高齢者や要介護者に薬を飲ませる際の注意点について教えて!
高齢者にとって、薬の用法用量を守り正しく飲むことは体調の維持や回復はもちろん、ときには命に関わることもある重要なポイントです。しかし、年齢とともに服薬自体が難しくなり介助が必要となります。服薬介助は単純に、薬を口に入れて飲んでもらえばいいというわけではありません。今回は、高齢者に服薬介助をする際の気をつけるべき注意点について「作業療法士・介護福祉士」の大久保さんに詳しく伺いました。
監修者:
大久保 圭祐(作業療法士・介護福祉士・介護支援専門員)
総合病院に6年間勤務し、脳神経外科や整形外科のリハビリテーションを中心に、急性期・回復期・慢性期の全ての時期を経験。その後、介護支援専門員の資格を取得して家族と共に介護事業を設立し、居宅支援事業所と訪問介護事業をスタート。代表取締役であると同時に、現場では機能訓練指導員・介護職・ケアマネージャーを勤めプレイングマネージャーとして活躍。現在は、経営業務をメインに監修者やライターとしても活動中。
高齢者に対する服薬介助の注意点
編集部
高齢者にお薬を飲ませる際、注意すべき点はありますか?
大久保さん
まず、安全管理のために薬の情報を正しく把握することが重要です。何をどのタイミングでどのくらい飲む必要があるのか、服用指示書を確認しましょう。特に高齢者になると、飲む薬の種類が増える傾向にあるため、発作時や症状に応じて飲む頓服薬の把握も大切です。また、果物などの食品を一緒に食べることで効果が減少してしまう薬もあるため、食品との相互作用は必ず確認が必要となり、薬の成分を正しく体内に取り込むためには水での服用が基本です。
編集部
飲ませる体勢などで注意することはありますか?
大久保さん
安全に薬を飲み込めるように姿勢を整えるのが大切です。わずかに前傾する程度に体を起こし、左右の傾きも減らすようにしてください。飲み込む瞬間は、若干あごを引くようにするとむせにくくなります。疾患や状態によって介助方法を工夫する必要はありますが、原則として、本人の能力を活かすために最小限の介入を心がけ、能力低下を防ぐ意識を持ちましょう。
編集部
疾患や状態の違いによる服薬介助について、もう少し詳しくお聞かせください。
大久保さん
例えば、脳卒中の後遺症で麻痺がある場合、口の片側や喉の筋肉も麻痺している可能性があります。服薬介助する際は、麻痺の無い方に薬を運ぶようにして、飲ませた後は口の中に薬が残っていないか確認することも重要です。水分でむせやすいときには、服薬ゼリーなどを検討するのもいいですが、かかりつけの医師に相談しながら最も安全な方法を選択しましょう。ベッドの上で主に生活している場合は、リクライニング機能などを活用して体を起こすようにしてください。また、介護職員が服薬介助を行えるのは、要介助者の状態が安定していて誤嚥など医療的な配慮が必要ない場合に限られ、一包化された薬でなければなりません。
編集部
在宅介護で薬を管理する場合、どのような点に気をつけるべきでしょうか?
大久保さん
薬の種類が多くなるほど飲み間違いや飲み忘れに注意が必要です。特に複数の病院にかかっていて、いくつも薬袋があるような場合は、本人や家族がすべてを正しく把握するのは難しいでしょう。そこで、病院や調剤薬局に一包化してもらうよう依頼することで管理しやすくなり飲み間違いや飲み忘れの予防になります。さらに、お薬カレンダーやお薬ボックスを活用すると、飲むタイミングも把握しやすくなり便利です。ただし、要介護者に認知症がある場合は、症状に応じた服薬介助や管理が必要になります。
認知症の方に対しては特に慎重な服薬介助が必要
編集部
認知症の場合、具体的にどのようなことに気をつけるべきでしょうか?
大久保さん
その方の症状にもよりますが、基本的には飲み忘れや過剰摂取が起こらないようにすることが重要です。薬のことを忘れてしまっている、薬を飲んだことを忘れて何度も服用してしまうなどは認知症の方に最も多くみられる行動です。どちらも健康面に大きく影響を与えるため、状況に合わせた管理が必要です。先ほどお話しした一包化やお薬カレンダーなどは、記憶障害が軽度な場合には有効です。
編集部
認知症の進行とともに、どのように服薬を管理していけばいいのでしょうか?
