「自分ががんになったらどうする?」緩和ケア医に聞く後悔しない生き方のヒントとは

もし自分が「がん」と告げられたら、あなたは何を大切に生きたいですか? 治療だけでなく“その人らしい時間”を支えるのが緩和ケア医の役割です。多くの人生の終盤をサポートし、死に立ち会ってきた、たかみざわ医院の高見澤先生に「自分ががんになったときにはどうしたらよいのか」「理想的な死とは?」など詳しくお聞きしました。
※2025年11月取材。

監修医師:
高見澤 重彰(たかみざわ医院)
もし自分ががんになったら。「何を大切に生きたいか」を考える

編集部
がんの患者さんが大切にしていることには、一般的にどのようなことが多いのですか?
高見澤先生
がん患者さんが大切にしていることは本当に人それぞれです。痛みをできるだけ抑えて安心して過ごしたい人もいれば、多少つらくても自由に動いてやりたいことをしたいと考える人もいます。「家族や信頼できる人と一緒に過ごしたい」「慣れた自宅で過ごしたい」「家族に負担をかけたくない」。そんな気持ちを抱く人もいます。一つ共通しているのは、「自分らしく過ごしたい」という思いです。その人にとっての“自分らしさ”を大切にできる環境づくりが、がんのケアではとても大切です。
編集部
先生が「もし、がんになったら」と想像したとき、最も大切にしたいことを教えてください。
高見澤先生
がんが進行したと仮定して、まず望むのは痛みなどのつらい症状をしっかりコントロールすることです。それは身体の負担を軽くするためだけでなく、「自分のための時間」をきちんと持てるようにするためでもあります。症状が落ち着くことで、初めて「残された時間をどう過ごしたいか」「誰とどんな時間を過ごしたいか」という、本当に大切なことに心を向けられるようになると思います。
編集部
「大切にしたいこと」は、治療法の選択にも関わってくるのですか?
高見澤先生
はい。たとえば痛みの治療一つをとっても、鎮痛効果を優先すれば眠気などの副作用が出ることがあります。一方で、「少し痛みが残っても起きて家族と話したい」という方もいます。どちらが正しいということではなく、その人が「どんな時間を過ごしたいか」で最適なバランスは変わります。緩和ケアの役割は、その思いを聞き取りながら一緒に調整していくことだと思います。
編集部
家族や友人との関わり方にも影響があるのでしょうか?
高見澤先生
これまで関わってきた患者さんの多くが、「家族に迷惑をかけたくない」と口にされています。でも本当は、支えてもらうことは弱さではなく、相手に「あなたに関わる機会」を与えることでもあるのです。だからこそ私は遠慮しすぎずに気持ちを伝えたり、感謝を言葉にしたりすることを大切にしてほしいと思っています。最期まで“人とつながっている”と感じられることが大切だと思います。
緩和ケア医が考える「望ましい死」とはなにか

編集部
先生が考える「望ましい死」とは一体どのようなものでしょうか?
高見澤先生
2007年に医学雑誌「Annals of Oncology」に掲載された論文には、「がん治療におけるよい死」があります。この研究の目的は、日本のがん治療における「よい死」とはどのようなものかを調べ、よい死であるための各要素について、それぞれの重要性を明らかにすることでした。
編集部
「よい死であるための重要性」とはどのようなものですか?
高見澤先生
この研究は一般住民のほか、認定緩和ケア病棟で亡くなったがん患者さんの遺族も対象におこなわれました。「身体的・心理的な安らぎがある」「好きな場所で最期を迎える」などさまざまな要素を取り上げ、対象者に「よい死を迎えるために重要かどうか」を各々尋ねた結果、10個の要素が最も重要であるということが明らかになりました。
編集部
10個の要素について教えてください。
高見澤先生
以下に10個を挙げてみます。
① 身体的・心理的な安らぎ
痛みや息苦しさ、不安や恐怖ができるだけ和らいでいること。「苦しまない」「穏やかに過ごせる」ことは最も基本的な願いです。
② 好きな場所で最期を迎えること
自宅など、自分が落ち着ける場所で最期の時間を過ごしたいという思い。「家族のそばで」「自分のペースで過ごしたい」と望む方が多くいます。
③ 医療スタッフとの信頼関係
気持ちを伝えやすく、話をきちんと聞いてもらえる安心感。「任せられる」と思えることが心の支えになります。
④ 希望と喜びを保つ
病気の中でも、小さな楽しみや希望を見つけ続けられること。孫との会話、好きな音楽など“生きている実感”のある時間です。
⑤ 他者への負担にならない
「介護で大変な思いをさせたくない」「自分のことで家族が疲れないように」など、優しさから出る思い。
⑥ 家族との良好な関係
気持ちが通い合い、「ありがとう」「ごめんね」などを伝えられる時間。
⑦ 自分の体や判断をできるだけ自分で決められること
「意識がはっきりしていたい」「自分で選びたい」という希望。
⑧ 心地よい環境で過ごせること
静かで落ち着いた空間、家の匂いや光を感じられる安心感など、五感での心地よさのこと。
⑨ 一人の人として尊重されること
病気になっても、“一人の人間として尊重されている”と感じられること。「患者さん」ではなく「○○さん」として扱われることが、自尊心を保つ助けになります。
⑩ 人生のしめくくりを感じられること
人生を振り返り、「やりきった」「伝えたいことを伝えられた」と感じられること。「ありがとう」「幸せだった」と思える時間があること。
編集部
これら10項目のうち、何を大事にするかは人それぞれなのですか?
高見澤先生
これらは多くの人が共通して大切だと考える項目です。しかし、その優先度は人によって異なります。そのため、緩和ケアではその人が何を大事にしているのかなど、個人の価値観に応じたケアをすることが大切。同時に、そうした情報を患者さんのご家族とも共有しながら、みんなで患者さんを支えていくことが重要だと考えています。
最期を考えることは、「今の生き方」を見つめ直すこと

