“寝ている間”だけコンタクトレンズをつけて視力矯正? 「オルソケラトロジー」を眼科医が解説

手術のいらない視力矯正「オルソケラトロジー」は、専用ハードコンタクトレンズを夜寝る前につけて、朝起きたら外すだけという優れた治療法です。しかし、その反面デメリットがあるのも事実です。オルソケラトロジーの治療後、後悔しないために知っておきたいことについて、「川口眼科」の蒲山先生に解説していただきました。

監修医師:
蒲山 順吉(川口眼科)
オルソケラトロジーとは

編集部
まず、オルソケラトロジーについて教えてください。
蒲山先生
オルソケラトロジーは、「手術のいらない視力矯正治療法」として知られています。夜、寝ている間に特別なハードコンタクトレンズを装用することで、日中は裸眼でも遠くがよく見えるようになる治療法です。日本国内では、2009年に初めて厚生労働省の承認を受け、最近では急増する子どもたちの近視化を受けて、広く認知され普及してきています。
編集部
なぜ、寝ている間にコンタクトレンズをつけるだけで、日中は裸眼で過ごせるのですか?
蒲山先生
コンタクトレンズをのせる「角膜」は柔らかく、一定の力が加わると形が変わり、しかもすぐには元に戻らないという性質があります。夜間にハードコンタクトレンズをつけて寝ることで角膜の形を変化させます。すると、翌朝にコンタクトレンズを外した後もしばらくの間は角膜の形状は維持され、裸眼でも矯正された状態を保つことができるのです。この角膜の「形状記憶」のような性質を利用した治療がオルソケラトロジーです。
編集部
どんな人がオルソケラトロジーの対象になるのですか?
蒲山先生
主に、軽度から中程度の近視の人が対象です。年齢は20歳以上が適用とされていますが、近年では未成年への安全性が確立され、小学生から大人まで幅広く使用されています。特に注目されているのが、子どもの近視進行を抑える目的での利用です。現在、オルソケラトロジーを使用している人のうち、約75〜80%は未成年者が占めており、視力の維持と将来の目の健康を考えた選択肢として支持が広がっています。
編集部
コンタクトレンズは毎日つける必要があるのでしょうか?
蒲山先生
基本的には、毎晩装用する必要があります。個人差があり、視力が安定しやすい人であれば1日おきでも裸眼視力を保てる場合もありますが、つけ忘れ防止のために毎日のルーティン化をおすすめしています。
編集部
オルソケラトロジーのレンズは市販されていますか?
蒲山先生
いいえ、医療機関で処方してもらう必要があります。専門医資格のある眼科医師が処方でき、視力や角膜の状態を詳しく調べたうえで、完全オーダーメイドのコンタクトレンズを製作するため、専門の医療機関で治療を受けましょう。
オルソケラトロジーのメリットやレーシック・ICLとの違い

編集部
オルソケラトロジーのメリットはなんですか?
蒲山先生
眼鏡やコンタクトレンズをしないと視力がでなかった人たちが、日中裸眼で過ごせるということが最大のメリットです。スポーツ、運転、学校の授業、映画鑑賞や観劇などの様々なシーンで便利さを感じるでしょう。また、メスを入れて手術をする必要がないので、体に負担が少ない点も大きなメリットと言えます。
編集部
視力矯正にはレーシックという方法もありますが、何が違うのですか?
蒲山先生
レーシックは、角膜をレーザーでうすく削って視力を恒久的に変える手術です。オルソケラトロジーはコンタクトレンズで一時的に角膜の形を変える非手術法です。そのため、「メスを入れるのは怖い」「元通りにできないのは不安」という場合にはオルソケラトロジーが適していますし、眼球が日々変化していく成長期の子どもにも使えることも大きな違いと言えるでしょう。
編集部
コンタクトレンズを使って視力矯正をする方法には、ICL(眼内コンタクトレンズ)もありますね。
蒲山先生
ICLは、目の中にコンタクトレンズを埋め込む視力矯正手術です。高度近視にも対応できますが、こちらも外科的手術が必要で、様々な手術合併症リスクが伴います。
編集部
オルソケラトロジーは、子どもにも使えるのが強みですね。
蒲山先生
特に最近は子どもの近視進行を抑える手段として注目され、小学生から導入されるケースが増えています。また、サッカーやバスケットボール、水泳などのスポーツをする子どもが治療を受けるケースも増えています。実際に、多くの保護者が「眼鏡に頼らずに済む」「将来の視力が心配だから」といった理由でオルソケラトロジーを選んでいます。
オルソケラトロジーを受ける際の注意点や適応外のケース

