「コロナ禍による生活環境の変化」と「うつ病」の関係を精神科医が解説
最近、ニュースやメディアなどで「コロナうつ」という言葉を耳にする機会が増えました。一体、コロナうつになると、どのような症状が出るのでしょうか。そもそも、その定義もわかりません。また、その予防と治療はいかに。この現代病との向き合い方について、「駒沢メンタルクリニック」の李先生にお話を伺いました。
監修医師:
李 一奉(駒沢メンタルクリニック 院長)
帝京大学医学部卒業。帝京大学大学院医学研究科医学専攻精神科学修了。帝京大学医学部附属病院、初石病院、愛誠病院などで経験を積む。2005年、東京都世田谷区に「駒沢メンタルクリニック」を開院。現代病とも言えるサラリーマンの心身症やうつ病、不眠症の治療をはじめ、心身の健康をトータルでサポートしている。日本精神神経学会精神科専門医・指導医。精神保健指定医。
「コロナうつ」に医学的な定義はない
編集部
コロナ禍の状況下で、「うつ病になる人が増えている」と聞きました。
李先生
新型コロナウイルスの感染が拡大している中、うつ病などの精神疾患の罹患(りかん)者が増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、仕事や家庭における環境の変化が起こりましたね。また、在宅時間が長くなったことによって、家庭内の人間関係が悪化した人も多いようです。こうしたストレスにさらされた人が増えたため、うつ病やうつ状態になる人が増加したと考えられます。
編集部
「うつ病」と「うつ状態」は、どう違うのですか?
李先生
「うつ病」は「うつ状態」の一部です。うつ状態には、うつ病のほかに「適応障害」なども含まれます。深刻の度合いでみれば、「うつ状態が悪化するとうつ病になる」と考えていいのではないでしょうか。
編集部
「コロナうつ」という言葉を耳にする機会が増えました。定義はあるのでしょうか?
李先生
たしかに、新型コロナウイルスが流行するようになってから、「コロナうつ」という言葉が盛んに報道されるようになっています。しかし、コロナうつという言葉には、医学的な定義はありません。新型コロナウイルスによる漠然とした不安が原因で、うつ状態になることを、一般に「コロナうつ」と呼んでいるようです。
編集部
なるほど。どのような人がコロナうつになりやすいですか?
李先生
新型コロナウイルスの影響によって、生活に大きな変化が起こったすべての人に可能性があると言えるでしょう。とくに見逃しがちなのが、子どもや学生のコロナうつです。臨時休校措置やオンライン授業など、これまでとまったく違う環境に身を置くことになり、変化に戸惑う若者も少なくありません。そのため、周囲の大人がきちんと気づいてあげる必要があります。
生活の変化によるストレスが原因
編集部
具体的に、どのような不安やストレスを感じるのでしょうか?
李先生
たとえば、「自分や家族が新型コロナウイルスに罹患してしまうのではないか」という感染に対する不安があります。また、業績悪化や営業自粛などによる経済的な不安を感じる人もいますね。加えて、自粛による生活の制限や連日のテレビ報道で、ストレスを抱えている人もいるでしょう。
編集部
様々な要因が、コロナうつを引き起こしているのですね。
李先生
はい。そのほか、リモートワークへの移行など、就労環境の変化にうまく適応できないことも、コロナうつの原因になり得ます。さらに、リモートワークが始まって在宅時間が長くなったことに伴って「夜更かしをするようになった」、「毎晩の酒量が増えた」という人も少なくありません。こうした生活習慣の乱れが、コロナうつを招いている場合もあります。
編集部
コロナうつになると、どのような症状がみられますか?
李先生
「やる気が出ない」、「興奮や興味を感じられない」、「集中力が続かない」、「仕事に行きたくない、仕事をしたくない」、「気分が落ち込みがち」、「イライラする」、「悲観的になる」などの症状が当てはまります。また、気持ちの問題以外にも睡眠障害や頭痛、下痢、便秘などを訴える人もいます。
編集部
コロナうつは、「うつ状態」と「うつ病」どちらに分類されるのでしょうか?