編集部
この研究を、私たちは日々の生活でどう活かしたらよいのでしょうか?
高見澤先生
この研究は、「自分がどう生きたいか」を考えるきっかけになると思います。たとえば、自分はどんな時間を大切にしたいのか、どんな支えがあれば安心できるのか。そうしたことを日ごろから少しずつ意識しておくことで、いざというときに後悔の少ない選択ができると思います。
編集部
なるほど。たとえがんではなくとも、そうしたことを普段から意識しておくといざというときの助けになりますね。
高見澤先生
そうですね。同時に、「自分の親やパートナーなど親しい人が何を大切にしたいのか」を考えるきっかけにもなります。医師としても、患者さんがどんな思いで日々を過ごしているかを想像しながら診療をしていますが、家族や友人の立場でも同じです。もし身近な方が病気になったとき、「この人はどう過ごしたいのだろう」と一緒に話すことが、互いに安心して向き合える第一歩になると思います。
編集部
自分ががんになったとき、どうやったら「望ましい死」を迎えることができますか?
高見澤先生
「望ましい死」を迎えるために大切なのは、病気の経過そのものよりも、“自分がどう生きたいか”という思いを大切にすることだと思います。自分が何を大切にしたいかを早い段階から考えておくこと、そしてその思いを家族や医療者と共有しておくことが重要です。
編集部
共有することが大事なのですね。
高見澤先生
私が関わってきた患者さんを振り返っても、「家族と温泉に行きたい」「趣味だった写真をもう一度撮りに出かけたい」「どうしても会っておきたい人がいる」など、その方にとって大事な願いがあります。そうした思いを聞かせていただくことで、体調に合わせながら可能な方法を一緒に考え、その人らしい時間を実現するためのサポートができます。望ましい最期とは、特別なことをするというより、自分らしさを大切にしながら、残された時間をどう過ごすかを一緒に考えていく過程にあるのだと感じています。
編集部
緩和ケアとは、望ましい死を迎えることをサポートするのと同時に、その人らしい生き方を支えるものでもあるのですね。
高見澤先生
痛みや不安が和らぎ、自分の時間を自分らしく過ごせるようになると、周りのご家族も自然と穏やかにその時間を見守れるようになります。そうした姿を見ていると、「最期までその人らしかった」と感じられることが多く、それが残された方にとっての大きな慰めにもなるのだと思います。
編集部
近年では、緩和ケアは終末期医療としてだけではなく、がんの初期の患者さんにも提供される傾向が強いと聞きました。
高見澤先生
その通りです。がんの緩和ケアは「終末期だけのもの」ではなく、初期の段階から受けられるケアです。診断時からの緩和ケアは国も推奨しており、痛みが軽いうちから相談することで、QOL(生活の質)を保つことができます。また、不安や落ち込みなどの“気持ちのつらさ”も症状の一つ。身体の痛みと同じように、早期から専門家のサポートを受けることで、心身ともに楽に過ごすことができます。がんと診断されたらぜひ、緩和ケアを受けることも選択肢の一つとして考えてほしいですね。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージをお願いします。
高見澤先生
緩和ケアは、ほかの治療科とは少し異なる視点を持つ医療かもしれません。治療の目的は病気を抑えることだけではなく、その人が望む生き方を支えること。自分や大切な人の「こうありたい」という思いを、どう医療とつなげていくか。それを一緒に考えていくのが、緩和ケアの本当の役割だと思います。私自身は病院の緩和ケアでの経験を活かして、現在はご自宅でその人らしく過ごすお手伝いをさせていただいています。
編集部まとめ
緩和ケアは、病気の重さやステージに関係なく、“その人がその人らしく過ごすこと”を大切にする医療です。痛みや息苦しさだけでなく、不安・迷い・気持ちの落ち込みなど、心の負担まで幅広く支えてくれます。つらさを我慢せず、日々の生活を楽にするためにも早めに相談してみませんか?
医院情報

| 所在地 | 神奈川県横浜市港北区日吉本町1-23-5 高見沢ビル2F-A |
| 診療科目 | 内科、循環器内科、漢方内科、皮膚科、緩和ケア内科、腫瘍内科 |
| 診療時間 | 午前: 月~金 9:00~12:00 午後: 月~金 15:00~18:30 |
| 休診日 | 土・日・祝 |




