「糖尿病を持つ人が服用してはいけない薬」はご存知ですか? 糖尿病専門医が詳しく解説
糖尿病は血糖値が上がってしまう病気ですが、治療によっては逆に低血糖に悩まされることもあります。実は、治療による低血糖の裏側には「一見糖尿病とは関係なさそうな薬」が影響している可能性もあるとのことです。ドラッグストアや病院で、気をつけるべき薬の種類や対策について、医師の安德先生に解説していただきました。
監修医師:
安德 愛梨(医師)
実はたくさんある! 血糖値に影響を及ぼす市販薬
編集部
糖尿病を持つ方が体調を崩した際、市販薬を飲むことに問題はありますか?
安德先生
- 総合感冒薬
- 鼻炎薬
- 漢方薬の風邪薬
- プレミアム系鎮痛剤
があります。また、元々低血糖を起こしうる薬を飲んでいる場合、総合感冒薬やプレミアム系鎮痛剤に配合された成分のせいで低血糖が引き起こされることがあります。ほかにも、胃腸薬の中には一部糖尿病治療薬の効果を打ち消してしまうものがあります。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
安德先生
総合感冒薬や鼻炎の内服薬に含まれる血管収縮薬、葛根湯などの漢方系風邪薬に含まれる麻黄には血糖値を上昇させる作用があります。プレミアム系鎮痛剤には効き目をよくするために、コーヒー1杯分程度のカフェインが配合されているものがあります。カフェインには血糖値を上昇させる作用がありますし、元々コーヒーをよく飲む方であればカフェイン中毒も心配です。また、胃腸薬の一部(消化酵素が配合されたもの)にはαグルコシダーゼ阻害薬の効果を打ち消してしまうものがあります。
編集部
なるほど。たくさんの成分が含まれる市販薬には要注意ですね。飲み合わせも大切となると、風邪薬なども病院で処方してもらった方がよいのでしょうか?
安德先生
そうとも限りません。病院の外来はただでさえ混んでいることが多く、手軽に使用できる市販薬を活用していただけるのは医師としても助かります。私自身も糖尿病患者ですが、ちょっと具合の悪い時にはドラッグストアを活用していますよ。
編集部
医師もドラッグストアで薬を買うのですね! なにか活用のコツはあるのでしょうか?
安德先生
3つ、気をつけているポイントがあります。1つ目は、点鼻薬や湿布薬など、内服しないで済む薬を優先して選びます。これらは症状がある部位以外にはあまり影響しないので、全身に影響がある副作用の心配が少ないです(なかには注意が必要なものもあるので、パッケージを確認しましょう)。2つ目は、できるだけ含まれる成分が少ない薬を選びます。色々な成分が入っている薬はよく効きそうですが、考えなくてはならない副作用が増えてしまうからです。私が特に気に入っている主成分はカルボシステイン(鼻詰まり)と酸化マグネシウム(便秘)です。3つ目として、医薬品ドリンク剤は飲みません。飲みやすくするためにハチミツや砂糖を使っているものが多く、市販薬による影響とは比べものにならないくらい血糖値が上がるからです。
編集部
患者さんにとっては血糖値に影響する薬を避けながら、よく効く薬を選ぶのは難しいと感じます……。
安德先生
※ 「健康サポート薬局」とは……通常の調剤薬局の機能に加え、市販薬や介護関連、食事・運動など幅広い相談を積極的に受ける薬局のこと。基準は厚生労働省で定められている
編集部
もし血糖値に影響のある薬を飲んでしまった場合はどうしたらよいですか?
安德先生
市販薬は、用法・用量さえ守っていれば体に及ぼす悪影響は少ないです。だから、正直な話、それほど深刻に捉える必要はありません。誤って飲んでしまったとしてもあまり心配する必要はないですが、不要な内服は避けるにこしたことはない程度です。私も知らずに飲んでしまったことはありますが、明らかな異常はありませんでした。痛みや感染、発熱自体も血糖値を上げますから、つらい症状との兼ね合い次第で飲むのがよいと考えます。
編集部
その他、市販薬を活用する際に気をつけるべきポイントはありますか?
安德先生
腎臓や肝臓、心臓に大きな問題をかかえている患者さんには副作用が強く出やすいため、自己判断での市販薬使用は厳禁です。困った時には必ず主治医に相談してください。また、甘い飲み物は薬以上に血糖値を上げます。栄養ドリンクやスポーツドリンク、経口補水液は使用するタイミングや量を間違えれば血糖管理を大きく悪化させます。少なくとも毎日のように飲むのは絶対にやめるべきですし、注意事項をよく確認した上で、用法・用量を守って使用してください。
編集部
ドラッグストアなどで「血糖値を下げる」と謳っている商品を見かけますが、活用したほうがよいのでしょうか?
安德先生
「血糖値を下げる」「血糖値が気になる方に」と謳われた市販薬や健康食品は糖尿病のない方、あるいは予備群の方向けです。糖尿病の治療薬と相性が悪かったり、予期せぬ副作用を引き起こしたりすることもあります。病院のお薬の方が確実に効きますし、価格も安く安心ですよ。
病院で出される薬なら安心して飲める、わけじゃないけど……
編集部
血糖値に影響する市販薬がたくさんあることはわかりましたが、病院で処方される薬はどうなのでしょうか?
