コロナ禍で急増している「新型うつ」従来のうつ病との違いをご存じですか?【医師監修】

コロナ禍をきっかけに、「新型うつ」と呼ばれるタイプのうつ病が20〜30代の働き盛りの世代を中心に急増しています。「仕事では落ち込むのに、趣味や私生活では元気に見える」。このような一見矛盾した症状のため、本人も周囲も気づきにくいのが特徴です。従来のうつ病との違いやサイン、予防のポイントなどについて、種市摂子先生に詳しく解説していただきました。
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監修医師:
種市 摂子(Dr.Ridente株式会社 代表取締役)
コロナ後に急増した「新型うつ」とは

編集部
近年、「新型うつ」という言葉を耳にする機会が増えました。
種市先生
「新型うつ」は正式な診断名ではありませんが、医学的には、気分が一時的に改善するタイプのうつ病と捉えると良いでしょう。従来のうつ病は、一日中気分が落ち込み、自分を責める傾向が強く、生活全体で意欲が低下します。一方、新型うつでは、仕事など特定の状況でだけ気分が落ち込み、趣味や友人との時間では元気に見えることが特徴です。また、他人や環境への不満を抱えやすく、対人関係のストレスが強く影響するのが特徴です。若い世代に多く、柔軟な理解と対応が必要です。
編集部
なぜ「新型」と言われるようになったのですか?
種市先生
「新型うつ」と呼ばれるようになった背景には、従来のうつ病像と大きく異なる症状や行動パターンが目立つようになったことがあります。従来のうつ病は、責任感が強く真面目な性格の人に多く、自責的で「自分が悪い」と考える傾向がありました。一方、「新型うつ」は、2000年代以降に若年層を中心に増え始めたとされ、仕事など“やりたくないこと”の場面でのみ強い抑うつ症状が現れ、プライベートでは元気に過ごせるといった特徴があります。また、「自分は悪くない」「環境や他人が悪い」と考える他責傾向も見られます。こうした違いが注目され、マスコミ報道などで「新型」と表現されるようになり、一般にも広まりました。なお、「新型うつ」は医学的な正式診断名ではなく、一般的な通称です。
編集部
「非定型うつ病」「現代型うつ病」と呼ばれることもありますが、これらは同じものですか?
種市先生
「非定型うつ病」と「現代型うつ病」は異なる概念ですが、脳科学的にはいくつかの共通点があります。両者とも扁桃体の過活動による情動の過敏さや、前頭前野の調整機能の低下が見られ、感情コントロールが難しくなる傾向があります。また、報酬系(ドーパミン系)の機能不全も関与し、ストレス時の意欲低下や気分の不安定さにつながります。こうした脳のネットワークのアンバランスが、共通の基盤として考えられています。
「新型うつ」のサインと症状

編集部
コロナ禍以降に「新型うつ」が増えている背景には、どのような要因があると考えられますか?
種市先生
コロナ禍以降に「新型うつ」が増えている背景には、社会構造と働く人の急激な変化があります。リモートワークの普及により人間関係が希薄化し、自律的に働く力や自己管理力が求められる中で、ストレス耐性の差が顕在化しました。また、将来への不安や孤立感が高まる一方で、プライベートではSNSなどで気分転換がしやすく、「仕事では落ち込むが私生活では元気」という状態が生まれやすくなっています。環境因と個人因が複雑に絡み合った結果といえます。
編集部
「新型うつ」と言われる気分障害の初期症状やサインにはどのようなものがありますか?
種市先生
「新型うつ」と呼ばれる気分障害の初期症状には、特定の状況(主に職場や学校)でのみ強い憂うつ感や無気力を感じる一方で、趣味や私生活では元気に過ごせるという特徴があります。遅刻・欠勤が増える、指示に過敏に反応する、人間関係を避ける、自分よりも他人や環境を責める発言が目立つ、といった行動が初期のサインとなります。従来のうつ病と異なり、気分の波が大きく、周囲が「本当に調子が悪いのか」理解しづらいため、早期の気づきと適切な対応が重要です。
編集部
その他「新型うつ」の具体的な症状を教えてください。
種市先生
「新型うつ」の具体的な症状は、仕事や義務的な場面でのみ気分が落ち込み、憂うつやイライラ、倦怠感を強く感じる一方、趣味や旅行では元気に振るまえるなどがあります。また、「自分は悪くない」「職場や他人が悪い」といった他責的な言動や、上司への反発、指摘に対する過敏な反応が見られることもあります。過眠・過食、急な休職や退職を繰り返す傾向もあります。医学的には明確な診断基準はありませんが、対人関係や環境への適応が鍵となることが多いですね。
「新型うつ」に気づくための方法と予防

編集部
本人が「自分はうつではない」と思い込みやすい理由は何でしょうか?
種市先生
「自分はうつではない」と思い込みやすいのは、心の不調が“弱さ”や“怠け”と誤解されやすく、自分でも認めたくない気持ちがあるからです。しかし、本当の自立とは無理を続けることではなく、自分の状態を正直に見つめ、必要な助けを選ぶ力です。心の不調は「逃げ」ではなく、「気づき」のきっかけです。自分の感情や限界に気づき、調整できる人こそ、自覚をもった大人であり、しなやかに生きる力を持つ人です。
編集部
家族や同僚など、周囲が気づいてあげるために意識すべきポイントはありますか?
種市先生
「新型うつ」の場合、私生活では元気でも、仕事や義務の場面でのみ不調を訴えるため、見過ごされやすい特徴があります。周囲が気づくためには、「職場に行くと体調が悪くなる」「上司や同僚との関係に過敏に反応する」「突然の欠勤や早退が増える」といった変化に注意が必要です。また、本人が不調を否認する場合も多いため、否定せずに「最近どう?」と声をかけ、感情や状況を丁寧に聴く姿勢が重要です。早期対応が回復の鍵となるため、周囲の理解と関心が大切です。
編集部
「新型うつ」にならないために、日常生活でできる予防法があれば教えてください。
種市先生
「新型うつ」の予防には、ストレスの気づきと感情の自己管理が重要です。まず、自分の限界やストレスサインを早めに察知し、無理をため込まない習慣を持つことが大切です。また、完璧主義や他人への過度な期待を手放し、自分の感情を素直に表現する練習も効果的です。生活面では、十分な睡眠・栄養・運動を整えることに加え、信頼できる人とのつながりを持ち続けることが、孤立や極端な思考を防ぎます。自己理解とセルフケアが最大の予防策になります。
編集部まとめ
新型うつは、本人が「病気ではない」と思い込みやすく、周囲も見過ごしがちになるようです。しかし、放置すれば長期の不調や職場との摩擦を生むこともあります。自分の感情の変化に敏感になること、周囲が温かく見守ることの両方が早期発見と予防につながることを教えていただきました。本稿が読者の皆様にとって、こころの不調に気づくきっかけとなりましたら幸いです。






