「糖尿病の発症リスクを高める要因」をご存知ですか? 当てはまる人は何に注意したらいい?
「糖尿病」という病気は誰にでも起こり得るものですが、実は発症しやすい特徴を持った人たちがいることをご存じですか? 「自分は大丈夫」と思っていても、もしかすると当てはまる項目があるかもしれません。今回は、糖尿病を発症しやすい人の特徴をピックアップし、該当する方が注意すべきポイントについて、糖尿病を楽しく知るメディア「あおいろサークル」代表の中尾先生にお話を伺いました。
監修医師:
中尾 裕(医師)
糖尿病の発症に関わる主な要因とは?
編集部
はじめに、糖尿病を発症しやすいリスクとなる要因を教えて下さい。
中尾先生
糖尿病の発症リスクとなる要因は複数あります。皆さんが一般的に想像するような肥満や食生活、運動習慣などももちろんリスクとなりますが、ほかにも喫煙・飲酒に加え、睡眠時間などもリスク因子として考えられます。
編集部
やはり生活習慣の影響が大きそうですね。
中尾先生
生活習慣もさることながら、実は遺伝的な要因も糖尿病の発症に強く影響しています。糖尿病の発症には遺伝因子と生活習慣の両方が関わっているため、「発症した=生活習慣が悪かった」とは決して言えません。しかし、生活習慣を改善することで発症リスクを下げることは可能です。今回は遺伝因子と生活習慣のそれぞれについて、詳しくお話しします。
編集部
まず予備知識として知っておくべきことはありますか?
中尾先生
「糖尿病」と聞いたとき、おそらく皆さんがイメージするのは、糖尿病の大多数を占める「2型糖尿病」のことです。「1型糖尿病」というものもありますが、こちらは現代医学では予防することが難しいため、今回の記事ではいったん「糖尿病=2型糖尿病」という前提でお話しします。
編集部
2型糖尿病は食事や運動習慣に気をつけていれば予防できるのでしょうか?
中尾先生
たしかに食生活や運動習慣などが糖尿病の発症・悪化に密接に関わっているのは間違いありません。しかし、実際に糖尿病専門外来で診療をしていると、健康的な生活を送っているにもかかわらず、若くして糖尿病を発症してしまうような方も珍しくありません。
編集部
そのような方にはどんな特徴があるのでしょうか?
中尾先生
このような症例では、やはり遺伝的な素因が大きいと感じます。血縁に糖尿病を発症している方がいる場合には、そうでない場合よりも発症するリスクが高いと考えた方が良いでしょう。これを医学的には「糖尿病の家族歴がある」と表現します。
編集部
家族歴があると、具体的にどれくらいリスクが変わるのでしょうか?
中尾先生
※Takase M, et al. J Atheroscler Thromb. 2023 Dec 1;30(12):1950-1965.
編集部
そんなに遺伝の影響が強いとは知りませんでした。
中尾先生
「生活習慣病」というイメージから、糖尿病を持つ方は「だらしない生活を送っていたのだろう」といった偏見に苦しんでいることがあります。しかし、厚生労働省の調査では、2022年時点で「糖尿病が強く疑われる者」が男性の18.1%、女性の9.1%もいると推定されており、その血縁者は全員「糖尿病の家族歴がある人」ということになるので、もはや「誰が発症してもおかしくない病気」と思っていた方が良いでしょう。
編集部
そう聞くと「発症したのは生活習慣のせい」と決めつけるのはやめた方が良いですね。
中尾先生
おっしゃる通りです。この記事を読んでくださった方々が、少しでも価値観を見直すきっかけになれば幸いです。
要チェック! 肥満・食習慣・運動不足がもたらすリスク
編集部
遺伝的な要素以外に、生活面で気をつけるべきことはあるでしょうか?