編集部
オルソケラトロジーを受けられない人はいますか?
蒲山先生
全ての人に適しているわけではなく、例えば「角膜に異常がある人」や「重度の近視や乱視がある人」は効果が出にくく、レンズ装用が難しい場合があります。また、「ドライアイが強い人」も装用感に問題が出ることがあります。そのため、事前の適応検査で角膜の形状や涙の状態をしっかり確認し、安全に使用できるかどうかの判断が必要になるのです。
編集部
ほかに、治療が受けられない人はいますか?
蒲山先生
コンタクトレンズを目に直接のせるため、アレルギー体質の人には注意が必要です。特にアトピー性皮膚炎や季節性アレルギーが強く出る人は、装用によって目が赤く腫れることもあります。使い始めてから症状に気づくケースもあるため、使用前には医師と十分に相談しましょう。
編集部
コンタクトレンズを装用する際の注意点はありますか?
蒲山先生
最も大切なのは、コンタクトレンズの清潔を保つことです。手洗いを怠ったり、コンタクトレンズやケースを不衛生なまま使ったりすると、重篤な感染症が起こったり、フィッティング不良で良好な裸眼視力の維持ができなくなったりする可能性もあります。したがって、オルソケラトロジーの治療では自己管理の意識が非常に重要です。特に未成年者は必ず保護者にもレクチャーを受けてもらい、一緒に管理をしてもらう必要があります。
編集部
オルソケラトロジーの費用についても知りたいです。
蒲山先生
まず、オルソケラトロジーは自由診療のため、健康保険は適用されず医療機関によって費用設定は異なります。初期費用は両目で15〜20万円かかることが多く、さらに定期的な検診や数年ごとにコンタクトレンズの交換費用も必要です。また、コンタクトレンズの洗浄液などのケア用品も日常的な出費となります。
編集部
コンタクトレンズと比べたときに、どちらが費用を節約できるのでしょうか?
蒲山先生
1日使い捨てのソフトコンタクトレンズを毎日装用した場合とオルソケラトロジーとで比較してみた結果、2~3年使い続けた費用はほとんど変わらない、もしくはオルソケラトロジーの方が割安であったという試算があります。オルソケラトロジーは初期費用が高額ですが、長く使い続けることを考えるとソフトコンタクトレンズよりもお得になるケースもあるため、治療選択の際に考慮してもよいかもしれませんね。
編集部
治療を受ける際、後悔しないために気をつけることは?
蒲山先生
まず、オルソケラトロジーによって自分の生活をどのように変えたいか、明確な「目的」と「イメージ」を持つことが重要です。オルソケラトロジーには大きなメリットがたくさんある一方で、毎日の寝る前の装用やコンタクトレンズのケアの手間もあります。しっかりとした目的があれば、長く継続する原動力になり、良好な視力の維持につながっていくのです。また、主治医とのコミュニケーションも重要です。何かトラブルが起きたり不安を覚えたりした際に、気兼ねなく相談できるような信頼のおける医師の存在は、あなたが後悔しないための最大の味方になるでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
蒲山先生
オルソケラトロジーは、視力矯正や子どもの近視進行抑制にとても有効な選択肢です。大人にもおすすめできる治療法で、就寝中にレンズをつけるだけという手軽さも魅力の1つです。ただし、子どもへの使用を検討する場合は、「本当に本人がやりたいと思っているかどうか」を必ず確認しましょう。両親が熱心に希望していても、肝心の子ども本人が理解していない、望んでいないというケースもよく見かけます。本人の意志で取り組まなければ、長く続けることは難しくなってしまいます。ご家庭でも事前にしっかり話し合い、子どもが納得して始められるように導いてあげることは重要だと考えています。近視で悩んでいる人にとって、オルソケラトロジーが快適な生活を手に入れる1つの手段になれば嬉しく思います。
編集部まとめ
オルソケラトロジーは、就寝中にレンズを装用することで視力を矯正できる手軽な方法ですが、特に子どもがする場合は「本人のやる気」が重要とのことでした。親の意向だけでなく、子ども自身が治療内容を理解し、前向きに取り組めるかどうかを確認することが成功のカギです。くれぐれも治療の良い面ばかりを見ず、冷静に検討するようにしましょう。
医院情報

| 所在地 | 〒332-0023 埼玉県川口市飯塚2-2-14 |
| アクセス | JR京浜東北線「川口駅」 徒歩5分 |
| 診療科目 | 眼科 |




