「高齢者の筋力低下を防ぐ」にはどのような食事がいいのかご存じですか?

筋力を維持することは、健康寿命を延ばすために欠かせません。加齢に伴う筋力低下「サルコペニア」を予防するには、たんぱく質を「いつ」摂取するかが重要であることが最近の研究で明らかになってきているようです。そこで今回は、時間栄養学の専門家である田原先生と市川先生に、効果的なたんぱく質の摂取法とそのタイミングについて詳しく解説していただきました。

著者:
田原 優(広島大学大学院 医系科学研究科公衆衛生学 准教授)

共著者:
市川 知美(広島女学院大学人間生活学部管理栄養学科 教授)
筋肉をつけるための時間栄養学

編集部
筋肉の維持に関連するサルコペニアとはなんですか?
田原先生
サルコペニアとは、加齢による筋肉・筋力の減少のことを示します。サルコペニアにより、転倒や骨折、それらによる寝たきり生活のリスクが増加します。よって、高齢者が快適な老後生活を送るためには、筋肉の維持、サルコペニア予防はとても重要です。
編集部
筋肉をつけるために重要な栄養素についても教えてください。
市川先生
筋肉の主成分であるたんぱく質が最も重要です。特に、たんぱく質を構成するアミノ酸の中でも、バリン、ロイシン、イソロイシンという分岐鎖アミノ酸(BCAA)が大事です。また、炭水化物やビタミン、ミネラルも、筋肉の合成には重要です。
編集部
逆に筋肉が落ちやすい食事、または食習慣はありますか?
市川先生
低エネルギー・低たんぱく質な食事を続けていると、体に必要なエネルギーを確保するために自分の筋肉を分解してしまいます。
たんぱく質はいつ摂るのが効果的?

編集部
たんぱく質を摂る良いタイミングはありますか?
田原先生
多くの人は、朝よりも昼や夕食時にたんぱく質を多く摂取しています。しかし、研究では、朝食により多くのたんぱく質を摂取している方が、夕食に多くたんぱく質を摂取している人よりも、握力や骨格筋量が高いことが報告されています。よって、朝に意識してたんぱく質を摂取すると良いでしょう。
編集部
1食で摂るべきたんぱく質量はどれくらいですか?
市川先生
高齢者では、1食、体重あたり0.4g/kgのタンパク質を摂取することで、筋肉の合成を最大にできると報告されています。つまり、50kgの方であれば、1食20gとなります。
編集部
たんぱく質の種類や、摂取するコツはありますか?
市川先生
たんぱく質には、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質があります。肉や魚、卵、牛乳・乳製品などに含まれる動物性たんぱく質には、体内で合成できない必須アミノ酸が含まれているので、毎日の食事で取り入れることが大切です。穀類や大豆・大豆製品、野菜類には植物性たんぱく質が含まれます。いろんな食品からたんぱく質を摂取しましょう。朝食で1食20gのたんぱく質を摂取するには、主食となるパンまたはご飯のほかに、肉・魚・卵・大豆製品を使った料理を1~2品、牛乳・乳製品を組み合わせると良いです。
プロテインやサプリメントは本当に効果的?

編集部
筋トレに効果的なプロテインの摂取タイミングはありますか?
田原先生
効果的なプロテインの摂取タイミングを検討した研究はたくさんあります。それらの研究をまとめてメタ解析した報告では、①運動後のプロテイン摂取、②夜のプロテイン摂取が骨格筋量の増加に効果的であったとまとめています。
編集部
より効果的に筋肉をつけるために、サプリメントなどは有効ですか?
市川先生
食事からの摂取を基本とし、サプリメントは補助的に使う方がよいでしょう。同じ研究論文では、特にミルクプロテイン(牛乳、ヨーグルト、ホエイ、カゼインなど)がより効果的であったと結論付けています。一方で、動物性と植物性たんぱく質を混合した方が効果的だという報告もあります。
編集部
プロテインや高たんぱく食品を摂ることの注意点を教えてください。
市川先生
プロテインや高たんぱく食品の摂りすぎは、消化器系や腎機能に負担をかけることがあります。消化不良や胃腸の不快感がある場合は、摂取量や摂取方法を見直してみましょう。
編集部まとめ
筋肉の維持やサルコペニア予防にはたんぱく質の摂取が重要であることを学びました。特に朝食でのたんぱく質摂取が筋力維持に効果的であり、適切な量や動物性・植物性のバランスが大切なようです。運動後や夜のプロテイン摂取も有効で、サプリメントは食事を補完する形で取り入れると良いとのことでした。本稿が、皆さまにとって筋力維持のための効果的な食事法に興味を持つきっかけとなれば幸いです。