中尾先生
やはり肥満・食習慣・運動不足などは、糖尿病を発症するリスク因子になります。現在の日本の基準では、BMI(Body mass index)が25以上の場合に肥満と判定しています。体重(kg)を身長(m)で2回割り算すればBMIが計算できるため、自分が肥満に該当していないか計算してみてください。たとえば身長170cm、体重65kgなら65÷1.7÷1.7≒22.5、という感じです。肥満がある場合、減量に取り組むことは糖尿病を予防する上で非常に有効です。
編集部
同じ肥満でも、特に注意した方が良い人の特徴などはあるのでしょうか?
中尾先生
肥満には大きく分けて皮下脂肪が多いタイプと、内臓脂肪が多いタイプがあります。お腹がぽっこり出ているのが内臓脂肪型肥満のイメージです。過去の研究でも、腹囲・ウエスト/ヒップ比が高いと、糖尿病のリスクが高いことが分かっています。皮下脂肪型でも内臓脂肪型でも、肥満自体が糖尿病の発症リスクになりますが、特にお腹がぽっこり出ているような内臓脂肪型肥満の方は、より注意が必要です。
編集部
肥満のある方が体重を落とすと、糖尿病の発症予防にどのくらい効果があるのでしょうか?
中尾先生
※Knowler WC, et al. N Engl J Med. 2002 Feb 7;346(6):393-403.
編集部
食生活におけるリスクなどもあるのでしょうか?
中尾先生
食事内容と糖尿病の発症リスクの関係については、ある程度分かっていることと、分かっていないことがあります。肥満がある方においては、食事の総エネルギー(カロリー)を適正化することで体重を落とすのが最も重要なのは間違いなさそうです。各栄養素の最適なバランスについては、意外と結論が出ていないところもあります。
編集部
炭水化物制限なども効果は期待できないのでしょうか?
中尾先生
食事から取るカロリーの中で、炭水化物の割合が多すぎても少なすぎても糖尿病になりやすいことが分かっています。日本人の場合は、総カロリーのうち炭水化物をだいたい45〜65%程度摂取していると糖尿病の発症リスクが最も低いと言われています。
編集部
食事について、ほかに気をつけるべきことはありますか?
中尾先生
※1.Fujii H, et al. J Clin Med. 2021 May 1;10(9):1949.
※2.Muraki I, et al. BMJ. 2013 Aug 28;347:f5001.
編集部
運動についてはいかがでしょうか?
中尾先生
※1.Honda T, et al. J Diabetes Investig. 2019 May;10(3):809-816.
※2.Jeon CY, et al. Diabetes Care. 2007 Mar;30(3):744-52.
見落としがちな要因。喫煙・飲酒・睡眠不足がもたらすリスクとは
編集部
ほかに日常生活を送る上で糖尿病のリスクになるものはありますか?
中尾先生
※Akter S, et al. J Epidemiol. 2017 Dec;27(12):553-561.
編集部
飲酒についてはどうでしょう?
中尾先生
お酒の飲みすぎはもちろん糖尿病のリスクになります。また、お酒の飲み過ぎは肥満につながるため、それによる発症リスクの上昇も懸念されますね。
編集部
タバコ・お酒以外にもリスク要因はあるのでしょうか?
中尾先生
※Shan Z, et al. Diabetes Care. 2015 Mar;38(3):529-37.
編集部
ありがとうございます。最後に読者へメッセージをお願いします。
中尾先生
糖尿病を発症するリスクは遺伝や体質などによって異なるため、糖尿病を発症してしまった方々へ偏見の目を向けることはあってはなりません。しかし、日々の生活で自分の中の発症リスクを少しでも下げることは可能です。摂れば摂るほどリスクを下げてくれる魔法のような食品・栄養素はありませんので、バランスの良い食生活・適度な運動習慣・充分な睡眠などで将来の健康を守りましょう。
編集部まとめ
糖尿病は、遺伝的な要因と生活習慣の両方がかかわる病気です。遺伝的な素因があっても、適切な生活習慣を心がけることで発症リスクを減らせる可能性があります。この記事を参考に、食事や運動、睡眠など、できることから少しずつ取り組んでみましょう。