬で、インスリンの分泌を促進したり、インスリン作用をよくしたりする薬を用います。また、注射薬ではインスリンを直接体内に投与するほか、血糖値を下げる働きのあるGLP-1を補うために「GLP-1受容体作動薬」を投与することもあります。このような治療を行いながら、症状を進行させないように努めます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹村先生
糖尿病の合併症は、一生、付き合っていかなければならないものもあります。そうなると生活の質を落としてしまいますし、場合によっては命に関わることもあります。つまり、糖尿病の治療においては、合併症を発症しないことがとても大切なのです。確かに糖尿病は初期症状が乏しく、自覚しづらいという難点がありますが、早いうちに発見して治療を開始すれば、合併症への進展を抑制することができます。そのためにも、健康診断や人間ドックなどで血糖値が高いことが指摘されたら、必ず病院で検査を受けるようにしましょう。
編集部まとめ
ときには命を失うこともある糖尿病の合併症。命を失うまでにはいたらなくても、失明したり、身体の一部を切断したりすることはとても辛いことですよね。そのためにも大切なのは、予防と早期発見。糖尿病予備軍の人は糖尿病を発症させないために、また、糖尿病と診断された人はそれ以上症状を悪化させないために、早期発見・早期治療に努めましょう。
医院情報
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アクセス | JR「日暮里駅」東口 徒歩2分 |
診療科目 | 内科、糖尿病内科、アレルギー科 |