安德先生
実は本当に気をつけなければならないのは、病院で処方される薬です。中には糖尿病発症の原因になってしまうものもあります。
編集部
血糖値に影響するのは、具体的にどんな薬か教えてください。
安德先生
病院でしか処方できない薬の中で最も気をつけるべき薬はステロイドです。少量から血糖値に影響しますし、量が増えたり期間が長くなったりすれば危険性が増します。糖尿病ではなかったはずなのに気がついたら発症していた、ということも珍しくありません。飲み薬、注射薬以外ではあまり心配いりませんが、ステロイド関節注射はよく血糖上昇の原因になるため注意が必要です。ほかにも、抗がん剤やホルモン剤など気をつけるべき副作用に高血糖・低血糖が挙げられる薬はたくさんあり、さまざまな科の先生から相談を受けることがあります。
編集部
糖尿病があるとそれらの薬は飲まない方がよいのでしょうか?
安德先生
いえ、必要であれば飲むべきです。例えば、ステロイドは病気によっては特効薬です。抗がん剤とあわせて使うと吐き気止めになりますし、強いアレルギーをすぐ抑えたいときにも活躍します。稀ですが、実は糖尿病の中にはステロイドを使用することで血糖管理が改善するものもあります。逆に、血糖値を下げる手段は色々あります。インスリン注射が必要になることもありますが、ステロイドが必要ならその使用を優先すべきです。そして、ステロイドはむやみに減量すると命に関わることもあります。必ず医師の指示通りに内服してください。ほかの血糖値を変動させる副作用がある薬についても同様です。必要があるのなら、糖尿病があっても内服すべきです。
編集部
患者さんができる対策はなにかありますか?
安德先生
もっとも重要なのは「処方する医師が、患者さんが糖尿病を持っていると知っていること」。次に大事なのは「糖尿病の主治医が、処方された血糖値に影響する薬について把握していること」です。新しい病院を受診したとき、新しい薬を処方されたとき、必ず医師や薬剤師に自分が糖尿病を持っていることを伝えてください。糖尿病連携手帳を提示するだけでもよいです。そして、もし糖尿病内科への相談が必要と言われたのなら、是非相談してください。仮に糖尿病があるからと効果的な治療が避けられているようなら、状況によっては糖尿病内科から情報提供して治療の強化をお願いすることもできます。
編集部
その他病院で処方を受ける際気をつけるべきポイントはありますか?
安德先生
お薬を始める前の血糖値に問題がなかったとしても、内服を続けるうちに上がってしまうことは多々あります。糖尿病外来の定期受診がない場合には、たまに血糖値を確認してもらえるよう主治医に相談してください。
「糖尿病を持つ人が服用してはいけない薬」はあるのか
編集部
ここまで色々なお薬と糖尿病の関係を伺ってきましたが、結局「糖尿病を持つ人が服用してはいけない薬」はあるのでしょうか?
安德先生
そうですね。市販薬で危険なほどの影響があるものはないですし、必要ならばきちんと対策をとったうえで、血糖値が上がる処方薬も内服すべきです。ただし、実は処方薬のなかに糖尿病を持つ人が“絶対に飲んではいけない”とされる薬があります。
編集部
それはどんなお薬でしょうか?
安德先生
精神科で処方されることのある「オランザピン」「クエチアピン」は、過去に妊娠糖尿病など一時的に糖尿病と言われていただけの方も含めて絶対に飲んではいけないとされています。これらの薬は急激な血糖上昇を起こすことがあり、海外では患者さんが亡くなったという報告があります。
編集部
すべての糖尿病患者さんが絶対に飲んではいけない薬は2種類だけなのですね。
安德先生
はい。実は以前、成長ホルモンの注射製剤も血糖上昇を理由に糖尿病患者さんへの使用が禁忌とされていました。しかし、投与したメリットの方が大きいと判断され、禁忌が解除されました。
編集部
以前は使えなかった薬が使えるようになった、という事例があるのですね。
安德先生
はい。絶対ダメという決まりがある薬は随分少なくなりました。しかし、糖尿病の有無に関わらず、飲まないで済む薬は、飲まない方がいいでしょう。血糖値への影響を含め、薬には多少なりともリスクがつきものです。体調が悪い時、市販薬で症状が改善するなら活用すべきですが、必要最低限にしましょう。医師は患者さんの状況にあわせてメリットの方が大きいと判断した薬を処方していますが、もし不安なら理由や副作用について聞いてみてください。
編集部まとめ
「糖尿病を持つ人が服用してはいけない薬」について解説していただきました。絶対に飲んではいけない薬は非常に少ないですが、血糖値に影響する薬はとてつもなく多く、自分で判断するのは難しそうです。なにか薬を飲む必要がある場合は、自分の病気について伝えた上でプロに頼るのが一番ですね。糖尿病連携手帳とお薬手帳は、常に持ち歩いておきたいです。