「RSウイルス」に感染したらどうなるかご存じですか? 症状が悪化しやすい人の特徴も医師が解説!

風邪などの症状を引き起こす「RSウイルス」は、年齢を問わず感染しますが、特に乳幼児がかかると重症化することもあるので注意が必要です。一体、どのような症状がみられるのか、また重症化するとどうなるのか、どのような治療法があるのかなどについて、「グローバルヘルスケアクリニック」の水野先生に解説していただきました。

監修医師:
水野 泰孝(グローバルヘルスケアクリニック)
RSウイルスとは

編集部
まず、RSウイルスについて教えてください。
水野先生
Respiratory Syncytial virus(レスピラトリ―・シンシチアルウイルス)の略であり、呼吸器の感染症を引き起こすウイルスです。
編集部
流行時期はいつですか?
水野先生
これまでは夏から流行しはじめ、秋に患者数がピークを迎えていました。近年では、年によって若干変わることもありますが、春から初夏にかけて患者数が増加し、夏にピークを迎えるようになっています。
編集部
どのような人がかかりやすいのですか?
水野先生
子どもから大人まで、誰でも感染する可能性がありますが、特に子どもに多いことで知られています。生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%が少なくとも一度はRSウイルスに感染すると言われています。
編集部
RSウイルスの感染経路は?
水野先生
主に、接触感染と飛沫感染によって拡大するとされています。接触感染は、RSウイルスに感染している人と直接接触したり、感染者が触れたもの(ドアノブ、手すり、スイッチなど)を触ったりすることで感染することを指します。その一方で、飛沫感染はRSウイルスに感染している人の咳やくしゃみなどを介して感染することを言います。
乳児がRSウイルスに感染するとどうなる?

編集部
RSウイルスに感染すると、どのような症状がみられるのですか?
水野先生
RSウイルスには4〜6日の潜伏期間があり、その後、発熱や咳などの症状が数日間続きます。ほとんどが自然に軽快しますが、場合によっては重症化して、咳がひどくなる、喘鳴が出る、呼吸困難になるなどの症状がみられることがあります。さらに悪化すると、細気管支炎、肺炎に至ることもあります。
編集部
症状が悪化しやすい人の特徴はありますか?
水野先生
初めて感染する子ども、持病がある人、高齢者は重症化することがあるとされています。特に高齢者はRSウイルスを原因として急性の重症肺炎を起こすことがあるため、長期療養施設内での集団発生に注意する必要があります。そのほか、乳幼児の場合にも注意が必要です。
編集部
大人の場合、リスクが高いのはどのような人ですか?
水野先生
研究により、免疫力が低下している人、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息など呼吸器疾患のある人、心不全や糖尿病など特定の基礎疾患がある人は、こうした疾患がない人と比較してRSウイルス感染症が重症化するリスクが高いことがわかっています。
編集部
一方、乳幼児が発症するとどうなるのですか?
水野先生
RSウイルスに初めて感染する子どもは、重症化しやすいことがわかっており、特に生後6カ月以内に感染した場合には、細気管支炎、肺炎など重症化することがあるので要注意です。厚生労働省の発表によると、70%の乳幼児は咳などの症状が数日続いた後に自然と軽快していきますが、残りの30%は強い咳や喘鳴、呼吸困難などを引き起こし、重症化することが明らかになっています。
編集部
命にかかわることもあるのですか?
水野先生
場合によっては、急性脳症などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。また、生後1カ月未満の子どもがRSウイルスに感染すると無呼吸発作を起こすことがあり、突然死に至ることもあります。そのほか、RSウイルスと喘息には強い関係性があります。例えば、スウェーデンでおこなわれた研究によれば、3歳までにRSウイルスによる細気管支炎にかかると、7歳半までに喘息を発症するリスクが10倍以上になることが判明しています。
RSウイルスにかからないようにするには?

編集部
RSウイルスは、どのようにして治療するのですか?
水野先生
現在、RSウイルスに対する抗ウイルス薬はありません。咳や鼻水を軽減したり、吸入をして呼吸を楽にしたりするなどの対症療法が中心となります。そのため、RSウイルスに対しては、治療よりも予防が大切です。
編集部
どのようにして予防すればいいのでしょうか?
水野先生
ワクチン接種が有効です。近年、60歳以上の人や妊婦に対してワクチン接種がおこなわれるようになりました。60歳に満たなくても、50歳以上でRSウイルスが重症化するリスクが高い人(COPD、喘息、慢性心不全などの基礎疾患があるなど)はワクチンを接種することができるので、詳しくは医師に相談してみてください。
編集部
妊婦もワクチンを接種できるのですね。
水野先生
はい。妊婦の場合には、胎児への感染を予防するためにワクチン接種が有効です。
編集部
そのほかには、どのような対策がありますか?
水野先生
RSウイルスに感染したときに重症化するのを防ぐため、抗体医薬品を使うことがあります。代表的なのは「パリビズマブ」という薬剤で、重症化リスクの高い早産児や、特定の疾患がある新生児と乳幼児を対象に用いられます。さらに、2024年には新しく「ニルセビマブ」という薬剤が登場しました。パリビズマブは、リスクが高い子どもだけが対象ですが、健康な新生児や乳児に対する予防効果もあります。
編集部
ワクチンや抗体医薬品を使用することのほか、どのようなことに気をつければいいでしょうか?
水野先生
RSウイルス感染症の予防に限らず、手洗いや消毒などの衛生管理が重要になります。アルコールや塩素系の消毒剤などを使い、子どもたちが日常的に触れるおもちゃや手すりなどを消毒する、流水や石鹸による手洗いを習慣化するといったことが大切です。また、咳や鼻水などの症状がある子どもには、マスクをつけられる年齢であれば着用することも重要です。
編集部
受診は必要ですか?
水野先生
乳幼児の機嫌が良く、特につらそうな症状がみられなければ慌てることなく、かかりつけ医に相談してください。ただし、「強い咳が出ている」「呼吸が苦しそう」「息を吸い込むとき胸の一部が陥没する」「水分を摂取できない」といった症状がみられる場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
水野先生
一般の人だけでなく、医療関係者においても「RSウイルスは子どもの感染症」という認識がみられます。しかし、乳幼児だけでなく、高齢者でもRSウイルスに感染すると肺炎に至ったり、集団感染を起こしたりするリスクがあります。まずは「RSウイルスは子どもだけではなく、大人も感染するリスクがある」と認識し、正しい知識を持ってほしいと思います。現在ではワクチンや抗体医薬品など新たな薬剤も登場しているので、必要に応じて使用しましょう。
編集部まとめ
RSウイルスのワクチンや抗体医薬品は近年、目覚ましい進化しています。そうした正確な情報を入手することが、命を守る鍵になるかもしれません。特に基礎疾患のある人や高齢の人は、かかりつけの医師に相談してみてはいかがでしょうか。
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