李先生
一般的には、コロナうつは「うつ状態」であると考えられます。しかし、中にはうつ病のレベルに至っている人もいます。「コロナうつ」とひと括りにしても、症状や深刻レベルは様々です。その人に合わせて、対処を考える必要があるでしょう。
メンタルに異変があれば受診する
編集部
コロナうつだと自覚するのは難しそうです……。
李先生
そうかもしれませんね。普段なら、多少のストレスを感じても、家族や友人と遊んだり、飲み会などで発散したりできました。しかし、コロナ禍ではそうした息抜きをする機会が減りました。そのため、多くの人がコロナうつを放置しがちです。ですが、コロナうつを放置するとますます状態が重症化してしまうことも考えられます。自分の基準でもいいので「もしかしたらコロナうつかも……」と思ったら、早めにメンタルクリニックや心療内科へ相談した方がいいでしょう。
編集部
医療機関へ相談する目安はありますか?
李先生
「気分の落ち込みによって日常生活に支障をきたしているかどうか」が、1つの目安になると思います。ほか、「気分が晴れない」、「とにかくやる気が出ない」などの症状がずっと続いたり、ほぼ毎日そのような症状がみられたりする場合は、医療機関への受診をおすすめします。
編集部
具体的に、「日常生活に支障をきたしている」とは?
李先生
「学校や仕事に行けない」、「他者とのコミュニケーションが上手に取れない」、「引きこもりがちになる」などの症状は、日常生活へ影響が出ていると言えるでしょう。こうした状態が深刻化すると、いずれ「うつ病」へ進んでしまう可能性があります。
編集部
メンタルクリニックや心療内科でおこなう治療以外に、自分で普段から気をつけることはありますか?
李先生
ありきたりかもしれませんが、まずは規則正しい生活を送ることです。自粛生活やリモートワークなどにより、これまでの生活リズムが崩れがちな人も多いと思います。しかし、生活リズムが不規則になると、体内時計が乱れて心身の不調にもつながります。「起床時間や就寝時間を一定にする」、「同じ時間に食事を摂る」など、できるだけ一定のリズムで生活することを心がけましょう。
編集部
ほかにも気をつけるべきことはありますか?
李先生
ウォーキングやストレッチなどの適度な運動は、心身の健康に好影響です。また、心身が良好な状態であれば、免疫機能も上がると考えられています。そのため、無理のない範囲でこまめに体を動かしてみましょう。
編集部
人間関係の面ではどうでしょうか?
李先生
周囲の人と積極的にコミュニケーションを図ることも重要です。自粛生活やリモートワークなどにより、友人や同僚とのコミュニケーションが少なくなったこともストレスの要因になっているかもしれません。オンラインで話す時間を作るだけでも、ずいぶんストレスが軽減するでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
李先生
「病気かどうかわからないから、病院には行くべきではない」と考える人がたくさんいます。しかし、「調子が悪いな」と思ったら、ためらわずに医師に相談しましょう。早めに手を打てば重症化を防ぐことができるかもしれませんし、なにより、第三者に話を聞いてもらうだけでも心が軽くなるかもしれません。「コロナうつかも……」と感じたら、ぜひメンタルクリニックや心療内科を頼ってください。
編集部まとめ
長引く新型コロナウイルスの影響により、心と体に不調をきたしている人が増えています。とくにメンタルの症状は、人によって許容範囲が異なります。違和感を覚えたら、遠慮せずに医療機関に受診してもらいましょう。「うつ病ではなかった」という除外診断も、十分な受診動機になります。
医院情報
所在地 | 〒154-0012 東京都世田谷区駒沢2丁目31番1号 駒沢そらビル2F |
アクセス | 東急田園都市線「駒沢大学駅」 徒歩5分 |
診療科目 | 心療内科、精神科 |