大久保さん
介護施設などでは、常に薬を管理することが可能ですが、在宅介護の場合は状況に合わせた工夫が必要になってきます。直接声をかけ服薬を促したり、家に一人でいる時は外出先から飲むタイミングを電話で知らせたり、またはアラームをセットしておくのもいいでしょう。薬を過剰摂取してしまう場合は、鍵付きの棚などで薬を保管、管理する方法がおすすめです。また、介護保険サービスによる訪問介護や通所介護でも服薬介助をすることはできますので、必要に応じて利用してみてはいかがでしょうか。
編集部
認知症の方への服薬介助で特に注意すべき点があれば教えてください。
大久保さん
認知症の方は記憶障害や理解力の低下により、服薬に対して拒否反応を示すことは珍しくありません。なぜその薬を飲む必要があるのかわからず、拒否してしまうのです。できる限り納得してもらえるように説明し、その方の性格に合った服用方法を見つけることが大切です。このとき、感情的になったり無理強いをしたりしてはいけません。恐怖を感じることでさらなる拒否や関係悪化につながる可能性があります。また、認知症の方は自身の状態を正しく把握することが難しく、水分や薬が気道に入り込んでしまっても誤嚥に気づかずに状態を悪化させてしまう危険性があるため、注意が必要です。
うまく飲み込めずにおこる誤嚥の危険性について
編集部
誤嚥はなぜおこってしまうのでしょうか?
大久保さん
加齢や病気、麻痺などの影響で喉の働きが弱まると、水分や食べ物を正しく飲み込み食道へ送ることができず、気道に流れてしまうことがあります。誰でも水を飲んでむせ返った経験はあると思いますが、こういった誤嚥が高齢者には頻回におこりやすい状態にあるのです。通常は咳をすることで、気道に入ってしまったものを出すことができますが、加齢によりその排出する力が弱まると肺などの呼吸器に異物が残るようになり誤嚥性肺炎などの発症リスクが高まります。肺炎は日本の死亡率で上位になるほど危険性が高いので、対策が必要です。
編集部
誤嚥がおこらないように、どのような対策を行えばいいのでしょうか?
大久保さん
まずは、日頃からむせ返ることがあるか観察しておくことが重要です。頻度が多いようであれば、すぐ医師に相談して指示を仰ぐ必要があります。対策としては、水分にトロミをつけたり、服薬ゼリーを利用したり、あとは薬の形状を変更してもらうなどがあるでしょう。薬を飲んだ後に声を出してもらい、ゴロゴロ音がないか誤嚥の有無を確認することも大切です。病院や介護保険サービスでは、舌の運動や発音練習など、正しく飲み込む嚥下機能を維持、向上させるリハビリを受けることもできます。
編集部
誤嚥がおきてしまった時は、どう対応すればいいのでしょうか?
大久保さん
軽い誤嚥の場合は、咳払いをしてすぐに取り除くよう促してください。むせて咳をしている最中に水を飲ませるのは、逆に危険ですのでやめましょう。うまく排出できない場合、背中の両肩甲骨の間あたりを手のひらで叩く「背部叩打法」が一般的には行いやすいと思いますが、窒息の危険性があるときはすぐに救急車を要請しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
大久保さん
薬は用法用量を守り、日頃からきちんと管理することが重要です。身体の状態や認知症の有無によって、高齢者への服薬介助にはさまざまな工夫が必要になるため、安全性を高めるには医師や介護職員との連携が必要不可欠です。心配や不安なことがあれば、すぐに相談をするようにしましょう。
編集部まとめ
高齢者への服薬介助は、単純に薬を飲ませるだけではなく、飲み間違いや飲み忘れを防ぎ、安全管理のために薬の情報を正しく把握することが重要であるとわかりました。また、認知症の場合は特に誤嚥や誤嚥性肺炎がおこりやすいため、日頃からしっかりと飲み込めているか、嚥下機能が弱っていないか、注意深く観察しておく必要があるでしょう。